融解2 | 恋愛小説 くもりのちはれ

『ごめんな・・・斉藤・・・』


先輩の部屋に入り、先輩をベッドに寝かせると、繰り返される謝罪の言葉。


「先輩、話はもう良いから・・・とにかく寝てください。すごい熱なんだから・・・」


先輩の額に手を当てると、そのまま先輩の大きな手に強く掴まれる。


『斉藤の手、冷てぇな・・・気持ち良い・・・


「先輩が熱いんだよ。」


先輩は、私の手を握ったまま、眼を瞑り寝息を立て始める。


しばらく手をそのままにしていた私は、時計を確認して焦る。


22時43分・・・やばい・・・家に連絡しなきゃ・・・。


そっと手を離し、携帯を出す・・・やっぱり・・・お母さんから着信3件。


キッチンの隅からお母さんに連絡をいれると、初めて聞く慌てた大きな声。


『加奈・・・どこにいるの?何かあったの?早く帰ってきなさい!』


いつもきちんと連絡を入れる私だから、かなり心配をしたみたい・・・


「ごめんなさい・・・でも・・・ごめんなさい、帰れない・・・あのね・・・


あの・・・先輩がすごい熱なの・・・先輩、一人暮らしで・・・ほっとけない。」


彼氏が居るって話も未だしてないのに・・・


オドオドと話す私に、一変、落ち着いた声でお母さんは、


『そう。じゃあ加奈、今日は傍に居てあげて、きちんと看病しなさい。』


えっ・・・いいの?・・・あまりの・・・あっさりさに驚く。


「ホントに良いの?」


『良いも何も、病人が一人ぼっちなのに・・・放って帰って来いなんて・・・


言えないでしょ。お母さんそんな非情じゃないわよ。』


「ありがとう。」


『加奈・・・今度、必ず彼氏を家に連れてきて、紹介してね。約束、わかった?』


「うんっ。」


信じてもらった事が嬉しくて、元気良く返事したのは良いけど・・・


結局きちんと話を聞いてない・・・先輩は彼氏だよね?


謝るって事は・・・まだ私・・・先輩の彼女だよね?


『加奈・・・流した涙の分だけ幸せになれるから・・・がんばって。』


どこかで聞いたような言葉・・・なんかの歌詞かな?


ホント、私の事、分かってる・・・お母さんって、やっぱりすごい。


「お母さん・・・私、先輩の事、大好きだから・・・がんばる」


そう大きな声で宣言した私の耳に・・・


聞こえきた返事は・・・耳元の携帯からではなく


『がんばる必要なんてねぇよ・・・俺の方が間違いなくお前に惚れてる』


ベッドで眠っているはずの・・・先輩の声だった。



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