山崎力さん(東大大学院医学系研究科臨床疫学システム講座教授)
 
 血中に増え過ぎると血管の内側の壁にくっつくLDLコレステロール(LDL-C)は、動脈硬化を進行させるいわゆる「悪玉」。検診結果でまず気になるのは、この数値だという人も多いのではないだろうか。
 一方で、LDL-Cをめぐる言説の中には誤解も多いと話すのは、医学統計に詳しい山崎さん。LDL-C値は「低い方がいいか」と「下げた方がいいか」は「全く別の議論」、「LDL-C値が低いと死亡率が上がる」は「因果の逆転」と切り捨てる。
 高コレステロール血症治療に関して、LDL-C値の管理や評価の仕方、最も使用されている薬剤のスタチンに対する見解などを山崎さんに聞いた。

―最近、LDL-C値をHDLコレステロール(HDL-C)値で割って両者のバランスを見る「LH比」という考え方をよく耳にします。
 LDL-Cは悪玉、HDL-Cは善玉であることは明確ですよね。単独で見ることももちろん重要ですが、より簡便に心血管イベントの発症リスクを見たいときは、比を取った方が感度がよくなるだろう。そういう発想だと思います。この考え方は以前からありましたが、最近よくいわれるようになりました。
 ちなみにLH比の目標値は、冠動脈疾患あるいは糖尿病、高血圧などのリスクがある人で1.5以下、いずれもない人で2.0以下とわたしは思います。

―最近注目され始めた理由は。
 一つはコレステロール治療の進歩でしょうね。つまり、高血圧症や糖尿病の治療薬と違って、LDL-Cを下げるスタチンという薬剤で強力なものが、この10年でどんどん出てきた。血圧を半分にする薬など世の中には存在しませんが、スタチンの場合は、ストロングスタチンと呼ばれるもので大体LDL-Cを4-5割、場合によっては6割くらい下げる。また、さまざまな試験から、LDL-Cをスタチンで下げると動脈硬化がよくなり、心筋梗塞が減少することが分かってきました。
 もう一つは、日本の疫学研究を見てみると、日本人にとってはLDL-Cが高くてもリスクだけれど、それと同等あるいはそれ以上に、HDL-Cが低いことがリスクであるというデータが出てきた。さらに海外と比較すると、どうも日本人のHDL-Cの重み付けは、海外のそれよりも大きいのではないかということも分かってきました。
 LDL-C値もHDL-C値も大事。そういう中で、比を取ったらもっと簡単に心血管イベントのリスクを見ることができるだろうということだと思いますね。ただ、基本はLDL‐Cを日本動脈硬化学会のガイドラインで示された目標値まで下げることが前提です。その上で、より効率のいい治療を目指すために、LH比が簡便かつ鋭敏なマーカーになるのではないかと考えている人が多いと思います。

―LDL-Cは下げる方がいいのでしょうか。低いと死亡率が上がるという議論もありますが。
 まず、下げた方がいいかどうかという議論と、低い人がいいかどうかという議論は別物です。低い人がいいかどうかは分からない。確かに、低い人にはがんや脳出血の人が多いということが知られていますが、これは因果の逆転と考える方が妥当です。低い人ががんになっている場合はありますが、これはがんになるとコレステロールが下がると考える方が正しく、スタチンでLDL-Cを下げることで、がんが増えるということはありません。全く別の議論です。臨床試験の何十万人というデータベースをメタ解析すると、がん死は増えていないことが分かる。がんが増えるというのは、“いかさま疫学者”が言っているだけです。
 見なければいけないのは、下げるか下げないかでしょう。生活習慣病を改善する薬を服用している中で、高い人を下げたらどうなるかということです。臨床試験から、スタチンを使ってLDL-Cを下げれば動脈硬化性疾患や心筋梗塞、脳梗塞が減ることが分かっている一方で、がんや脳出血が増えるかと言われれば、減りはしませんが増えることはありません。それらを総合的に判断すると、やはり下げた方がいいと思います。

―どこまで下げればいいでしょうか。
 コレステロールは体に必須のものですから、どこかに下限はあるはずです。ですが、わたしたちが今使っている薬では、そこは超えないです。わたしは、控えめに見ても50くらいまではいいのではないかと思います。スタチンが臨床現場で使えるようになって、約20年になりますが、何千万人、何億人が使って、下がり過ぎて何か悪いことが起こったということが科学的に示されたことはありません。スタチンの中でも効果の強いストロングスタチンが出てからは、平均でLDL‐C値を50近くまで下げた試験も存在します。その場合、実際には30近くまで下がっている人もいるはずです。
 スタチンが世に出てせいぜい20年ですので、その時点のエビデンスと言えばその通りですし、30年後にがんになるかもしれないと言われれば分かりませんが、これまでのところ、スタチンでLDL-Cを下げて何か悪いことが起こったというデータはないです。だから都市伝説なんですね。下げると悪くなるというのは。


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