麦の穂をゆらす風

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北アイルランド紛争に関連した数々のテロ事件。その中心的な存在だったのが、本作でも取り上げられているIRAです。そして、IRAが段階的な武装解除を表明したのが、2000年5月で、武装闘争の終結が宣言されたのは、2005年7月28日。1年と少し前のことでしかないのです。私自身、リアルタイムで、IRAが関連した爆弾テロのニュースを新聞で読んだ記憶があります。


その血を血で洗う激しい闘争の始まりが描かれています。


必死の戦いの末に勝ち取った一応の独立。けれど、それは、戦いの終結ではなく、より酷い、かつて一緒に戦った仲間同士が血を流し合う戦いの始まりでした。徹底的に差別され搾取され、その悲惨さから自分の国を、同郷の人々を救おうと始めた戦い。辛く激しい戦いを、深い信頼で結ばれた仲間たちと共に、最後まで戦い抜いた。そして、それに一応の勝利を収めたのに、その後には、同士との戦いに突入していってしまう...。


やりきれない想いがします。新しく始まった戦いは、辛い時期に命をかけて助け合った仲間との戦い。かつての友人、幼馴染、そして、兄弟、家族...。殺戮が繰り返されるごとに止められなくなる戦い。報復が報復を呼び、憎しみが憎しみを生み出し、殺戮が連鎖する...。同じ家が、イギリス軍に襲撃を受け、アイルランド独立後には、アイルランドの軍隊の襲撃を受けています。そのアイルランドの軍隊の兵士となっていたうちの何人かは、かつて、その家で匿われた若者たちだったのに。


そのやりきれなさが見事に表現されています。


取り巻く状況の変化と共に変わっていく理想、より純化されることで先鋭化し寛容さを失っていく理想、そして、そこに掛けられる多くの命。


本作は、戦う者たちの善悪を論ずるのではなく、一方の立場に偏るのではなく、戦いというものの本質を描こうとしています。そして、絶望的な状況の中に生まれる一筋の希望を。


本作から、80年程が経過し、2000年にIRA(本作で描かれたIRAから派生した組織で、当初のものとは、性質が変わっていますが...)は武装解除を開始します。あまりに長い年月を必要としましたが、それでも、やはり、戦いを終わらせる可能性をそこに見出したいものだとも思うのです。


作中で歌われるレジスタンスに身を投じる青年の悲劇を歌ったアイルランドの名曲、「麦の穂をゆらす風」の歌詞と曲が心に沁みます。この歌とアイルランドの美しい風景の映像に、長い戦いに命を散らした多くの無名の人たちへの鎮魂の願いが込められているように思えました。




[以下、ネタバレあり]








本作の主人公は、医師となる道を捨てて兄と共にイギリスからの独立を求める戦いに身を投じる青年、デミアン。そのデミアンが、アイルランドの独立が認められた後、敵味方に別れ、最後には、デミアンは、兄たちに捕らえられ処刑されます。デミアンの銃殺刑の際、発砲の命令を下したのは、他ならぬ兄。


兄の命令により発砲された銃弾により弟は命を落とします。兄は、その後、涙を流し、弟の遺体を抱きしめます。その気持ちを持ちながらも、弟を死なせることになったことは、大きな悲劇です。けれど、その涙に、どんな状況になっても完全に消し去ることのできない兄弟の絆が見えるように、そして、人への希望が感じられるようにも思えました。


底の見えない悲劇の奥に、それでも、僅かに射し込む希望の光。その一筋の光を信じる気にさせてくれるような作品でした。



IRAについては、

http://ja.wikipedia.org/wiki/IRA



公式HP

http://www.muginoho.jp/



麦の穂をゆらす風@映画生活

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