地球を愛の星にするために。ライトワーカーのみんなへ。福岡のスピリチュアルヒーラーユイオトヤ作品集&ライトボデイヒーリング。

五次元ファンタジー作家&ライトボデイヒーリングのオトヤです。作品やヒーリングを通して地球を美しい愛の星に変えたいと願っています。オトヤの夢は愛そのものになりきることです。孤独トラウマ異性関係ソウルメイトなどテレホン相談ご利用ください。

人を殺したこころの傷はあまりにも重い。

15才で義父を結果的に殺してしまってからというものの、ゆみかが安眠できる日は一日もなかった。OLの事務職をするかたわら救いを求めてわらにもすがる気持ちでセラピーめぐりをするのがゆみかの日常のすべてになっていた。
しかしどんなにたくさんのセラピーを受けても本当には心の傷が癒されることはけっしてなかった。ゆみかはますますひどくなる欝症状に苦しみながらそれでもセラピーめぐりを続けるしかなかった。

(わたしは永遠にこの記憶を持ち運んで生きてゆかないといけないのか?誰でもいいお願いわたしを助けて!)
いつもこころの奥でそう絶叫していた。

そんなある日いつものようにネットでさまざまな新しいセラピーを探しているうちにその広告は出てきた。

(記憶はほんとうにはけっして消えてはゆきません。
トラウマを楽にするのではなくトラウマの発生していない時間軸に移動すること、それだけが真の解決になります。
詳しくは電話でお問い合わせください。 パラレルワールド研究所)

主催者の城島まりのプロフィールを見て驚いた。
京大工学部卒、5次元の研究で世界的に有名なサリバール博士のもとで意識工学を研究、マセチュート工学大学で客員教授を2年つとめ帰国、著書2冊、NHKの特番に出たこともある。証明写真もたくさん載せているのでどうみても嘘ではない。
ゆみかはすぐに電話をかけ土曜日の午前中にアポイントをとった。

パラレルワールド研究所は世田谷の閑静な住宅街の一角にあった。落ち着いたたたずまいの高級マンションの207号。チャイムを鳴らすと所長のまりが出てきた。

予想どおりのきわめて知的な美女。きちんとしたビジネススーツをきて赤いふちのメガネをかけている。リビングに通されソファーに座るとあたたかいモカが出てきた。すべてにおいてきちんとした人、そんな気がした。
不思議だったのは(あの殺人)いらいどんなにしても人にこころを開けなくなった自分がなぜか初対面の城島には非常な親近感をいだきまるでいっしょに育った姉妹みたいな気がしたことだ。普通のマンションのようだがすでに特殊な力が働いているのかもしれない。

コーヒーを飲みながらまりが分厚い資料を取り出しパラレルワールドの説明とそれをどうやってトラウマの解消に役立てるのか長い説明を始めた。理系にうといゆみかは話についてゆくのはむつかしかったが結論的に言うとおおむね次のようなことをまりは述べた。

(たとえばゆみかさんが夢の中で戦争で殺されたとします。
爆撃で全身が引き裂かれ死んだ。では目がさめてその出来事がゆみかさんの大きなトラウマになったでしょうか?)
(ならないでしょうね)ゆみかは言った。
(では現実生活でほっぺに醜いあざができたらそれはトラウマになりますか?)
(それはもちろんなります。)
(つまりこういうことなのです)

(現在の人間のレベルでは人は
三次元に物質化されたことだけを現実と感じ夢や空想で体験したことはしょせん現実ではないからといって本気にしないし自分に責任があるとも思わない。だからトラウマにもならない
のです。おわかりですか?)
(わかります)
(パラレルワールドの理論によると)まりは続けた。
(夢や空想もすべて現実です。人間が考えることのすべてはどこかの次元における現実です。その無限に存在する多世界のうち人はもっとも意識エネルギーを投入した世界をこの三次元に物質化しそれを唯一の現実と信じています。
もしもこの思い込みがはずれれば人はぜんぜんちがう現実を体験できるのですよ。)

(パラレルセラピーではまずゆみかさんをトラウマの生じる以前のとても楽しかった時間帯に催眠誘導します。そこでゆみかさんの意識エネルギーとこのライリンボックスから出る高次元の波動エネルギーを融合させまだトラウマが生じていない最高にハッピーな別の時間帯に強烈なエネルギーをかけます。
もしもこのときにゆみかさんの精神エネルギーが何が何でも別の時間帯に飛びたいと心から願うなら瞬間的に時間軸の移動が起こりトラウマの生じていない時間軸が3次元化し逆にトラウマの生じていた時間軸は4次元化つまり夢のようなあやふやな存在になります。セラピーが終わりライリンボックスから出てきたときあなたは微妙にちがう世界に存在していることになります。)

(もう一杯入れますね。)
まりは一息つき今度はキリマンジェロを入れた。
(今までのところで何か質問はありませんか?)

(私はこれまで催眠や前世療法はたくさん受けてきました。)
ゆみかは疑問点を述べた。

(どのセラピーもトラウマの時点にさかのぼりそこで感情を開放しうまく開放がおこると世界がとっても軽くなるセラピストはそう説明します。)

(今のお話を聞いた限りでは正直催眠や前世療法とパラレルセラピーのちがいが私にはよくわかりません。同じようなことは前世療法でもやりましたがあまり効果はありませんでした。何がちがうのですか?)

(前世療法とパラレルセラピーはまったくちがうものです)
まりが言った。
(催眠や前世療法では気持ちが軽くはなってもセッションのあともやはり同じ世界にいます。変わったのは気持ちだけです。

しかしパラレルセラピーではセッションのあとにいるのは本当に別の世界なのです。

その差はほとんどの人にとっては地球上にいるすずめが1羽増えたか減ったかそんな程度で証明はできません。
しかし変身願望が極度に強くサイキックエネルギーが大量に放出された場合ワンピースを着てセッションにこられた方が帰るときにはツーピースになっていたそんなこともあるのですよ)

? ? ?

(強くはおすすめしません。それに実は危険性もあるのです。
別の時間帯への移動に成功すると強力なトラウマは夢のように実態のない映画のワンシーンみたいに感じますが逆に体験したことのないはずの人や場所や出来事の記憶が断片的に出てくることがあります。
何人かの方は自分が誰かがわからなくなったと言って方向感覚の喪失で一時的にノイローゼになりました。しかしアフターケアもきちんとしますから今はみなさんとってもお元気です。それと)
まりは首を少しかしげながら不思議そうに言った。
(ゆみかさんには何かが共鳴するみたいで初めてお会いした気がしないのです。いっしょにワークしてみたい方ですね)

まりの話を信じたわけではなかったが彼女に強い縁を感じたので結局セラピーを受けることにした。
トラウマの出来事をあえてまりに話す必要はないと彼女は言った。
まりがするのはゆみかの
脳にもっとも変容を起こしやすい周波数にライリンボックスを設定することと脳波が深いシーター派レベルに行ったときに上手に誘導することで、セラピーが成功するかどうかはまりの力が40パーセント、ゆみかの精神エネルギーの強さが60パーセント
だとまりは言う。

(この一週間は菜食にしてテレビや本はいっさい見ないように。音楽はよいです、そしてそこから
世界を分岐させたいもっとも楽しい過去の時間帯を選んでそこに意識をあわせその時間帯からもっとも楽しい未来が生じると念じる、
それを何度でも練習してください)

大好きなエンヤの音楽を聴きながら1週間の練習を終え2014年11月28日ゆみかはセッションを受けに世田谷に向かった。

ライリンボックスはちょうど整骨院にある酸素カプセルみたいな形状で中に横たわるとあんがい気持ちがよい。最高度にリラックスできるように色とか肌触りとかよく考えられていて耳もとにスピーカーがついている。
ふたをしめるとほのかに甘い森林のかおりがただよってきてすぐに眠たくなった。

セラピーが始まった。部屋が暗くなり隣室にいるまりの声がひびいてきた。
(深い深い記憶。美しい美しい思い出。人生でもっとも素晴らしい時間帯にあなたは移動します。大きく深呼吸をします。
1回 2回 3回 4回 5回 6回 7回 
はいけっこうです。
エネルギーレベルをあげます。苦しく感じたらブザーを押してください。)

ボックス内にかすかな圧力を感じる。ちょうど飛行機が離陸するときのようなグワンという衝撃が走る。
頭の中に青い光が走り大量の記憶がほとばしった。
義父のおそろしい死に顔がよみがえる。怖い怖い。

(おそろしい記憶がよみがえってきました。どうすればよいですか)
(記憶を中和するエネルギーを送ります。安心して)
ゆみかが事前に教えておいた一番好きなバッヘルベンのカノンの曲が流れ海の潮騒のかおりがしてくる。
楽になり義父の顔が少し遠くに行った。

カノンの曲の美しさと義父の醜い姿が交互にライリンボックス内で点滅する。ふと意識が飛ぶ。どれくらい時間がたったのか?
あれここはどこ?わたしここで何をしているの?
潮騒 砂 貝 ああいい気持ちだ。
またわれに返る。

(今です)まりが言った。
(シーター波が出ています。最大限の力をこめていやな記憶を海にしずめてください。あるいは遠い遠い星のかなたへ意識の力で追いやってください。
今その記憶は別の時間帯に移動しています。
エネルギーを最大にあげます。苦しいけど我慢して。

今あなたのトラウマは完全に別の次元に移動しました。もうあなたとトラウマにはなんのつながりもありません。今のあなたは新しいあなた。すばらしい最高の時間を生きるあなたです。今度は一番楽しかった子供時代にもどって!そこからもっとも美しい未来を創造しましょうね。)

突然ゆみかは川のほとりにいた。
三歳の自分が母といっしょによく遊んだ木曽川のほとりにいた。
きれいな小川 夏の日差し 母はまだ若くてとってもきれいだ。
柿の木があって蝉がジンジン鳴いている。
(ゆみかおいで)
母と手をつないで小川の中に入る。
冷たくってものすごく気持ちがいい。足先に小石のやさしい感触。
何だろう名前はわからないけれどお魚が泳いでいる。
橋の上ではお兄ちゃんが釣りをしている。
(早くお逃げ!お兄ちゃんにつかまっちゃあ駄目よ。)

母と大きな岩の上に仲良く座りアイスクリームを食べる
橋の上からお兄ちゃんが僕も!って言って走ってくる
あたたかいあたたかい気持ち おひさま。ひだまり。

(今です)まりの声が響いた

今あなたはもっとも美しい世界への分岐点にいます。

なにも考えなくてもよいですからただ
(一番ステキな時間軸に移動します)
とそれだけをこころの中で唱えてください。私がエネルギーを固定する波動を流しますから。今です!)

(一番ステキな時間軸に移動します
一番ステキな時間軸に移動します
一番ステキな時間軸に移動します)

ゆみかがこころの中でつぶやく。
カノンの曲が消えジョンレノンのイマジンが流れる。

Imagine there's no Heaven(ほら想像してごらん天国なんてないって)
      It's easy if you try(とっても簡単だろう?)
      No Hell below us(地獄なんてもちろんないし)
      Above us only sky (ただ美しい空があるだけ)
      Imagine all the people (そしてほら想像してごらん)
      Living for today...(誰もが美しい今に生きてるって)(訳プレムシロウ)

レノンの美しい声にまざってゴーゴーという耳鳴りのような音というか振動というか不思議な体感が生じてくる。
さまざまな人の顔が見えてくるがみな知らない人だ
緑、赤、オレンジ。純色の色彩が目の前で飛び散る。
高校の卒業アルバムがビリビリに破れて飛んでいる。
突然日記帳が現れて私は何か詩のようなものを書いている。
月だ!私は地球を飛び出し宇宙空間に投げ出された。
ああ銀河だ。アンドロメダ星雲だ。わたしは星になった。

(終了!)まりの声がボックスに響いた。

ライリンボックスから出ると大量の汗をかいていた。
2時間たらずのあいだに大変な量のエネルギーを消耗したらしい。
体重が2、3キロは落ちたような気がする。よろよろする。
シャワーを借りて汗を流した。
汗から通常ではありえないようないやな匂いがする。ヘドロのようなあかが皮膚から浮かび上がる。
シャワーを強く熱くして目いっぱいからだ中にかけた。悪夢のような過去がこれでほんとうに消えていったのか?まだよくわからない。今はただ疲れている。早く帰って眠りたい。

リビングに行くとまりがゆみかの好きなチャイを入れて待っていた。
(今日はものすごく疲れているはずですからこのままお帰りください。お話は明日うかがいますから)
駅まで歩く気力も出ずタクシイを拾ってマンションに帰った。
倒れるようにベッドにころがりこんで眠った。
ゆみかはものすごく久しぶりの夢のない眠りに入っていった。
午前4時に目をさまし久しぶりにぐっすり眠った実感があった。
夢のない眠りなんて何年ぶりだろう?
豆を引いてモカを飲んだ。テレビのスイッチを入れる。
別にいつもと同じ普通のニュースが流れている。
(パラレルワールドは嘘だろうけど何かちがう気がする。)
ゆみかは10数年ぶりの(希望)のようなエネルギーを感じた。

はずむ気持ちで研究所に行った。
今日はまりはスーツではなくワンピースを着ている。
今日もチャイが出た。
(何か変化は感じましたか?)まりが言った。
(すごくよく眠れました。)ゆみかが答えた。
(悪夢を見なかったのはほんとうに久しぶりです。ありがとうございます)

(よろしかったら)まりがためらいがちに言った。
(ゆみかさんのもっとも辛い思い出をお話いただけませんか?
もしかしたら話せるかもしれませんよ。いえ無理はしないで)
(わかりました。やってみます)ゆみかが答えた。

(わたしには義父がいました。)
(あれ?気楽に話せそう!)
(その義父は)ゆみかは続けた。
(わたしが7才の時に母が連れてきていっしょに暮らしはじめました。普通のときは良いのですが、アルコールが入ると人が変わって、幼いわたしを叩いたりプロレスの真似をして投げ飛ばしたりしました。わたしが中学生になるとセクハラをはじめ風呂をのぞいたり私の横にこっそり寝たりしました。
危険を感じ復讐したかった私は階段によくすべるワックスをかけ酒に酔った義父がすべり落ちるようにしむけました。ちょっとしたいたずらのつもりでしたが打ち所が悪く義父は死にました。私は人を殺したのです。事故として処理されましたがそれ以来私は罪悪感でまともに眠れた日は一日もありませんでした。)
ゆみかは一気にこれまで誰にも話したことのない記憶を正直に話した。

(そおいうことだったのですか)まりが気の毒そうに言った。
(事情はわかりました。それで今の気分はいかがですか?)

(それが)きつねにつつまれたようにゆみかが答えた。
(ぜんぜん実感がないんです。なんか人ごとみたいで、まあ世間にはそんな話もあるだろうな、そんな感じです。)
(ここたしかに現実ですよね?わたし夢の中にいるのかな?)

(おめでとう大成功です)まりが弾んだ声で小さく叫んだ。

(ゆみかさんは完全にちがう時間軸に移動したのです。
昨日の朝のゆみかさんと今ここにいるゆみかさんは別の世界にいるのです。
この部屋をよく見てください。何か昨日と違って感じることはありませんか?)

(実はさっきから気になっていたのですが)
ゆみかは壁にかかっているシャガールの(恋人たち)の絵を見て言った。
(昨日はこの絵が同じシャガールの白い花の絵だったような気がするのです。今日絵を変えたのですか?
(いいえ同じです。)まりが言った。
(この絵は昨日も(恋人たち)の絵でした。実は三ヶ月前にきたエスパーの少女は来たときはダリで帰るときはシャガールだと言っていましたよ)

まりは深いためいきをつきながら告白した。
(正直パラレルセラピーは実績だけが先行して理屈は依然として謎が多いのです。これはもしかしたら神にそむく悪魔の研究なのかもしれません。それでもわたしは苦しむ人々を救いたい。なにかとても強い使命感を感じるのですよ)

(わたしも信じきれたわけではないんですが)ゆみかは言った。
(とにかく今のわたしは救われました。ほんとうにありがとう)

二人はなんともいえない不思議な感情に圧倒されて思わずお互いを抱きしめた。そしてお互いに(姉妹だ)という不可解な気持ちを味わった。

(完全に時間軸は移動しているとは思いますが念のために来週もう一度来てください。そのときに
事件の原因となったあなたの義理のおとうさんの写真を持ってきてください。その写真を炎で燃やすことでさらにトラウマを遠い遠い時間軸に封印することができます
から。それとこの一週間で気のついた変化がありましたらそれもノートに書いて持ってきてください。今後の参考になりますから)

一週間後ゆみかはふたたび研究所にいた。
ノートにはびっしりこの一週間で感じた変化が書かれている。
まりが声に出して読む。
(後輩の安藤が声をかけてくる。いつもは自分を避けているのに不思議だ)
(取引先より照明係りに私を指名。これも初めて。社内でうわさになる)
(いつも行くパスタの店ルル一番のパスタの味が明らかにちがう。同僚は別にいつもの味よと言う)
(フランス作家のカミュを新潮文庫で読んでいたとき、前は岩波文庫で読んでいた気がしたがはっきりしない)
(すれちがった人がすごくよく知っている気がしたけど記憶にはない。むこうも一瞬変な顔をしていた)
(公園でいつも会う猫の傷が右足から左足に確かに変わっていた。)

(すばらしい、実にすばらしいです)まりが言った。
これほどはっきりした変化が起こったのはあなたと先日お話したエスパーの子とワンピースがツーピースに変わった主婦と三人だけです。おそらくゆみかさんはエスパー能力をお持ちなんじゃあないでしょうか?)

まりに指摘されると確かにそうだ。小さなころから電話が鳴るだけで誰の電話かわかったり人が来るのを予知していたりした。
(そういえばすこし霊感めいたものはあったかもしれません)

(では締めのセッションに入りましょう。義理のお父さまの写真を出してください)
ものすごく久しぶりに見た義父の写真を出すがさっぱり実感がなくておかしいくらいだ。
その写真を見るやまりの顔色が変わった。
ひどく真剣に写真を見つめ目をつむりためいきをついた。

(どうかしましたか?)

(謎がとけました。)まりが言った。
(なぜゆみかさんにこんなに親近感を持ったのか。この人は私の実の父です。わたしの小さなときに母と私を捨ててほかの女性のところに走った父です。まちがいありません)
(この人のおかげでわたしと母はものすごく苦労をしました。子供心にとても憎く思っていました。こんなところで会うなんて)
(ということは?)ショックで頭が真っ白になった。
(わたしは城島先生の実のお父さまを殺してしまったのですね)
あまりの意外な展開にゆみかはめまいがしてきた。
(嘘だ偶然にしてはできすぎている???)

(人のこころは不思議ですね)
まりは科学者らしい冷静な態度でゆみかに話した。

(意識工学を勉強しているとよくこんな実話が出てきます。
どこかで深い罪悪感を感じている人が自分を罰するために誰かを使って自分を処罰する
のです。人からは殺人に見えても実は自殺です。おそらく父はこころの深いどこかで二人の娘を苦しめつづけた自分を責めて自殺した
のでしょう。ゆみかさんのせいではありませんよ。それにどのみちその話は別の時間帯に飛んでいってしまったのですからもう今のわれわれには関係のない話です)


そうは言いつつもやはり二人はしんみりした気持ちになった。
二人は黙り込んだ。
まりが灰皿とライターを机の真ん中に置いた。
ゆみかが義父の写真を四つに破り火をつけた。
火はいきおいよく燃え写真はみるみるうちに燃え尽きて灰になった。
(すべて完了しましたね)まりが言った。
(ゆみかさん自由になりましたね。そして私も)
それからいたずらっぽく笑って言った
(私の義理の妹さん)
(私の義理のおねえさん)ゆみかも笑顔で返した。
窓の外でカラスが鳴き夕焼けが差し込んだ。

その夜二人で姉妹の契りを交わそうということになってまりの行きつけのバーに行った。二人ともけっこういける口だ。赤ワインを1本あけると先生とクライアントの壁がすっかりとけて仲良しの友達になってしまった。

(天才城島まりの夢はね)酔っ払ってまりが言った。
(このすごいセッションをきちんとやれる素晴らしいパラレルワーカーを100人つくること。その100人で日本中いや世界中のトラウマを退治するのよ。)
(今何人いるのよ、そのパラレルワーカーって)
(まだひとりもいないわ、ビールおかわり)
けっこう酒ぐせが悪いみたいだ。
(ねえ私が京大教授の地位を棒にふってまでなぜこの仕事をしていると思う?
ほんとうに人の強いトラウマを解消できるのはこのセラピーしかない
って信じているから。ほらに聞こえるかもしれないけど私は自分を意識工学のコロンブスって信じている。日本では誰も認めてくれないけどね。城島まりを理解するものこの世にはひとりもいないかもしれないけど私はやめない。パラレルワーカーは危険すぎる仕事だけどいつかもの好きな協力者が出てくるって信じているわ。)

まりはビールを一気飲みした。
世間の無理解のなかで戦ってきたまりの苦しみがなんとなくわかる気がした。ゆみかはこの天才肌のあねきが大好きになった。
この人についてゆこう。ゆみかは決心した。

(じゃあわたしがはじめての理解者よ)ゆみかが言った。
(わたしをパラレルワーカーにして、お願いおねえさん)
(本気?)
(本気です)
(ほんとに本気?)
(ほんとに本気です)
(なぜ?)
(人を助けるすてきな仕事だから)
(茨の道よ)
(茨の道を歩きます)
(じゃあ決まり)まりが叫んだ。
(パラレルワーカー第1号は竹宮ゆみかで決まり。マスターお勘定。)

酔っ払ったまりをタクシイに押し込んだあと国道を酔い覚ましの缶コーラを飲みながら歩いた。
何か17才くらいの素晴らしい青春がまたやってきた気がする。
南十字星が見える。
(ステキなパラレルワーカーになれますように!)
ゆみかは星に祈った。

まりとパラレルセラピーの研究に打ち込んだ日々はゆみかにとってまったく新しい人生の始まりだった。
理系の素養はないからむつかしい物理や数学のことはわからないが10年あまりの悪夢のようなトラウマを体験しそこから抜けたゆみかの人格からは悩める人々を癒す独特のやさしいオーラが出ておりセラピーを受けに来る人らはゆみかがそこにいるだけでなんだかほっとするみたいだった。

わからないながらもなんとなく手にするアインシュタインやボームの著作からは数学や物理学の奥にある神秘的なエネルギーがビンビン伝わってきて1冊2冊と読み進めるにつれて、ゆみかの頭脳はしだいに理系のセンスを身につけてきて顔つきがだんだん理知的になりまりにとても似てきた。ほんとうの姉妹と思われることもたびたびだった。
半年の研修が終わりゆみかは城島まりの認定する日本いや世界初のパラレルワーカーになっていた。

あれから4年が過ぎた。現在7人いるパラレルワーカーの熱意で日本の主要都市にはつぎつぎにパラレルセラピーの専門店ができていった。
ゆみかが現在いるのは九州の中心、福岡の天神。おしゃれとショッピングで若い女の子たちのあこがれの的で九州はおろか東京大阪香港や韓国からも人が押しかける有名都市だ。
1流会社がズラリと並ぶオフィスビルの3階すべてを借り切った。
予約は半年後までびっしりとつまっている。

2年半前に科学系雑誌の老舗(エジソン)に城島まりの
{分岐する時間。IPIONIUS特異点の証明}
という論文が掲載され、日本の科学界からはまったく無視されたものの、かの車椅子の天才ホーキング博士が(きわめて注目すべき視点がある)とコメントを出していらい、城島まりは一躍時の人になっていた。

まりが{分岐する時間}の直後に出した一般人に向けたわかりやすいパラレルワールドの解説書である
(トラウマを超え新しい世界によみがえる。パラレルワールドの謎)
は科学系書籍の販売常識をくつがえす200万部の大ベストセラーになり、科学のわくを超え、心理学でもありSF小説でもあり人生論でもあり
成功哲学でもありセラピーブックでもあるようなきわめて特異なポジションを占めていた。
しかし出るくいは打たれるのことわざどおりで風あたりはきわめて強く
(科学界の魔女)はありとあらゆる批判にさらされることになった。

さまざまな批判がなされる中いやおうなく出演する羽目になったテレビの(パラレルワールドは実在するのか?)の討論会でまりが批判者のひとりに述べた
(あなたの世界ではなくてもこっちの世界にはあるんだからしかたないでしょ)
はいちやく流行語になりお笑い芸人たちがきそって大晦日の特番で(おまえの世界になくてもなあこっちの世界にゃああるんだよ)
ネタで一世を風靡したのはまだほんの1年半前のことだ。

その後まりがついに撮影に成功したダリの絵がシャガールの絵に変貌する瞬間を捉えた世にも不可解な写真は世界中の大学で解析されたが、すべての大学ごとにまったく異なる数値が出てしまい謎は謎を呼ぶ結果となりいまだに真偽の論争は続いている。

少し前まで誰も知らなかったパラレルセラピーはあっというまに小学生でも知っている社会現象になってしまった。
科学者としてよりもむしろ一種のカルト教祖扱いになったまりは(非常に不本意ながら)執筆、講演、マスコミの対応に追われ臨床は不可能になった。
自然臨床はゆみかと7人のスタッフの手に任されるようになった。

ブームとはすごいものだ。
ほんの何年か前まで平凡なOLだったゆみかのところにはありとあらゆる人々が訪れるようになった。

有名作家の早田ますみ
雑誌ムーの編集長の相川はじめ
量子コンピューターを開発中の天才黒川ゆずる
フィギアスケート金メダルの今西愛
おしのびで政治家も来る。

どのような恵まれた立場にいる人もどこかで(もうひとつ別の人生があったら)と感じているのだ。パラレルセラピーはありとあらゆる人々のもっとも深いこころの琴線に触れたのだ。

このセラピーを受けに来るクライアントは自殺寸前のきわめて深い悩みを持つ人が多い。
家庭内暴力、レイプ、末期がん、倒産、夫の裏切り、子供の失踪、ありとあらゆる悩みをかかえた人々が最後の救いを求めてゆみかのところにやってくる。

パラレルワーカーはきわめて責任の重い仕事だ。
ワーカーのほんのささいな言葉のひとつひとつがクライアントに決定的なダメージを与えてしまう。
もっとも恐ろしいのはより素晴らしいパラレルワールドに案内するつもりが逆になりさらに恐ろしいパラレルワールドにクライアントを送り込んでしまう可能性だ。
さいわい今のところそうした悲劇は起こっていないが
(何も起こらなかった、詐欺だ)と怒り出すクライアントはいくらでもいるし体調が崩れたとクレームをつけるものも多い。

それでも10人のうち6人くらいには非常にはっきりしたトラウマの消失が見られ、感動のあまりクライアントが泣きじゃくるのはここではごくありふれた光景だ。
5年10年、長い人では30年40年と耐え忍んできた重い重い記憶から開放された人々。
その笑顔を一度見てしまうとたとえどんなに非難されようと詐欺師、キチガイと罵られようとこの仕事を生涯続けたいとの想いはますます強くなってゆく。
なにかとほうもなく大きな力が自分を動かしパラレルセラピーを世界に普及しようとしているそんな気がしてならない。

かつて殺人の記憶で悩みに悩んだことが今のゆみかを強く支えている。
涙を流しながら深刻な表情で語るクライアントの話を聞いたあとゆみかは必ず質問する。
(あなた人を殺したことありますか?)
(いやそれはないですよ)
(じゃあたいしたことないですよ)ゆみかは笑って言う
(ここには殺人の記憶から立ち直った人もいますからね)
そしてさらに続ける
(そんなの何でもないって!時間軸を移動させればいいだけなんだから!ほんとうよ!)

ゆみかが笑って言うとクライアントも急に自分の問題が小さく見え出して思わず笑顔になる。

やさしくハグをしてライリンボックスに横たわってもらいゆみかは波動出力の調整をする。
弱すぎたら効果はないし強すぎると危険だ。
クライアントの体調を見ながら出力を微調整し、クライアントの脳波がシーター波になる瞬間を慎重に見極める。

そしてクライアントの意識が高まり、よりよい未来への肯定的な感情が出てきた瞬間を見計らってさらにその気持ちが強くなるように誘導の言葉を話す。

そのほんの2時間たらずのセッションでクライアントのこれからの長い人生の質が決まってしまうのだ。
セッションのあいだじゅうゆみかは神に祈る。
神様お願いします。この方がどうぞ最良のパラレルワールドに無事到着できますように。全身全霊をこめて祈る。
一度のセッションを行うと自分の体重も1キロは減っている。
パラレルセラピーはまさに命をかけた真剣勝負なのだ。

忙しすぎて月に一度しか取れないオフの第三日曜日の朝、ゆみかは誰もいないオフィスで久しぶりにゆっくりとチャイを飲んでいた。
縁があってこれまでにたずさわった数多くのクライアントの記憶が夢のように脳裏を通りすぎてゆく。

(エジソン)の最新号を読む。まりの書いた新しい論文
(膨張する意識。時間構造のエントロピー力学)
を読む。
この半年で世論は大きくまりを支持する方向に傾いている。地層工学の発達でパラレルワールドを証明する可能性のあるオパーツと呼ばれるその時代にはけっしてなかったはずの遺跡が世界中から続々と発見されている。
5億年以上前のカンブリア紀の地層からフォードが1940年代に作った乗用車が腐敗せず新品の状態でまるごと発見されてからはパラレルワールドの実在を非難する科学者はほとんどいなくなった。

ただこの研究が人類の未来をどのように変えてしまうのか危惧する声は強い。ローマ法王はパラレルワールドの研究を一時的に停止するように声明を出した。
日本政府がパラレルセラピーをやめるように圧力をかけてくるかもしれないと昨日まりから電話があった。
これからのことはわからない。今日はともかくゆっくりしよう。

久しぶりに自分自身をセラピーする。
ライリンボックスに入って出力を弱にする。
今は特に望みはないからボックスの中でIMAGINEをかけて静かに聴いていた。

Imagine there's no Heaven(ほら想像してごらん天国なんてないって)
      It's easy if you try(とっても簡単だろう?)

パラレルワールドの理論がどうであれ
ゆみかは思う。
世界はいや宇宙はとても偉大な何かの意思で存在している。
その何かの意思は人間をよいものにさらによいものにしようといつもあたたかなあたたかなエネルギーを送り続けている。
パラレルセラピーがやっているのはただその意思のお手伝いなのだ
今のゆみかにはそうとしか思えない。
まぶたの裏に不意に死んだ義父の顔が浮かぶ。
ニコニコして
(ありがとうゆみか俺は救われたよ)そう言っている。
(ごめんなさいおとうさんあのときは痛かったでしょう?)

今日は2018年5月25日。
世界はあたたかく美しい
世界はあたたかく美しい
世界はもっともっと無限に良くなるのよそうでしょう?

眠り込んだゆみかの耳元にレノンの声が流れてゆく

Imagine there's no Heaven(ほら想像してごらん天国なんてないって)
      It's easy if you try(とっても簡単だろう?)
      No Hell below us(地獄なんてもちろんないし)
      Above us only sky (ただ美しい空があるだけ)
      Imagine all the people (そしてほら想像してごらん)
      Living for today...(誰もが美しい今に生きてるって)(訳プレムシロウ)

安らかないびきをかきながらゆみかは小さな声で寝言を言っている。

(一番ステキな時間軸に移動します
一番ステキな時間軸に移動します
一番ステキな・・・・・・)
IMAGINE!

ゆみかの首がコクンと横に倒れた。




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