映画【ノルウェイの森】 WOWOWオンラインインタビューネット記事

「ノルウェイの森」松山ケンイチ＆水原希子インタビュー

村上春樹が1987年に発表した世界的ベストセラー小説を、国際映画祭で数々の受賞歴を持つベトナム系フランス人のトラン・アン・ユン監督が映画化した「ノルウェイの森」。1960年代の東京を舞台に、親友の自殺によって心に喪失感を抱えた大学生のワタナベが、二人の女性との交流を通じて自らを再生していく様子を描いた本作で、主人公のワタナベを演じたのは松山ケンイチ。そして、ワタナベの同級生・緑を人気モデルの水原希子が演じている。初共演となる二人が、作品にまつわるエピソードを語った。

「村上春樹の世界観を変えたくなかった」

Q. 原作独特の文体が、そのまま生かされたセリフが多かったように感じました。自分自身の言葉として表現するために苦労しませんでしたか？

松山：確かにすごく文章的なセリフなので、慣れるまでは大変でしたね。実は、最初の台本ではもっとしゃべりやすい言葉になっていたんです。でも、原作のしゃべり方がワタナベの特徴でもあるし、1960年代という時代性もあそこに含まれているような気がしたので、そこは崩さないで小説のまま演じさせてもらいたいと僕からトラン監督にお願いしました。村上春樹さんの世界観を変えたくなかったんですよね。

Q. その結果、緑のセリフも変わったのですか？

松山：いや、台本上の緑のセリフは変わってはいません。でも、とにかく長いですよね。

水原：緑はよくしゃべるんです！

松山：初めてのお芝居であの長いセリフに挑戦するなんて、本当にスゴイことだと思います。

水原：オーディションの時に薄々感じていたんです。これはセリフが多そうだなって（笑）。だから、受かったと聞いた時は本当にうれしかったんですけど、役づくりの仕方がわからないので、セリフを完ぺきに覚えることを頑張るしかなくて……。でも、実際に現場に入ったら、セリフが急に増えたり減ったりすることが多かったんです。最初は戸惑ったんですけど、だんだん臨機応変に対応出来るようになりましたね。

Q. トラン監督は、現場でのひらめきを大切にする方のようですね。

水原：本当にそうだと思います。言葉の意味はわからないかもしれないけど、しゃべり方とか息の使い方などが画（え）に合っているかどうかを細かく見ていらしたので、何回もセリフが変わることが多かったです。

松山：監督は、細かいところも安易に決めるのではなく、すべての可能性を探す方なんです。自然なことを本当に自然にさせるのではなく、あえて品をもたせるというか、独特の感覚を持った素晴らしい監督だと思います。

「2日間かけてワンカットを撮影、餓死寸前に!?」

Q. 大きな壁を乗り越えたことで、お芝居に関しては怖いものがなくなったのではないですか？

水原：いや、怖いです！　「トラン監督の演出は特殊だよ」ってみんながいうんですけど、わたしはこの映画でしかお芝居をしたことがないので、ワンシーンを1日じっくりかけて撮るのに慣れちゃって……。今回は何回も撮り直してもらえたんですけど、次はそうはいかないと思うので、むしろ恐ろしいです……。松山さん、どうしたらいいですか？

松山：うーん……トラン監督がまた日本で映画を撮ればいいんだよ（笑）。

水原：そっか！　監督の映画に出続ければいいのか（笑）。

松山：そうそう、常連になればいいんだよ！

Q. 松山さんは、長回しの演出についてどう感じましたか？

松山：僕は、カットで細かく撮るよりもそちらの方がいいですね。緑との屋上のシーンも直子（菊地凛子）との草原のシーンもすごく良かったです。どのシーンもじっくりと時間をかけて撮ってもらえたので、ありがたかったですね。

「この作品を通していろんなことに気付いた」

Q. 直子と緑、対照的な二人の女性と恋愛をするワタナベですが、松山さんが二人との関係性を表現するのは難しかったのではないですか？

松山：ワタナベは自分を形成出来ていないから、相手に引っ張られてしまうところがあるんです。直子といる時はとても苦しくて、緑といる時は喜びを実感している。それぞれといる時の僕の表情は全然違うのですが、それは、演じている凛子さんと希子さんが出している空気を感じているからでもあるんですよね。二人の女優さんの存在感に引っ張られて、自然にワタナベの感情が生まれたのだと思います。

Q. 最後になりますが、本作に出演したことで、自分自身が変わったなと思うところはありますか？

水原：わたしはモデルとしての表現方法しか知らなかったんですけど、監督から手の使い方、呼吸の仕方、それこそ唾（つば）の飲み込み方まで、なぜ、今それをするのかということを、形だけでなく心で感じることを教えてもらったんです。映画の撮影が終わってモデルに復帰した時に、表現方法が変わってしまって悩んだりもしたのですが、モデルを一から始めることで再発見が出来るかもしれないとポジティブに考える自分がいて、視野が広がったことを実感しています。

松山：僕は、子どもと大人の間で揺れ動いていたワタナベが、直子を失って「どんなに愛しても人は簡単に救えるものじゃない」と気付いたことで大人になっていったように、彼を演じたことで僕自身も少し大人になったような気がしています。人は身の程を知ることで成長していくのかなって思いましたし、ワタナベと一緒にいろんなことに気付いていけたような感じがありますね。

2008年に「ノルウェイの森」の映画化が発表されて以来、映画の完成をずっと待ち続けていた人も少なくはないだろう。完成披露試写会の舞台あいさつを終え、ドレッシーな衣装で取材現場に現れた松山と水原は、ヴェネチア国際映画祭をほうふつさせる華やかなムードに包まれ、本作がついに公開を迎えることの喜びにあふれていた。深い洞察力と豊かな表現力を存分に発揮した松山と、女優として大きく羽ばたいた水原の熱演を、極上の映像美と共に堪能してもらいたい。

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