一迅社文庫アイリス編集部

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こんにちは!!

本日は、アイリスNEOの試し読み第2弾ラブラブ


アイリス恋愛ファンタジー大賞金賞受賞作
『魔法使いの婚約者』
魔法使い

著:中村朱里 絵:サカノ景子

★STORY★
現世で事故に巻き込まれ、剣と魔法の世界に転生してしまった私(アラサー)。
ファンタジー世界に生まれ落ちた前世持ちの子供……だけれども、結局は平凡な良い子ポジションに収まった私が出会ったのは――。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 かくしてある意味栄光の、言い換えればこの上なく虚しい日々を送っていたその中で、私があの男に出逢ったのは、『私』を思い出してから四年が経過した頃、すなわち七歳の誕生日を迎えたばかりの頃である。

 エギエディルズ・フォン・ランセント。
 舌を噛みそうな名前を持つあの男は、我が国の筆頭魔法使いにして我が幼馴染、そして、婚約者だ。

 そう、筆頭魔法使い。国一番の魔力を持つと謳われる、例の我が国最後の希望(笑)の勇者一行の一人である。
 そんな馬鹿なと言われるかもしれない。というか私が言いたい。そんな馬鹿なと。だが生憎と、事実は事実。私はそれを、逃げることなく真正面から受け止めなくてはならない。

 現在のあの男はそれはそれは美しい。男性に対して〝美しい〟と評するのはいかがなものかと言われるかもしれないが、この言葉以上に、あの男を表すのに相応しい言葉を、私は知らない。あの男は、我が国の生ける宝石と謳われる姫君と並んでも何ら遜色なき美貌を誇っている。
 香油を使わずとも艶めく漆黒の髪に、朝焼けを掬い取ったかのような橙と紫が入り混じり揺れる不可思議な瞳。通った鼻筋に薄く色付く花弁のような唇。陽に焼けることなど忘れたような白い肌。ひとつひとつが最上級のパーツを併せ持つずば抜けた美貌は酷く中性的で、ともすれば吟遊詩人が謡う夜の妖精か、と言ったところだろう。

 ……こうも論うと、なんだか段々腹が立ってくるのだから不思議なものだ。何故あの男は何もせずともあんなに肌が肌理細かいのか。何故ああも髪が艶やかなのか。ニキビや切れ毛などという言葉など絶対知らないに違いない。
 私がどれだけ苦労していると――ってそれはいい。いやよくはないがこの際置いておこう。これまでも何度も繰り返してきた問いであるし、何が悲しくて己の婚約者をそれこそ吟遊詩人さながらに褒め称えねばならんのかという葛藤もあるが、仕方がないことにこれが事実。言っても詮無いことだといい加減理解もしている。

 そう、問題はそこでは無い。ここで言及すべきは、そんなあの男が何故私の婚約者などというものに収まっているのか、という点であろう。そこにはあまり、というか、相当よろしくない事情がある。これは、話せばそれなりに長くなる、面白くもない話だ。

 我が父たるアディナ家当主が魔導書司官であるならば、あの男の父上であらせられるランセント家当主殿は王宮付魔法使いの一人であり、浅からぬ親交を持つ仲であった。そんな両家は私が産まれる前より親しくあり、互いの館を頻繁に行き来していたのだという。

 黒の混じる灰銀の柔らかな髪に青い瞳を持つ、決して派手でも美形でも無い、穏やかな笑みが似合うランセント家当主殿……「ランセントのおじ様」と私が普段呼ぶあのお方は、それはもう当時から私のタイプであった。ドツボであった。ドストライクであった。正直な話、それなりに美形と言われている父よりも中身含めてよっぽど好みであったため、彼が来る度に私はここぞとばかりに幼女の特権を活かして彼に飛び付いたものである。その度に父に嘆かれたものだが、父よ、女とは所詮こんなものであると知れ。あのおっとり純情清純派な母が全てであると思うな。
 ランセントのおじ様の奥方は残念なことに当時既に亡くなられていたが、女だてらに騎士団副団長を勤め上げていた、それは御立派な御仁であらせられたという。ランセントのおじ様が選ばれたお方だ、さぞ素敵な方であったに違いないと思うと、お会いできなかったのが残念でならない。

 そんなランセントのおじ様が、ある日突然我が家に連れてきたのが、あの男、エキエディルズであった。

 聴けば、その魔力の高さ故に一族から敬遠され、封印の憂き目に遭っていたところを、ランセントのおじ様が助け出したとか何とかということであるが、詳しい事情は解らない。子供に聞かせられるような内容では無かったということなのか。未だに知らされていないその事情は、恐らく今後も知らされることは無いのだろう。まあ今更教えられたとしても現状が変わるとは思えないので、その点についてとやかく言うつもりは無い。もし知る必要があるのだとすれば、とうの昔に知らされていたに違いないことについてぐだぐだ文句を言うほど、私は暇では無いのだ。

 初めてあの男……いいや、今は敢えてあの子と呼ぼう。あの日、おじ様に伴われてやってきたあの子は、同い年だと聞かされていたにも関わらず、私よりも随分と小さく見えた。後から考えてみれば、それはランセントのおじ様に引き取られるまで、碌に食べ物を与えられていなかったが故の栄養失調による痩せであったのだと気付いたけれども、当時の私はそんなことを知る由も無く。ただその身に纏っていた外套は、あの子が外套を着ているというよりも、外套に着られているようにしか見えなかった。深くフードを被っており、その顔立ちは窺い知れず、内心で新種のてるてる坊主か、と思わず思ってしまったことを覚えている。

「もういいから、エギエディルズ、外套を脱ぎなさい」

 ランセントのおじ様の陰に隠れて、室内であるにも関わらずいつまで経っても外套を脱ごうとしないあの子に、おじ様は困ったようにそう告げた。その場に居たのは私の他に両親と弟、そして乳母だった。五人分の視線を一身に受けながら、あの子はランセントのおじ様の服の裾をぎゅうとその白く痩せた手で掴んで、放そうとはしなかった。

「エギエディルズ。大丈夫だから」

 宥めるようにおじ様に言われて、たっぷりと間を置いた後、あの子はようやく、自らフードを取ってみせた。そうして露わになったあの子の姿に、我らアディナ家一同は、一様に息を呑むことになった。

 その時の私は、確かに時の流れというものを一瞬忘れた。それほどまでに衝撃的だった。

 最初に目を奪われたのは、その見事な黒髪。この世に生まれてから、初めて目にしたその色彩。そしてその髪と同色の長く濃い睫毛に縁どられた、朝焼け色の大きな瞳。その時の感動を何と表現したらいいのか、私は未だに解らないでいる。ただ、いっそ泣き出したくなるくらいにその黒髪が懐かしくて、朝焼け色の瞳が眩しくて。

「綺麗ね」

 そう口走ってしまったのは、無意識だった。私のその言葉に、その場に居たランセントのおじ様や家族は酷く驚いたようであったが、それ以上に、誰よりもあの子自身が一番驚いていたように思う。朝焼け色の瞳が大きく見開かれ、私のことを凝視していた。私としては何一つ間違ったことなど言っていないつもりだったのだが。

 あの子は確かに痩せ過ぎのきらいがあったが、そんな感想を軽く凌駕するだけの美しさに満ち溢れていた。幼いながらも、浮世離れした美貌を誇っていた。言うなれば、そう、エンジェルだった。フェアリーだった。そして同時に、決して他人に懐こうとしない獣でもあった。私が一歩前に足を踏み出すと同時に、同じだけの距離をあの子は後退った。あの子が気を許すのは養父たるランセントのおじ様だけで、その外は全て敵であると信じ切っているようであった。

「わたくしはフィリミナ・ヴィア・アディナと申します。よろしくお願いしますね」

 それでも負けじと、あの子の肉の薄い痩せた白い手を取って、そう名乗った。けれどその手は数秒も経たない内に振り払われてしまった。

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~
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