ヒトラーの贋札

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第二次世界大戦中のドイツ。ユダヤ人強制収容所の一画に各地から集められたユダヤ人の職人たちが働かされている秘密工場がありました。パスポートや紙幣の偽造の罪で逮捕されたサリーも、ユダヤ人であったため強制収容所に送り込まれますが、そこから、この工場に移送されます。そこでは、かつて、サリーを逮捕したヘルツォークが、大量の贋ポンド紙幣をばら撒いて敵国であるイギリスの経済を混乱させようとした「ベルンハイト作戦」の指揮をしていたのです。作戦が成功すれば、ナチスの力の強化に与すること隣、同胞を裏切ることになりますが、作戦を成功させなければ、自分たちを死に追いやることになります。ナチスに協力するか、作戦の成功を阻止すべきか...。仲間内でも考え方は必ずしも一枚岩とはならず...。


サリーとブルガーの対決には、鬼気迫るものがあります。生き抜くことこそが正義と考えるサリーとナチスに協力しないことこそが正義と考えるブルガー。


秘密工場のメンバーは他の一般のユダヤ人被収容者に較べて破格の厚遇を受けていますが、秘密工場を囲む塀の外では、日々、些細な理由でユダヤ人たちが殺されていく様子は、工場の中にも伝わってきます。塀一枚隔てた場所で同胞が次々殺されていく中、自分たちの受けている待遇を素直に喜ぶことはできません。


そうした現実は、自分が生き残ることに必死だったサリーの心も変化させていきます。一見、自分の命を繋ぐためだけに贋作作りに精を出したかに見えるサリーですが、ブルガーの言動に危険を感じた仲間たちがブルガーを密告しようとするのを止めます。


結局、ブルガーが贋作製造を遅らせたためにナチスは勢力を盛り返すことができず、サリーが贋作製造を成功させたために開放されるまでの時間を持ちこたえることができたわけで、双方の力があってこそ"贋作製造チーム"の面々は生き延びたという形に収まっています。その後、ユダヤ人被収容者たちが収容所を占拠した際に、自分たちと違い血色も良く清潔で良い身なりをしていた秘密工場の面々を「ナチス協力者」として断罪しようとした際、ブルガーは「自分たちは贋札製造を遅らせてナチスに抵抗した」のだと主張し、最終的には、その主張が彼らを救います。


二人の対決に真正面から決着をつけるというのではなく、ナチスの敗退による"時間切れ引き分け"という終わり方になっています。


この辺り、「自分だったら、どちらの立場を取るか」と考えさせられるところではあります。実際、こうした場に置かれたら、何とか生き延びる道を選ばざるを得ないとは思いますが...。確かに、敵に協力させられるのは面白くない。けれど、それより、自分の命と目前にいる仲間の命を取らざるを得ないのではないか?


そして、実際には、ベルンハルト作戦の失敗の原因は技術的な問題にあったというのが通説のようですね。そして、秘密工場の面々を救い出したのは、収容所を占拠したユダヤ人たちではなく、連合軍だったのだとか。本作は、ブルガーがベルンハルト作戦について書いた本を下書きにしているそうですから、その言動が美化されるのはやむを得ないところなのかもしれませんが...。


けれど、むしろ、「敵を利することを分かっていても自分や身近な仲間の命を守るために敵に協力せざるを得ない苦悩」にポイントを絞って描いた方が、彼らの本当の苦しみは伝わってきたのではないかと思います。ブルガーの正義感に溢れた言動が入れられたために、彼らの苦悩の部分がやや薄まってしまったような気もします。やはり、実際に起こった出来事を描いた作品。史実に忠実に作ったほうが、説得力のある作品に仕上がったのではないでしょうか。


実話に基づいた作品には、全くのフィクションにはない迫力を感じることが多いのですが、史実の一部を改変するとどうもチグハグな印象を受けてしまうことが多いのは、やはり、実話の持つ力なのかもしれませんね。事実を超える創作というのは、かなり難しいものなのかもしれません。



公式HP

http://www.nise-satsu.com/



ヒトラーの贋札@映画生活

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