南極料理人

テーマ:

海上保安庁の料理人で、南極に派遣された西村淳氏のエッセイ「面白南極料理人」シリーズ。その西村氏の体験を映画化した作品です。「面白南極料理人」シリーズのうち、「笑う食卓」は以前、読んだことがあり、当ブログでも感想 をアップしています。


海上保安庁の料理担当である西村は、思いがけず、南極ドームふじ基地に派遣されます。ペンギンやアザラシはおろか、ウィルスでさえ生存できない極寒の地。食べることが最大の楽しみとなるような環境の中、観測隊員たちのために西村は、数々の工夫を凝らしながら、料理を提供していましたが...。


公開は8月22日とのことですが、8月8日から先行ロードショーが行われているテアトル新宿で観てきました。


極地での生活の厳しさも示唆されはしますが、どちらかというと軽く流される感じで、あまり深刻には描かれません。まぁ、これまで、それなりの期間、人間が生活し続けてきた場所ですし、様々な技術により支えられ、工夫が凝らされていて、意外に、普通の生活が成り立つのかもしれませんし、「大変さ」の部分を強調しないことが本作の良い面を生んでもいるのでしょう。


西村を演じた堺雅人の飄々とした感じが、本作のちょっととぼけたほんのりと暖かい雰囲気にピッタリ。


多くの人が普通に地球上のどこにでもでかけけられる時代になった今でもなお、ごく限られた人しか行けない場所。そして、滅多なことでは、そこに滞在する人以外の生き物に出会えることもない場所。わずかに8人の人間だけで1年を過ごすというごく限られた狭い人間関係の中での生活。


そんな中で、「食べる」ということが、いかに重要なことになるか。飽食の時代の今、私たちにとって、食べるという行為が、単に生存のためだけのものでも、肉体のためだけのものではなく、いかに精神的にも大きな意味を持つものとなっているか...。越冬隊員の個性的な面々の豪快な食べっぷりも見応えありました。


本作に登場する料理の数々は、当たり前の地味なものもあり、とても南極とは思えないほどの豪華なものあり...。隊員たちの意地から生まれた笑ってしまうような一品あり、究極の"手作り"あり...。オーストラリアで仕入れる食材も結構あったりして、日本では高価な食材も意外に安く買えるのだとか...。


そして、節分の豆まき、誕生パーティー...。日本での日常の中では、働き盛りのオジサンたちにとって、必ずしも大きな楽しみとなるものではないでしょう。むしろ、家族との関係の中で、面倒臭く思えるものかもしれません。それが、大切なイベントとなる。失ってみて初めて分かる当たり前の日常の有り難さが実感させられます。そして、笑いが溢れる場面の中に見られる"周囲と隔絶された世界に生きる辛さ"。たった8人の集団。それも、"仲良しグループ"ではなく、たまたま、仕事の関係で一緒になっただけの赤の他人同士。昭和基地までは1000km。それも、雪と氷に覆われ、時としてブリザードが吹き荒れる1000km。それで1年という月日を耐えるのは、ただ事ではありません。作中にも"拘禁反応"状態になった隊員の姿が登場しますが、時には思いっきりはしゃがなければやっていられないものなのでしょう。


イヤ...それにしても、楽しそうな様子を見ていると...、これは、"わずか1年"の短い期間とはいえ、煩い子どもと妻から完全に逃れることができた幸運を描いたオジサンの究極のファンタジー...にも思えてきます。


暑い日々が続く今、雪景色が一面に広がる映像が、ちょっと心地よく、マイナス70度の世界に生み出されるホッと温かい食卓の風景に心が和みました。


細かいところまでよく作り込まれていて、思っていたよりも楽しめました。最初はいかにも男性料理人といった前掛け姿で調理していた西村が、最後の方では割烹着姿になっていたところも印象的。"男性の料理担当職員"から"朝ごはんを作るお母さん役"になったのでしょうお。8人で過ごす中で培われたものが窺われる場面でした。


シリアスな冒頭。登場時間はごく短いもののしっかりとした存在感を出す嶋田久作。クスッとした笑い、爆笑、ホロリと泣かされる南極での場面。ちょっと手厳しいクールな西村の娘。そして、ある"約束"が果たされるエンドロールの映像。最初から最後まで楽しめます。


なかなかお勧めです。



公式HP

http://nankyoku-ryori.com/



南極料理人@映画生活

AD