Fri, December 29, 2006

柳父章『翻訳語成立事情』

テーマ:文化研究

◆柳父章『翻訳語成立事情』岩波新書、1982年4月

本書では、「社会」「個人」「近代」「美」「恋愛」「存在」「自然」 「権利」「自由」「彼、彼女」という10の言葉を取り出し、これらが近代になって、翻訳のためにつくられた新造語であったり、もともと日本語の歴史のなか にあったが翻訳語として新たな意味を与えられたものであることを論じる。

いいか悪いかは別の問題として、ともかく私たちは「翻訳 語」のおかげで学問や思想を学ぶことができた。だが、一方では日常生活と遊離した言葉であるのも事実で、それゆえに言葉の意味に混乱が生じている。著者 は、しばしば翻訳語の「カセット(=宝石箱)効果」ということを指摘する。つまり、翻訳語は、なんだかよくわからないが、きらびやかでありがたそうな言葉 に思えてしまう。翻訳語はなるほどたしかに翻訳を効果的に進めてきたかもしれないが、一方で一つの言葉を巡って混乱を生じさせてしまった。

「美」 をめぐって三島由紀夫を論じてる箇所が興味深い。「美」とは三島文学の重要なキーワードであるが、著者によると三島は「二つの「美」」を使い分けていると いう。三島の「美」の語り方の一つは、「「美」について語る」こと。もう一つは「「美」に語らせる」ということだ。これは、たとえば評論で三島は積極的に 「美」を語るが、小説では「美」に語らせるということになる。そして、三島は自分が「美」について語る場合は、「ほとんど軽蔑したような口調で、否定的」 (p.79)であるが、たとえば『金閣寺』のような「美」に語らせる小説では、「美」の正体がよくわからない、「とてもだいじな、おそろしいような存在」 とする。

どちらにしても、読者には「美」が何なのかわからない。わからないがゆえに、読者は「美」に惹かれてしまうというわけ だ。三島は、翻訳語の「カセット効果」のうように、「美」という言葉を使い分けながら、「美」という言葉の与える効果を操作していたのだ。この指摘は面白 かった。

柳父 章
翻訳語成立事情 (1982年)

Thu, December 28, 2006

内田樹『子どもは判ってくれない』

テーマ:哲学・思想

◆内田樹『子どもは判ってくれない』文春文庫、2006年6月

短い文章からやや長めの文章の時評的エッセイを集めた本だ。 本書の基本的なテーマは、「対話」とはいかなるものかということだろう。「対話」の目標としては、自分の言葉を相手に届けることが重要なのだ。これは、 「正しい」ことを語ることよりも、もっと重要だ。「正しい」言葉でも、必ずしも相手に届くとは限らない。相手に届かない言葉には、何の効果もない。何の効 果もない言葉は、相手から責め立てられることもないので、発言者としては楽といえば楽だが、はたしてそれでいいのか。「対話」を成り立たせる作法につい て、いろいろと考えることが多い。

内田 樹
子どもは判ってくれない

Thu, December 28, 2006

西研・森下育彦『「考える」ための小論文』

テーマ:文章技術

◆西研・森下育彦『「考える」ための小論文』ちくま新書、1997年5月

小論文の参考書だが、どうやって「考える」ことを始めるのか、文章を書き始めるには何が必要なのかを説く。それほど奇をてらった内容ではないので、落ち着いて読める本。新書という性格上、やや解説が物足りないかもしれない。論文を書き出すための勘所は押さえていると思う。

西 研, 森下 育彦
「考える」ための小論文

Thu, December 14, 2006

戸田山和久『科学哲学の冒険』

テーマ:哲学・思想
◆戸田山和久『科学哲学の冒険 サイエンスの目的と方法を探る』NHKブックス、2005年1月
センセイと哲学専攻の学生テツオ、そして理系の学生のリカの3人による対話を通じて、科学哲学とはいかなる学問なのかを教えてくれる良書。
最近、「科学的」という言葉が気になって本書を読み始めた。しばしば「科学的」という言葉が「論理的」と同じ意味で使われ、非論理的な文章を「科学的じゃない」と批判したり、学問は「科学的であるべきだ」と主張される。どうして「科学」という言葉が金科玉条のごとく使われるのか。「科学的」であることとは、どのようなことなんだろう。そもそも、「学問は科学的であれ」と主張する人の「科学」って何を意味しているのだろうと疑問に思っていた。こう主張する人の「科学」こそ、あいまいな言葉だったりしてはいないか。
本書の大きなテーマの一つは、科学的実在論の擁護ということだ。いかにして、論敵の批判をかわして、科学的実在論を擁護するかが本書の読みどころ。科学をめぐってさまざまな立場から論じられており、非常におもしろい。
戸田山 和久
科学哲学の冒険―サイエンスの目的と方法をさぐる

Tue, December 12, 2006

橋本治『青空人生相談所』

テーマ:エッセイ

◆橋本治『青空人生相談所』ちくま文庫、1987年12月

何かネタになるような話はないかと読み始める。読み始めると、相 談する方も答える方も、妙におかしくて笑ってしまう。世の中には、いろいろな悩みがあるものだなあと。当たり障りないの言葉で悩みを解決するのではないの だけど、橋本治の答えを読んでいるとつい納得してしまう。絶妙な回答にうならされる。

Sun, December 10, 2006

稲葉振一郎・立岩真也『所有と国家のゆくえ』

テーマ:社会科学

◆稲葉振一郎・立岩真也『所有と国家のゆくえ』NHKブックス、2006年8月

本書の第3章にあたる、今年3月に大阪で行われた対談を聞きに行っていたので、本書が気になっていた。対談の内容もしっかりと確認しておきたかったし。しかし、活字になったものを読んでも、よく理解できなかった。やはり経済学の話題はまだまだきつい。

分配か経済成長か、どちらを優先するかという対立点には興味があって、私自身は分配のほうに関心をもっている立岩氏の議論のほうに惹かれる。立岩氏が何を考えてきたのかを知って、もう一度『私的所有論』を激しく読みたくなる。

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