トモシビ 銚子電鉄6.4kmの軌跡

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大正時代から関東の最東端を走り続けるローカル線、銚子電気鉄道にまつわる吉野翠の小説「トモシビ-銚子電鉄の小さな奇蹟-」を基にした作品。原作は未読です。

 

千葉県を走るローカル線、銚子電気鉄道を盛り上げるため、高校生の杏子は車両と高校生がリレーで競争する「銚子駅DEN」を思いつきます。大会直前にランナーが1人足りない事態に陥り...。 一方、地元の撮り鉄、熊神は写真を撮っているところで、ワケありな様子のキミエと出会い...。

 

映画初主演という杏子役の松野理咲を初め、演技経験の少ない出演者が多いようで、演技の固さは気になりました。脇には、ベテランも配され、その支えを受けながら頑張っているとは思うのですが、それでも気になるレベル。

 

物語は悪くないのですが、少数の高校生だけが、やけに張り切って浮いている感じで、クライマックスの地域を挙げての盛り上がりには唐突感がありますし、物語全体の背景となる銚子電気鉄道と地域の人々との繋がりの描き方も弱くて鉄道の愛され度が今一つ伝わってきません。

 

銚子の風景や古い車輌がゆったりと走る映像は美しかったのですが、本作を観て銚子に行ってみたくなるかというと、微妙なような...。

 

地域の人々の銚子電気鉄道への想いにもっとスポットを当て、鉄道を盛り上げるためのイベントに取り組む姿がもっと見えてくると、杏子の頑張りが、物語の中に自然に溶け込み、観る者もクライマックスに向けて気持ちを盛り上げることができたのではないかと思います。

 

銚子電気鉄道という素材は魅力的で、駅DENのアイディアが面白かっただけに残念でした。

 

 

公式サイト

http://tomoshibi-choshi.jp/

 

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Re:LIFE~リライフ~

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アカデミー賞を受賞したものの、その後、15年間鳴かず飛ばず状態の脚本家キースは、破産寸前で妻子にも逃げられるます。彼は、嫌々ながらも、収入を得るために郊外の大学のシナリオコースの講師を引き受けますが、意欲がわきません。しかし、子育てしながら復学したホリーたち、真剣な生徒たちの情熱に接し...。

 

キースを演じるヒュー・グラントのダメダメ振りが暗くなり過ぎず、程々に人生に悲哀を感じさせていて印象的です。どん底まで落ち、そこから様々な葛藤を乗り越えての再生という重いテーマが軽快に描かれていて、暗い気持ちにならずに観ることができました。

 

一度は成功した人が転落し、嫌々ながら全く違った環境に置かれ、そこでの新しい出会いや経験を通して再生の道を拓いていく...。という物語自体には特に目新しさもありませんし、そこにロマンスが絡められるのも常套手段。予定調和的になるようになっていく展開も、特別に面白いとは思えませんでしたが、それでも、安定の演技陣に支えられ、楽しめる映画作品になっています。

 

様々な映画作品が登場するのも嬉しいところ。オースティンの「エマ」のパロディ「クルーレス」とか、ロビン・ウイリアムズが教師を演じ「教科書なんか破り捨てろ」と教えた「いまを生きる」とか、「過去ばかりを振り返らずに前へすすめ」という「トワイライトゾーン」のセリフとか、「スターウォーズ」とか...。

 

他にも映画のことや文学作品のこと、映画監督や作家のことがあれこれと語られていて、映画に関心がある人の興味を引く要素が散りばめられています。

 

レンタルで十分かとは思いますが、観ておいて損はないと思います。

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作家、スティーヴン・エリオットの回想録を元にした作品。

 

幼少期に父親から虐待を受けた体験記を発表し、成功を収めた作家のスティーヴンは、死んでいるはずの父親が現れたことで信頼を失ってしまいます。一方、その頃、天才プログラマー、ハンス・ライザーが遺体が発見されないまま妻殺しで起訴された事件が話題になっていました。この事件に興味を持ち、起死回生の次回作のネタにしようと考えたスティーヴンは、初公判を傍聴するため裁判所を訪れます。そして、女性記者のラナと出会い、ともに事件を追うようになりますが...。

 

人の記憶は曖昧なもの。本作で描かれているほど、大きなものではなくても、多くの人は大なり小なり、記憶の曖昧さというものを感じたことはあるでしょう。同じ体験をした相手と思い出話をしていても、そこに様々な記憶の違いがあることが分かったりします。何気ない出来事においても、そんなことがあるワケで、大きな心の傷を負うような出来事であれば尚のこと。けれど、それにもかかわらず、意外に、自分の記憶について根拠なく自信を持ってしまったりするものです。

 

本作でも、その"記憶の曖昧さ"、"自身の記憶に対する絶対的な自信"といったものが描かれています。その視点は、それなりに面白かったのですが、作品全体としては今一つインパクトに欠ける感じがしました。

 

スティーヴンの記憶が書き換えられた原因も、心の傷というよりは、薬物が原因という部分が大きいような...。原題の「The Adderall Diaries」は「アデロール(服用者)の日記」("アデロール"は、注意欠陥多動性障害(ADHD)やナルコレプシーの治療に用いられる薬物。日本では覚醒剤に相当するという理由で使用が禁止されている。)なので、薬物が原因で記憶が書き換えられたという描き方で正解なのかもしれませんが、その辺りの描写が中途半端な感じもしました。まぁ、これは、邦題によるミスリードで、作品そのものの問題ではないのですが...。

 

ライザーの事件とスティーヴンの物語の絡みがちょっとギクシャクした感じで違和感ありました。

 

豪華出演陣で、演技という点では見応えのある作品となっています。特にスティーヴンのお父さんとして登場するエド・ハリスは、良い年齢の重ね方をしている感じで印象的でした。

 

けれど、"記憶を書き換えるほどの心の傷とそこからの回復"という面については描き方が薄く、今一つ、迫り切れていない感じがして残念でした。

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ボストン郊外で便利屋をしているリーは、兄のジョーが急死し、故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーに戻ります。ジョーの遺言には、16歳になる息子、パトリックの後見人としてリーが指名されていましたが...。

 

リーが何か深い傷を抱えていて、それが、彼の孤独な生活と関係していることは、早い段階から伝わってきます。そして、徐々に、それが何か明らかにされていきます。悪意があったワケではありません。けれど、許されることのない背負い切れない程の罪。

 

リーが、元妻のランディと街で偶然出会って立ち話するシーン。そのチャンスをリーにもたらすことこそが、ジョーがリーを後見人に指名した理由だったようにも思われます。

 

リーが傷を癒すハッピーエンドとはなりません。けれど、過去の傷から立ち直ることはできなくても、精一杯、パトリックに対する責任を果たそうとします。鍋を焦げ付かせた時、リーは、自分には後見人の任は重すぎることを自覚し、最善の道を選択したのだと受け取りました。

救いを求めているというより、罰せられることを求めていたように見受けられるリー。帰りたくなかった故郷に帰ることで罪と向き合えたなら、彼は一歩を踏み出せるはず。

 

それでも、リーは重荷を降ろすことはできないかもしれません。けれど、これまでとは少し違った生き方ができるようになるのでしょう。

 

それぞれの心情が丁寧に描かれ、無駄のない細部まで行き届いた描写が作品に深みを出しています。近しい人に死なれた時の悲しみの訪れ方も実にリアルで胸に迫ってきました。

 

暗く重いだけになりがちな内容ですが、パトリックの若さとチャラさがバランスよく織り込まれ、明るさが加えられています。そのチャラさの奥底に隠された痛みも描かれるのですが、その辺りのバランスも絶妙。

 

後から振り返って、あれがここに繋がるのかと納得させられる部分も多く、繰り返し観たくなります。

 

是非、観ておきたい作品だと思います。お勧めです。

 

 

公式サイト

http://manchesterbythesea.jp/

 

台北ストーリー

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1985年に公開された作品の4K修復版。当時、監督のために自宅を抵当に入れて制作費を捻出した主演のホウ・シャオシャエンが監修して修復作業を行っています。

 

台湾、台北に暮らし、家業の布地問屋を継いだアリョンと不動産業界で働くアジンは幼馴染で、今も付き合っています。ある日、アジンは、勤務先が買収されたことにより職を失ってしまいます。アジンは、アリョンに彼の義理の兄を頼ってアメリカに移住することを提案しますが、アリョンは家業や野球仲間のことが気にかかり踏ん切りがつきません。そんな中、アジンの父親が事業に失敗し...。

 

アリョンの眼差しは過去を向き、底なし沼のようなしがらみから脱出することができずに立ち止まっています。アジンは現在の場所を抜け出し未来へ向かおうとしながらも立ち竦んでいるように見受けられます。

 

2人の行く先を安易に絶望と決めつけることもできませんが、そう簡単に夢を追うこともできず、先の道のりは不透明で未来は混沌としています。

 

歩んでいた夢への道から不本意ながら脇道に入ってしまった者たちの悲哀のようなものが、台北という街の変化を捉えた映像に滲んでいます。

 

ラスト。アジンは明るい未来に向かい、アリョンは道を閉ざされたと見るのか、アジンは不安を抱えながら先を歩まざるを得ず、アリョンは苦難の道から逃れることができたと見るのか...。

 

簡単に幸不幸を決められない時代にあって、行く先不透明な未来に向かわざるを得ない私たちの不安がそこに映し出されているようにも思われます。

 

変わりゆく台北の街並み。その先は明るいのか、暗いのか...。公開から32年が経ち、今、私たちは、当時の"未来"にいるわけですが、その頃思い描いていた未来とは違うところにいる人が多いのではないかと...。

 

全体に描写が淡々としていて、正直、眠気を誘われる場面もありましたが、登場人物たちが浮き上がり過ぎず、台北という街の印象が強められ、先の不透明さ、行末への不安が前面に出て、作品としての味わいは深まったのではないかと思います。

 

観てよかったです。

 


公式サイト

http://taipei-story.com/

 

 

とうもろこしの島

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ジョージアとジョージアからの独立を求めるアブハジア自治共和国の間では1992年以降、争いが続いていました。そのジョージアとアブハジアの間を流れるエングリ川は、春の雪解けとともにコーカサス山脈から肥沃な土を運び、中州を作ります。両岸で敵同士がにらみ合い、銃弾が飛び交う中、今年も、アブハズ人の老人は孫娘をともなって、昔からの風習のとおり、中州に小舟で渡り、小屋を建てて、土を耕し、とうもろこしの種を蒔いて、苗を育てます。しかし戦闘が激しくなり、ある日、彼らはとうもろこし畑で傷を負った若いジョージア兵を発見し...。

 

静かな日常が営まれている中に、戦争が入り込んでくる様子が描かれます。生命を支えるための食糧を得るために、黙々と土地を耕し、種を蒔き、育て、収穫し...。

 

種だったとうもろこしはやがて実りの時を迎え、孫娘は少女から大人の女性になろうとしていて...。兵士たちが殺しあう傍らで人も植物も確実に成長をしていきます。

 

戦争という人間の愚かな行為と自然の中での地に足をつけた堅実な営み。声高に何かを主張するわけではありませんが、静かな映像の中に、殺しあうことの愚かさ無意味さと地道な営みの尊さが浮かび上がってきます。

 

ラスト。2人と同じように中州を耕す人物が登場します。それは、老人でもなく、娘でもありません。同じ営みが、受け継がれ、繰り返されていっているということなのでしょう。

 

悠久の時の中で、短い人の生を包み込む大自然の中で、私たちは、愚行と快挙を、戦いと平和を繰り返していくのかもしれません。

 

極限まで抑えられたセリフと抑制のきいた演技ですが、老人と娘の関係性、老人の娘に対する心配、娘の成長、年頃の娘ならではの老人への反発、"女"を武器にしつつ兵士を翻弄する若い娘の残酷さ...、登場人物たちの心の動きがしみじみと伝わってきます。繊細で静謐で、深い味わいを感じさせる作品です。

 

一度は観ておきたい作品です。そして、本作同様、ジョージアとアブハジアの争いをテーマにした映画作品「みかんの丘」も併せて観ることをお勧めします。できれば、本作を先に。その後、「みかんの丘」を。

断食芸人

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カフカの「断食芸人」をベースにした作品。原作は随分前ですが読んでいます。

 

寂れた商店街に1人の男(山本浩司)が現れ、片隅に座り込みます。男に興味を持った少年が男の写真をSNSに投稿すると、翌日から投稿を見た人々が男の周りに集まってきます。何の反応も示さず、虚空を見つめているだけの男の存在について人々はそれぞれに持論を展開し始め、いつしか男は「断食芸人」に仕立て上げられ...。

 

男は、本人の意思とは別のところで、「断食芸人」にされてしまいます。そして、男の"断食"という行為について、様々な人が、様々な立場からあれこれ意見を述べ、評価し、そこに何らかの意味を見つけようとします。

 

原作では、主人公の"断食"という芸に対する想い入れが描かれ、周囲の無理解に対する苦悩が描かれますが、本作では、主人公その人よりも、周囲の物語が描かれていきます。

 

そして、原発、過剰医療、アイヌ沖縄、天皇制...様々な問題が絡められます。勝手に解釈して勝手に納得したり、熱狂したかと思うとあっという間に忘れ去ったり、理解不能なものに接したときの"世間"と言われるものの反応があれこれ描かれていて、なかなか面白かったりはしましたが、整理されないままに色々と盛り込み過ぎた感じで、全体的に散漫な印象を受けました。

 

2日目でもう"断食"と決めつけたり、動画をアップしてすぐにマスコミが駆けつけるほどまで話題になったりといった展開は、あまりに拙速。長期間の断食にも関わらず、それ程、痩せ衰えることもなく、動けなくなることもないというのもあまりに嘘っぽいです。男自身の行動や断食に対する周囲の反応に不条理さを持たせるのであれば、男に世間が注目するまでの過程はリアルに描いた方が、物語の世界に入りやすいような気がするのですが...。

 

まぁ、私なぞも、こうして誰かが作った映画を観て、勝手なことをあれこれ書き連ねているわけで、作った側からすれば、あまりに浅薄で斜めな内容になってしまっていることもあるでしょう。

 

本当に理解することも、分かりあうことも難しいかもしれないけれど、あれこれ言うことを認め合い、それぞれが自分の頭で考え、自分の言葉で語ることで、少しずつ溝を埋めたり、共存する道を切り開いていくことが大切なのかもしれません。

 

映画として面白かったかというとかなり微妙ですが、色々と考えさせられる作品ではありましたし、今の私たちを取り巻く問題を切り取った物語にはなっていると思います。

ヒトラー 最後の代理人

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アウシュビッツ強制収容所の所長だったルドルフ・ヘスが、処刑される前、1947年2月に書いた手記をもとにした作品。

 

1946年、ポーランドの留置場で裁判を待つ、元アウシュビッツ強制収容所長のルドルフ・ヘス。なかなか取り調べが進まない中、若き検察官、アルバートが尋問を担当することになり...。

 

ヘスと彼を取り調べるアルバートのやり取りがほとんどの部分を占めています。

 

自身の行為について、「命令に従っただけ。命令には絶対に従わなければならないと教え込まれていて、疑問を持つことなど考えもしなかった。」と応えるヘスと、「本当に何も疑問に思わなかったのか?」と繰り返し迫るアルバート。

 

ヘスの答えは、はぐらかしているようでもあり、本心からアルバートに問いかけられていることが理解できていないようでもあり...。

 

バンナ・アーレントが、やはりナチスの戦犯であるアイヒマンの裁判を傍聴し、アイヒマンが極悪人ではなくごく普通の小心者であったことを指摘し、彼の悪行の原因としてその“完全なる無思想性”を挙げていますが、本作のヘスに、そのアイヒマンの姿が重なりました。2人とも、忠実に命令に従い、着実に実行する有能な官僚に過ぎなかったということなのかもしれません。

 

アルバートの質問にヘスが淡々と答えるだけで、それぞれの内面に踏み込めていない感じがして、全体に薄味で、歯痒さを感じました。

 

そもそも、尋問の担当者が、アルバートに代わったことで、何がどう変化したのかもよく分かりませんでしたし...。

 

この尋問が、2人にどのような影響を与えたのかを炙り出し、当たり前の役人たちが、独裁者を支え、冷酷な執行者となること、今、普通の人として生きている私たちに、ヘスになる可能性があることの恐ろしさに迫れていたら、見応えのある作品になったと思うのですが...。

 

題材が良かっただけに残念です。

メニルモンタン 2つの秋と3つの冬

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パリの東側に位置する街、メニルモンタン。ボルドーの美大を卒業したアルマンは定職にも就かず、親友のバンジャマンと冴えない毎日を過ごしていました。33歳の誕生日、アルマンは、「仕事をみつける。運動をはじめる。タバコをやめる。」と3つの決意をします。ある日、アルマンはジョギング中に偶然出会ったアメリに一目惚れし、ある事件をきっかけに急接近しますが...。

 

章立てになっていて、1章から9章まで進み、その後、8章、7章...1章と、全部で17章に分けられているのですが、その度に暗転し章の番号とタイトルが表示されます。90分の短い作品の中で17回もこれがあるのですから、かなりせわしない感じはします。

 

そして、登場人物たちが観る者に向かって語りかけてくるのですが、それが結構、ウザかったりします。

 

そこにある種の可笑しさというか、笑いが生まれてもいるのですが、この手法については、メリットよりまデメリットが大きかったと思います。

 

33歳までダラダラとモラトリアムしていた"ダメンズ"なアルマンですから、そう簡単に大人になれるわけもなく、その辺りは、リアルを感じましたが、だから何?という感じも強く、物語の面白さが感じられませんでした。

 

それでも、アルマンを演じたヴァンサン・マケーニュが、ちょっと気持ちの悪いオジサンのようで、写される角度によっては意外にイケメンだったりして、なかなかイイ味を出していたと思います。

 

もっと、ヴァンサン・マケーニュの味わいを前面に押し出しても良かったような...。