毒食品の嘘 | 女子リベ  安原宏美--編集者のブログ

毒食品の嘘

 前回の『ニューズウィーク』 2007.10.3)の特集-「危ない食品」は危なくない-は良かったですね。こういった「検証」の記事が少し早い動きで出るようになったのかなとは思うのですが、いいことだと思います。

私はそもそもは生活情報誌に編集部で仕事をしてました。今でもレシピ本の仕事をしています。雑誌でアンケートをとっても「食の不安」がすごくて、これは書きたくもないことを書かなくちゃいけない、書かなくちゃいけないことを書けない状況になるのは本当に嫌だなと思います。

 先日スーパーで買い物をしていたら、「この野菜は中国産しかないの!どうして!なんで!」と店員さんに怒っているおばさんがいました。なんだかもう・・・気持ちはわかるんですが、怖い・・・。

 『ニューズウィーク』はこう報じます。

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 中国野菜をいっさい使わない「チャイナフリー」給食を富山市がスタートさせたのは、9月のこと。349品目30品目を占めた中国産食材のうち、乾燥ワカメや芽ヒジキなど国産に替えられない4品目を給食メニューが完全に排除。残りを国産に切り替えた。

 きっかけは7月。横浜市教育委員会が、独自検査で給食用の中国産乾燥キクラゲから食品衛生法の残留基準値に2倍にあたる殺虫剤フェンプロパトリンを検出したことだった。フェンプロパトリンは一定以上の量を摂取すると頭痛やけいれん、嘔吐、血圧低下を起こすことがある。チャイナフリー給食は9月、滋賀県内の7自治体にも波及した。

 ただし、横浜市のキクラゲから検出されたのは1kgあたり、わずか0.02㎜g。フェンプロパトリンを一生毎日食べ続けても健康に害の出ないとされる「許容1日摂取量」は体重1㎏当り0.026㎎なので、体重50㎏の人がこのキクラゲを毎日65kg食べても健康に害はない計算だ。

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ちなみに、料理に使う単位になおしてみると、だいたい4人分の中華のおかずでキクラゲ10個使って多いくらいでしょうか。グラム換算すると、乾燥キクラゲ(黒)で10個=3gくらいです。つまり、65㎏÷3g=21666家族(4人)分。テレビチャンピオンのあかさかさんでも無理。

『ニューズウィーク』には『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 』松永和紀さんの記事も大きく掲載されていました。すばらしい。
 この本は、今年出た新書のなかで、私は一番おもしろかったし、勇気の書だと思います。編集も丁寧ですごくわかりやすい。ニューズウィークの上の引用部分や、記事を読んでも「でも、天然野菜のほうがやっぱり安全だし、おいしいし」とか「ちょっとでも悪いものが入っているものは避けたほうがいいのよね」とか「でも、うちの子アレルギーだから」とか思った人は(気持ちはわかります)、中国の環境に対する状況がぜんぜんだいじょうぶーなどともまったく思っていませんが、ぜひ読んでみてください。

 松永さんも『メディア・バイアス』なかで、情報が更新されていないこと書かれていましたが、私も取材中に何度も思ったことがあります。

 「化学物質」が嫌いで、「天然もの」が好きな、例えば「自然食レストラン」や「生産者」のなかには、最新の情報をおさえていて、ちゃんと科学的知識があって頭が下がる人もいますが、「信仰」とか「ネットワークビジネス」系が入っている人もいます。なんか、自然食品関係の店で、小汚い店ってありますよね。壁とかがなーんかベタベタしたかんじの。私はそういう店はやばい系だと思ってます。きっと「合成洗剤」嫌いで、洗剤使って洗ってないんでしょうね。ここで「合成洗剤より石鹸のほうが環境に優しいんでしょ」と思っている方は『メディア・バイアス』読んでください。

 原稿で「おばあちゃんの知恵はおばあちゃんの知恵。茶渋が取りたければ、塩とレモンじゃなくて、洗剤で洗ってればいいんです。器によっては傷がつく場合もあります」みたいなことを今まで3回書いたけど、すべて却下されました(笑)(塩とレモンでも落ちますけどね)

 例えば「土つき野菜」って、「おいしいだろうな」と思って買う人もいますが、農家の取材をよくやってる方などは「農家は外で洗う場所があるからいいけど、家庭のシンクでちゃんと洗えてきれいに落ちるんだろうか、ほかのものに飛ばないのかな、土が一番危険だと思うんだけど」といいますが、もちろんこういうコメントは記事には載りません。『泥の味がうまい』とか『アクやえぐみもおいしいさのうち』というキャッチコピーを見かける場合もあるかもしれませんが、「嗜好」は否定しません。でも、それは「科学的にはどうなのか」それを書いている人がどういった立場の人なのかには注意してみてください。松永さんの本はこっちの本もおすすめです。読み物としてもわかりやすく読みやすく、私たちの生活に密着したところからのお話なので、おもしろく読めると思います。「トレードオフ」とい言葉は知っている人も多いでしょうが、「どういうこと」が「トレードオフ」なのか詳細説明しないとわからない人も多いと思います。マイナー野菜の農家がどういうことになっているのか、本当に勉強になりました。「国産野菜がうまいうまい」とだけしか言うんじゃなくて、「野菜ソムリエ」こそ、こういうことを勉強してほしいなあと思いました。もしちゃんと勉強している人がいたら、編集者はそこも取り上げてほしいと思います。 

踊る「食の安全」―農薬から見える日本の食卓/松永 和紀