ネイサンは、他の人との意思の疎通が苦手で、自閉症スペクトラムと診断されます。父が事故で亡くなり、幼い頃から母、ジュリーとの2人での生活となりますが、ジュリーは、母親とも心を通わせることがネイサンとの生活に寂しさを感じていました。けれど、ネイサンは数学に関しては突出した才能の持ち主で、ジュリーは、高校の数学教師、ハンフリーズに指導を依頼します。やがて、数学オリンピックのイギリス代表の候補となり、台湾での合宿に参加。そこで、中国代表候補のチャン・メイと出会い...。

コミュニケーションの苦手さ故に周囲を戸惑わせるネイサン、自身の病と折り合いを付けられず孤立するハンフリーズ。ネイサンの数学オリンピック挑戦を通じて、ネイサンもハンフリーズも成長していきます。

台湾での合宿で、ネイサンのライバルとなるルーク。"自閉症だけど数学の才能があるから存在に価値がある"と感じている彼は、数学の能力に縋っています。周囲にそのつもりはなかったかもしれません。けれど、"障害はあるけれど"という枕詞を付けて才能を誉めることは、時として、"才能がなければ存在価値のない者"というメッセージを伝えてしまうのかもしれません。多くの"普通の人"が特に優れた能力がなくとも生きる価値を持つように、障害や病気があっても存在価値はあのですから...。

オリンピックでよい成績を残すことよりも大切なことを知ったネイサン。ずっと"頭がよくない"と馬鹿にしていた母、ジュリーからその"一番大切なこと"を教えられたというのも大きなポイントかもしれません。

ネイサンもチャン・メイも数学オリンピックでの成績よりも大切なものを得て、ジュリーも息子と関係を築け、ハンフリーズも自身の人生を取り戻す。そこに至るまでのそれぞれの過程をシンクロさせながら丁寧に描いていて、深みのある物語になっています。丁寧に張り巡らされた伏線も、きちん回収される隅々まで行き届いた作りになっていて、作品の世界に浸れました。

ユーモアも散りばめられて深刻になり過ぎず、地味ですが見応えのある作品でした。あちこちに登場する数学の問題は、何を問われているかも分からないレベルでしたが、それは気にする必要のないところでしょう。

観ておいて損はないと思います。


公式サイト
http://bokutosekai.com/info/