2006-09-15 00:05:13

ユナイテッド93

テーマ:映画

「画面が揺れる」という評判は聞いていたのですが、本当に揺れていました。ただ、覚悟していったせいか、予想していたよりは不安定な感じがな薄く、観やすいように思えました。


もう、10年ほど前のことですが、こんな経験があります。乗る予定の飛行機まで、時間にかなり余裕があったのですが、チェックインして荷物を預けて身軽になってお土産を見たり、カフェなどでゆっくりしようと空港に行きました。空港会社のカウンターでチェックインしようとしたら、「これからすぐ出発する便に空席があるのだけど変更しませんか?」とのこと。まぁ、早く帰れることは嬉しかったので、変更することにしました。もう出発の直前で、荷物は全部機内に持ち込み。「走ってください」と言われ、荷物を抱えて(一部は係りの人が持ってくれましたが)飛行機まで走って飛び乗りました。同行者と「これで、乗った飛行機が事故ったりしたら最悪だよね」などと言いながら...。で、普通に無事に帰ってきたわけです。


人の運など、わからないもので、ちょっとしたことが、大きく人生を変えたりします。飛行機でなくとも、公共の交通機関が大きな事故を起こすことはあるわけですが、ささいなことでギリギリ間に合ってしまったために事故に遭遇したり、偶然、乗り過ごしてしまったために助かったり...。


本作でも、「運よくギリギリで間に合った」乗客が登場しますが、その「幸運」によって、その後、自分の身に大きな「悲劇」がもたらされることになります。そして、おそらくは、何らかの理由で、「運悪く」搭乗予定だったユナイテッド93便に乗れなかったために、大惨事に巻き込まれずに済んだ人もいたことでしょう。


小さな偶然によって大きく左右される人の運命の小ささを思わされます。そして、同時に、極限の状況の中で、最悪の事態を何とか回避しようと努力した人々の姿に、宿命と戦おうとする人間の力強さを知らされます。


映像を観ている私たちは、当然、この飛行機に乗り込む人々が誰一人助からないことを知っているわけで、その目には、平和な日常にいて悲劇との遭遇を目前にしている人々の姿が痛々しかったです。


冒頭の場面、飛行機に乗り込む乗員、乗客、そして、犯人たちの姿が映されます。犯人たちは、この飛行機が無事に着陸することはないと知っていて、その表情には悲壮感も漂います。けれど、他の乗員・乗客たちは、無事に目的地に着けることが当たり前のごくごく日常的な移動に過ぎません。一定の時間が過ぎれば、家族や友人や取引相手に会ったり、予定されていたスケジュールをこなさなければならなかったり...。ことさら、特別な行為だと思っていなかったに違いありません。そして、当然、何の覚悟もなく、普通に当たり前に飛行機に乗ったはず。犯人たちと乗員、乗客たちの表情が対照的でした。


相当に綿密な取材が重ねられ作られた映画だと聞きましたが、細部まで丁寧に作りこまれ、画面には緊迫感がみなぎり、乗客たちの体験が強く胸に迫ってきます。もちろん、実際にその場面を体験した生存者がいない以上、フィクションの部分も多いのでしょうけれど、「ドキュメンタリー」と言われても頷きたくなるくらい真に迫った映像のように思えました。

それにしても、哀しいのは、犯人側も、被害者である乗員・乗客側の必至になって神に祈りを捧げる姿。犯人たちにとって、この”テロ行為”は神の名の下に行われる聖戦であり、自分の命を神に捧げる行為なわけです。乗客たちを統制できなくなり、任務の遂行が危ぶまれる状況の中、神に向けられた祈りの言葉が耳に残ります。そして、乗員・乗客たちが救いを求めて祈りを捧げる相手も神。そして、この「イスラムの神」と「キリスト教の神」は同じ神なわけで...。


そこに、この”テロ”の問題の根深さもあるのでしょう。


犯人も家族への電話で愛を告げ、神に祈る。被害者たちも最期を悟って家族へ愛と別れを告げ、神に祈る。「同じ人間」が「同じ神」を心に抱きながら、敵対する...。


そのやり切れなさと、必死になって自分たちが巻き込まれた状況を少しでも改善しようとする乗客たちの努力する姿に見えてくる希望と...。複雑な思いの残る作品です。「9.11」以降、見えない敵との戦いに恐怖心が駆られ、縮みきっているように見えるアメリカ社会ですが、テロリスト側を一方的に悪として描く形になっていなかったことが、アメリカ社会に残る健全さを表しているようにも思えました。そして、闘う乗客たちを「飛行機を目標物の手前に落下させた英雄」としてではなく、「自分たちが生き延びるために機体を上昇させようと最後まで頑張った人々」として描いている点も評価したいです。


報復の応酬から抜け出し、平和への道を歩みだすことができるのか...。本作は、平和への道の険しさを描きつつも、戦いの哀しさを示し、平和への希望を示す一縷の光のようにも思えます。




公式HP

http://www.united93.jp/top.html




ユナイテッド93@映画生活

コメント

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1 ■多くの人に観て欲しい一本です

こんにちは。
コメントとトラックバックを失礼致します。

現実的に描いたこの作品は、心に強く迫る仕上りであり、9.11事件を起こすに至った歴史や背景をもっと考えるきっかけとなる、一本であったと思います。

また遊びに来させて頂きます。
ではまた。

2 ■>たろ様

コメント&TBありがとうございます。

安易に一方をヒーローに仕立て上げるような作りになっていなかったところが良かったと思います。国と国が争う時、そのために命を賭けるのは、敵も味方もトップではなく、一般の人々なんですよね...。

3 ■TBどうもデス

ちちみあがっているアメリカ社会、というのはどうかな?
確かに一般の人たちは「羊達の沈黙」ですけどこの映画でもテロはハイジャック演習中か゜狙われ、通常より防空網が弱くなっていた点が地味に描写されていました。
JFKもそうでしたが911ではさらにエスカレートしたアメリカの恐ろしさをまざまざと見せ付けられましたね。
この映画の監督はその正体に気づいていたからこそ両者の祈るシーンを描いたのだと思います。

4 ■こんばんは

この映画は私にはちょっと生過ぎて、客観的に観る事は出来なかったのですが、良い意味で期待を裏切ってくれました。
迷いましたが観てよかったです。
この映画によって一人でも多くの人が、自分の中の9.11を考えることを願います。

5 ■TB、有り難う御座いました。

こんにちわ!当方もTBさせて頂きました。
この作品、映画としてはとても真面目に丁寧に
作られていて見応えありました。
変な話ですが願わくばこれが真実である事を、、。

今後とも宜しく御願い致します。

6 ■>kuro様

こちらこそ、ありがとうございます。

「9.11」以降、アメリカ社会が縮み上がっているかどうか、については、見方が分かれるところかもしれませんね。

恐らくは、史上最大の直接的な攻撃を受けたアメリカが、”テロ”という見えにくい相手に相当の恐怖を感じていることは確かだと思います。やはり、テロを起こされ、つい先日もテロ未遂事件があったイギリスの対応と較べても「恐怖心に駆られている」印象を受けました。

「9.11」から5年を経て、陰謀説も浮上しているようですね。事件が起こり、多数の死傷者が出たことは事実。その事件を利用してアメリカが戦争を仕掛けたのも事実。けれど...。

何が真実かを見極めることは難しいですね。

7 ■>ノラネコ様

コメントありがとうございます。

どこまで真実が映し出されているかはわからない部分もありますが、リアリティを感じる映像だったと思います。

多くの人がなくなり、それ以上に多くの人が「遺された」わけですよね。直接の関係がなかった者にとっては「あっという間」だったかもしれないけれど、遺族や関係者にとっては、まだまだ生々しい出来事なのだと思います。この時期の製作に賛同できた遺族の方々の勇気に脱帽です。

8 ■>cocos 様

こちらこそ、ありがとうございます。

本当に見応えありました。
隠された陰謀や捻じ曲げられた真実などなく、この作品が事実なのだとしたら、本当にその方がいいですよね。

9 ■「ユナイテッド93」

書き込み及びトラックバック有難うございました。

人間の運命なんて本当に紙一重の所は在りますよね。同じ会社の人間でたまたま仕事が速く切り上がった為に、予定よりも一便早い飛行機で北海道から帰京した所、ハイジャックに巻き込まれてしまった人がいました。幸いにも直ぐ無事に解決したのですが、別の人は逆に何時もよりも遅い時間に家を出た事で、地下鉄サリン事件に巻き込まれました。こちらも、目がチカチカする症状は出たものの、今では元気になっていますので良かったのですが。

神様って言うとどうしても善意の存在と思ってしまいがちですが、良く良く考えればシバ神なんていうのは破壊の神様ですし、ローマ神話にも悪い意味で人間臭い神様が結構登場しますよね。そもそも、宗教は人間が作り上げたものですから、自分達に都合の良い教えになっている面は在り、それは他者(その宗教を信じていない者)に対しては暴力的&威圧的なものになる事は在るのでしょう。御指摘の通り、キリスト教もその名の下に多くの異教徒を殺害していますしね。

これからも何卒宜しく御願い致します。

10 ■TBありがとうございました

こんにちは♪
私も犯人乗客双方がそれぞれの神に祈りを捧げる所がとても印象に残っています。
元はといえばどちらも同じ神なのに・・。
一神教の世界は、私たち多神教のものから見ると恐ろしいです。

11 ■>giants-55様

コメントありがとうございます。

地下鉄サリンも、オウムというカルトな宗教が起こした事件でしたね。私の家族にも、たまたま、いつもの電車に乗れなかったために、被害にあわなくてすんだ者がいます。乗れなかったその時は、運の悪さを呪ったはずなのに、結局は、その「不運」に感謝することになりました。

日本は、「八百万の神」の国で、他の宗教にも寛容(というかいい加減)ですが、特に、一神教の、生活のすべてに宗教の戒律が絡んでくるような国では、神様に人の生き死にを決定する力があるのでしょうね。宗教の枠を超えて平和に向けて力を尽くそうという動きもなくはないようですが...。

12 ■>ミチ様

コメントありがとうございます。

同じ神に祈りを捧げながら、命の遣り取りをしている構図がやり切れないですね。私たちからすると、「神様なんかより自分の命が大切」という感じなのですが、彼らにしたら、自分の生き死になんかよりずっと神に従うことが大切なのでしょうから...。

13 ■人間の悲しさ

TB・コメントありがとうございます。
日本人の我々が考える神とは意味合いがちがうのかもしれませんね。
宗教対立、民族対立、こういったもののために人間の命が消えてしまうのはやりきれません。

14 ■>傷だらけの天使様

多神教の国と一神教の国では、基本的に神に対する向き合い方が違うのでしょうね。

まぁ、日本もそう遠くない昔に「天皇のため」に命を落とすことが奨励された時代を経験しているわけですが...。

人類の歴史は戦争の歴史とも言われる中、平和を維持するというのは、難しいことなのだと思います。それでも、何はともあれ、日本は、60年にわたって、直接、戦闘に参加をしないわけで、世界的には、相当、稀有な国になっているわけですが....。

15 ■こんばんは

実際の話を知らなかったので、ラストは衝撃でした。
難しい話をはらんでいて、その辺りも含め旨く映画にしたなと感心しました。

TBありがとうございました。

16 ■>trichoptera様

こちらこそ、ありがとうございます。

ラスト、乗客たちがコックピットに入った場面の真偽については議論もあるようですね。犯人側も乗員・乗客側も生存者がいない以上、本当のところはわからないのでしょう。

ところどころに、テロの背景にあるもの、アメリカ政府の対応の拙さなどを匂わせる場面が出てきて、その辺りの描写のバランスが見事だったと思います。

17 ■TB&コメントありがとうございました

ホントにそうですね・・・ 「同じ神」なのに・・・
その理屈が理解できなかったとしても、
なぜ自分たちと違うことを受け入れられないのでしょうか?
受け入れがたいことでも容認するのが人間なのに…
悲しいことです。

18 ■>maru♪様

こちらこそ、ありがとうございます。

自分たちが奉ずる神に違う(間違った)方法や解釈でアプローチする異教徒は、自分たちのやり方こそが正しいと思っている人々にとっては、「同じ人間」というより、悪魔に近い存在なのでしょうね。本当に難しい問題だと思います。

19 ■はじめまして

TBありがとうございました。この映画、すごかったですね。映画というもののひとつの大きな役割を体現した映画だと思いました。犯人役で出た俳優さんたちのリスクや危険も相当なものだったのかもしれませんね。私も簡単な映画評など書いていますので、ぜひ遊びにいらしてください。またお邪魔します。

20 ■>matilda様

こちらこそ、ありがとうございます。

そうですね。映像の迫力というものを十分に感じさせてくれる作品でした。

これからも、どうぞ、よろしくお願いします。

21 ■トラバありがとうございます。

「小さな偶然によって大きく左右される人の運命の小ささ」・・確かにそうですよね。

日常というものがどんなにかけがえのないものなのか、思い知らされた気がします。
毎日をダラダラと無駄に過ごすなんてこと、絶対にしちゃいけませんね。

22 ■>♪稔兎♪様

こちらこそ、ありがとうございます。

毎日ダラダラ過ごしてはいけない・・・わかっちゃいるけど・・・といったところでしょうか。

すぐ次の瞬間に終わってしまうかもしれない日常なのだから、大切にしないといけないのですけど...。

23 ■終わりなき戦い

怖い映画でした。
でも現実です

何千年も続く、憎しみの報復。
簡単に収まる話ではないがそれぞれが赦しあうことが大事なんだと感じた

24 ■>Mar様

コメント&TBありがとうございます。

そうですね。怖いけれど、現実です。そういう現実があるのだと認めるところからしか始まらないものがあるのだと思います。

本当に難しいことですけれど、許しあう可能性を探り続けていかなければならないですね。

25 ■祈り

自分が今作を見たのは8月15日でしたが、その日、ある国の首相は「神」に祈っていたらしいです。
何を祈ったのか、何のために祈ったのか、「心の問題」なのでよくわかりません。

今作も、なぜいま作られたのか、頭が悪い自分には、よくわかりません。
中東の人たちを誤爆でぶっ殺しまくる映画が今作と同じ手法で作られる頃には、色々ななぜが解消できたらいいなと思いますが、さらに多くのなぜが生じる気もします。

こんな頭の悪そうなコメントで申し訳ありませんが、TBありがとうございました。

26 ■>にら様

こちらこそ、ありがとうございます。

今作が何故今か...。私は時期尚早という感じがしなくもありませんでした。けれど、「テロをやっつけろ!」一辺倒だったアメリカの世論が徐々に変わりつつある今だから、ようやく作れたのかなぁとも思います。

こうして、過ぎた出来事をきちんと振り返り、今後を考える。そういう材料を提供するのも映画の果たせる大きな役割の一つだとは思っています。

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  • 記事概要:レビューを更新しました。 これから、ちょくちょく前のBlogに書いていたレビューをUPしていきたいと思います。 見てみたい方は当HP↓からどうぞ。 Review→映画レビュー、から見れます
  • 68 ブログタイトル:ミーガと映画と… -Have a good movie-
  • 記事タイトル:≪ユナイテッド93≫
  • 記事概要:ユナイテッド93 ¥2,550 Amazon.co.jp (WOWOW@2007/09/11) 原題 UNITED 93 製作年度 2006年 上映時間 111分 監督 ポール・グリーングラス 出演 ハリド・アブダラ 、ポリー・アダムス 、オパル・アラディン 、ルイス・アルサマリ 、デヴィッド・
  • 69 ブログタイトル:シネマ通知表
  • 記事タイトル:ユナイテッド93
  • 記事概要:2006年製作のアメリカ・イギリス・フランス映画。 全米初登場2位、興行成績$31,483,450。 9.11アメリカ同時多発テロ事件において、唯一目標に到達せずに墜落したユナイテッド93便に焦点を当てた衝撃のドラマ。ポール・グリーングラス監督が、綿密な取材に基づき機内の様子
  • 70 ブログタイトル:☆彡映画鑑賞日記☆彡
  • 記事タイトル:ユナイテッド93
  • 記事概要: 『2001年9月11日 4機の旅客機が ハイジャックされた。 3機はターゲットに到達。 1機のみ到達せず。』  コチラの「ユナイテッド93」は、8/12公開になった9.11を初めて真正面から描いた映画として話題になった作品ですが、早速観て来ました。5年前に感じた衝撃を思い..
  • 71 ブログタイトル:cinema!cinema!~ミーハー映画・DVDレビュー
  • 記事タイトル:『ユナイテッド93』
  • 記事概要:なんとなくずっと観れずにいた『ユナイテッド93』をやっと鑑賞しました。9・11テロを題材にしたものとして比較するなら、個人的には『ワールド・トレード・センター』よりこちらの作品の方が好みかも。 2001年9月11日、アメリカ国内の空港を飛び立った旅客機4機が、ほぼ同
  • 72 ブログタイトル:Addict allcinema おすすめ映画レビュー
  • 記事タイトル:ユナイテッド93
  • 記事概要:2001年9月11日―― 4機の旅客機がハイジャックされた。 3機はターゲットに到達。 これは、その4機目の物語である。