ユナイテッド93

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「画面が揺れる」という評判は聞いていたのですが、本当に揺れていました。ただ、覚悟していったせいか、予想していたよりは不安定な感じがな薄く、観やすいように思えました。


もう、10年ほど前のことですが、こんな経験があります。乗る予定の飛行機まで、時間にかなり余裕があったのですが、チェックインして荷物を預けて身軽になってお土産を見たり、カフェなどでゆっくりしようと空港に行きました。空港会社のカウンターでチェックインしようとしたら、「これからすぐ出発する便に空席があるのだけど変更しませんか?」とのこと。まぁ、早く帰れることは嬉しかったので、変更することにしました。もう出発の直前で、荷物は全部機内に持ち込み。「走ってください」と言われ、荷物を抱えて(一部は係りの人が持ってくれましたが)飛行機まで走って飛び乗りました。同行者と「これで、乗った飛行機が事故ったりしたら最悪だよね」などと言いながら...。で、普通に無事に帰ってきたわけです。


人の運など、わからないもので、ちょっとしたことが、大きく人生を変えたりします。飛行機でなくとも、公共の交通機関が大きな事故を起こすことはあるわけですが、ささいなことでギリギリ間に合ってしまったために事故に遭遇したり、偶然、乗り過ごしてしまったために助かったり...。


本作でも、「運よくギリギリで間に合った」乗客が登場しますが、その「幸運」によって、その後、自分の身に大きな「悲劇」がもたらされることになります。そして、おそらくは、何らかの理由で、「運悪く」搭乗予定だったユナイテッド93便に乗れなかったために、大惨事に巻き込まれずに済んだ人もいたことでしょう。


小さな偶然によって大きく左右される人の運命の小ささを思わされます。そして、同時に、極限の状況の中で、最悪の事態を何とか回避しようと努力した人々の姿に、宿命と戦おうとする人間の力強さを知らされます。


映像を観ている私たちは、当然、この飛行機に乗り込む人々が誰一人助からないことを知っているわけで、その目には、平和な日常にいて悲劇との遭遇を目前にしている人々の姿が痛々しかったです。


冒頭の場面、飛行機に乗り込む乗員、乗客、そして、犯人たちの姿が映されます。犯人たちは、この飛行機が無事に着陸することはないと知っていて、その表情には悲壮感も漂います。けれど、他の乗員・乗客たちは、無事に目的地に着けることが当たり前のごくごく日常的な移動に過ぎません。一定の時間が過ぎれば、家族や友人や取引相手に会ったり、予定されていたスケジュールをこなさなければならなかったり...。ことさら、特別な行為だと思っていなかったに違いありません。そして、当然、何の覚悟もなく、普通に当たり前に飛行機に乗ったはず。犯人たちと乗員、乗客たちの表情が対照的でした。


相当に綿密な取材が重ねられ作られた映画だと聞きましたが、細部まで丁寧に作りこまれ、画面には緊迫感がみなぎり、乗客たちの体験が強く胸に迫ってきます。もちろん、実際にその場面を体験した生存者がいない以上、フィクションの部分も多いのでしょうけれど、「ドキュメンタリー」と言われても頷きたくなるくらい真に迫った映像のように思えました。

それにしても、哀しいのは、犯人側も、被害者である乗員・乗客側の必至になって神に祈りを捧げる姿。犯人たちにとって、この”テロ行為”は神の名の下に行われる聖戦であり、自分の命を神に捧げる行為なわけです。乗客たちを統制できなくなり、任務の遂行が危ぶまれる状況の中、神に向けられた祈りの言葉が耳に残ります。そして、乗員・乗客たちが救いを求めて祈りを捧げる相手も神。そして、この「イスラムの神」と「キリスト教の神」は同じ神なわけで...。


そこに、この”テロ”の問題の根深さもあるのでしょう。


犯人も家族への電話で愛を告げ、神に祈る。被害者たちも最期を悟って家族へ愛と別れを告げ、神に祈る。「同じ人間」が「同じ神」を心に抱きながら、敵対する...。


そのやり切れなさと、必死になって自分たちが巻き込まれた状況を少しでも改善しようとする乗客たちの努力する姿に見えてくる希望と...。複雑な思いの残る作品です。「9.11」以降、見えない敵との戦いに恐怖心が駆られ、縮みきっているように見えるアメリカ社会ですが、テロリスト側を一方的に悪として描く形になっていなかったことが、アメリカ社会に残る健全さを表しているようにも思えました。そして、闘う乗客たちを「飛行機を目標物の手前に落下させた英雄」としてではなく、「自分たちが生き延びるために機体を上昇させようと最後まで頑張った人々」として描いている点も評価したいです。


報復の応酬から抜け出し、平和への道を歩みだすことができるのか...。本作は、平和への道の険しさを描きつつも、戦いの哀しさを示し、平和への希望を示す一縷の光のようにも思えます。




公式HP

http://www.united93.jp/top.html




ユナイテッド93@映画生活
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