一迅社アイリス編集部

一迅社文庫アイリス・アイリスNEOの最新情報&編集部近況…などをお知らせしたいな、
という編集部ブログ。


テーマ:
もうすぐ一迅社文庫アイリス9月刊が発売されます!!
ということで本日から9月刊の試し読みを実施いたしますv(^-^)v

試し読み第1弾は……
『旦那様の頭が獣なのはどうも私のせいらしい』
旦那様
著:紫月恵里 絵:凪かすみ

★STORY★
負の感情を持つ人の頭が獣に変化して見えるローゼマリー姫は、引きこもり生活中。ある日、獣に変化しないクラウディオ王子に出会った彼女は、熱烈な求婚に応えスピード結婚する。ところが、結婚直後に王子の態度は豹変して……!? 
獣頭の王子と引きこもり姫の異形×新婚ラブ★


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「お休みなさいませ」

 ハイディの就寝の挨拶を耳にしてはっと顔を上げると、心配そうな侍女の姿が扉の向こうに消えるところだった。これから初夜を迎える自分を慮(おもんぱか)って、気をそらそうと関係のないことを喋っていてくれた彼女が見えなくなる。
 どうしようもなく心細くなって、一緒について行きたくなったが、扉の側に佇む寝間着の上にガウンを羽織ったクラウディオの姿を認めて、どうにか押し留まった。
 完全に扉が閉まり、ハイディの足音がゆっくりと遠ざかっていく。それでもクラウディオは扉の前から動かず、外の様子を窺っているようだった。

(こういう時は、どうすればいいの……?)

 中途半端に立ち上がりかけていたローゼマリーは、ふいにこちらを振り返ったクラウディオと目が合いにこりと微笑まれて、硬直した。

「何を飲んでいたのですか? ずいぶんと甘い匂いだ」
「す、すみません。すぐに飲み干します」

 不思議そうなクラウディオに、ローゼマリーは慌ててカオラを口に運ぼうとしたが、熱くて飲めないでいると、近寄ってきたクラウディオに苦笑されつつカップを取り上げられた。

「そんなに急いで飲まなくても大丈夫ですよ。何を飲んでいたのか聞いただけです」
「――えと、あの、カオラです」
「カオラ? 聞いたことがない飲み物だ」

 興味深げに鏡台の上に置いたカップを覗き込むクラウディオの横顔を見ながら、ローゼマリーは両手を握りしめて喉を鳴らした。緊張に乾く唇をそっと開く。

「あの、殿下。お話があるのですが……」
「何でしょう」

 微笑むクラウディオに喉(のど)が震えたが、ローゼマリーは意を決して言葉を紡いだ。

「き、気味が悪いと思われるかもしれませんが……」

 ともすれば気が遠くなりそうなほどに心臓がうるさく鳴っている。拒絶されたらと思うと、想像しただけで胸が押しつぶされそうだった。

「わたし、は怒りや嫉妬などの負の感情を持った方の顔が動物に見えるのです。それが怖くて仕方がありませんでした。でも、殿下だけはずっと人の顔のままで……」

 クラウディオがすっと笑みを消した。これでもしもクラウディオの顔が獣になってしまったら、という恐れが首をもたげ、ローゼマリーは徐々に視線を落とした。

「黙っていて申し訳ありません! 騙そうと思っていたのではなく、殿下に嫌われるかと思いましたら、どうしても言えなくて……」
「――それは、いつから?」

 問いかけてくるクラウディオの声は、淡々としすぎていて怒っているのか、それとも驚いているのかわからない。冷や汗がすうっと背中を流れていく。

「わかりません。幼い頃にいつの間にかからとしか……」
「いつの間にか、か。――それは、七年前のバルツァーの建国祭に出席した後からではないか?」
「……え?」

 驚いて目を見開く。おそるおそる顔を上げたローゼマリーは、クラウディオが眉間に皺を寄せてこちらを睨みつけているのを見て、さらに瞠目(どうもく)した。

(怒って、いるの? でも、獣の頭に見えないけれど……。それに七年前って……)

 いつも物腰が柔らかく、丁寧な口調のクラウディオにしては粗雑な口ぶりに、怯えたように後ずさる。そもそも、人の顔のままで怒った表情をあまり見たことがない。

「どうした、俺が怖いのか? 俺だけはずっと人の顔に見えるのなら、怖いはずがないだろう?」

 片頬を歪めて笑うクラウディオは、つい先ほどまで優しく微笑みかけてくれた人物と同じとは思えないほど鬱屈(うっくつ)した表情で、あまりの豹変(ひょうへん)ぶりに言葉が出ない。
 さらに近づいたクラウディオに恐れを抱き、後ずさる。ふいに手が鏡台の上に置かれていたカップに当たった。ガシャリと音がして、ふわりとカオラの甘い香りがなおさら濃く香る。反射的にそちらを見たローゼマリーは、こぼれたカオラではなく鏡に映ったものに硬直した。

「何……?」

 強ばり、青ざめた顔の赤茶色の髪の娘は自分だ。しかしその隣にいたのは、黒髪の王太子ではなかった。
 月光にも似た銀糸の毛並みの獅子の顔に、黒曜石のような輝きを放つ黒い羊の巻角。昼間、聖堂の扉に掘り込まれていた聖獣そのままの頭を持った人物がそこに映っていた。唯一、人の顔の時と同じ青い双眸が薄暗い室内でもよく見える。

「銀獅子、の顔……?」

 これまで一度も動物の頭に見えなかっただけに、それはかなりの衝撃だった。
 この人も他の人と何一つ変わらなかったのだ、という落胆と諦め、そんなものが一気に押し寄せてきて、唇がわななく。
 鏡に映った獅子の口が、動揺して立ち尽くすローゼマリーの目の前で動いた。

「ああ、お前には鏡に映ると見えるのか。鏡は事実をそのまま映し出すからな。お前の目に、今の俺の顔はどう見えている?」

 有無を言わせない口調に、おそるおそるそちらを見たローゼマリーはそこに睨みつけているがたしかに人間の顔をしたクラウディオを見つけて、わずかに平静を取り戻す。

「立派な、貴公子の顔です」
「鏡に映っているのは何だ?」
「銀色の……。――っ!?」

 鏡が事実を映し出すものだと言うのなら、これは、この鏡に映る銀の獅子の姿は。

「他の方には、殿下が銀の獅子の顔に見える、の……?」

 ――魔術国家・バルツァーの王太子クラウディオは、国内外随一の魔力を誇り、武人としてもその名を馳(は)せる。難を挙げるとしたら、その顔は一度見たら忘れられないほど、恐ろしい。
 ふっと噂を思い出す。家族やハイディたちが浮かない顔をし、クラウディオにこの歳まで婚約者がいなかったのは、こういうことだったのだ。
 獅子の頭を持つ異形の王太子。自分がいつも獣頭を恐れていたように、クラウディオを見た人々は当然怖がるはずだ。
 ローゼマリーは信じがたい思いで口元を押さえた。

「俺がこんな異形の姿になったのも、お前の目がおかしくなったのも、七年前にお前が俺の宝――魔力を奪ったせいだ。お前が奪った俺の魔力を返せ、この恩知らずが」

 吐き捨てるかのような、憎しみのこもった声を投げつけられ、ローゼマリーは全く身に覚えがないことに、勢いよく首を横に振った。

「わたしは、何もしていません。夜会に出席するまで一度も殿下とお会いしたことはありませんし、魔力を奪った覚えもありません。誰かと勘違いされているのでは……」
「いいや、たしかにお前と俺は会っているし、自分の魔力を間違えるはずがない。俺が人の顔のままに見えるのは、俺の魔力だったものをお前が持っているからだ。自分のものなのだから反応するわけがない」

 睨みつけられ、すくみ上がりながらも、ローゼマリーは必死で思い出そうとした。
 バルツァーの城を見た時、どこかで見たような気もしたが、クラウディオの顔を見た時にも全く思い出すことはなかった。

「た、たしかに父に連れられてバルツァーに来たことはあるそうですが、申し訳ないのですが覚えていないのです」
「ああそうだな。覚えていたらすぐにでもバルツァーへ連絡をするなりなんなりしていただろう。この七年間、俺がどんな思いでいたのかお前は知らないだろう。禁忌の森で迷っていたお前を助けてやったのに、恩知らずにも魔力を奪ってそれさえも忘れて引きこもっていたお前にはな」

 ぎり、とクラウディオが唇を噛みしめる。憎々しげに細められた双眸に彼の怒りの大きさを感じて、口をつぐんだ。
 恩知らずだの、助けてやっただのと言われても、覚えていないのだ。父もバルツァーに連れて行ったと言うくらいなのだから、クラウディオの言っていることは少しは納得できる。だが、クラウディオは嘘をついても動物の頭に見えない。彼の言葉をそのまま鵜呑(うの)みにしてしまっていいのだろうか。 自分の判断が万が一フォラントに悪い結果を招いては、目も当てられない。

「で、ですが、魔術師でもないわたしがどうやって魔力を奪えるのでしょうか……?」

 すがるようにクラウディオを見上げてみれば、彼は舌打ちでもしそうな形相で押し黙った。わずかな沈黙が落ちる。それを見計らったかのように、唐突に場違いなほど大きな笑い声が響いた。

「――それはもっともな質問だよね」

 聞き覚えのない明るい声にぎょっとして辺りを見回すと、ふいに天井から誰かが飛び降りてきた。

「……っ!?」

 降りてきたのは、緩く波打つ金茶の髪を持ったクラウディオよりもいくつか年上の男だった。右目の下の泣き黒子(ぼくろ)がどことなく色っぽい雰囲気を醸し出している。しかしその身に纏っているのは、なぜかきらびやかな僧服だった。

「なぜお前が出てくる」
「殿下に任せておいたら、ずっと怒っていそうだからさ。頭にきているのはわかるけど、今まで優しく接していたり口説いていたりしたのに、突然それじゃなおさらわけがわからないよ」

 突然の闖入者(ちんにゅうしゃ)にも驚くことなく、渋い顔で淡々と返したクラウディオに、ローゼマリーは目を白黒させた。異形のクラウディオを恐れないこの人は誰だ。しかもなぜ夫婦の寝室の天井から降りてくるのだろう。

「口説く? 語弊のある言い方をするな。建前に決まっているだろう。俺の魔力を持った女を、機嫌よくバルツァーにとどまらせる為に言いくるめただけだ」
「ちょっとそれは身もふたもなくないかな? 奥方の目の前で言ったら駄目だよ。ねえ、奥方も殿下は酷いことを言っていると思わないか」

 どこかくだけたやりとりに唖然としていたローゼマリーは唐突に話を振られて、はっと我に返った。さらりととんでもないことを言われた気もするが、それは後回しだ。


~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

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