一迅社アイリス編集部

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こんにちは!
試し読み第2弾は……

『旦那様の頭が獣なのはどうも私のせいらしい2』

著:紫月恵里 絵:凪 かすみ

★STORY★
負の感情を持つ人の頭が獣に変化して見えるローゼマリー姫の旦那様は、獅子の頭を持つ大国の王子クラウディオ。幼い日にローゼマリーに魔力を奪われたことで異形の姿となった彼をもとに戻すため、ローゼマリーたちは海を望む聖地へと向かうことに。ところが、聖地では不穏な事件が起きていてーー!? 
魔力を返すまでの偽りの夫婦だったのに、なんだか私、最近おかしいみたいです……。
獣頭の王子と引きこもり姫の異形×新婚ラブ第2弾★


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(わたしは何を思い出しているの……)

 聖地へと向かう馬車の中で、聖物礼拝に出席する経緯や決意をつらつらと思い出していたローゼマリーは、余計なことまで思い出して赤面した。

「ローゼマリー、少し休憩するぞ」
「――っ、は、はいっ」

 ふいにクラウディオに声を掛けられて、ローゼマリーは慌てて腰を上げた。自分が考え事をしている間に馬車が止まったらしい。先に降りてこちらに手を差し出してくるクラウディオの手を借りて外へ出ると、随行した執政官や警護の騎士たちの他に、馬車の側に控えるアルトとフリッツを見つけた。エーデルトラウトも同行していたはずだが、姿が見当たらない。ハイディはどこだろうと見回そうとすると、彼女は横合いから静かに進み出てきた。そうして手にしていた暖かそうなケープを羽織らせてくれた。その瞳が好奇心に揺らめいている。

「ありがとう、ハイディ」
「いいえ、風が冷たいですから。でも、とっても綺麗な景色ですよ!」

 はしゃいだ声を上げたハイディを残して、クラウディオに導かれる。
 そこは小高い丘の上だった。背後には『禁忌の森』ほどではないが、鬱蒼(うっそう)とした森が広がっている。丘の下には、真っ白い漆喰で塗られた壁を持つ街並みが見え、その先に広がるのは空の青とは違う、紺碧に輝く――。

「あれが、海なのですか? 初めて見ます」

 どこまでも続く水の原。時々白い物が見えるが、あれは波がたてる泡だろうか。正午の日の光を受けて輝くさまは瑠璃(るり)の煌めきよりも深みのある色で、美しかった。
 馬車の窓は帳を下ろしていたので、外の景色は見ていなかったのだ。綺麗だと思う半面、とうとう来てしまったのだと、身震いがしてくる。

「そのようだな。俺も初めて見る。すごいな」

 傍らに立ったクラウディオから上がった感嘆の声に、ローゼマリーは意外に思って顔を見上げた。

(そういえば、クラウディオ様は国から初めて出たのよね)

 魔力を奪われたことによって頭が獣になっただけではなく、体調不良も引き起こしていたのだ。外交などできるはずもない。

「あの、お体の調子は大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。お前がいてくれるおかげだな」
「いえ、あの、もともとはわたしのせいなので……」

 気分が高揚しているのか、珍しく屈託のない笑みを向けられて、落ち着かなげに視線をそらす。

「それは気にするな。そんなことより、この下の町が聖地になるそうだ。大聖堂はあの岬の先だ」

 指し示されたほうを見ると、岬の先に尖塔(せん とう)が見えた。だが、聖地の大聖堂という割には、建物はそれほど大きくはない。婚儀を挙げたバルツァーの聖堂よりも質素だ。

「ずいぶんと、その、可愛らしい建物ですね」
「そうだな。ここから見える分にはな」

 クラウディオの含みのある笑みを目にし、ローゼマリーは唇を引き結んで再び聖堂へと目を向けた。
 これからあそこまで行くのだ。唯一神からの啓示を受けた聖者が開いたというあの場所へ。
 バルツァーではクラウディオの異形の頭はそこそこ受け入れられている。だが、あそこではおそらく嫌悪の対象だろう。どんな扱いを受けるかわからない。

「聖地の方々は――」

 傍らのクラウディオを振り仰ごうとした時、ふいにくらり、とめまいがした。


 ふっと脳裏に今背後にある森よりもなお濃い緑をたたえる『禁忌の森』が浮かぶ。それと相対して、薄暗い森の中にあっても輝くような白銀の毛並みの聖獣が佇(たたず)んでいた。
 軽やかな一対の翼を揺らし、ゆったりとした足取りでローゼマリーに近づいてくる聖獣に、畏怖(い ふ)と高揚と、様々な感情が入り混じる。
 その向こうには焦った顔で駆け寄ってくる、幼いクラウディオの姿。
 聖獣の、見上げるほどの巨体がすぐ側でその顎を開き――。


「聖地の奴らがどうした」
 クラウディオの問う声に、はっと我に返ったローゼマリーは、そのまま目に飛び込んできたものに瞠目(どうもく)した。
 クラウディオが訝しそうに見下ろしてくる。その瞳は、色こそ青いが白目のない獣眼。皮膚は短い銀毛に覆われ、豊かな鬣(たてがみ)の合間から黒曜石のような羊の巻き角が生えている。バルツァーで聖獣とされる銀獅子の頭そのものだ。

(今のは、子供の頃の、出来事? それに、どうして、わたしの目にも聖獣の顔に見えるの?)

 ローゼマリーは慌てて目をこすった。しかし目の前のクラウディオは銀獅子の顔まま。

「クラウディオ様、少し頭を下げてください」
「頭? これでいいのか?」

 身をかがめたクラウディオの顔に恐る恐る手を伸ばす。指先に、見た目よりも柔らかな白銀の毛並みが触れた。さらりとした極上の手触りを呆然としたまま撫で、氷のように冷たい巻き角にぶつかって、ようやく実感する。

「夢じゃ、ない。目が……」

 これが他の皆の見ている獣の頭の王子の姿なのだ。頭部が獣、体は若々しい青年のその姿は、たしかに恐れを抱かせるには十分だ。
 クラウディオが自分に負の感情を向けているから、銀獅子の頭に見えるのではないのはわかる。そうならば、頭に触れた時に見えているはずだ。

「一体何なんだ。突然人の頭を撫でまわし、て……」

 ローゼマリーの手を迷惑そうにつかんだクラウディオの声が途切れ、はっとしたように見下ろしてきた。勘のいいクラウディオのことだ。気付いたのだろう。

「まさか……。お前の目にも、銀獅子の頭に見えるの、か?」

 強ばった声。目を覗き込んできたクラウディオに、ローゼマリーは思わず小さく肩を揺らした。その些細(ささい)な仕草に、軽く俯いたクラウディオがそっと手を離して顔をそむける。

「――見るな」

 苦々しく拒否の言葉を口にし、ローゼマリーの視線から逃れるように後ずさる。見事な鬣が秋風に揺れた。

「クラウディオ様」
「見ないでくれ」

 離れようとするクラウディオの服をとっさに握りしめて前に回り込むと、彼は片腕で顔を隠してしまった。怯えるように、獣の耳が後ろに伏せられている。
 誰に嫌悪の視線を向けられ、陰口をたたかれようとも、まったく意に介さないクラウディオの予想外の仕草に、ローゼマリーは胸が締め付けられた。

(わたしが獣の頭を怖がるから見るなと言っているの? それとも他の方と同じような目を向けられるのが怖い?)

 見ないでほしいというのは、どんな思いで言っているのだろう。信じているから嫌悪の目を向けられたくないというのなら、ローゼマリー自身にも覚えはある。信じていたのに、突然獣の頭に見えるのはとてつもなく怖かった。
 ローゼマリーは精一杯手を伸ばすと、そっとクラウディオの鬣に触れた。

「すみません。髪? それとも鬣でしょうか? を乱してしまって。――それにしても、困りました」
「困る?」

 意外な言葉だったのか、顔から腕を外したクラウディオが目を見開いた。獣の頭は表情がよくわからないが、おそらくは驚いているのだろう。

「はい、困ります。顔色が悪いと指摘して、クラウディオ様を休ませる理由を作れませんから……」

 クラウディオは顔色がわからないのをいいことに、無理をしようとするのだから。

「でも、こんなにふわふわで手触りがいい毛並みを知ってしまうと、撫でたくなってしまって、それも困ります」

 手を伸ばして自分がかき混ぜてしまった鬣を柔らかく撫でつけていると、ふいにクラウディオにその手を取られて、肩口に顔を寄せられた。ちくりと少しだけ髭(ひげ)が頬に当たる。

「クラウディオ様? 具合でも悪いのですか? あ、馬車に酔いました?」
「お前は……怖くはないのか? 獣の頭だぞ」

 耳元で響く低い声に、ローゼマリーは背中をさすろうとする手を止めた。

「怖くはありません。わたしが怖いのは悪意や嘘が獣の姿になって目に見えることです。言葉と心がちぐはぐなのがわかってしまうのが怖いのです。ずっと変わらないのであればどちらの顔でもかまいません。クラウディオ様ご自身が変わったわけではありませんから」

 クラウディオのすべてを知ったわけではないが、それでも多少はわかったと思う。自分に厳しく、努力することを怠らない。畏怖の視線を向けられても、ものともしない。むしろそれを利用さえする。そして口では悪態をついても、根は優しいのだ。たかが顔が変わったくらいでは、怖いとは思わない。

「――やっぱり、お前といると息が楽だ」

 安堵したような声と共に、すがるように強く抱きしめられる。やはり具合が悪かったのかと焦った時、ふと、こちらに周囲の視線が集中していたことにようやく気付いた。少し離れているので会話は聞こえないだろうが、遮蔽物(しゃへいぶつ)などないのでこちらの様子はよく見える。
 執政官や騎士が、慌ててさっと視線をそらす。ハイディとフリッツがにやつきそうな笑顔を必死で隠しているのが丸わかりだった。それを見て、じわじわと羞恥がこみ上げてきた。

「あ、あのっ、ちょっと離れましょう。具合が悪いのでしたら、馬車に戻って……」
「嫌なのか」
「嫌ではないです、けれども……。クラウディオ様が趣味ではないと言った見世物になっていると思うのですが」
「今だけなら、見世物でもどうでもよくなった。嫌ではないのなら、もう少し補充させろ」
「魔力の補充でしたら、手をつなげば――」

 言い募ろうとして、ふいに耳を打った荒々しい蹄(ひづめ)の音にローゼマリーは口をつぐんだ。馬車の側に控えていたアルトが実直そうな面輪に鋭い表情を浮かべて、クラウディオの前で身がまえた。それに倣うように騎士たちが音が響いてくる森へと注意を向ける。


~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

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