ある日私の診察室に、3か月前に私が手術をしたMさんが夫と一緒にやってきました。

「今日は主人を連れてきました。私が3か月前にフェイスリフト手術を受けて、その結果が主人から見ても、とてもよかったものですから、前から瞼が下がってきて視野が狭くなって見にくい、見にくいと言っていた主人が、俺も連れて行ってくれと言い出しました。それでやっと一緒に来ることができたというわけです」

ご主人の瞼は目尻側が完全に垂れていて、優しい目つきに見えるのですが、見方によっては淋しそうな状態でした。

「確かに、見事に垂れてきていますね。視野がさえぎられていて、横の方が極端に見えにくいでしょう」

「そうです、本当に見えにくいです」

「やはりこの状態だと手術するしかないですね」

「どんな風にやるんですか?」

「簡単ですよ。垂れ下がっている瞼の皮膚を取ってしまえばよいのです。ただし、目を閉じるのに必要な皮膚だけは残しますから心配はいりません」

「痛いですか?」

「皆さん、瞼はとても痛いだろうと思われるのですが、意外に局所麻酔でも全然痛くないので大丈夫ですよ」

「思い切って手術を受けようかな。車を運転することが多いので、最近は周りが見えにくくて仕方がないんです。それに嫁がじじい、じじいと言ってけなすんです。定年になったら、ぼろくそです。自分だけ若くなって、若造りして遊んでばかりいますけど、家ではしょっちゅう喧嘩ですよ」

「こんな顔して家にいられたら、うっとうしいんですよ先生」

「奥さんも言いたいこと言いますねえ。ご主人、若いときはいい男でよくモテたと思いますが、瞼の手術で一気に印象が元のように若くなりますよ」

手術は垂れ下がった余剰皮膚を取り除き、皮下の筋肉の一部、その下の脂肪を切除します。それで、普通に目を開けるだけで楽にぱっちりと開くようになりました。1週間後には抜糸完了です。その1か月後の検診にまた二人でやってこられました。

「かなりすっきりしましたねえ。後1か月もしたらもっと自然になりますよ」

「先生、あまりよく見えるようなったんで、また仕事を始めました。小遣い稼ぎをしないといかんからね」

「先生、仕事よりも遊びの方にも元気が出てきましたよ。私も手術の前のような、うっとうしい顔を見ないでいいのでとっても気分が良いですけど」

私の前で夫婦喧嘩らしき会話をされるくらいですから、本当は仲が良いのだと思いました。もし仲が悪いのなら、こんなところに一緒に来られるはずがないのですから。