アメーバの緊急メンテナンスで一日遅れとなってしまったのが少し悔しいですが、今回でラストです。遂にここまで来た・・・・。



 結局見つからなかったマンティコールと未だ意味不明な二部のサブタイの意味を明かして終わります。

 ここに来てタイガーさんが中心から外れてきていますが・・・・そっとしておいているということで(えー



* * * * *



 超弩級の赤っ恥をかくこととなったタイガーは、下校後、結局一歩も自室から出なかった。夕食も取らず、眠れぬ夜を過ごした。
 ここで寝てしまえば悪い夢を見る。彼女はそんな気がしてならなかった。
 悪夢なら真昼間から見せられ、もう満腹だった。勘弁してほしい。。精神的な疲労はあれど、それでもタイガーはやはり眠る気にはなれなかった。


 そんな状態ながらも、翌朝にはどうにか、登校できるまでに彼女は持ち直した。
 自分が仕出かしたことに対する恥ずかしさはいまだ抜けきっていないが、朝一番にミズノに口止めしなければ後々もっと恥ずかしいことになる。それくらいの推測が出来る程度には、冷静さを取り戻していた。


 そんな思惑でどうにか己を支え、タイガーはまだ誰もいない1年2組の教室に、緊張しながら足を踏み入れたのである。
 それから時計の針が進むごとにクラスメイトたちが登校してくるものの、皆、昨日と取り立てて変わった様子はない。挨拶したクラスメイトにドン引きや電波扱いをされずに済んで、タイガーはひそかに胸を撫で下ろしていた。



(良かった・・・あのこと、まだ広まってないみたい)



 先日のあの出来事は放課後で、球技大会の後ということで部活動も無かった。話が広まる場所は大して無いとわかっていても、それでも心配なものは心配なのである。噂になったらと思うだけで、生きた心地がしなかった。
 タイガーが安堵の息を吐いたその時、彼女の待ち人が現れる。



「あ、ミズノ。おはよう」



 教室の引き戸を開けたヨウ・ミズノに挨拶したのは、近くにいたヤノ・マミだった。
 ミズノも明るく挨拶を返したが、マミは「あれ、マリノは?」と首を傾げる。



「最近、朝いっしょに来てないけど・・・何かあったの?」



 好奇心より心配を浮かべた顔で尋ねられ、ミズノは笑みを浮かべたまま首を横に振った。
 『魔女っ子』という自分のあだ名にからかいがこめられていることは、姉に言われるまでも無く水野も知っていた。それだけに、自分を気遣ってくれるマミの優しさが嬉しい。だから心配はさせたくない。
 件のあだ名ほど知られてはいないのだが、ミズノはそのくらいの心配りができる少女なのだ。



「ボク、新しく見つけた近道でショートカットして、一つ早いバスに乗れるようになったんだ。それでマリノがちょっと遅いんだ。それだけだよ」
「マリノはその道、使ってないんだ」
「うん。『危ないからやめなさい』って、ボクが使うのもちょっとイヤな顔するんだよね」
「・・・どんな道かは知らないけどさ、使わなくても遅刻しないんでしょ、朝から危ない場所に近づくことないんじゃないかな」

「えー、楽しいのに」



 二人の会話がそこで終わり、ミズノが一人になったところを見計らって、タイガーはミズノに近づいた。



「・・・おはようございます」
「あ、タイガーちゃん。おはよ」



 声をかけるのもおそるおそるのタイガーに対し、ミズノはいつも通りだった。
 それはそれで、理由がわからないが故の不安を感じるのだが、ここで引き下がるわけにもいかない。タイガーは意を決して本題に入る。



「・・・・・あの、ですね。昨日のこと、なんですが・・・誰にも言わないでくれませんか・・・・?」
「昨日?」



 目をぱちくりさせるミズノに、更に説明を加える。



「ええと・・・・放課後の『綺羅星!』、って・・・」



 奥歯に物が挟まったような物言いになってしまうタイガー。この状況説明だけで既に恥ずかしい。
 だが、ミズノの反応は、



「あ、あのおまじない? カッコイイね、あれ!」



 有る意味ではこの場にそぐわない、満面の笑みであった。



「・・・・・・・・・・・・・・・・え?」



 あんまりけろりとしているものだから、タイガーの方が面食らう。
 魔女っ子恐るべし。あの恥ずかしい動作が『カッコイイおまじない』と受け取られるとは流石に想像していなかった。
 断じて蔑んでほしかったわけではないが、肩透かしを食らった格好になり、固まってしまう。そうして彼女が二の句を告げられずにいるうちに、ミズノは勝手に納得したようだった。



「そっか、あれ、ヒミツにしてないと効かないマホウなんだね。わかった、ダレにも言わないから!」
「ありがとうございます!」



 タイガーは迷わず頭を下げた。
 都合よく勘違いしてくれている人間に訂正を加えるほど彼女は純真無垢ではないのだ。もう既に。
 気持ちの上では主を裏切っていないものの、無断で敵組織の首領をやっている彼女だ。必要とあらば嘘や隠し事はいとわない。



(それに、余計なことを言って、巫女や綺羅星に関係無い人を巻き込むのは良くないはず・・・)



 ただタイガーのこの言い分も完全な嘘ではない。
 筋も通っていると彼女自身は判断していた。ただ、通すのが後回しにされているあたり、言い訳の感は否めないが。
 けれど、それでも心のどこかに友人を騙すことへの後ろめたさは感じてしまう。
 様々な感情が胸の内を渦巻き、悶々とする。そんなタイガーに、今はまだ、何も知らないミズノが明るく笑いかけた。



「でも知らなかったな、タイガーちゃん、おまじない好きだったなんて。そうだ、イイコト教えてあげる!」



* * *



 そんなやりとりから少し経って。
 妹に遅れることバス一本分、一人の少女が教室へと現れた。



「――おはよう」
「あ、マリノだ! やっと来たー」
「・・・私はミズノみたいな無茶はしないで普通にバス使ってるの」
「マリノも今度いっしょにやろうよー」
「やりません」



 ヨウ・ミズノの双子の姉、ヨウ・マリノ。南十字学園では天才スポーツ少女、綺羅星十字団では第2隊代表代理マンティコールで通っている娘。
 タイガーが七転八倒することになった今回の騒動の、もう一人の中核を担う人物だった(ここまでほとんど触れられることはなかったが)。


 日死の巫女である最愛の妹、ミズノを守るためなら自らの危険も顧みず綺羅星へ身を置く少女。そのマリノが、ちらと視線を投げかけた者がいた。
 クラスメイトの、スガタメ・タイガー。先日、綺羅星十字団のリーダーの座をもぎとった人物だ。


 『旅立ちの日』など興味も無い、ミズノを守ることこそが本懐のマリノは、タイガーの地位を必要としていた。
 手に入るのであれば、なるべく早く。叶うなら、今すぐにでも。


 マリノは静かに対タイガーの様子を伺う。組織内で優位に立つために、些細な情報でも良いから欲しいところだ。
 登校から既に時間が経っているのか、何をするでもなく席についているタイガー。しかし奇妙なことに、なにやらおそろしく真面目な顔つきをしている。しかも、何事か小さな声でつぶやいているようだ。



(何かしら・・・?)



 気になるが、マリノの位置からではよく聞こえない。仕方なく、ゆっくり彼女に向かって歩み寄る。なるべく自然に見えるように気を使って。
 すぐ傍にまで近づいてみたが、タイガーがマリノに気付いた様子は無い。ひたすら口を動かすことに専念している。凄い集中力だ。



(こんなに真剣になって・・・)



 一体なにを言ってるのか。
 マリノが耳を済ませてみると。



「・・・・カタミ、ワカチタ、ヤガダンセ・・・カタミ、ワカチタ、ヤガダンセ・・・・・」



 聞こえてきたのは、なじみの有る、大丈夫の呪文。



「え・・・?」



 思わずそちらに目をやったマリノは、呪文を真剣に唱えているタイガーを、確かに見た。

 その驚愕に、思わず声が漏れる。
 その独り言に近いマリノの問いに答えたのは、片割れだった。



「ボクが教えたんだよ」
「ミズノが?」



 聞き返すマリノに「うんっ」とミズノが無邪気に頷く。
 どこか得意げにも見える顔で、
「ね、いるでしょ? 信じてくれる人」
と耳元で囁かれ、マリノは昨日のことを思い出す。


 自分は言ったのだ。ツナシ・タクトにこの呪文を教えた妹に、そういうことはもう止めなさいと。
 口先では信じたようなことを言っていても、心の底では誰も信じていないのだ、と。


 でも、違った。違った、のかもしれない。
 ――そう、マリノは思った。



(綺羅星のリーダー、トラバーユ・・・。この人も、タクトくんと同じ・・・なのかな)



 昨晩、ソードスターを打ち破った銀河美少年もまた、呪文を信じていた。
 この少女も、あの輝く少年と同じ。
 ならばこの彼女、スガタメ・タイガーもまた、



(・・・・・そんなに、悪い人でもないのかも)



 だったら無理に蹴落とさなくても良いかもしれない。少しくらい様子を見るのもアリかしら?・・・と、マリノの頑なな気持ちがほだされていく。
 妹一筋で生きてきた彼女だが、恋は少女を変える。彼女は確かに、変わりつつあった。


 こうして、マンティコールのタイガーへの敵愾心は急速に薄れ、すぐさまリーダーの座を奪い取ろうとするのはひとまずやめにした。これより彼女は、地道にサイバディ・アインゴットの修理に取り組むことになる。
 しかし、そんな未来など知らないスガタメ・タイガー(ちなみに、昨晩の戦闘は部屋にこもっていて欠席)は。



(結局マンティコールの正体はわからなかった・・・どうしようぅぅ・・・・)



 神頼みならぬ魔女っ子頼みで、ひたすら呪文を唱え続けるのであった。



「・・・・カタミ、ワカチタ、ヤガダンセ・・・カタミ、ワカチタ、ヤガダンセ・・・・・」



 鬼気迫るその様子はその様子で、なにやら別の噂が立ち草ではあったが。
 まあそれはそれとして、彼女の苦難の日々は、未だ続く。




終わり


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