ゼロの焦点

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松本清張の同名小説を映画化した作品。これまでにも1961年、1983年に映画になっています。かなり前に原作を読みました。


禎子は見合いで憲一と結婚します。結婚式の7日後、憲一は仕事の引継ぎで勤務地だった金沢に出掛けます。引継ぎを済ませ、住居を引き払い、一週間で東京に戻り、禎子と新婚生活を楽しむはずだった憲一ですが、そのまま行方が分からなくなってしまいます。夫の過去をほとんど知らない禎子は、憲一を探しに金沢へ向かいます。憲一が開拓した得意先の社長夫人、室田佐知子、その夫である社長のコネで入社した受付嬢、田沼久子。憲一の周辺に二人の女性がいたことがわかり、夫が自分に見せたのとは全く別の顔を持っていたことを知りますが...。


サスペンスですが、憲一の失踪の原因や殺人事件の推理や意外性を楽しむというよりは、禎子、佐知子、久子の三人の女たちの物語を味わう作品となっています。というより、恐らく、原作を読まずに本作を観ても、犯人が誰かを予測するのは、左程、難しくはないでしょう。


そして、彼女たちを翻弄する時代背景。終戦直後の荒廃した社会、その後の復興と経済発展。そうした激動の時代の中で、人生を傷つけられ、狂わされていく女たちと新しい時代に向かって花開かせていく女たち。


本作の中で最大の見せ場ともいえる佐知子の演説の場面。その演説に滲む明るい未来への期待。これまでは過酷だったけれど、今もまだ大変だけど、未来に向けて良い時代を築いていくのだという熱い思いには、胸を打たれます。果たして、現在、彼女が望んでいたような時代になっているのか...。


憲一と禎子の関係がしっかり描かれていないためかもしれませんが、禎子が憲一を失った悲しみよりも、佐知子と久子が背負わされた運命の酷さが心に残り、むしろ、演説する佐知子に向かって、佐知子が封印したかった過去の名を呼びかける禎子を非難したくなったくらいです。この佐知子役の中谷美紀が見事な存在感を示しています。そして、久子役の木村多江が印象的です。佐知子の登場する中盤から作品がグッと引き締まり、佐知子と久子の"対決"が時代の波に揉まれ翻弄された者の哀しさを見せてくれていました。


残念なことに、この二人に比べると、一応、主役であるはずの禎子を演じた広末涼子が弱い。広末涼子によるナレーションがなければ、主役が広末涼子だとは思わなかったかもしれません。大体、久子が禎子より魅力的で、久子より禎子を選ぼうとした憲一に共感できないし...。このナレーションが、説明過剰なのも気に掛かりました。声の雰囲気が幼い感じで、作品の雰囲気とは合わず、集中力をそがれました。全体の雰囲気を重く暗くし過ぎないようにするための工夫だったのかもしれませんが、そのために、何だか中途半端な感じの作品になってしまった気がします。


エンドロールで流れる中島みゆきの「愛だけを残せ」も耳に残りました。ここでさらに、広末涼子の影が薄くなってしまったのを感じました。


時代をしっかりと感じさせてくれる背景や様々な小道具類は、実に見事。その辺り丁寧に作られていたと思います。


悪くないのですが、やはり、主役の存在感が薄い...というのは、残念。中心が弱いと、作品の印象がぼやけてしまいます。そうタイトルの「ゼロの焦点」の意味の説明もなかったし...。推理の部分が最大のポイントになるべき作品ではないのですが、それにしても、その部分を端折り過ぎでしたし...。禎子が、急に超人的な能力を発揮してあそこまで推理するなんてあり得なさ過ぎ!


映像は綺麗なので、観るなら映画館の大きなスクリーンで観た方が楽しめると思いますが、あまり期待して観るとガッカリするかもしれません。



公式HP

http://zero-focus.jp/



ゼロの焦点@映画生活

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