観光客の姿もまばらな温泉街にある田沼旅館。1912年創業の100年の歴史を持つ老舗旅館ですが、今は満室になることもありません。そんな田沼旅館に、1人の女性記者が宿泊します。彼女は、田沼旅館の存在を人々に知らせて人気旅館にしたいと願っていましたが、旅館の宿泊客は、会社の債務を生命保険で返済をしようと考える社長、元妻の再婚を前に彼女が引き取ることになる息子と親子として最後の旅行をする父親、小説家と偽って時効成立まで宿泊し続けようと考えている犯罪者など、訳ありなお客ばかり。旅館も、借金の返済のために売られようとしていて...。

 

創業100年となれば、立派に歴史ある旅館と言えるレベルですが、旅館の佇まいや調度品などにその重みが感じられません。100年の歴史がある旅館というよりは、古びて安っぽい感じの場末感が強く、女性記者の思い入れもよく分かりませんでした。

 

"奇跡"の描き方は面白かったです。よくある温泉旅館の楽しみが、いつの間にか、大きなことになり、しかも、そこに奇跡が起こると予測しながら観ていたら、他に持っていかれるという展開。"他に持っていかれる"部分については、分かりやすい前振りがあって意外性が薄れてしまったのは残念でしたが、この展開自体は面白かったと思います。

 

ただ、それにしても、時効を目前に控えた男性の行動もあまりにヘン。UFOキャッチャー依存症だとか、あの中にどうしても必要なものが入っていたとか、よりによってあの時あの位置でUFOキャッチャーをした理由について、それなりの理屈をつけて欲しかった気がします。

 

まぁ、あれこれ理屈を捏ね回すまでもない軽いお笑いのコント映画ということなのかもしれませんが、それならそれで、"今は寂れているけれど老舗の旅館"などと無理せず、違和感のない設定にすればよかったわけで、笑いの要素を際立たせるためにも、物語の設定や舞台の作り込みなどはしっかりこだわって欲しかった気がします。

 

もっと面白く描けて良い物語だったと思うのですが、それだけに残念です。