53本目(10月14日鑑賞)


そして父になれたのか?
観たい映画を観て、読みたい本を読んで、聴きたい音楽を聴く!-titi1

そして父になる


監督・脚本・編集:是枝裕和

撮影:瀧本幹也 録音:弦巻 裕

照明:藤井稔恭 美術:三ツ松けいこ

衣装:黒澤和子 音楽:安井 輝

出演:福山雅治/尾野真千子/二宮慶多/黄升炫/真木よう子/リリー・フランキー/田中哲司/國村隼/中村ゆり/井浦新/高橋和也/吹風ジュン/樹希木林/夏八木勲


豪華な都会のマンションで、妻みどり(尾野真千子)、息子慶多(二宮慶多)と暮らす野々宮良多(福山雅治)。仕事も順調で、幸せを絵にかいたような人生を送っていた。ある日、「説明したいことがある」と慶多を産んだ病院から呼び出され「取り違え」があったことを知らされる。

「交換」を提案する病院の仲介で、もう一方の取り違えの家族・斉木雄大(リリー・フランキー)、ゆかり(真木よう子)夫妻と面会する。地方の電気屋を営む斉木家の生活を知った良多は、病院相手の訴訟と並行して、斉木家の琉晴(黄升炫)を交換ではなく、引き取ることを画策する。


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豊かで何の不自由もない野々宮家。

観たい映画を観て、読みたい本を読んで、聴きたい音楽を聴く!-titi3

貧しくとも笑いの絶えない斉木家。


おそらく答えは最初からわかっている。


この2家族…というか二人の父親は、最初から福山がワルモン、リリーがイイモン。ただし、斉木家側は、あまり多く語られていないので、リリーが本当にイイモンなのかは不明。そうでもないみたいよ…みたいなフリは入れてあるので、ずるい。


母親二人は強い。というか、芯がひとつ。子のことを考えているから、二人とも答えは最初から分かっている。尾野さん・真木さんの対比が描かれていればよかったのだが、真木さん側は資料不足。これも、ずるい。


よって、観客は野々宮家目線で「取り違え事故」の経過を追うことになる。


父親失格っぷりを発揮する良多。彼の横暴っぷり、腑に落ちてしまうhiroがいる。つぶれたストロー。hiroでも嫌悪感を抱く。「俺の息子をどんな育て方してるんだ」…そういう怒りが、あのブツ撮りのカットにうかがえる。良多がワルモンだとわかっていながらリンクしているhiro。これは痛いよ、是枝監督。「父がそうだったから」…痛いセリフです。


だから、「両方引き取ってもいいんですよ」という良多のセリフ。あれは横暴ではないんだと。自分の血を分けた息子が斉木家に育てられていることが、耐えられなかったのだと。なんとなく、ワルモノ良多の気持ちがわかっちゃう。


でも、子どもの意向をまったく無視した「大人の都合」であることは、客観視できたのでわかった。だから、観てて、どうも座りが悪かった。


一方で、尾野演じる母の描き方は(「も」と言うべきか)よかった。「なんで気付かなかったんだろう」…気づくはずなんてない。同じものがついてて、突出した身体的な特徴でもあればともかく、ふつうなら気づかない。自分を責める。「父」の「やっぱり…」にも過敏に反応する。


子どもを産んだ瞬間から女は「母」になる。しかし、男が「父」なるには時間がかかる。そういったことを、男には痛い目線で描く。いや、リリーの立場で観ることができた人には、痛くもなんともないんだろうね。


「大人の都合」で振り回される子ども二人。彼らは最初からわかっている。この物語の本質を。


「なんで? なんで?」…答えられないのなら、それはおそらく正しくはないのだろう。


監督は皮肉なネタで締めくくる。「琉晴のこと好きになってきちゃった」…これが決め手となり、ラストにつながる。


父と母の話。なので、直接大きな影響はないのだけど、病院の態度は頭にきた。

あの看護師も罪に問われないのかと思うと、なお。…中村ゆりは好きなのだが…。


外国の賞を取った作品に日本人は弱い。なので、日本アカデミー賞をはじめ各賞に名を連ねる作品になるんだろうな。上手だけど、よくできてるけど、誰もが感銘を受けるかというと…ちょっと違うんじゃないかな。父の成長に涙する? そんなにメロウな優しい作品じゃないよ、と思った。



hiroでした。