ヨーロッパ大陸を背骨のように走るヨーロッパアルプス。その東端はオーストリアの首都ウィーン近くまで続いています。

その北側をドイツ国境と接するあたり、キッツビューエル山地の東側にザルツブルクはあります。

初めてザルツブルクを訪れたときの胸の高まりは今でも忘れられません。

ザルツブルクはモーツアルト生誕の場所であり、映画「サウンド・オブ・ミユージック」の舞台で、そこは私にとっての特別な場所で、長年恋焦がれた恋人と出会うような心境でした。映画のオープニングシーンは、まるで鳥がアルプスの雪の残る高い山から飛び立って空中を飛翔していると、だんだん緑の丘が近づいてマリア(ジュリー・アンドリュース)が丘を登りながら、サウンド・オブ・ミュージックのオープニングテーマを歌う姿が見えてくるというシーンで、何度見てもその大自然に感動させられます。


ザルツブルクでは夏の間、他の都市の音楽劇場が夏休みでクローズする間、ザルツブルク音楽祭という豪奢な音楽祭を約40日に亘って開催し、コンサート、オペラ、演劇、などが市内のいろいろな会場で行われます。

メイン会場は岩山をくり抜いて造られた三つのホールで、その中で最大のホールが祝祭大劇場です。音楽史に残るマエストロ達がここで指揮し、名人たちが演奏し、世紀のディーヴァが歌いました。

この祝祭大劇場で2009年の音楽祭の「大とり」が行われ、演目は没後200年に敬意を表し、ハイドンのオラトリオ「四季」をサー・サイモンラトルの指揮でベルリン・フィルが奏で、三人の当代の名歌手、C.エルッエ、M.エインズリー、T.クヴァストフが歌いあげました。

開演時間になるとベルリン・フィルのメンバーが着席し、ファーストバイオリンの合図でオーケストラが調音を済ませると、サー・サイモンラトルの白(銀)のアフロヘアーに続き、歌手たちが入場してきます。その時私の隣に座っていた男性の思わず息を呑む音が聞こえました。

それはある種の驚きの表現でした。私も息こそ飲まなかったものの、自分の目を疑いました。なぜなら歌手の一人T.クヴアストホフは極端に手足だけが短い、普通の成人男性の半分ぐらいの体躯しかない、いわゆるサリドマイド障害者だったからです。



今回のテーマは「サンクスカード」です。

同様のものはいろいろな会社で実施されていて、当社も株式会社 武蔵野 様のサンクスカードを真似させていただきました。


飯田工業薬品株式会社ブログ


サンクスカードは文字通り「ありがとうの気持ち」を言葉ではなく文字にし、カードに書いて、相手に贈るものです。

日本経営品質賞にチャレンジする過程で弊社は6の組織横断プロジェクトチームを立ち上げました。

サンクスカードプロジェクトチームもそのうちの一つで、このプロジェクトチームのリーダーは女性です。

そもそもサンクスカード自体は導入して5年ほど経ちますが、枚数管理が中心で、内容と本来の目的を見失いがちでした。

今回サンクスカードのプロジェクトチームの報告は今までのサンクスカードのあり方に一石を投じ、同時に私が社長としてこの一年メンバーに伝え続けてきた「感謝の心」に注目したものです。


報告は次のようなものでした。



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今までのサンクスカードは

 ○ ただ感謝を伝えることだけを目的としていました。

 ○ 一日一枚を目標に書くだけでした。

 ○ 集計結果は、数を皆さんに発表するだけでした。


そして・・・サンクスカードの活動を全く生かすことができていませんでした。



サンクスカードはありがとうの気持ち、つまり感謝の気持ちを相手に伝えることが目的です。

それでは感謝のもつパワーとはそもそも何なのだろうというアプローチから入ります。




感謝の持つパワーとは。


(1)感謝する=お互いを認めること。

感謝すると優しい気持ちになります。

弊社の基本理念である「ラブラドール・ハート」(ラブラドール・ハートに関してはブログ「その2」をご参照ください)の心を育てます。

メンバー同士が良い関係を築くことができ(利他の精神)、組織能力のUPにつながります。


(2)感謝される=うれしい・自分の仕事が認められた。

メンバーのモチベーションUP・自信につながります。


(3)感謝されたい=どうすれば感謝されるのか考える。

個人の能力UP・お客様満足・お客様に感動していただけるサービスにつながります。


以上、感謝のパワーを定義した上で、今後どのような展開をすべきか、PDCAサイクルになぞらえ、検証します。



P:計画(目的)

 ○ お互いの仕事を認め合いましょう。

→ 上司は部下の成長を、部下は上司のアドバイスや指導に感謝しましょう。

→ 他部署の人にやってもらった仕事に感謝しましょう。

 ○ 素直に感謝できる雰囲気をつくりましょう。

 ○ サンクスカードの活動を通してメンバー意識の向上と、組織全体の成果を高めていきます。

 ○ この活動がCS・ESにつながるものとなることを目指します。



D:実行(行動と方法)

 ○ 実行の主体は全メンバーです。

 ○ 目標値としては、 贈る数 1日1枚  もらう数 1日1枚。

 ○ 書き方・掲示方法 現状のやり方を継続します。
飯田工業薬品株式会社ブログ

 ○プロジェクトチームは毎月、第二火曜日にランチタイムミーティングを実施し、目的に沿った内容のカードをメンバーに書いてもらうために、毎月ヒントになるようなテーマを発信します。




C:評価

 ○ 贈った枚数・もらった枚数を今までどおり集計し、毎月デスクネッツで発表します。

 ○ プロジェクトメンバーはカードの内容を確認し、目的に近づくためのテーマの検討をします。

 ○ 発信したテーマに沿ったカードの割合を集計し、分析をしていきます。



A:改善・学習

 ○ 集計結果をもとに、目標が達成されない場合は、改善の対策を考えます。

 ○ 目標達成ができない原因と課題を明らかにし、具体的な行動をメンバーに提案します。

 ○ 毎月のプロジェクトミーティングでサンクスカード活動がお客様満足を高めることつながるよう検証します。

 ○ 活動の中で、目的との齟齬が生じていないか毎月振り返り、改善すべきことを発見したときは、新しい活動内容を検討していきます。



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上記の内容はほとんどプロジェクトチームの発表をそのまま転記したものです。

ここで重要なのはこのチームが「感謝のパワー」に着目した点です。




先般ある研修会でCSとESを高次元で融合させ、好業績を残している会社の社長様の講演をお聞きしました。

その社長様はまずESありきでCSは後からついてくると強調されていました。

その会社はビジネスモデルがBtoC(お客様が消費者・個人、商材が最終製品)という私どもの会社のようなBtoB(お客様が法人で商材が中間品)とはやや形態が異なるものの、基本的な考え方は私の追及している理想の会社そのものでした。

質問の時間でESとCSはほんとに両立するのでしょうか?というような質問がありましたが、多分その質問をされた方はESという「従業員満足」の意味を給料が高くて・休みが多くて・仕事が楽、なことが従業員満足である、というイメージをもっているのではないでしょうか。

マズローの五段階の欲求をあてはめるならば、社会的動物である人間は最初が生理的欲求、次のステップの安全の欲求が満たされ、集団・帰属の欲求が満たされたら、次は認知欲求、その組織の中で自分に存在価値があると認められる欲求が目覚めます。

会社に帰属する従業員の皆さんは、少なくとも集団・帰属の欲求は満たされているわけですから、次は認知欲求が満たされることを望んでいるはずです。

認知欲求の最たるものは昇進で、多くの会社員の方はそれを励みに仕事に取り組んでいると思います。

ここで自己評価と会社の評価が乖離すると会社に対する不平不満がつのります。

従って一般論として企業はいかにメンバーの公正な評価をし、本人に納得してもらうかという事に頭を痛めることになります。

しかし、その次元もしくはそのような風土の会社に私はしたくありません。

認知欲求はお客様に対して向けられるべきであり、いかにお客様に喜んでいただけるか、という事に価値を置くメンバーで構成され、そのために相互信頼を含め組織が機能している会社。

そして、経営者はメンバーの仕事がいかに社会的価値をもっているか絶えず発信し続けることが重要な仕事だと思っています。



利己ではなく、利他に価値を置く素直な認知欲求を醸成させるのは「感謝の心」です。

組織に対する感謝、組織を維持させていただけるお客様に対する感謝、地域、社会に対する感謝、感謝の心は一番身近な人から、波紋のように広がっていきます。

従って、一番身近な人に感謝できない人はいくら頑張っても利他の心を醸成することは不可能なのです。

「サンクスカード」は多くの時間を共にする身近なメンバーの中で交換され、お互いの感謝の心を醸成させるものです。

そしてESはメンバー間で感謝の心を持つことによって高まるものだと信じています。

プロジェクトチームが「感謝のもつパワー」に着目し、推進しようとしている報告を聞き、一番感謝したのは私自身だったかもしれません。




ザルツブルク音楽祭で紹介した、サリドマイド障害をもって生まれたT.クヴァストホフはTVのインタビューに答えてこのように言っています。

「多くの人に支えられて今がある。生まれ変わるとしたら? 今のままの自分がいい、ありのままのね」



もし、T.クヴァストホフが周りの人への「感謝の心」をもっていなかったら、私たちは当代最高のバス・バリトン歌手の歌声を聴くことができなかったでしょう。