間奏曲はパリで

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フランス、ノルマンディーの片田舎。夫婦で畜産業を営むブリジット(イザベル・ユペール)とグザヴィエ(ジャン=ピエール・ダルッサン)は、息子が家を離れた後も仲良く暮らし、仕事も順調。けれど、ブリジットは実直だけれど無骨な夫との暮らしに満たされないものを感じていました。そんな頃、隣家に遊びに来たスタンと出会い、彼にパーティーに誘われ、密かにときめきます。ブリジットは、ほのかな期待を胸に、夫に嘘をついて一人でパリへ向かいますが...。

まぁ、"贅沢な悩み"なんです。息子が"サーカス学校"というのは、確かに、親としては先行きの不安定さとか気になるところはあるでしょうし、作中でもその点を揶揄されたりしていますから、そんな息子を認めるブリジットたちには、それなりの覚悟のようなものが必要だったりもしたのでしょう。けれど、自分なりに将来の目標を持ち、それに向かって頑張っているのです。そして、グザヴィエとの日々も、平凡で退屈かもしれませんが、経済的な不安もなさげで、そこそこの生活ができていて、夫婦仲が悪いわけではない。少なくとも、グザヴィエは、ブリジットへの愛情を持っていますし、彼の言動からそのことを感じ取ることができます。でも、だからこそ、こんな悩みにも襲われるのかもしれません。食べるのに困るとか、子どものことで大きな問題があるとかだったら、それを何とかすることに忙しくて、こんなことで悩んでいる暇などないわけで...。

そんな時に、突然、若いイケメンが現れたら、ときめいてしまうのも分かる気がします。そして、そのイケメンの方からグイグイやって来られたら、なびいてしまうのも仕方ないでしょう。けれど、"年の差を超えた熱愛"とはなりません。そう、現実は厳しいのです。隣家にやって来たスタンは、たまたま、その場に馴染めず逃げ場が欲しかっただけ。ハナから本気ではなかったでしょうし、ブリジットだって、心の底からスタンと何とかなろうと思っていたわけではないでしょう。その辺りの遣り取りが、時にコミカルに、時にしっとりと描かれます。

そして、老紳士、ジェスパーとのアバンチュール。この辺りも、それなりの"冒険感"を出しつつも、あまり大げさになり過ぎず、描写も過激に走らず、作品全体のほんわかとした雰囲気を大きく逸脱することなく、程よく纏められていたと思います。

いろいろあっても元の鞘に収まる背景にあるのは、やはり、2人が積み重ねてきた歴史があるからこそなのでしょう。いくら愛し合って結ばれた2人でも、年月を重ねれば、そこに恨みや憎しみが生まれることもあるでしょう。けれど、共に時を過ごしてきた経験というものは大きいものです。同じ記憶を共有していることが絆を強めるのでしょう。問題はあっても楽しい時もあったわけで、その想い出が相手を許す力にもなるのでしょう。

ある種、"臭いものに蓋"的な結末なのですが、こういう場合、必要以上に真実を追求せず自分の中に飲み込む度量も大切なのでしょう。"隠し事"とか"嘘"というより、"相手への気遣いから不都合な真実を飲み込む"って感じでしょうか。

ブリジットがなかなかにチャーミングで可愛らしく、そんなブリジットに愛情を感じながらも巧く表現できずにいるグザヴィエの不器用さ、無骨さに心がじんわりとします。ありきたりなテーマではありますが、気持ちよく観終えることができる暖かい作品で、それなりに楽しむことができました。不倫を扱っていますが、恋人同士で、夫婦で一緒に観てもOKだと思います。


公式サイト
http://kansoukyoku-paris.jp/



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思い出のマーニー

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思い出のマーニー [DVD]/出演者不明
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ジョーン・G・ロビンソンの同名児童文学を舞台を北海道に置き換えて映画化した作品。原作は未読です。

幼い頃に両親を亡くし、あることがきっかけで心を閉ざしてしまった12歳の杏奈。喘息の療養のために北海道の海辺の村で暮らす親戚の元に預けられます。そこで、古く湿った洋館を見つけます。その屋敷には不思議な雰囲気の金髪の少女、マーニーが住んでいました。ある晩、マーニーが杏奈の前に姿を現し...。

杏奈さん、荒れています。まぁ、まだまだオコチャマなワケですし、致し方ない面はあると思うのですが、結構なイライラ度です。けれど、杏奈がこんな風に自分の感情を出せたのは、彼女が自分自身の恵まれた状況を感じ取っていたからでもあるのでしょう。本当に生きること自体が大変な状況にある子どもは"良い子"にならざるを得ないものです。

札幌から海辺の田舎町にやって来た杏奈は、面倒見の良い地元の少女、信子を"ふとっちょぶた"と罵ります。少々、お節介な面はあったかもしれませんが、杏奈に対し悪いことをしたわけではありません。酷い言葉を投げつけた杏奈とすぐ仲直りしようとする寛大さも持ち合わせています。けれど、杏奈は、信子から差しのべられた手を拒絶します。"この世には目に見えない魔法の輪がある。輪には内側と外側があって、私は外側の人間。"と呟く杏奈にとって、"内側の人間"である信子の手を握ることは難しかったのかもしれません。この場面、杏奈が実に嫌なヤツなのですが、自分自身を不幸の奈落に落としている者は、救いの手すらも受け入れられないのでしょう。そう、嫌いな自分を救ってくれる手など有難くともなんともないのでしょう。まして、杏奈の場合、その手を握らなくても生きていけるのですから。

けれど、そんな杏奈も変わっていきます。自分一人だけが不幸にあった世界から、抜け出していきます。マーニーの力を借りて。では、そのマーニーを生み出した力はどのように育まれたのか。そこに、杏奈を取り巻く"愛"が関わっていたのではないかと思います。

そして、杏奈の成長は、自分を"普通の人々が属する世間"から拒絶しているように感じていた"魔法の輪"が幻想であったことに気付いていく過程と重なるのではないかと思います。世間が自分を拒絶していたのではなく、自分が周囲にある愛を拒み、世間から離れていたこと、自分の周辺に愛があり、世間は自分を受け入れてくれていたことに気付いて初めて、世間のことも、自分自身のことも受け入れられるようになるのかもしれません。この杏奈の成長が本作の物語のキモとなる部分だと思うのですが、その描き方も中途半端な感じがしました。そこをしっかりと描くには時間が足りなかったのかもしれませんが...。

マーニーと仲良くなるのも唐突な感じだし、杏奈の心情の変化もところどころで急展開したりで違和感ありました。ラストの各種説明がやたらと丁寧なことも、全体のバランスを欠いてしまった原因になっていると思います。

流石にジブリな綺麗な絵は印象的でしたが、映画としてはちょっと残念でした。


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グレート・ビューティー 追憶のローマ [DVD]/トニ・セルヴィッロ,カルロ・ヴェルドーネ,サブリナ・フェリッリ
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ジャーナリストのジェップは俳優、アーティスト、実業家、貴族、モデルなどが集うローマの華やかなセレブコミュニティの中でも、ちょっとした有名人でした。彼は初老に差し掛かった今でも、毎夜、華やかなレセプションやパーティーを渡り歩いてはいましたが、実は、空虚な乱痴気騒ぎに飽き飽きしていました。そんなある日、彼の元に初恋の女性の訃報が届きます。それをきっかけに長い間中断していた作家活動を再開しようと決意しますが...。

世界の中心として繁栄したこともあり、長い歴史を持つローマの街は、観光名所に溢れ、その映像は見所たっぷりです。歴史あるローマの街と、そこを彷徨う年齢を重ねたジェップの魂。基本、木と紙で建物が作られていた日本とは違い、流石に"石"の文化。様々な建造物が何百年もの年月を生き抜いています。数多くある世界的に有名な観光名所を巡り、美術品を鑑賞するのですから、映像は十分に楽しめます。

で、その中で繰り広げられるのは、勝ち組オジ(イ)サンたちの気儘で優雅な老後。それを徹底的にオジ(イ)サン目線で描いた感たっぷりで、まぁ、いい気なもんなのですが、好き放題やっている感じが先に立ち、物語としての深みには欠けている感じがしました。まぁ、それなりに仕事をし、成果を出してきた結果として、今ここに辿り着いている人たちなのですから、今さら深みとか味わいとかそんなものに振り回されず、残りの短い人生を謳歌したいだけすればいいってことなのかもしれません。

そして、ジェップやその友人たちのエネルギッシュなこと!!!過去を穏やかに懐かしむなんて枯れた雰囲気には程遠い人たちです。このラテンな枯れない男たちのエネルギーの大きさには圧倒されました。これは、基本アッサリ醤油系の日本人にはなかなかないものかもしれません。タイトルから想像される穏やかに人生を振り返り懐かしむ感じとは全然イメージが合わないのですが、原題は"LA GRANDE BELLEZZA (GREAT BAEUTY)"ですから、邦題の問題ですね...。

本作にご登場の皆様方には今一つ共感できませんでしたが、ローマには行きたくなる、そんな作品でした。


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1983年に始まった第二次スーダン内戦で両親を失ったマメールたちは、子どもたちだけでケニアの難民キャンプを目指します。数百キロの距離を歩き、マメールは、兄のテオ、姉のアビタル、途中で知り合ったジェレマイアとポール、ダニエルの兄弟とともに、ケニアに逃れます。十数年後、2000年から始まったアメリカの難民受け入れ施策により、彼らは、アメリカへの移住が認められ、カンザスシティーへ。職業紹介所勤務のキャリーたちに迎えられ、新しい生活を始めることになりますが...。

安全な中で歩くことも相当に困難だと思われる長い道のり。多くの危険に遭いながらも生き抜いたマメールたち。多くの困難が描かれていますが、本当は、ここで描かれているよりずっと酷いことがあったのだろうと思います。テオは、兵士として人を殺すことを強要されたでしょうし、マメールたちが、言葉も文化風習も気候も全く違う新しい生活に慣れるのはかなり大変なことだったでしょうし、テオとマメールの今後にも、大きな問題が起きる可能性もあり...。

予告編を観て、異文化の中に放り込まれたマメールたちの騒動が面白可笑しく描かれるコメディ作品かと思っていたのですが、予想よりずっとシリアスな作品でした。特に、前半部分は目を背けたくなる場面もところどころにありました。まぁ、もっとも、この前半部分があるからこそ、本作は、ドタバタ喜劇ではなく、説得力のある作品となったのでしょう。

電話など見たこともない様子なマメールたちと電話を使えない人がいることなど想像すらしていなかったキャリーのギャップ。一生懸命なマメールたちとそのマメールたちの姿に接して彼らを必死に支えようとするキャリーたち。支えられる側と支える側の幸福な関係が描かれます。この辺りは、少々、明るく描かれすぎている感じがしなくもありませんが、例え僅かであったとしても確かにこうした現実があるということが示され、世界が善き方へ変わる可能性を感じさせてくれます。

それにしても、アメリカという国は、懐の深い国です。まぁ、こうした"世界の情勢に対する責任感"が"世界の警察"としての自負に繋がり、傍メーワクな活動に結びついてしまうこともしばしばではありますが、こうした寛容さは、アメリカという国の最大の長所の一つであることは間違いないでしょう。特にこうした難民の受け入れについては、ほとんど何も世界に貢献できていない日本の私たちとしては考えなければならないことだと思います。(映画の物語としては、アメリカは頑張っていたのに、テロが起きたからいろいろダメになったという言い訳めいた感じもあり、そこは気になりましたが...。)

ただ、9.11以後、こうした難民の受け入れについても消極的になっているようで、その点は残念。そして、そんな状況の中、難民キャンプがどうなっているのか、気になります。マメールのその後、テオのその後がどうなっているのか...。少々、複雑な思いも残るラストですが、考えてみれば、双方にとって良い結末だったのかもしれません。テオにとってはもちろん、マメールにとっても、この選択肢の方が夢が叶う道だったのだと思います。

エンドロールに、難民たちのための寄付の呼びかけがあります。本作が製作された背景も見えてきてしまうところですが、この辺り、本作が全体としてオブラートに包まれていることに繋がってくるのでしょう。少しばかり複雑な感じがするというか、切ない感じもしますが、財政的な支援が必要なことは確かなのでしょう。エンドロールについては、もう一点、マメールたちをどういう人たちが演じたかという部分にも注目です。

全体にバランス良く纏められ、それなりに厳しい現実を匂わせながら、ハートフルな、清々しさも感じられる作品に仕上げられていて、何より、マメールたちの懸命さ、逞しさが伝わってきて、映画作品として楽しむことができました。


公式サイト
http://www.goodlie.jp/



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江戸の貧民

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江戸の貧民 (文春新書)/塩見 鮮一郎
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弾左衛門、車善七、乞胸、香具師...。江戸時代、士農工商の外に置かれた"身分外"の人々。彼らの足跡を追って、江戸の浅草、吉原、上野を描きます。『浅草弾左衛門』『車善七』の著書で知られる筆者が最も得意とする江戸を舞台に描いた文春新書好評既刊『貧民の帝都』『中世の貧民』に続くシリーズ第三弾。

歴史の授業ではあまり習ってこなかった江戸時代の姿を見せてくれます。簡単に"身分外"と言っても、細かく区分され、それぞれがいろいろな面で違った規制を受けていたこと、こうした制度が庶民の不平を収め、社会を安定させるための巧妙な手法として機能していたこと、単に"差別"という要素だけでなく"一定の職業を独占することにより収入を得る手段を確保できた"という一面もあったことなどが説明され、身分外に置かれ酷い差別を受けていた人々がいたという表面的な理解では思いもよらなかった面が見えてきました。

"一定の枠組みの中に押し込められる"ということは、"その枠組みの中に収まっている限りは安定して生きていける"ということでもあります。一方、"何にでもなれる。何でもできる。"という状況は、"何にもなれない。何もできない。"という可能性も秘めているということになるのでしょう。

人間の遺体や動物の死体の処理、と殺、排せつ物の処理、罪人の処刑...。いずれも、"穢れ"に通じるとして忌み嫌われた仕事ではありますが、絶対必要な仕事だし、人間の社会の中からなくならない仕事です。その仕事を"独占"すれば、生活は成り立つわけです。その道で生きていきたいと思えない人や、何らかの病気や身体的な条件によりその仕事は無理といった状況を抱える人にとっては、酷い制度ということになるのですが...。

当時の世界において、最大級の都市だったといわれる江戸。18世紀初頭には100万人を超える人口を抱えていたといわれる世界的大都市がどのように成り立っていたのか分かりやすく纏められています。

どんなに細かく制度を作っても必ず枠からはみ出る人たちが現れるもの。そこを曖昧にしてその時々の状況に合わせて巧く処理をした当時の支配層の知恵が見えてきます。何故、江戸時代が300年近くも続いたのか、その背景が見えてくるようでもあります。

まぁ、少々、身分外の存在が置かれることが社会に与えるメリットが強調され過ぎ、デメリットの部分に蓋がされてしまっている感じもありましたし、やや推測に傾いてしまっている感がする部分もありましたし、情緒に訴える方向に流れ過ぎてしまった感じもしますが、興味深く読むことができました。

浅草、上野辺りについてある程度土地勘がないと理解しにくい部分もあるかもしれません。地図(できれば、現在と江戸時代の地図の両方)を見ながら読むとより深く楽しめるかもしれません。江戸時代の教科書には描かれない一面を垣間見ることができる本です。お勧めです。


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記憶探偵と鍵のかかった少女

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記憶探偵と鍵のかかった少女 ブルーレイ&DVDセット (初回限定生産/2枚組) [Blu-ray]/マーク・ストロング,タイッサ・ファーミガ,サスキア・リーヴス
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他人の記憶に潜入する特殊能力を持つ記憶探偵のジョンは、ある日、16歳の少女アナの記憶を探るよう依頼されます。それは難事件を解決してきたジョンにとって、簡単な仕事のはずでしたが...。

全体に謎めいていて、伏線らしきものが張り巡らされ、結構、ドキドキハラハラさせられます。でも...。この展開であれば、ラストでは意外性を感じさせて欲しかったです。まぁ、ヘンに無理するよりは、予想通りでも自然な流れにしたかったということなのかもしれませんが、あまりに捻りがなさ過ぎて拍子抜けです。

ジョンもワキガ甘いです。アナに嵌められた人物から直接話を聞いていて、自分のPCにいけない写真が入れられたり、卒業アルバムを見てアナの嘘に気付いたりしているにもかかわらず、何の対策もせず、アナの元に一人で行ってしまうなんて、あまりに不用心です。彼は、そのことの危険性を理解できたはずなのに...。そもそも、穴の記憶に入り込んで得た情報、一つ一つについて裏をきちんと取らないって、どういうことなのか...。事件そのものの性質やアナの巧妙さが状況を複雑にしているというより、ジョンの無能さが解決を難しくしているというのが何とも情けないのです。数々の難事件を解決してきた有能な人物とはとても思えません。これではアナに手玉に取られるのも致し方ないところです。

現実世界と記憶世界の切り分けはもっと明確にして欲しかった感じがします。この辺りの曖昧さや、結局毒を入れたのは誰?とか、はっきりしないままに終わってしまったところがあったりとか、気になる部分もありました。

ただ、この手の物語ではジョンの立場の人がとことんまで貶められることが多かったりしますが、ラストでジョンにも救いがある点は良かったと思います。このタイプの作品としては後味悪くなく観終えることができました。

まぁ、全体としては、レンタルのDVDで気軽に楽しむ分にはそこそこの作品と言ったところでしょうか。


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ぼくを探しに

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ぼくを探しに [DVD]/ギョーム・グイ,アンヌ・ル・ニ,ベルナデット・ラフォン
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幼い頃に両親を失ったポールは、ショックで言葉を話すことができなくなりました。そんなポールを育ててきたのは、風変わりな伯母たち。2人はポールを世界一のピアニストに育てようと必死でした。ある日、ポールは同じアパルトマンに住むマダム・プルーストに、不思議なハーブティーを勧められます。一口飲んだ途端、赤ん坊の頃の幸せな記憶が、奇妙な夢のように浮かび上がってきて...。

内容的には、結構、重かったりもするのですが、映像の雰囲気はカラフルでポップ。ファンタジックな感じでした。ちょっと毒の効いたファンタジーってところでしょうか。

そして、沢山の愛情が詰め込まれた作品でもあります。両親も、伯母たちも、マダム・プルーストも、それぞれ表現の方法は違えど、確かに、ポールに愛情を注いでいたのだと思います。この愛に溢れた感じが、奇妙な人たちのちょっと重く哀しい物語に明るさと温かさを与えています。

記憶を蘇らせるハーブティーにマドレーヌが添えられるのは、プルーストの「失われた時を求めて」にある紅茶とマドレーヌで記憶がよみがえるエピソードを意識しているのでしょう。何といっても、ハーブティーを淹れてくれるのが、マダム・プルーストだし。

ただ、ラストのまとめ方が特に捻りもなく割と平凡で肩透かしな感じだし、あのオジサンはどうなったのかとか、"熊"はどうなったのかとか、放置されてしまった部分も目につくし、演出も回りくどい感じがするし、ポールがあまりにオコチャマで気持ちを寄せにくいし、全体に粗が目立ってしまっていたのは残念。

映像の他には、音楽も良かったのですが、特に好きだったのは、ドリーブのオペラ、「ラクメ」で歌われる「花の二重唱」が伯母さんたちのテーマ曲として使われています。2声が違う歌詞を違う旋律で歌う部分の絡みが綺麗な曲で、いつか歌ってみたいと思う曲の一つです。


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やさしい女

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ドストエーフスキーの同名短編小説を1960年代のパリに舞台を移して映画化した作品。原作は未読です。1969年に公開された作品で、今回、デジタルリマスター版が公開されています。

貧しい中、本とノートを買う費用を得るために質屋に通う女性。その質屋を経営する年上の男性は、彼女にプロポーズします。最初は、男を拒んでいた女でしたが、やがて、押し切られるように結婚。そして、彼らのつつましい生活が始まりますが...。

自殺した妻の遺体を前に、男が過去を振り返ります。

そこで描かれるのは、女を庇護しようとした男とその男に支配されることを拒んだ女。男の中に彼なりの愛があったことは確かだし、女の中にも男の想いに応えようという気持ちがあったことも確かなのだと思います。けれど、2人の気持ちはどこか噛み合わず、すれ違い、互いが傷つく方向に向かってしまいます。

物語は、全て男の視線から綴られます。男が見ていないところで彼女が何をしていたのか、男が把握しきれない部分で彼女が何を考えていたのか、男の想いをどう受け止めていたのか、彼女の視点から語られることはありません。

そして、彼女はほとんど言葉を発しません。本当に何も語ろうとしなかったのか、それとも、単に男に理解できる言葉を語らなかっただけなのか。

最初は、"可哀そうな"彼女を救うためのお情けの結婚で、男が圧倒的に優位に立つであろうという印象があったのですが、徐々に、男が追い詰めらえれていく様子が見えてきます。結婚してもほとんど変わることのない男の生活。彼は、自分の生活の中に彼女を取り入れようとしたのでしょう。自分のフィールドの中でしか戦えない男の弱さゆえでしょうか...。そして、嫉妬に狂うのも、彼の自信のなさゆえなのでしょうか...。

冒頭で2人の結末が描かれるので、"これからどうなるのか"ではなく、"何故、そうなってしまったのか"を考えながら観ることになります。その答えが明確に示されるわけではありません。何故、そうなったのか、何通りかの解釈ができます。愛のない結婚への絶望か、自分を支配しようとした男への復讐か、男の想いを受け止めきれないことへの悔恨か...。

何が正解なのかは分かりませんが、結末に至る過程に説得力が感じられます。他に選択肢はなかったのだと納得せざるを得ないというか...。

無駄のない力のある映像に圧倒されます。あまりに静かなので、少々、眠気を感じてしまった部分もありましたが、女を演じたドミニク・サンダの存在感には圧倒されましたし、心の中に残るもののある作品でした。


公式サイト
http://mermaidfilms.co.jp/yasashii2015/


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理由

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理由 [DVD]/岸部一徳,久本雅美,風吹ジュン
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宮部みゆきの直木賞受賞作「理由」を映画化した作品。原作は未読です。

ある台風の夜、東京都荒川区にある超高層マンションで4人の男女が惨殺されました。当初、4人の被害者は家族だと思われていましたが、全くの他人だったことが判明します。加害者は誰なのか。被害者は誰なのか。関係者の証言が積み重なっていくうちに、事実が明らかになっていき...。

登場人物が多く、それぞれの関係が複雑で、いろいろな立場から事件について語られています。160分とかなり長い作品なのですが、ちょっとボーっとしていると何が何だか分からなくなるストーリーなので、集中力をもたせなければなりません。全体にメリハリには欠け、平板で冗長な感じがするので、内容をしっかりと汲み取っていくのは、意外に大変かもしれません。

原作の物語そのものが、映画という手法よりも、自分のペースで情報を取ることができ、気軽に前の部分を読み返すこともできる小説という表現に適しているということもあるのだと思います。それでも、DVDでの鑑賞で、巻き戻したり早送りしたりができたので、置いてきぼりにされることなく観終えることはできましたが...。ただ、どちらかというと、映画を観ているというより、実写紙芝居を見ている感じというか、朗読とその背景としての映像を見ているという感じがしました。

冒頭に、物語の舞台となる荒川区近辺の歴史の解説する文章が入るのですが、その辺りの雰囲気が良く、その後への期待が高められただけに、本編に入って失速した感じがしてしまってがっかりしてしまった部分もあるのかもしれません。この冒頭の良さとその後の残念さを考えると、やはり、文章で語られるべき物語だったということになるのではないかと...。

エンディングの曲の歌詞、「殺人事件が結ぶ絆」ってあります。不気味ですが、でも、どんなところにも出会いはあるということなのかもしれません。どんなに悲惨で酷い出来事にも、僅かではあってもそこに光が射す部分もあったりするもの。100%の幸せも100%の不幸もなく、単純に割り切ることのできない様々な要素が複雑に絡み合う中に生きているからこそ、ドラマが生まれるのかもしれません。

原作を読んでみようと思います。原作を読んで改めて本作を見直してみると、また、違った印象を受けるのかもしれません。力のある出演陣が揃えられていますし、原作と重ね合わせながら観ると、余計な力を使わず、映画を味わうことができるような気もしています。


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パラダイス:愛

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パラダイス:トリロジー DVD-BOX +1/マルガレーテ・ディーゼル,マリア・ホーフステッター,メラニー・レンツ
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パラダイス三部作(他に""、"希望")の内、今日は第一作の"愛"。

ウィーンで自閉症者のヘルパーをしている50代のシングルマザー、テレサは、一人娘のメラニーを姉アンナ・マリアの家に預け、ヴァカンスを過ごしにケニアの美しいビーチリゾートへやって来ます。青い海と白いビーチに面したホテルはまるで楽園。そこで、テレサは親友のインゲが現地の若い黒人男に夢中になっていることを知ります。ケニアではインゲのような白人女性を"シュガーママ"、シュガーママに愛を売り、ヒモとして生活する男を"ビーチボーイ"と呼んでいました。インゲからビーチボーイとのセックスの話を聞くうちに興味をおぼえたテレサは、ついにリゾートの敷地を越え、ビーチボーイが待ち構える波打ち際へと踏み出します。テレサのたっぷりと太った身体を美しみ、彼女を女として大切に扱ってくれる優しい男たち。忘れかけていた女の悦びに目覚めたテレサはビーチボーイたちとの"愛"にのめりこんでいきますが...。

"愛"を求めてやってきたテレサ。けれど、現地男性人たちにとって、"おもてなし"は"生活の糧を得るための商売"であり、テレサたちは"客"。お金を払ってくれるお客として大切にしてはくれるけれど、当然のことながら、そこに"愛"があるわけではありません。セックスをお金で買うことに抵抗感を抱いていたテレサでしたが、結局、"恋人"との関係を維持するためにお金を使うことになります。

"純粋な愛"を求めているのに、いつしかお金で愛を繋ぎ止めようと必死になってしまう哀しさ。けれど、例え"偽物"であったとしても、そこに真実を感じているテレサには、妙な美しさ華やかさが感じられたりもします。久しくなかったであろう"美しいと言われる経験"も、彼女たちを美しくするのかもしれません。けれど、幻想にのめり込んでいってもその先に光は見えてきません。

テレサのような欧米からの観光客と現地の人たちを隔てる柵。それは、幻想の世界と現実の世界を分ける境界のようでもあります。テレサたちにとっては、日常を離れ、普段はできない体験ができる"パラダイス"。現地の人々にとっては、日常を支える資金を得るための稼ぎ場。

そして、テレサも、その"経済的構造"の中に嵌っていきます。恐らくは、彼女の周辺の女性たちよりも醜い形で...。最後には、自分の性を売り物にはしていないホテルのバーテンダーをお金の力で自由にしようとしてしまうのですから...。最初から、金銭でつなげられた関係だと割り切ることができていれば、幻想の中でのひと時の解放感を十分に楽しめたのかもしれません。けれど、求めるべきでないものを求めたために、いつの間にか、本来求めていたものとは真逆の方に向かってしまったのでしょう。

時には、日常をはみ出さなければやっていられない...という気持ち自体は共感できる人が多いことでしょう。それをセックス観光に結びつけるかどうかは別として。テレサの姿をみっともないと一笑できれば、まだ、気楽に観ることができるのかもしれません。けれど、例え"お金"を背景にしてはいても、賞賛され、大切にされているテレサを見れば、どこか、羨ましさを感じてしまう部分もあったりして、それが、観る者の心をざわつかせるのではないかと思います。

では、お金の関係と割り切って、お金でセックスを買い、欲望を解放させる機会を楽しむのはアリなのかどうか...。正直、アリと言い切るのには抵抗があります。売春は世界最古の女の職業(まぁ、本作では男のですが)と言われるほど、セックス産業が人間の社会と切って離せない存在であることは否定できない事実なわけですが...。


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