司法試験論文添削雑感〜その2~ | 予備校派のための司法試験・予備試験塾 KLOライセンス

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1 最近は、憲法の答案の書き方はそこそこ習得されてきているのかと思いきや、そうでもない。 


 憲法というのは知識として要求されるものは少なく、フレームさえ確立すればある程度安定して書けるようになる科目である。正解を突き詰めるという意味では一番難しい科目であるが、司法試験で60点を確実に取るという意味では、刑事系に次いで楽な科目である。そのため、私の教え子においては、書き方を教えると、ローの一年生の段階で憲法は司法試験の合格答案レベルに到達できる人も少なくない。私は、一応、あてはめと事案に即した論証をでっちあげることが得意だったので、憲法の論文も得意な部類ではあった(答練でも安定して65~80程度の点は取れていた。おそらく本試験の憲法も公法系の点数から考えて良かったはず。)。

 ただ、正直、憲法の予備校添削は添削者によってはかなり微妙である。採点基準があるため、憲法の予備校答練は本試験より差が出にくいともいえる。そのため、私の場合、憲法の添削では、点数よりもコメントに重きを置いている。憲法に限らず、私の添削はコメントが多いのであるが・・・。

 とりわけ、今年は修習生がバイトでやっているということもあって、全体的に周りの受験生から聞く添削の質の評判が良くない。憲法に限らないが、自分なりに考えた素晴らしい論述をしているのに、答案例の筋や結論と違うだけで点がもらえなかったりという適当な添削も少なくない。 そもそも、多くの添削者はアルバイト的ににやっているので、我々とは目的が異なるのでやむを得ないところもある。私は、現在の受験生レベル、受験生の陥りやすいミスや理解の足りない部分を把握し、また、自分自身も問題を初見で解いてみて勘を取り戻し、今後の受験指導に活かすためにやっているのでかなり細部まで見ている。答案例や採点基準とは異なった筋だとしても、自分なりに筋が通って書けていれば点を与えいている。逆に、一見すると答案例と似たようなことを書いているが、よく読むと自己矛盾を起こしたりしていて基礎を疑わせる答案は矛盾の理由を説明した上で減点する。

 予備校も添削者指名制(講師や人気添削者の指名料は高くする等)でも採り入れ、同一人による一貫指導を可能にしたらどうか。私が予備校に携わったら是非やりたいと思う。誰だかわからない人の添削よりも、多少お金を払っても顔が見える人や自分が教わった講師の一貫添削を受けたいという受験生のニーズはあるであろう。



2 ちょっと話がそれたが、法令違憲について、森林法共有林事件が問題として出された場合を仮定してみる。


 まず、いまだに法令違憲と適用(処分)違憲を分けない、あるいはどっちを検討しているのかハッキリしない答案が相当数あるのには驚く。想像以上にかなりの割合である。

 仮に、メインが適用違憲であったとしても受検政策上、法令違憲にも言及すべきである。逆もまた然りである。いつも言うように、点取りゲームの側面を意識して欲しい。もちろん、憲法がめちゃくちゃ得意で片方だけで良いという確信がある方は私が口を挟む理由もないので構わないが・・・。

 いずれがメインであるかは、立法事実と司法事実の量から判断すればよい。これは、論証講義の際の刑法の過去問検討講義のところで話した、「あてはめに使う事実が問題文上に多く散りばめられている論点がメインだから熱く論じるべき」と同じことである。

 また、法令違憲のあてはめで司法事実を使ったり、適用違憲のあてはめで立法事実を使ったりと最低限の答案の書き方がマスターできていない。

 適用審査のところで目的手段の審査基準を使う方も多いが、適用審査では原則として使わない(ただし、旧司過去問のように使ってもやむを得ないものもある。)。

 そもそも、適用違憲の検討で目的を検討してる人に対して、行政の処分の「目的」とは何ですか?とツッコミたくなる。突き詰めれば法の目的ということになるのであろうが、それは立法府の考える目的であって、行政は、法律の適用・執行が仕事だから要件に該当すると考えたら適用しているだけであり、その目的は「法律を誠実に執行」するため(憲法73条1号)であろう。あくまで目的は法にあるので法令審査で目的手段審査を行うのであろう。結局、適用審査のところで目的手段基準を用いる人は、目的の重要性などを検討する際に、立法事実を書いてしまっているのである。

 適用違憲では、適用された条文の要件の解釈(限定解釈等)を行ったり、本件で適用できるか(すべきか)につき、判断基準(規範)を立てて行う。この判断基準(規範)はある程度パターンで用意できるので憲法のゼミ等をやる機会があれば触れたい。なぜか、適用違憲になると規範をたてずに急にあてはめをする方が多い(規範がないので正確にはあてはめではなく評論であるが。)。法律答案なのであるから規範を立ててあてはめなければならない。「妥当でない」とか「不都合である」という理由で結論を出すのは法律家の文章ではない。

 なお、細かいことを言うと、法令違憲では違憲無効、適用違憲では違憲違法というのが正しいであろう。行政法で学んでいるとおり、行政行為は違憲ないし違法であるからといって必ずしも無効ではないからである。

 以上のことは、自分が教えた受験生(上位ローではないので決してレベルは高くない)にできていない人はあまりいないので、正直、出来てない人の多さにかなり驚いた。加えて、6月以降の論文ゼミ・講義では刑事と民事だけやれば良い(公法はそんなに勉強しなくてもそこそこできるから)と思っていたが、憲法もやったほうが良さそうである・・・。

 採点実感などで、深い考察力が求められているとか、ごく一部鋭い考察がなされている答案があるとか色々言われるが、合格レベルはそんなところにはない。深い考察は一部の天才君達に任せておけばよい。たった2時間(考える時間は20~30分)でああいう問題を処理する以上、深い考察など天才でなければできない。皆は、60点取るためのフレームを効率よく体得し、中の上の受検生が書く事を普通に書いてくれば良い。余った時間を刑事系・民事系の勉強に費やすべきである。


 この判例()森林法)を問題にし答案にした場合多くの受験生の答案(財産権をテーマにした類題の答案から見られる傾向)は、

①「財産権を侵害し違憲」という主張に始まり、②個人の財産権は29Ⅰにより保障される→③本件処分によってXの財産権が制約されている→④審査基準定立→⑤あてはめ

という流れになっている。

実は、予備校の答練ではこの流れで一応〇がつく(私は素直にはつけないが)。


一般に①②の部分が不十分であると感じる。

まず、憲法上の抽象化された権利ではなく、当該事案で直接侵害される具体的権利・自由から主張したほうが良い。

なぜなら、問題文には「財産権」などという言葉は出てこないのであるから、「財産権」という言葉はいったいどこからでてきたのだ?ということになる。。(なお、ここでいう、抽象的権利・具体的権利という言葉はいわゆる抽象的権利説、具体的権利説などで使う言葉の意味ではなく、問題文で問題となっている自由を具体的権利、憲法の条文上の権利の名称を抽象化された権利と言っているだけなので注意されたい。)

当該判例で言えば、「共有物分割請求権を侵害する」という主張の方がより良い(あるいは「29条2項に反し」でも良いとは思う。)。

そして、共有物分割請求権が29条2項(1項でも可)の「財産権」に含まれ憲法上の権利であることを次に論証する。

なぜなら、憲法の条文上、どこにも「共有物分割請求権を保障する」などという文言はでてこないのであるから、問題となる具体的権利・自由が、抽象化された憲法の条文のうちどの条文で保障されるのか説明し、憲法上の権利に変換する必要があるのである。

判旨も、「分割請求権の制限は」「憲法上財産権の制限に該当し」というように、分割請求権が憲法上の財産権の一内容であることを認定している。また、「法186条による分割請求権の制限は・・・29条2項に反し」とは述べているが「財産権を制限し」とは述べていない。

これは、どのような問題であっても人権の問題であれば同様である。


新司平成23憲法を例にとれば、「Z画像機能サービスを提供する自由」が21Ⅰの表現の自由に含まれるということを自分の言葉でしっかり論証する必要がある。いきなり「表現の自由を侵害する」「表現の自由が制約されている」「表現の自由は、重要な・・・」と書かれると、あぁ・・・と思って読んでしまう。

ところが、この部分は書かない、あるいは、結論のみを示す不十分な論述にとどまる答案が多い。

正直、この点は予備校答案例が悪い場合もあるのであるが・・・。


おそらく、問題になっている具体的権利を直感的にに頭の中で憲法上の抽象化された権利に変換し、変換した結果のみを書いているからだと思われる。財産権のような権利の場合は特にそうなりやすいのかもしれない。

重要なのは変換する過程を答案上に示すことである。


私は、そういうミスを避けるために、具体的な権利から書き始め、具体的権利が憲法のどの条文で保障されるのかまず説明せよ、という指導を昔から行なっている。

プライバシー絡みの問題が出るとすぐに「プライバシー権を侵害し」と書く方が多いが、

判例も、「みだりにその容ぼう等を撮影されない自由」「前科等・・・みだりに公開されない・・・利益」等として具体的権利が憲法上の権利として保障されるか、されるとして侵害されているか検討している。


なお、個人の財産権が29で保障されることはほとんど争いないのであるから書かなくてもいいくらいである。


ちなみに、私は、一度、具体的自由の保障を認定した後、答案で「表現の自由」や「財産権」といった言葉は極力使わない。

平23過去問を例に、Z画像機能サービスが表現の自由の一環として保障されることを述べ、制約されていることを述べた後、、権利の重要性に言及する一文を見ていただきたい。

  a 表現の自由は、・・・・・であるから自己実現に不可欠な権利である。

  b Z画像機能サービスを提供する自由は、・・・・であるから自己実現に不可欠な権利である。

これは、どちらも同じことを書いている。主語も実質は同じである。
しかし、bのように書くだけで事案に即して検討しているように読めないだろうか?


「表現の自由」と書くと一般論を書き始めるように見えるのである。実際に中身が事案に即して書いてあれば別に全く問題はないので、できる人は構わない。しかし、できない人は、こういう点から意識付けをして事案から離れないよう自分を縛り付けていくのがベターである。

私は、このようにこれみよがしに問題文に即しているアピールをする。

面倒な時は「上記自由」と略して書く事もある。

もちろんあえて一般論を書き、本問の権利との差異を述べる場合は当然ある。

私見で「一般に、表現の自由は自己実現・自己統治の価値を有するが、本件上記自由は・・・・であるから自己統治の価値を欠く」等といったように。ここでも、「一般に」と「本件」というわかりやすい言葉で対比する構造にすることで、一般論はこうだけど、本件の特殊性に配慮していますよというアピールをするのである。

次に③の部分。

ここもただ単に「法〇〇条によって制約されている」などと書かれている答案が少なくない。

法のどの条文によって、どういう効果が発生し、具体的にどういう行為等ができなくなっているのか(直接的なのか間接的なのかという観点も)、そして、その制限された行為が先で認定した権利に基づく行為であることを述べ、ゆえに権利が制約されていると説明すべきである。


なお、①②③は予備校答練添削では変なことを書いていない限り軽く読み飛ばされ点数にはあまり反映されないが、本番では反映されると思われる。そもそも、予備校答練では①~③合わせて1点か2点しか配点がない場合もあるので差がつかない・・・。


①~③が不十分な方、特に①②で「財産権」という言葉しか使わず、問題文の具体的自由に言及していない方は、答案全体を通じて覚えてきた抽象論に終始している傾向がある。制度的保障だとか二分論の是非といった論証での対立にしているのである。これは試験委員が最も嫌う答案のタイプである。



④については、権利の重要性、制約の程度を述べ、審査基準を定立すればよいのだが・・・、論パ貼り付けや抽象論の展開が多い。問題文の事実からどのように重要で、なぜ強度の制約なのかを述べる方が当然良い。問題文には必ず使える事実があるはずである。これは、ここでは具体例を示しにくいが。

違憲の主張のところで反対利益に配慮して基準をやや緩やかにしてしまう答案も見受けられるが、Xの代理人として主張するのであるから反対利益に配慮する必要は全くない。反対利益は、自己のし見解で言及しXの主張としてはXに有利なことだけ述べれば良い。しかも、配慮の結果として、私見も同じ基準になってしまっている方が多く、私見で書く事がなくなり説得力が落ちてしまっているのである。

皆さんが、代理人になった場合、わざわざ相手に有利な事情を準備書面で主張するのであろうか?

また、違憲の主張の場合、目的手段のあてはめでは、基本的に目的も×、手段も×というあてはめが良いと思う。Xの代理人なのであるから目的はOKと譲歩する必要がないからである。

Xの主張のところで、やけに説得的に目的が重要とか必要不可欠であるとのあてはめをして(現実にこんなことをしたら下手したら弁護過誤である。)、私見で「目的は争いがない」で済ます方が多数いるが、争いない形にしては私見部分の目的のあてはめの配点がもらえない。これも点取りゲームができていないことになる。

ちなみに、目的を×とする理由付けのパターンはある程度決まっているので憲法のゼミや講義をする機会があれば触れたい。

ごく少数であるが、「厳格な合理性の基準によるべきである」「合理性の基準によるべきである」など書く方がいるが、基準の具体的内容を書かなければダメである。基準の名称など書いても意味はないし、規範を立てたことにはならない。

 



3 反論・私見について

  反論・私見は、Xの主張で述べたポイントについて行う。

  ここで、②③④のポイントのみ反論し、あてはめまではする必要はないと思われるのであるが、不思議なことに②③④をスルーしてあてはめだけ反論したりする答案も相当数ある。権利性や基準は反論しないのだろうか・・・憲法の過去問の多くは、権利性や制約の有無・程度を争わせる事実、審査基準を下げるべき事実があるので、そこを反論のポイントとして出して、私見を大展開するのが王道だと思う。あてはめの反論は私見の中の「たしかに、・・・・」、あるいは「しかし、・・・」の文章の中で言及すればよいであろる。


4 と色々と述べたが、結局のところ、「具体的事実を使って」あてはめがそこそこできていれば合格最低ラインには到達できるのが現状である。あてはめでも、許可制だとか覚えてきた抽象論のみに終始する答案が少なくない。もちろんそのような点への言及もよいのであるがメインは問題文の事実である。仮に許可制だと書く場合にも具体的事実を書いた上で許可制だと評価しなければならない。


前回同様、合格ラインは決して高くはないという認識をもって、今年受ける方は自信を持って臨んでいただきたい。来年以降受験の方はとにかく基礎の徹底である。