一迅社アイリス編集部

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こんにちは!
1月刊の試し読み第2弾をお届けします~~(≧▽≦)

第2弾は……
『お嬢様と執事見習いの尋常ならざる関係』
お嬢様
著:梨沙 絵:カズアキ

★STORY★
「この忠誠はあなただけのために」
幼き日、姫は少年から生涯変わらぬ真心を送られた。姫の名はミシェル・バースト、少年の名はアンバー・クリムゾン。跡取りとして精力的に暮らす彼女の日常は、弟の誕生により一変する。政略結婚の駒となることを余儀なくされた彼女が選んだ新たな道――それは、誰にも負けない〝王子〟になること!? 美しく勇ましい姫君と、そんな姫君に振り回される執事見習い+竜の両片想いラブコメディ!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

プロローグ


 目の前には竜がいた。
 血まみれの竜だ。
 前足に少し力を込めるだけで、頑強な城の石床は粉々に砕けた。皮膜が左右に割れて金の目が現れる。縦に裂けた黒瞳は殺意に底光りし、獲物を吟味するかのようにゆるりと辺りを見回した。
 恐怖に足がすくみ、肌が粟立つ。
 おそらくは広間にいる誰もがミシェルと同じ状態だろう。
 軋みをあげて広がった両翼が月光を遮り、明かりの消えた広間に闇よりなお暗い死の気配が重く垂れ込めた。ゆっくりと開いた口には長大な牙がびっしりと並んでいた。獰猛な肉食獣を思わせる牙だ。事実、竜は大型の動物をエサとし、その骨を小枝を折るように易々と噛み砕く。
 咆哮に似た啼き声に、びりびりと空気が震えた。
 広間に竜が顔を突っ込むと石壁が崩れ、城全体が揺れた。巨石の下敷きになった者がうめき声をあげ、そこかしこで悲鳴があがる。圧倒的な力の前に人間などなすすべもなかった。
 そんな中、密やかに笑う男がいた。
 艶やかな黒髪を後ろで軽く束ねた男である。おおよそ剣の似合わない容貌は美麗の一言に尽きる。人を食ったように斜に構える姿も、仕立てのいい夜会服も、涼やかを通り越して冷ややかとさえ思える眼差しも、なにもかもが荒事に向きそうにない。
 けれど、笑って口を開いた。

「私の女に手を出すな。たかが竜の分際で」

 怒りというのは、存外と人に力を与えるものらしい。自分のことを言われたのだと気づいた瞬間、ミシェルは叫んでいた。

「だ、誰が誰の女だ……!!」

 ふっと彼は笑みを消す。
 誰もが死を覚悟し、恐怖に指一本動かせずすくみ上がるそんな状況で、彼は剣を手に迷わず床を蹴った。まっすぐ、竜の懐に飛び込むように。
 長大な頤が彼を噛み殺そうと開かれる。

 華やかだった祝賀会は、そして漆黒に塗りつぶされた。



第一章 竜の卵




 王の居城は垂直に切り立った崖谷に立てられていた。
 重なり合うようにそびえ立つ青い屋根の尖塔は国の象徴でもある。増築を繰り返した独特の景観は荘厳で美しく、城壁には竜と盾をかたどった旗が谷風にひるがえっていた。
 竜国バースト。
 魔族が住む〝魔境〟と人が住む世界を分断した〝見えない壁〟の狭間に存在する要の国。その国には今年十六歳になる王女がいた。豊かなシルバーブロンドは光を弾いて輝き、みずみずしいライムグリーンの瞳は長いまつげに縁取られ、高く尖った鼻に淡く色づく花びらのような唇。肌は抜けるように白く、体つきはほっそりと華奢な、それはそれは美しい姫君がいた。
 ――はず、だった。

「お前がミシェル王女のはずがないだろう!」

 フードを頭からすっぽりとかぶったまま馬から下りようともしない旅人に、城の門番二人は同時に槍を向けた。

「王女殿下だというのなら証拠を見せろ! 旅券! 身分証! 身の証を立てるものは!?」
「それが、腕試しに酒場に行ったら、そこですられたらしくて」

 今は着替えどころか最低限の路銀しかない。剣と馬が残ったことが幸いだと言えるほどの惨状で、野宿しつつ木の実を食べ、なんとか故郷にたどり着いたのである。

「王女殿下が腕試しに酒場になんて行くものか!! 見ろ、これが王女殿下だ!」

 門番は懐から紙が貼られた木片を取り出した。見れば最新の活版印刷である。そこには黒いインクで、神々しいまでに美しい少女の横顔が印刷されていた。

「……誰?」
「ミシェル様だ! 騙る相手の顔も知らないとは……貴様、馬から下りろ!!」

 怒鳴られた旅人は渋々と馬から下りる。武器をよこせと言われたところで、旅人はようやく「まずい」と思った。このままでは地下牢に押し込まれかねない。

(王女が投獄されるなんて前代未聞だぞ。母上になんて言われることか)

 剣の柄に手をかけ動きを止める旅人に不審を抱いたのだろう。橋の先端に陣取って様子を見ていた橋番二人まで、城の前の揉め事に警戒したのか槍を手に駆けてくる。

「私は本物のミシェル・バーストだ。竜国の第一王女で、四年ぶりに帰ってきた」
「性懲りもなく嘘を……王女殿下はリリ・ダスク王国の第三王女づきのメイドだ! 今は華やかな社交の場にいらっしゃるんだぞ! そんな傭兵崩れの格好をしている訳がない!!」

 もはや問答無用で槍が突き出される。旅人はそれをぎりぎりのところで避けた。

「そらみろ! 王女殿下が避けられるものか!」

 論理が無茶苦茶だ。素直に刺されるわけにもいかず、さらに繰り出される槍に旅人は舌打ちする。興奮した愛馬が足を踏み鳴らし、荒々しく首を左右にふった。
 門番二人の攻撃をかわしきれず、旅人は剣を抜く。すると彼らの目の色が変わった。次に繰り出された突きは思いのほか速く、旅人はとっさに剣で槍を弾き、腕を絡ませると脇に挟んだ。そしてそのまま右足を軸に、体を回転させてひるんだ門番から槍を奪う。
 旅人のこの行動は、状況を悪化させるだけだった。

「貴様……!!」

 槍を奪われたことでいきり立った門番が剣を抜いたのだ。相手は剣一人に槍三人。旅人は自分の剣を鞘に戻し、奪ったばかりの槍で斜め前から繰り出された槍を払った。風を切る音に反応し、振り向きざまに槍をなぎ払う。

(しまった、距離が……!!)

 慣れない槍に目算を誤る。門番の剣を弾いた槍先がその肩を貫く直前、大扉の向こうから飛び出した黒い影が旅人の槍をたたき落とした。旅人はとっさに剣を抜き、新たに現れた敵に袈裟懸けに斬りかかっていた。間髪を容れずに繰り出した攻撃。けれどそれは、敵に難なく受け止められた。斬撃は重く、手のひらがじんわりと痺れる。
 それにともなって、胸の奥に歓喜が広がった。

「アンバー?」

 弾む声でそう呼びかけると、影はさっと身を引き膝を折った。丁寧で無駄のない、実に優雅な動作だった。

「お帰りなさいませ、お嬢様。また腕を上げられましたね」

 ひざまずく少年が顔を上げ、琥珀色の目を旅人に向ける。

「そっくりそのまま返す。槍術は慣れないとはいえ、あっさり落とされるとは思わなかった」

 旅人――ミシェル・バーストはフードをはずし見事なシルバーブロンドの髪を風にさらした。その姿は、ひいき目に見ても絵姿の美少女ではない。どちらかというなら凛々しい旅の剣士である。対するアンバー・クリムゾンは、簡素な白いシャツにボウタイ、黒いズボンに革靴といういたってシンプルな従僕用の服装である。黒髪を後ろでひとまとめに縛った彼は、嬉しそうに琥珀色の目を細めて微笑んだ。
 立ち上がったアンバーは、槍を掴むと門番に渡した。ちらと視線でうながされ、彼らは慌てて膝を折る。

「お、王女殿下……!?」

 門番たちの頭に大量の疑問符が浮いていそうな声色だ。四年ぶりに帰ってきた王女が、男物の旅装束に身を包み男のように振る舞っているのだから当然だろう。

「助かった、アンバー。帰城早々、流血騒ぎを起こすところだった」

 剣をはずしてアンバーに渡したミシェルは、紛らわしい格好をしていたことを門番たちに詫び、愛馬を預けると大門をくぐった。
 大輪の薔薇が出迎える庭は、小道を通れば噴水が美しい東屋にぬける。庭師たちの愛情であふれた大庭園は一年を通して花を欠かしたことがない。大理石の道を飾る竜の石像も昔のまま雄々しい。それらを懐かしく眺めながら、ミシェルはゆったりとした足取りで城内に入った。
 初夏、ぬるみはじめた空気が石造りの建物の中だけピンと張り詰めていた。
 窓から吹き込む風が小鳥のさえずりと葉擦れの音を運んでくる。
 上機嫌で歩いていると、水色のドレスを着て豊かな髪をきれいに結い上げた、竜国バーストの王太后ヒルデ・バーストがせかせかとやってきた。ヒルデの後ろには、執事長でありアンバーの祖父であるドミニク・クリムゾン他数名の護衛とメイドが控えている。

「ただいま戻りました、母上。いつ見てもお美しい……」
「お世辞は結構。シェリー、戻ってくるならどうして連絡をよこさなかったのですか?」

 久々に愛称を呼ばれ、ミシェルは肩をすくめた。

「久しぶりの帰郷に浮かれていました」

 十歳でリリ・ダスク王国に向かい、帰郷を許されたのは王である父が死んだときの一度だけだ。四年ぶりに故郷の地を踏むミシェルの訴えにヒルデは渋々ながらうなずいた。
 辺りを見回したヒルデは、ふっと眉をひそめる。

「供は? まさか一人で帰ってきたのですか!?」
「ご安心ください。この格好なら妙な輩に絡まれる心配はありません」

 供なんてつけたら自由に動けなくなる。荷物を盗られたのは不運だったが、見聞を広める旅は実に有意義だった。
 満足げな娘を見つめた母の目が、すうっと細くなる。

「聞きましたよ。リリ・ダスク王国の第三王女直属の護衛騎士団団長に選出されたとか。おめでとう、シェリー。大出世ね」
「ありがとうございます、母上」

 胸に手を当て一礼すると、ヒルデが目をつり上げた。

「メイドのあなたが! なぜ護衛騎士団の団長になっているんですか!」


~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

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