■臓器提供 息子の命つなぐ決断

 脳死患者からの臓器提供を認めた臓器移植法が成立してから17日で20年。交通事故で脳死状態になった10歳未満の男児の臓器提供を決断した両親が毎日新聞の取材に応じ、「移植は最後に残された『命のつなぎ方』でした」と心情を語った。両親は「息子のことをきっかけに少しでも臓器移植への理解が進んでほしい」と話す。【池田知広】

 「脳幹が機能していません。分かりやすく言うと、『脳死』です」

 事故から7日目、医師が両親に告げた。母親は受け入れられず、「私は信じない」と泣きながら病室を飛び出した。

 事故の直前まで、家でおやつのチョコレートを食べていた長男。自転車で公園に行く途中、横断歩道上で車にはねられ、頭を強打した。現場に駆け付けた母親は、道路脇で横たわる長男の手を握って名前を呼んだ。「ママが来たから、大丈夫だよ」。しかし反応はなかった。

 緊急手術が施されたが、意識は戻らなかった。アニメ「妖怪ウォッチ」が好きだった長男。父親は目を開いたままの長男に動画を見せて、手を握り続けた。心拍、血圧、脳圧……たくさんのモニターを見ながら励ました。だが、脳波の検査は事故から4日目には反応がなくなった。

 「早くて半日、長くて数日で呼吸が止まると思います」。医師にそう言われた7日目、父親は「だまって死を待つだけなんですか」と問い返した。「諦めないで、頑張りましょう」。そう答える医師の目からも涙がこぼれていたのを見て、父親は息子がつらい状態であることをさとった。

 父親は「臓器移植を考えている」と医師や母親に切り出した。「わざわざ死なせるなんて」と反対する母親。夫婦2人きりになって考えた。父親は母親に「誰かの体の一部になって、生き続けられる」と話した。まるで寝ているかのような我が子の姿。困っている人を助けられる自慢の息子だった。母親は「内臓が無事だったのは、息子からのメッセージなんじゃないか」と思い直し、この日の夜、夫婦で臓器提供を決断した。

 お別れの前夜。手のひらと足の裏に青い絵の具を塗って、手形と足形を取った。ベッドを横に付けて、3人で並んで眠った。

 摘出手術の直前、両親は聴診器を長男の胸に当てた。規則正しく打つ鼓動。「この音を忘れないでください。いつか出会えるはずです」。医師が言った。

 心臓や肺、腎臓などが、子どもを含む全国の患者に提供された。

 「本当に、苦渋の決断でした」。おえつを漏らしながら、父親は言う。「だから、心臓をもらってくれたお子さんが、元気に歩く姿を見てみたい」

 両親は、男の子の遺影の背景に、青い空の模様を選んだ。「空はどこでもつながっている。日本のどこかの移植を受けられた方を通じて、息子とつながっていると思っています」

 ◇15歳未満14例のみ

 臓器移植法は1997年6月に成立し、これまで452人の脳死患者から臓器提供された。

 2010年の改正法施行で家族の承諾だけでも提供ができるようになり、15歳未満からも可能になった。ただ、15歳未満の提供は14例、6歳未満は7例にとどまっている。

 生体や心停止後の遺体からの提供ができない心臓の移植希望登録者は年々増え、今年4月末時点で約600人。うち15歳未満は36人いるが、提供者が少ないため移植を受けられる可能性が低く、手術を受けに海外に渡航するケースも多い。

■子の虫歯 親の学歴で格差

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■子の虫歯 親の学歴で格差

 子どもの虫歯の割合は、親の学歴によって差があり、子どもの成長につれて差が広がるという調査結果を、東北大の研究グループがまとめた。家庭環境によって健康格差が大きくなることを示しており、研究者は公的な支援の必要性を指摘している。

 子どもの虫歯は、親の学歴や収入と関わりがあると言われているが、この格差が子どもの成長につれてどうなるかは、あまり研究されていないという。

 東北大の相田潤・准教授(歯科公衆衛生学)らは、厚生労働省が実施している、2001年生まれの子どもを対象にした追跡調査の約3万5千人のデータを分析。両親の学歴で四つのグループに分け、2歳半から1年ごとに過去1年間に虫歯治療を受けた子どもの割合を算出し、比較した。

 その結果、両親とも大学以上を卒業した家庭では、虫歯治療を受けた子の割合は2歳半で5・6%、5歳半で31・5%だった。一方、両親が中学または高校卒業の家庭では、2歳半で8・5%、5歳半で41・5%で割合が高かった。虫歯治療を受けた割合の差の広がり方にも、統計学上の意味があったという。

 相田さんは「家庭環境によらず、メリットが受けやすい乳幼児健診での啓発、フッ素塗布など虫歯になりにくい支援をより充実させることが重要だ」と話している。(川村剛志)

朝日新聞社