ほめりだいのブログ

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2017年秋季号 その16

 

1月13日のホメーロス研究会の様子です。

今回は『イーリアス』第十七歌274行目~303行目までです。

 

パトロクロスの遺体をめぐる両軍の攻防が展開していきます。

 

ὦσαν δὲ πρότεροι Τρῶες ἑλίκωπας Ἀχαιούς:
νεκρὸν δὲ προλιπόντες ὑπέτρεσαν, οὐδέ τιν᾽ αὐτῶν
Τρῶες ὑπέρθυμοι ἕλον ἔγχεσιν ἱέμενοί περ,
ἀλλὰ νέκυν ἐρύοντο: μίνυνθα δὲ καὶ τοῦ Ἀχαιοὶ
μέλλον ἀπέσσεσθαι: μάλα γάρ σφεας ὦκ᾽ ἐλέλιξεν
Αἴας, ὃς
περὶ μὲν εἶδος, περὶ δ᾽ ἔργα τέτυκτο
τῶν ἄλλων Δαναῶν μετ᾽ ἀμύμονα Πηλεΐωνα.
 (17-274~80)

まずトロイア勢が輝く目のアカイア勢を押し返した

(アカイア勢は)遺体を残して引き退いた、が彼等の誰をも

誇り高いトロイア勢は意気込んではいたものの槍で仕留めなかった

しかし遺体を引っ張っていこうとした。アカイア勢の方も束の間それから

離れていただけだった、というのも彼等をすぐさまアイアースが向き直らせたからだ

彼は姿において優り働きにおいても優っていた

他のアカイア人達の中で、非の打ち所なきアキレウスに次いで

 

274行目の πρότεροι Τρῶες にかかる形容詞ですが、「先頭の」というよりは副詞的に「先ず、はじめは」と取る方がよさそうです。「ギリシア語の形容詞で順序、時間、場所を示すものが述語的に用いられるときには副詞的な意味になる」(田中・松平『ギリシア語文法』§241)とされており、ここの πρότεροι はその「順序」にあたると考えられます。

同行の Ἀχαιούς にかかるエピテトン ἑλίκωπας について、研究会の解釈担当は「輝く眼の」と訳しましたが、他のメンバーから「黒き眼の」の方がいいのではないかとの意見が出されました。調べてみると、ἑλίκ-ωψ の後半部分 ωψ が「眼」から来ていることは異論がないものの、前半部分に関しては見解が分かれていることがわかります。Leaf はそれらを

1.black-eyed

2.with round eyes

3.rolling the eyes

4.sparkling-eyed

の四説に分類し、3の rolling the eyes をよしとしています。高津はἑλίκ- Ϝελ-(まげる、廻す)と σελ-(輝く、明るい)の両方に解し得るが、後者が最もふさわしい」としていますので4です。Chantraine は「意味には諸説ある sens discuté」として断定を避けつつも1 black-eyed に好意的です。最近の注釈書(2001年)で S. Pulleyn 1を推しています。ホメーロスのエピテトンは、このように屢々意味不明でありながら不思議な喚起力があるところといい、特定の語に冠せられ語調を整える働きをなすところといい日本の枕詞と好一対です。

277行目の ἐρύοντο conative(意欲)の未完了過去で「引っ張っていかんとしていた」です。実際、続く詩行をみると引っ張っていくことは完遂していません。

279行目の περὶ ・・・ περὶ には be動詞的意味が含まれていて「優る」です。そして εἶδοςἔργα はいずれも限定対格です。

279、80の二行は大アイアースのいわば「定義 definitionWillcock)」をなしています。

そしてそのアイアースが突進する様が猪に喩えられます。


ἴθυσεν δὲ διὰ προμάχων συῒ εἴκελος ἀλκὴν
καπρίῳ, ὅς τ᾽ ἐν ὄρεσσι κύνας θαλερούς τ᾽ αἰζηοὺς
ῥηϊδίως ἐκέδασσεν, ἑλιξάμενος διὰ βήσσας:
 (17-281~3)

(アイアースは)力において野猪さながら前線抜けて突進した

(その猪は)山で犬共と屈強な若者共を

たやすく蹴散らかす、谷間を縫って縦横に向きを変えつつ

 

281行目の ἀλκὴν も限定対格です。

283行目に ἑλιξάμενος διὰ βήσσας とあります。猪は猪突猛進と言われていますが、実は素速い方向転換も得意だとの猟師の観察があります(従って「横に逃げれば大丈夫」などは危うい俗説であるようです)。そのさまが彷彿とします。

 

次回は1月20日(土)で『イーリアス』第十七歌304行目~330行目までを予定しています。

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