視覚障害者向けの映画の音声ガイドを制作している美佐子は、仕事を通じて視力を失いつつあるカメラマン、雅哉と出会います。雅哉の素っ気ない態度にイライラする美佐子でしたが、彼が撮影した夕日の写真に心を動かされ...。

 

視力を失うということが相当に苦しい体験であることは想像ができます。特に、カメラマンだった雅哉にとって視力は不可欠なはず...と視力に頼って生きている私などは想像してしまいますが、そこに私の想像力の限界があるのかもしれません。現実には盲目の画家も盲目のカメラマンもいて、生まれつき視力のない画家が実に色彩豊かな絵を描いていたりします。盲目の人は、晴眼者が視力を使って捉えているものをまた別の形で捉えていて、盲目の人たちの世界は、晴眼者が思うような不自由な世界とはまた違っているのかもしれません。

 

視力がなければ見えない、聴力がなければ聞けない...と言い切れる程、人間は単純な生き物ではないのかもしれません。決定的なものを失ったとしても、それでも、その先に光を見出すことはできるのかもしれないと思わせてくれる作品になっていると思います。

 

音声ガイドの制作という仕事を通して、盲目の人と晴眼者という違った方とで世の中を把握している人々の世界を描きながら、違う立場の人々を思い遣ることの難しさ、想いが通じ合うことの素晴らしさを映し出しているようでした。

 

本作の謳い文句である「河瀬直美監督が挑む珠玉のラブストーリー」は、違うような...。確かに、"価値観の違う男女が思わぬ出会い方をして、反発しあいながらも徐々に互いを理解しあうようになり..."という流れはありますし、ロマンスな部分もあるとは思うのですが、そこがメインとも思えませんでした。美佐子の音声ガイドが作品の価値を落としていると批判される場面がありますが、この謳い文句も本作の価値を貶めているとしか思えません。作品そのものの問題ではありませんが、とても、残念です。

 

美佐子と両親の関係や父の遺した物の物語への絡み方などが中途半端で、ちょっと散漫な感じがしてしまう部分もありましたし、雅哉の今後についても、カメラマンとして活動を継続していく道を見つける方向に収めて欲しかった感じがしましたし、残念な部分がなかったわけではありませんでしたが、全体としてはとても真っ直ぐ気持ちに入ってくる作品だったと思います。

 

最後、美佐子が制作した音声ガイド付きの映画の試写が行われます。最初の一声を聞いた時にすぐに誰だか分かるその声の主のナレーションの力量と画面に映る藤竜也の迫力ある演技もあり、心震わされました。珠玉のラストと言っていいのではないでしょうか。

 

是非、映画館で観ておくべき作品だと思います。

 

 

公式サイト

http://hikari-movie.com/info/