張り詰めたあの意味の星々と夜の海の航海 | 陽炎の帯の上へちらりと逆まに映る鴉の影―どーすかΩ

陽炎の帯の上へちらりと逆まに映る鴉の影―どーすかΩ

この部屋の中にいるヤツに会いたいのなら もっと、寿命をのばしてからおいで


 しかし、僕はどうしたって街路に立つ人間たろうと決意したのだ。


僕は、彼らが、彼らのお気に入りのぴかぴかの靴を外部委託して、

いつだって、流行に耳を澄ましているような弱さを見て、脳みそが

解けるくらいに苛々した。危うくもう少しで同情するところだった。

僕はまずそんなのは間違いだと思ったし、今でもそう思っているし、

第一そんなスカスカでつるつるでぺらぺらなリアルじゃ、猫の子

一匹支えることもできないし、ましてや僕が挑まなくちゃいけない

あの彼岸の人々に敵う訳もない。


僕はタフにならなくちゃいけないと思った。だから僕は自分の足元を

固めていこうと思った。



 そんな中で僕は自分について考えざるを得なかったわけだし、

言い換えれば僕は糸巻きなしで迷宮へと足を踏み入れてしまった。


それがある種の袋小路だということは、わざわざ足を踏み入れずとも、

もちろん構造的にわかるモノのはずだった。

しかし僕は結局のところ、その一番奥までいった。いや、行ったという

ことになっている……そう思い込んでしまっているのは、まあ、防衛機制

の一種なんだろうけれど、それでも今はまだ構わないだろう。


そして、迷宮の一番奥のところで、僕は、まったく、酷いものを見た。

僕は、もう、とても幻滅した。胃の奥の方から酸っぱい圧力が

こみ上げて来て、思わずひざをついて、げーげーやった。

戦う意思なんか、消し飛んだ。


これって、自分で言うのもナンだけど、むしろ、まだ僕の中の

愛すべき部分の為にもたらされた悲劇的結末って奴だったね。


いずれにせよ、(相変わらず強引だけど、)ここにいたって、

「もうダメだな」って思った。



 それから僕は、荒れ狂う力の大海に、枯葉のようなおんぼろ

ボートで、僕はあえて、漕ぎ出さないではいられなかったんだ。


僕は寄る辺のない、それこそ真っ暗な、泡としぶきと大きな生き物の

ような波と、その中で、右も左もわからずに、溺れた。


僕は、僕を導いてくれる光を求めた。

でも、僕が何かに対して、そんな淡い期待を抱いてしまうたびに、

いわば一陣のパラノイアの突風が吹いて、僕をまるで見当のつかない

ような、こんがらがった別の波間へとさらった。


海の中では、僕は僕以外、何者も、頼る当てのないことに思い至った。

そこでは一切が積み上がってはいかない。

布置なんて、ホントに、ただのContingencyなんだ。

僕たちは、天球のあの美しい点々の間には、ただ潰れた黒を見る他に

ない。それはどうしようもなく、ただの点々、それ自体であって、それ

以上でも以下でもない。


それは僕が、ただ海と僕とがあって、補助線を引くべき燈台がまるで

存在しないような、そして、いつまでもあの地平線を照らす太陽の

昇らない永遠の夜の航海でしかないような、そういう<静けさ>、

……いや、音が実際的になっているのかどうか、それは問題にならない

のだろうか。僕は自分がどこまでもフォニーズムの傀儡でしか、

原理的にありえないのだということを痛感した。


最後の救い、最後の肯定は、僕が溺れていることを不問にすること、

つまり、忘れることにしかなかった。

少なくとも、吹きすさぶ風と、踊り狂う波とは、「お前はそうする他に

ないのだ」と、叫んでいた……。


 しかし、僕は悲しかったけど、そうもできなかった。

ここは引けないと思った。別に、全然それが良いことだとも、自分でも

思えなかったけれども、それにしか、僕はコミットできなかった。

僕はなんというか、そこに希望を感じていた。

いや、そんなにポジティブなものじゃないけど、直観的に、そこにしか

突破口はないと思っていた。


ようは、僕は弱かっただけなのかもしれない。



 僕は結局、留まることにした。



一方で、あの新月は、その見えない引力と斥力とでもって、

僕や波や風や点々や暗闇を、粉々のバラバラのちりちりのぽろぽろに、

挽いていった。


ぐちゃぐちゃのどろどろの中で、もう頼るよすがもクソもなかった。

僕はあきれ果てたけど、でも、それが彼らに言わせれば「クール」だ

そうだよ、いや、マジで。


僕が思うに、穴を掘っては埋めるようなことを肯定できるか、という

ところの辺りに問題と可能性がある。因=果に関係なく、それを欲望

したり意思したりできないだろうか。そういうところから、「世界の構成

単位」、<分銅>を引き出して、それで一人余分に座れるような

テーブルをつくりたいと思っている。


僕はマトリクスのこちら側で、そんなことを考えているところだ。




P.S.僕は別に自己否定の様式美からの優越性の感覚を自慰的に

見せびらかしているわけじゃなくて、むしろ、魂だとかリアルだとか

愛だとか、そういうことを、本気で考えている。これは自分の為に書いて

おくけど、


「普遍を考えなくちゃ、いけない。安逸で素朴な時代は過ぎ去った

のだから。」