漢武故事

テーマ:

 

 

漢の武帝の生涯をつづった伝奇小説。作者不詳。六朝時代あたりに書かれたものとされる。

 

内容の大半は、武帝が仙人の助けを得て不老長寿を目指したり、皇后との馴れ初めを描いたり、お忍びの旅で民宿の親父に邪険にされたり、といったもので、武帝自身の事業については殆ど語られていない。民間で流行りそうな、偉人のこぼれ話をあつめたものである。漢代でもとりわけ傑出した武帝だからこそ、こうした作品も生まれたということだろうか。

史記や漢書と矛盾する部分も散見され、一般的に史書としての扱いは無いが、一方で陳皇后の本名である阿嬌は本書をもとに広く伝わっている。

 

武帝好きなら読んでいて損は無いと思われるが、そうでもなければあえて触れる必要は無し。逸話を集めたにしては内容もそこまではっちゃけているわけではないので、ちょっと面白みに欠けるかも。

 

AD

李娃伝

テーマ:

 

 

 

唐代の伝奇小説。作者はあの白居易の弟・白行簡。

 

唐の天宝年間、さる青年が科挙受験のため長安へ上京する。もともと聡明だった青年は「試験とかww楽勝ww」と余裕しゃくしゃく。

長安へ着いた彼は友人を訪ねる途中、一人の美女を見かける。「うはww都の女ぱねぇ!」と、受験のこともそっちのけで彼女に夢中。長安の人々に聞けば、美女は名を李娃といって貴族や金持ちの間で可愛がられている妓女だった。

青年はすぐさま彼女の家へ突撃。向こうも先日家の前を通った時に青年を見初めており、二人は意気投合。李娃と楽しい日々を送ったが、一年もすると財布はすっからかんに。

李娃の義母は彼が無一文になったと知るや、娘を連れて行方をくらます。残された青年はすっかり憔悴。

「鬱だ。もう死のう」。葬式人夫のいる部落へ行きつくと、そこで日当を稼ぎやっとの思いで日々を過ごす。ある時、家の下男に見つかって故郷へ戻るが、父親は息子が廓通いに溺れていたと知り激怒。彼を無茶苦茶に叩いたうえ勘当してしまう。

ぼろぼろになった青年は乞食として暮らす。冬になると、彼はあてもなく雪の中をさまよった。「ちょww寒www死ぬww」すると、ある屋敷の女中に呼び止められて、介抱して貰った。屋敷に住んでいたのは、なんと行方をくらましていた李娃だった。

青年の惨状を見て、償いを決意する李娃。青年と同居してその生活を助けるようになった。落ちぶれきっていた青年は殆ど学問を忘れていたが、李娃のスパルタで徐々に調子を取り戻していく。数年後には勉学を極め、いよいよ受験に臨む。晴れて合格すると、李娃は自分が卑しい身分だからと別れようとする。しかし青年は承知しない。

おりしも、父親が勅命で都にやってきており、青年と再会。李娃のおかげで地位を得たことを知ると、父親は息子を許し、李娃を妻に迎えるようすすめた。結婚後も李娃は賢妻として夫に尽くし、その名は歴史に語り継がれるのだった。

 

唐代小説でも有名な一遍。

なんといっても後半で賢女ぶりを爆発させる李娃が印象深い。こんな男に都合のいい女いるわけねーだろと思う読者もおられるだろうが、後世の説話小説にはもっとご都合主義MAXな女性キャラクターも登場するから問題ない。

主人公のモデルは鄭亜という人物らしい。作中ではもっぱら某家の青年であるとして名前が伏せられているが、冒頭で「天宝年間、常州に滎陽公という方がいて云々」といきなり家系のカミングアウトをかましてくる。物語の時期と作者の生きていた時代はそんなに離れてもいないし、これじゃネタバレもいいところ。

なんでもこの作品、白行簡が政敵一派を叩くために書いたのだという説がある。確かに主人公のボロクソな描写を見ると「あいつエラソーにしてるけど、嫁は芸者あがりなんだぜwww」「あいつ廓で金使い果たして落ちぶれてたんだぜwww」という作者の裏メッセージを邪読出来なくもない。

そもそも唐代の小説は、後代の民衆を感化させるような説話小説と異なり、文字文化を解する文人達の間でのみ流通していた文化だった。なので妙に身内ネタというか、自慢話やゴシップみたいな作品が目立つ。以前拙ブログで紹介した「遊仙窟」も、ファンタジーを隠れ蓑に廓の妓女自慢を描いたという説がある。

現代の我々にしてみれば、唐代小説は後世の小説文化の先駆けという位置づけになるんだろうけど、当時の人々にしてみたら割としょーもない動機で書かれたしょーもないお話なのかもしれない。あ、でもそういう意味では、古代の「小説(価値の低い語り物)」の定義にはあてはまってるんだろうなぁ。うんうん。

AD

 

「妓女列伝」執筆のため金瓶梅を読み返していたところ、ふと金瓶梅のヒロイン格である六人の妻妾達の人間関係が気になったので、ちょっと書き留めておきます。

 

藩金蓮と呉月娘

そもそも金蓮が夫を殺して西門家に入ってきたことは他の奥方達も了承済みで、最初の印象ははっきりいって良くなかった。そういうこともあってか、嫁いで間も無い頃の金蓮は正妻である呉月娘のご機嫌取りに尽くしている。そのため、二人の関係も最初は良好だった。しかし金蓮が凶暴な本性をむき出してくるにつれ、呉月娘との仲にもひびが入っていく。普段は金蓮の暴走にも知らぬ顔の月娘だが、時々辛辣な言葉を投げることも。金蓮も金蓮で、西門慶に月娘の悪口を吹き込んだりしている。そういうわけで中盤以降は何かと対立状態。お互いに恨みが積もったこともあり、最終的に月娘が金蓮を追い出す。

 

藩金蓮と李嬌児

西門慶が廓に入り浸って長く家に帰らない時期があり、その原因が廓の売れっ子・李桂姐であると知った金蓮が彼女を敵視。桂姐は嬌児の姪だったので、嬌児と金蓮の中も同時に悪化。以後、関係の改善は見られず。また嬌児が西門家の金銭管理担当であり、そのうえケチな性格ときているので、お金に不自由している金蓮はどのみち彼女を快く思っていなかったはず。

 

藩金蓮と孟玉楼

誰とでも仲良しの孟玉楼だが、とりわけ金蓮と仲が良く、一緒に針仕事をしたり囲碁をうったりしている。金蓮が誰かと喧嘩をした時も、玉楼は必ずといっていいほど彼女の肩を持つ。

二人とも再婚で、どちらも夫の喪が明けないうちに嫁いできたという共通点がある。境遇が近いから自然と仲良しになったのかもしれない。

 

藩金蓮と孫雪娥

序盤、春梅(金蓮の侍女。雪娥とはライバル関係)を通して大喧嘩をしたことによりずっと険悪な関係。雪娥が女中あがりの妾なので、主従ともども彼女を見下しているフシがある。

 

藩金蓮と李瓶児

李瓶児がスーパー金持ちな未亡人だったので、貧乏な金蓮は彼女を一方的に憎む。おとなしやかな瓶児は金蓮を姉と慕って仲良くしようとするが、それがかえって相手の怒りを倍増させる結果に。しかも瓶児は中盤になって妊娠、跡継ぎになる男の子を出産してしまう。どう考えても仲良くなりようがない二人だった。

 

呉月娘と李嬌児

李嬌児はもともと廓の出身。西門家は何人も妾を入れながら、ずっとその廓に通い続けており、馴染みの妓女には嬌児の身内もいる。真面目な月娘にしてみれば不愉快なはずで、当然嬌児に対しても印象が悪い。嬌児の方は呉月娘を正妻として立ててはいるが、それも西門慶が生きていた間のことで、彼の死後はあっさり西門家を見限っている。

 

呉月娘と孟玉楼

孟玉楼の円満な性格もあって、一応関係は良好。しかし金蓮の肩を持つことが多い玉楼は、自然と呉月娘に距離をとっている。

 

呉月娘と孫雪娥

孫雪娥はもともと西門慶の先妻である陳氏の侍女だった。妾になっても、他の妻達より身分が低く、あまり同格扱いされていない(挨拶の形式も彼女だけ違う)。そのためか、雪娥が金蓮の悪行を月娘に伝えても、月娘の方が取り合わなかったりする。

 

呉月娘と李瓶児

李瓶児は結婚前から西門家のお隣さんであり、何かにつけて西門家へ贈り物をしていた。その心遣いに、月娘は以前から好意を抱いている。しかし李瓶児が嫁いで以来、家庭内のトラブルがますます増えた(その大半は瓶児を恨む金蓮の暴走)ため、月娘はあまり彼女のことを快く思っていない印象を受ける。

 

李嬌児と孟玉楼

金蓮と嬌児が対立しているせいか、玉楼も適度に距離を開けてつき合っている。

 

李嬌児と孫雪娥

金蓮と仲が悪い者同士なので、割と仲が良い? 一緒になって月娘に金蓮の悪口トークに興じたりする。

 

李嬌児と李瓶児

殆ど絡むことが無い。瓶児が気前よくホイホイお金を出すのに対し、嬌児はケチなところがあるため、金銭面での対応で対立してそう。

 

孫雪娥と孟玉楼

金蓮と険悪な関係の雪娥に、玉楼は余り親しくしようとしない。ただし、用事がある時は普通に接している。

 

李瓶児と孟玉楼

比較的仲良し。瓶児も前夫の喪が明けないうちに嫁いできたパターンなので、境遇としては金蓮・玉楼と同じ。ただ金蓮が瓶児を憎んでいることをそれとなく察しているのか、玉楼の態度はどちらかといえば金蓮寄り。

 

李瓶児と孫雪娥

これまたあんまり絡みが無い。ただし李瓶児は上下わけ隔てなく接するタイプなので、別段険悪な仲というわけでもないだろう。

 

 

こうして見ると、本当に仲良しなカップリングって金蓮と玉楼だけやな…。

一番肩身が狭そうなのはやっぱり孫雪娥。身分が低い上に誰も味方になってくれそうな人がいない。李瓶児も割と心細い立場にいて、彼女がやたら金蓮を頼ろうとするのもそのせいか(金蓮は上辺だけは瓶児に優しく接し、裏で陰口をまき散らしていたのだが、純粋な瓶児はそれになかなか気づかなかった)。

なんだかんだ安定しているのは月娘。いざとなったら権力を行使できる立場にいるので、あえて彼女を怒らせる者は少ないのでは。

 

AD

蜀碧

テーマ:
清代の記録文学。全四巻からなる。作者は乾隆時代の学者・彭遵泗。
明末の動乱期、四川省で一大勢力を築いた張献忠について、当時の様々な逸話も含めて語ったもの。タイトルの「蜀」は四川の旧称。
張献忠と聞いてピンと来る方はなかなかの中国通だろう。学校で学ぶ世界史では、彼について殆ど触れられないが、中国史でも有数の残虐さで知られた人物である。もともとは李自成同様、地方における一介の賊でしかなかったが、徐々に勢力を増していき、一時期は皇帝を名乗った。しかし時の趨勢は彼に味方しなかった。その後の張献忠は豹変したように四川で大虐殺を繰り広げ、最後は侵攻してきた清軍に討たれる。そんな張献忠について語ったのが本作。
とにかく最初から最後まで人が殺されまくる。とりわけ第三巻、張献忠が四川を占領した後の話は、バラエティ溢れる殺戮エピソードに気が滅入ってくる。それもただ殺すのではなく創意あふれる死刑方法が詳しく描写されているからたまらない。さすがは中国、スプラッターなことにかけては他の国の追随を許さない国だ。張献忠以外にも、彼に立ち向かった楊展、劉道貞、鉄脚板といった人物達のエピソードも面白い。一部では有名な女武将・秦良玉の活躍などにも触れられている。
ところで…本作は乾隆時代、つまり張献忠の死から百年も後に書かれたものである。内容は作者が直接見たわけではなく、伝聞をもとにしたものばかりで、作中で述べられている話の大半は真実味に乏しい。
また、これが書かれた当時の清朝はかなり言論統制が厳しかった。本作冒頭では「古来の賊で張献忠ほど酷い者はいない」と述べているが、張献忠が暴れていたのと同時期には、明を侵略していた清軍も相当な数の人民を虐殺しているのだ。しかし、本作ではまるでその事実に触れられていない。それどころか、張献忠を討伐した清軍は正義の軍隊扱いされてしまっている。まあそんなわけで、内容を鵜呑みにしてはいけない部分もある。歴史書というよりは一種の野史として楽しむのが正しい。
 
張献忠の虐殺では、四川の人民数百万人が犠牲になったという。とんでもない数字に感じるが、よく考えたら後の中国にはこれを軽く上回る大虐殺をやってのけた指導者がいる。つくづく恐ろしい国だ。
 
好きな中国古典文学をランキングしてみました。文学なので小説以外も入ってます。
 
1位 紅楼夢
不動の名作。さる貴族の興亡を描く。とにかく中毒になる面白さ。日本であまり有名じゃないのは、とにもかくにも読みにくいからだと思う。ネットでもでたらめな解説ばかりが広がっているあたり、知名度の低さがうかがわれる。
 
2位 浮生六記
清代の文人による回想録。貧しい夫婦の甘い生活と、後に二人を襲う悲劇に涙を誘われずにはいられない。芸娘みたいな奥さんが欲しいなあ。
 
3位 桃花扇
戯曲作品。明王朝滅亡を背景にした一大ラブロマンス。凄く面白いのに、あんまり映画とかドラマ化に恵まれていない気がする。
 
4位 水滸伝
説明不要、梁山泊に集う百八人の豪傑の物語。個人的には百二十回本が好み。最終回の李逵と宋江のやり取りは何度読んでも泣ける。
 
5位 儒林外史
清代、科挙試験に翻弄される文人達の姿を描く。複数の人物と話を用いて一つのテーマを物語るという群像劇的なスタイルは、後の作品にも度々真似られている。かなり先駆的な作品。
日本ではあまり知られていないが、本国では紅楼夢、三国志演義、水滸伝、西遊記、金瓶梅と本作を合わせて「六大奇書」と呼ばれるほどの知名度。
 
6位 西遊記
ご存じ三蔵法師ご一行の物語。登場人物は絞られているしストーリーも基本的に一本道なので、四大名著では最も読みやすいのでは。日本人がよく知っている西遊記とは結構違う部分があるので、読んだら驚くかもしれない。特に三蔵はガッカリ和尚である。
 
7位 板橋雑記
亡き明王朝を、かつて南京にいた名妓達の姿と共に振り返った随筆。清に滅ぼされた華やかだった南京の街と、そこに生きた美しい妓女達の描写には感動する。国を滅ぼされるのはこううことなのか、という感覚が伝わってくる名作。
 
8位 揚州十日記・思痛記
前者は清軍の揚州における大虐殺を、後者は太平天国軍による大虐殺を、それぞれ無名の文人がつづったもの。中国文学でも非常に特異な立ち位置の作品。従来、中国の文人が守るべきである文章のルールをことごとく破っているのが特徴。それゆえに、凄く面白い作品でもあるんだけど。
 
9位 三国志演義
ご存じ三国統一に至るまでの英雄豪傑達の姿を描く。正直、現代の日本にはこの演義よりずっと面白くて日本人好みの三国志が山ほどある。だから中国好きでもなければ、あえてこれを読む必要はない気がする。
 
10位 金瓶梅
宋代を舞台に、一人の悪徳薬商の淫蕩な生活を描く。話の筋は退屈だし描写もくどすぎるけれど、金に色にと堕落しきった登場人物達の姿は読んでいてかなり面白い。個人的には侍女身分にも関わらずたくましい生きざまを見せる春梅が好き。
 
 
 
古典小説「白蛇伝」からのゲスト侍女・小青を招いての侍女会議。仙女の小青は襲人達の願い事を何でも叶えると言ったのだが、果たして?
 
小青「それでは、どなたでも願い事のある方はおっしゃってください」
 
晴雯「はーい。私、もっと遊んで楽に暮らしたいです」
 
平児「いかにも俗人丸出しの願い事ね……。こういうのは叶えて貰えるのかしら」
 
小青「全然オーケーです。でも……楽な暮らしというのは、沢山苦しい経験をしてこそ、本当に実感出来るものです。晴さんの生活状況を考えると、今ぐらいでちょうどいいと思いますよ?」
 
晴雯「つまり?」
 
小青「その願いごとを叶える必要はありません」
 
金釧児「そういう回答アリなんだ……」
 
小青「次の方どうぞ」
 
鶯児「じゃあ私! もっと編み物がうまくなりたいです」
 
小青「それはまた簡単な願い事ですね。(おまじないのように手を数回振る)はい、叶いましたよ」
 
金釧児「えっ、叶った? ホント?」
 
彩雲「随分あっさりしてましたが……」
 
小青「ちゃんと叶えました。まあもともと編み物が得意みたいですから、別に大した術とかかけないで簡単なおまじないとかでいいかな、と」
 
鶯児「え、それつまり、何もしてないってことじゃ――」
 
小青「はいっ、次! じゃんじゃんいきましょー」
 
彩雲「では、私が言ってよろしいですか? 主の環様がもっと真面目に勉学に励み、将来成功してくれたら嬉しいのですが」
 
小青「あなたは本当にそれを望んでいるんですか?」
 
彩雲「えっ?」
 
小青「環さんを立派な人間に換えるのは容易いですが、そしたら今の環さんの面影は微塵も残りませんよ。あなたは環さんのダメンズな部分も含めて好きだからこそ、ここまで尽くしてきたんじゃないんですか?」
 
彩雲「は、はぁ。確かにそうかもしれません」
 
小青「彼を真人間にしたら、少なくともあなたは用済みになりますよ?」
 
晴雯「何この流れ」
 
鶯児「願い叶える気あるんですかね?」
 
小青「もちろんあります! で、彩雲さん、まだ環さんをまともにしたいですか!」
 
彩雲「うう……そこまでおっしゃるなら、やめます……」
 
小青「さて、これで彩雲さんも終わりですね。金釧児さんはいかがですか」
 
金釧児「う~ん。私、結構思い詰めやすいタイプなんだよね。奥様にきついお叱りを受けて屋敷を追い出されたりした時、勢いで井戸に飛び込んじゃったし。だから、自分を自制出来る強い心が欲しいかな」
 
小青「わかりました。自殺出来ないよう井戸に蓋をしておきます」
 
鶯児「それ絶対何も解決してない!」
 
平児「こういうの詐欺っていうんじゃ――」
 
小青「次はどなたですか! あなたですか、平児さん!」
 
平児「私は特にお願いとかは……強いて言えば、奥様が激務続きで健康を崩しがちだから、健やかに過ごして欲しいわね」
 
小青「朝飯前です。ハイ、叶えておきました」
 
金釧児「軽っ!」
 
平児「もうただのカウンセリングになってるわね……」
 
小青「さて、襲人さんはいかがですか?」
 
襲人「そうね……彩雲ちゃんと同じで、宝玉様がしっかり勉強をして、ちゃんとした奥様をお迎えになり、頑張って家を支えてくれれば嬉しいかなぁ」
 
晴雯「そうなれば妾である私の生活も安泰、みたいな?」
 
襲人「そっ、そんなこと思ってません!」
 
小青「ああ~駄目ですよ襲人さん。本音でお願いを言っていただけないと私も叶えられませんので」
 
襲人「だから本心ですってば!」
 
小青「じゃ、最後。紫鵑さんどうぞ」
 
襲人「ちょっ、無視ィ?」
 
紫鵑「宝玉様と黛玉様のお二人が結ばれて欲しいです。どうかこのお願いを聞き届けていただけないでしょうか」
 
金釧児「おお……凄くまともな願い事だね」
 
晴雯「襲人ちゃんが言うと嘘くさいのに、紫鵑ちゃんが言うと凄く真摯に聞こえるね。不思議だ」
 
襲人「だから違うってばぁ!」
 
鶯児「それで小青さん。この願い事は叶えられそうですか?」
 
小青「ようは宝玉様と黛玉様の恋路を邪魔してる奴がいるってことですよね? そいつを消せば済む話です」
 
金釧児「何でそうなんの! 叶え方がおかしいよ!」
 
小青「久々に私の竜泉宝剣の出番です。で、どいつを殺ればいいんですか?」
 
平児「ストップストップ! もうとちょっと穏やかな方法は無いの?」
 
小青「実を言うと私の仙術は、天変地異を起こしたり、敵を倒したりするのが本領なので、それ以外はちょっと苦手なんですよね……」
 
一同「最初にそれを言えよ!」
 
小青「いやぁ、皆さんもっと物騒な願い事をするものだと思ってました。うざい主を叩き潰したいとか、嫌いな同僚侍女を溺れ死にさせたいとか」
 
鶯児「あなたはあたし達を何だと思ってるんですか……」
 
紫鵑「人を殺してまで宝玉様と結ばれても、黛玉様はきっと悲しんでしまいます」
 
小青「そうですか。お役に立てず残念です」
 
金釧児「つーか何一つ役に立ってないし叶えてないよ!」
 
花襲人「何だか色々釈然としませんが……時間も来たのでお開きとしましょう。これにて第八回侍女会議は終了です。皆様、またいずれ!」
 
ブログにて白蛇伝を紹介するつもりが遅れに遅れているので、先に侍女会議をアップしちゃいました。本編の小青はこんな子じゃないのでご安心を。まぁ序盤は性悪なキャラでしたので、あながち外れでもないかもしれませんが。
有名な白蛇伝ですが、きちんとした翻訳が意外と存在しなかったりします。最も読みやすいのは偕成社から刊行されているバージョンではないかと。
 
 

 

毎度おなじみ、波乱万丈な紅楼夢侍女の集い。今回のゲストは、なんと古典小説でも有名なあの侍女…!

 

花襲人「皆様こんにちわ。第八回紅楼夢侍女会議の始まりです。大分ご無沙汰してしまいましたが、皆様お元気でしたか? それではゲストを紹介しましょう。賈宝玉様のお部屋からは私と晴雯さんが参加です。林黛玉様のお部屋からは紫鵑さん、薛宝釵様のお部屋からは鶯児さんがお見えになっています。そして王煕鳳奥様のお部屋からは平児さん、王奥様のお部屋からは金釧児さん、彩雲さんがいらしています!」

 

平児「なんだかんだ続いてるわね」

 

金釧児「メンバーは大分固定化されてきた感じだけどね~。もうみんな顔なじみじゃん?」

 

晴雯「そりゃ通算で八回もやってるし。そろそろ面倒臭くなってきちゃうころだわ。ふああ」

 

紫鵑「忙しい仕事の合間に皆さんと落ち着いてお話が出来るので、私は会議が好きです」

 

彩雲「ところで、ここのところ別作品のゲストがいらっしゃってますけど、もしかして今回も……?」

 

花襲人「はい! 今回も特別ゲストを呼んでいます!」

 

鶯児「またトラブルにならないといいけどなぁ」

 

花襲人「だ、大丈夫です! 三度目の正直、今度こそ厳選に厳選を重ねてお呼びした方ですから。それでは登場していただきましょう! かの有名な中国古典小説「白蛇伝」より小青さんです!」

 

小青「こんにちわ~(青蛇の姿で登場)」

 

平児・晴雯・紫鵑・鶯児・彩雲「えっ」

 

小青「あ、ごめんなさい! 本当の姿で来ちゃいました。(人間の姿になって)……これでよし! 今日はよろしくお願い致します」

 

平児「ついにゲストが人間じゃなくなったわね……」

 

金釧児「確かに。白蛇伝って、なんか完全に別ジャンルの作品な気がするよ」

 

紫鵑「さすがに驚いてしまいました……」

 

晴雯「襲人ちゃん、厳選の意味わかってやってんの? なんでよりによって妖怪なんか呼ぶわけ?」

 

花襲人「ま、まぁまぁ! 仙人でもれっきとした侍女ですし!」

 

彩雲「それはそうですけど……」

 

鶯児「どんどんフリーダムになってくよね。この会議」

 

花襲人「とりあえず、いつもの自己紹介からいきましょう。小青さん、どうぞ」

 

小青「初めまして、小青と申します。小説白蛇伝のヒロイン・白娘子様にお仕えする侍女です。物語においては、白娘子様と許仙の恋をお助けするため奔走しました。お二人の恋路を邪魔する和尚さんをぶちのめしたのが、作中一番の名シーンです」

 

紫鵑「さきほどの蛇が本当のお姿なんですか?」

 

小青「そうですよ。正確には、八百年の修行を積んだ蛇の精なのです(エッヘン)」

 

平児「あら? そういえば私が昔講釈師さんから聞いた話だと、小青さんの正体は青魚の精だった気がしたのだけれど」

 

小青「あー、そうなんですよ。白蛇伝のお話は長い歴史の中で色々改変されてきましたから。平児さんのおっしゃるように、昔は魚の精だったんです。もっとさかのぼると、名前すら与えられていなかったですしね」

 

彩雲「それが今では物語に絶対欠かせない重要キャラですものね」

 

小青「もとになったお話自体は非常にシンプルですからね。後代の作家さんが色々設定やストーリーをつけ加えた結果、現代に伝わる波乱万丈なラブストーリーが出来上ったのです」

 

金釧児「ラブはまぁそうだけど、戦闘シーンとかファンタジー要素も含めて、スケールがどでかいよね」

 

平児「そもそも、人と妖怪が恋をするっていうのも凄い話よ」

 

小青「恋愛は障害が大きいほど燃えますから」

 

鶯児「そ、そういうものなのかな?」

 

紫鵑「でも、紅楼夢と違って物語がハッピーエンドでなのは素敵ですね。愛し合う方々には、幸せになって欲しいですもの」

 

小青「その通りですよ。愛を成就させるためなら、何をやっても許されるのです! 邪魔する奴は剣でくし刺しにしたり、火で焼き殺したり、洪水で溺れさせたりしても良いのです!」

 

彩雲「あの、途中からなんかおかしくないですか……」

 

晴雯「まー、仙人の力があれば何でもやりたい放題だよね。いいなぁ」

 

小青「ご所望でしたら、私がお手伝いしますよ。皆さん、何か願い事はありますか?」

 

一同「えっ、願い事?」

 

次回を待て

 

 

 

 

楊太真外伝

テーマ:
中国古典小説選7 緑珠伝・楊太真外伝・夷堅志他<宋代>/明治書院

¥6,912
Amazon.co.jp



宋代の伝奇小説。上下二巻。作者は晩冬~宋初期の文人・楽史とされている。
楊貴妃の生涯を中心に玄宗期の唐代を描いている。タイトルの太真は楊貴妃の道号を示す。もともと楊貴妃は玄宗の息子の妃として宮中入りしており、玄宗が彼女に近づくため一時出家をさせた経歴がある。それを何故そのままタイトルに持ってきてしまったのかは不明。
内容は概ね史実通りだが、それ以外に様々な逸話も取り入れて物語を構築しており、中には真実か疑わしい内容も見受けられる(特に後半のファンタジックな展開はそれが顕著)。作者は学者肌で史書にも詳しかったそうだが、本作はとにかく楊貴妃にまつわる話を何もかもぶち込んでみました、というところだろうか。しかしながら、元代の「梧桐雨」や清代戯曲の「長生殿」にも見受けられるエピソードが入っているので、後生の作品に大きな影響を与えたことは間違いないだろう。
小説黎明期の作品だけあって描写は簡素、人物の内面もあまり掘り下げられていないのは致し方なし。本作の楊貴妃は、嫉妬深く狭量な一面が目立つ。まあ彼女の一族も揃ってアレな人間ばっかりなので、人物像としては正しいのかもしれない。
楊貴妃について、古い時代の資料が欲しいという方は読んでみて損はないはず。


秦淮八絶

テーマ:

最近、中国妓女について調べているのですが、そんな中で気になったのが秦淮八絶。明末清初の南京でとりわけ優れていた八人の名妓達のこと(余談だが、今の南京には秦淮八絶という点心がある)。

八絶の内約は以下の通り。


・柳如是

・顾横波

・马湘兰

・陈圆圆

・寇白门

・卞玉京

・李香君

・董小宛


このうち、日本でもそこそこ知られているのは陈圆圆、李香君、董小宛くらいだろうか。個人的には桃花扇が好きなこともあって、李香君が一番好きだけど。

美しい江南水郷に囲まれていたら、ただでさえ美しい妓女達はもっと美しく見えたのだろうなあ。

遊仙窟

テーマ:
遊仙窟 (岩波文庫)/岩波書店



¥756

Amazon.co.jp


唐代初期の伝奇小説。作者は張鷟。初唐ではかなり名を知られた作家だったようだが、中国では彼についての記録が殆どなく、作品も殆ど残っていない。本作「遊仙窟」も本国では散逸しており、後になって日本から逆輸入されて中国に再び伝わっている。





物語の内容は、主人公の張文成(張鷟は名を文成という。つまり作者自身)が黄河の源流へ向かっていく途中で桃源郷に迷い込み、そこにいた女と一夜を楽しむ、というもの。こう書くと嘆美な印象を受けるかもしれないが、ようは主人公がオサレな詩文でひたすら女をくどき、ついに一晩で何度もハッスルするというだけのこと。話自体は文学性のカケラも無い。恐らく中国で散逸したのもこの低俗極まる内容のせいだろう。


しかし、難解で読み応えのある四六駢儷文で書かれていることや、資料的価値、当時の日本に与えた影響など、文学史を語るうえでその存在は大きい。





作中の登場人物は張文成とヒロインの十娘、取り持ち役の五嫂の三人のみ。かなり限定された世界観で話が進む。張文成が十娘に挨拶をして家に入り、さらに詩文をかわす流れは形式的な美しさがある。研究者によっては十娘のモチーフは妓女であり、作者は妓楼での体験を物語に昇華しているのではないかとの説も。もっとも、十娘自身は作中で自らを未亡人と語っており(十七歳だけど)、兄嫁や女中達と一緒に暮らしている。つまり張鷟は相手が操のかたい未亡人と知りながら狙ったわけで、もう道徳的に何が何やらという感じ。一応、十娘はしぶとく拒んで、二人の仲も一晩きりではあったが。


ちなみに張鷟自身が作中で名乗ったところによると、彼はもともと高貴な家柄で、祖先には漢代の有名な外交官・張騫もいる。本人も科挙に首席で及第したが、地位は低かったようだ。





本書が日本に伝わったのは奈良時代頃になる。その時代の日本古典には余り詳しくないが、張文成と十娘のウィットなやり取りは源氏物語の光源氏が女達をくどくシーンを髣髴とさせる。それを考えると、本作は昔の日本人の恋愛作法に相当大きな影響を与えていたんじゃなかろうか。


というか遣唐使、こんなものより他に持ってくるべき本があっただろう!