NEEDLESS(ニードレス) ss『楽園は弱者のためにこそ』 1
2010-03-02 02:30:22 Theme: NEEDLESS :アニメ二次創作2009年年末に終わったアニメの最終回を元にした『NEEDLES』(ニードレス)ssです。
時間軸は、最終話の途中。重症のアルカ姉さんが、治療者イヴに半生を語るお話。最終話ネタバレあり。
後書き含めて、全5回くらいです。
注意事項!
はっきり言って雰囲気が本編とはかなり違います。
この作品は勢いがあって熱く、こんな風に少女の精神状態をくどくど解き明かしたりしないのですが・・・アルカ姉さんが好きだったのでどうにも彼女を掘り下げてみたくって(私情)。
そんな感じでもよろしければ、お読みくださいませー。
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きっと自分が作りたかったのは、争いの無い世界などではなかったのだ。
私が本当に欲しかったもの。
慕ってくる弟を無慈悲に殺そうとしてまで求めたものは。
安っぽい己のプライドが、傷つくことの無い世界。
守るべき存在を恐れ逃げ出したことなど、初めから無かったことにしてくれる安息の場所。
きっと、その程度のものでしかなかったのだ。
楽園は弱者のためにこそ
「おお、起きた! 山田姉!」
「イヴ・ノイシュヴァンシュタイン・・・」
意識を取り戻した彼女が初めて見たものは、自分を見下ろす一人の少女だった。
まっすぐな長髪の娘、イヴを認めて呟いた若竹色の髪の少女の名は、アルカ・シルトと言う。
初めに断っておくが、『山田』ではない。人の名前を覚えられないイヴが勝手にそう呼んでいるだけである。
それはさておき。
状況が飲み込めず、アルカは気絶する前のことを思い返した。
最後の記憶は、弱音を吐く弟――クルスに、励ましの言葉をかけて。
そこで、意識が途切れたのだった。主の・・・いや、主『だった』と言うべきだろう――アークライトに負わされた傷によって。
明らかに致命傷だった。自分はもう助からないのだとわかった。
そうでなければ、弟に声をかけたりしなかった。絶対に。
唯一の肉親でありながら、三度も殺そうとした相手。
最初の一回を除いては、自ら手を下そうとしたのだ。その心をズタズタに引き裂いただけに飽きたらず。
けれど今、自分はこうして生きている。
おそらくその理由は。
「治療したのか・・・。この私を」
目の前の少女の持つフラグメントは、『ドッペルゲンガー』。物体や生物に己の肉体を変化させる能力。
その応用で、自分だけでなく他者の怪我の治療も可能だ。
しかし、諸々の経緯からエネルギーの消費はを気にしなくてよくなっているとは言え、敵の自分の手当てをする義理は無い。
聞きたいことがあって生かしておいたのか・・・或いは手酷く裏切られた姿に同情されたのか。
どちらにせよ。
「・・・すまんな。迷惑ばかりで」
起き上がれないため頭は下げられないが、アルカは素直に謝罪する。
それを聞いたイヴは、何故か一瞬、虚を突かれたような表情になり・・・アルカの怪訝そうな視線に気付くと慌てて不機嫌顔を作った。
「・・・ふ、ふんっ! まったくだ! 山田に頼まれなかったら、助けなかったぞ!」
「クルスが・・・? 何故・・・?」
一番自分を憎んでいるはずの弟の名前(正しくは呼び名だが)を聞いたアルカが驚愕の表情を浮かべる。
「知らねーってば。っていうか、質問するのはコッチだ、山田姉! ショージキに答えろよ! でなきゃ、お前の治療はここでおしまいだ! 言っとくけど、まだお前は死にかけなんだからな!」
アルカの顔を間近で睨み付けるイヴ。
重傷者を容赦無く怒鳴り付けた彼女は、一転して声のトーンを落とす。
「山田には、手遅れで助けられなかったって、そう伝えてやるさ」
そこに有ったのは、一過性の怒りなどではなく、もっと深くて重い憤怒。
しかし、アルカはそれも当然のことと受けとった。
自分は、彼女とその仲間たちの身体も心も傷つけた。
死者こそ出ていないが、それは奇跡に近い。一歩間違えば、彼女たちは全滅していたはず――むしろ、そうならなかったのは僥倖と言っていいだろう。
恨みに思うのは、何も弟だけではない。イヴの怒りはもっともだった。
「いいだろう。今となってはシメオンへの義理立ても無い。だが、私の知っていることで、お前たちの役に立つような情報など・・・」
「ちっがーう! そんなん聞いてもぼくじゃわかんないし。そーゆーのはディスコがやるんだよ」
「では、何を聞こうと言うのだ・・・?」
臆面もなく頭脳労働を放棄するイヴ(ちなみに、仲間の名前を間違えている。正しくは『ディスク』だ)の姿は、アルカの予想に反したもので。
その真意がわからなくなったアルカは疑問を投げかける。
何を聞かれても困りはしない。
彼女は死ぬ覚悟をした人間だ。命を取り留めたとはいえ、心まではすぐには元には戻らない。
全てを失う覚悟は、今も胸の内にある。
抵抗しないのは、治療してもらった恩を感じたからではない。諦念によるものだ。
アルカは、そう思っていた。
けれど。
「――お前、なんで山田を裏切った?」
再び声を低くしたイヴにそう問いかけられた一瞬、呼吸が停止した。
心の奥が小さくざわめく。
アルカはそれを押し殺し、感情を込めずに断言した。
「裏切ったのではない。私は初めからレジスタンスなどではなかった。奴等に近づいたのは、シメオン四天王として命令を受けたからだ」
イヴが眉根を寄せる。
治療を受けたにも関わらずふてぶてしい態度の自分に気分を害したのだろう、とアルカは思ったが、それは違った。
「そうじゃない」
断定口調で否定し、続けてイヴは真っ直ぐアルカの瞳を覗き込む。
「レジスタンスなんて、ぼくは知らないし、どーでもいい」
再度言い切った(それも「その姿勢は如何なものか」、とアルカの方が思ってしまうほどきっぱりと)。
「聞いてるのは、なんで山田を殺そうとしたのかってことだ。弟なんだろ。さっきだって、自信を持てって励ましてたじゃないか」
イヴが知りたいのは、その一点のみ。
人道がどうとか、倫理がどうとかそんな話ではなく。
仲間が苦しむことになった、その理由を教えろと、彼女は言っているのだ。
「アークライト様・・・の目的ために必要なことだったからだ」
裏切られた相手だが、思わず今まで通りの呼び方が出てしまい、アルカは一瞬言葉をつまらせる。
イヴは、そんな彼女の微妙な心境には構わず(気付かなかっただけかもしれない)、更に問うた。
「あんなヤツのためだっていうのかよ」
「裏切られるとは、これっぽっちも思っていなかったのでな。あの方は私の望みを叶えて下さると、信じていた」
自嘲を込めてアルカは言った。
彼女のそのへんの心情はやっぱりスルーのようで、イヴは「うーん」と首を傾げる。
「望み・・・? えーっと確か・・・」
ぽん、と手を叩いて。
「時給千円!」
「違う」
素早いツッコミは弟に引けをとらないアルカだった。
向けられる視線に呆れが混じってきたが、イヴはそんなことにはお構い無しで再度考え込む。
「あー・・・じゃあ・・・・・」
「いや、思い出そうとして首捻っても無駄だから。貴様が気絶していた時の話だから」
「じゃ、今教えろ!」
「断る」
「なにをぅ! ケガ治してやんねーぞ!」
「今更、命など惜しくはない」
アルカは両目を閉じる。話はこれでお仕舞いだという意思表示だった。
この少女との会話がいい加減面倒になったとか、重傷を押して話していたせいで意識が朦朧としていとか、そのあたりの要素も小さくはない。
けれど、本当のところは、触れられたくない話題なのだ。そこは。
命を失う覚悟は既に決めている以上、脅しには屈しない。だから、このことは自分にはに何の不利益ももたらさない。
そう計算しての行動だった。
が。
しかし、イヴの行動は再度アルカの予想を飛び越えた。
「何だよ、スカしてんじゃねーよ。ちょっと前までいい子ちゃんだったくせに。――ほら、こーんな」
不平じみた物言いから一転、からかうような口調となったイブに違和感を覚え、両目を開いて自分を見下ろす少女を見たアルカは固まった。
そこには、自分の顔があった。
それも、かつての自分。
シメオン四天王ではなく、クルスの姉としてのアルカ・シルトだった。
「何故・・・? その姿を貴様は知らぬはず・・・」
「ちっと前に化けたことがあったんだよ。どっかのシスコン山田が『姉さん姉さん』ってウルサく泣くから仕方なくなぁ」
「・・・だがそれは正しい私の姿ではない」
意地の悪い笑みを浮かべる自分の顔に向かって、アルカも笑みを含んだ声で返す。
「何言ってんだよ。ペンダントの写真も有ったし、山田の話も聞いてるんだからな。・・・細かいとこは覚えてないけど」
「それは、クルスから見た姉の姿であって、真実の私ではない」
アルカはきっぱりと言い切る。
話をやめるつもりだったのだが、この誤解は解いておかねば気が済まなかった。
その強気の姿勢に押されたのか、イヴも素直に彼女の言葉を受けとる。
「あ? ・・・裏では四天王だったから、この姿は芝居だったってことか?」
これはイヴにしてはマトモな推測だったと言えたが、更に訂正された。
「それ以前の問題だ。シメオンと繋がりを持つ前から、私はあいつが思うような良い姉などではなかったのさ」
「お前、シメジに入って変わったんじゃ・・・」
人だけでなく、固有名詞を覚えるのがてんでダメなイヴである。
そこにすかさずアルカの指摘が入る。
「シメオンだ。もちろん、アークライトも関係無い。私は・・・」
だんだんと意識がぼやけてきて、思考回路が正常に働かなくなってきたのか。
イヴとの会話で緊張感が弛んできたのか。
それとも、かつての自分の姿に突き動かされたのか。
「守るべき弟に恐れを抱いたうえ、その感情を認めたくなくて逃げ出した、臆病者だ」
アルカは、決して言うまいと思っていた本心を語り出した。
つづく
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