バチカンで逢いましょう

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カナダの山間部で生活するドイツ人のマルガレーテ(マリアンネ・ゼーゲブレヒト)は夫に先立たれ、長年、夫婦で暮らしてきた家を売り、街中にある長女、マリー(アネット・フィラー)が家族と住む家で生活することになりました。けれど、どうやら、マリーたちには、マルガレーテとずっと一緒に生活するつもりはなく、マルガレーテを老人ホームに入れようとしている様子。さらに、敬虔なカトリック信者のマルガレーテは、新しい生活を始めるに当たり、長女たちと約束していたローマへの旅行を楽しみにしていて、何としてもバチカンへ行き、法王に謁見し、祝福を受けたいと願っていたのですが、家族の間のドタバタの中で、その約束も反故にされてしまいます。マルガレーテは手紙を残し、一人でローマへと向かい...。


母親のこと、息子たちのこと、娘のこと...。何かと思うようにならず、苛立つマリー。それぞれのいろいろな問題点が目についてしまい、ついアレコレ言ってしまうマリーですが、決して、意地が悪く口煩いだけのオバサンではないのです。背景にあるのは、彼女なりの責任感。自分が何とかしなければ...という想いが、彼女の眉間にしわを刻み、彼女から笑顔を奪っていくのでしょう。その"自分が何とかしなければ"は、得てして、余計なお節介になってしまうことが多く、マリーの場合も、その例外ではないようですが...。


多分、子ども、それも、ヤンチャな男の子を持つ母親は、マリーに共感しやすいのではないかと...。子どもに対してアレコレ言わずにはいられないし、怒鳴ってしまうこともあるし、そんなイライラを分かっていないような夫や周囲にも苛立ってしまうし...。本当は、がみがみ言ったところで効果はないし、それならいっそのこと、多少のことは飲み込んで、にこにこ優しいお母さんでいた方が子どもたちのためにも、夫のためにも、自分のためにも良いかもしれないことだって、どこかで、分かって入るのですよね...。


全体に、個々のエピソードの構成が甘く、ブツ切れ感がありますし、マルガレーテが客の入らなかったドイツ料理店を自分の料理の腕で繁盛させるくだりがアッサリし過ぎて盛り上がりに欠けてしまっていたり、いくら何でもマルガレーテが出会うイタリア人がことごとくドイツ語を話せるのは都合良過ぎるとか、突っ込みたくなる部分もところどころあったりしますが、それでも、観終えてホッコリ幸せになれる作品です。


それは、マルガレーテを魅力的に実存させたマリアンネ・ゼーゲブレヒトの力によるところが大きかったのだと思います。本作の物語は、原案者であるクラウディア・カサグランデの祖母の実話を基にしているのだとか...。ペッパースプレーを法王にかけてしまったのは実話だそうです(もっとも、顔に罹ってしまった訳ではなく、衣服の一部を汚してしまっただけだったとのことですが...)。その他の部分は、どこからどこまでが実際に起きたことで、どの部分がフィクションなのかは分かりませんが、なかなかのオバアチャンです。


どうしても、法王に懺悔したいというマルガレーテの願いは、結局、有耶無耶に...。折角のチャンスもふいにしてしまうのですが、これは、"そんなこと大した罪じゃないよ"ってことなのかもしれません。マリーは、"罪の結果の娘"ではなく、"真実の愛から生まれた愛娘"なのですから...。


"我々イタリア人は愛に弱い"とは、マリガレーテがイタリアで出会った"老詐欺師"ロレンツォのセリフ。それが、本来の"人間らしい幸せ"の在り方なのかもしれません。


本作の主演、マリアンネ・ゼーゲブレヒトが主演した名作「バグダット・カフェ 」と比べてしまうと、平凡な感じは否めませんが、本作も、見事にはまったキャスティングと言って良いでしょう。ひとまず、「バグダット・カフェ」は脇に置いておいて、そこまで期待を膨らませ過ぎないで観る分には、楽しめる作品だと思います。



公式サイト

http://www.cinematravellers.com/

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ある過去の行方

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4年前に別れた妻マリー=アンヌと正式に離婚するための手続きを行うため、イランから彼女の住むパリへとやって来たアーマド。かつて妻子と住んでいた家を訪れると、マリー=アンヌと長女のリュシー、次女レア、再婚を予定していた相手、サミール、その息子のファッドと一緒に暮らしていました。けれど、マリー=アンヌとサミールの間には異様な空気が漂っていました。そんな中、アーマドは、マリー=アンヌと確執のあるリュシーから衝撃の告白をされ...。




離婚した夫婦の間にも、結婚している夫婦の間にも、親と子、特に母と娘の間にも、何らかの確執は存在するもの。どんな人間関係の中にも、そこに複数の人が存在する限り、そして、その関係が深く、長くなる程、様々な感情が渦巻いていくもの。簡単には関係を解消できない家族であれば、なおさら、その間に生じる感情は複雑に絡み合うものです。




マリー=アンヌとアーマドは、離婚し、遠く離れた場所で別々の生活をしていますが、互いに相手への何らかの想いを残している様子。空港で、久し振りに出会った時のそれぞれの笑顔、自分たちの住まいにアーマドを泊まらせるマリー=アンヌとそれを受け入れるアーマド。そのアーマドがマリー=アンヌといる家に息子を行かせるサミール。どこにでもありそうで、どこにもなさそうなこの家族の抱えるものの大きさが徐々に明らかにされていき、上質のサスペンスのような味わいが感じられました。




一人一人の登場人物が彼らを取り巻く状況が丁寧に描写され、巧みに後半への伏線がはられていきます。細部まで神経が行き届いた作りになっていて、緊張感が漂う画面に惹きつけられました。




互いに、相手を貶めようとするとか、痛めつけようという意図は持たなかったのに、少しずつ歯車が狂い、人間関係が捻じれていき、状況が歪んでいきます。その負へ向かうスパイラルは止めようとしてもどうにもならず、まるで、蟻地獄のように人々を引き摺りこんでいきます。




眠っていた過去が、今ここにいる人々を揺さぶっていきます。本作では、過去に戻ってその時の状況が描かれることはありません。けれど、マリー=アンヌたちは、今になって姿を現してきた過去に戸惑い、苛立っています。




暴かれていく過去は、関係する人々を揺るがし、傷つけもしますが、その過程を経なければ、人は、本当の意味で過去と決別し、未来に向かうことができないものなのかもしれません。ラストシーンは、妻との新たな関係を築こうとするサミールの心情を表しているようにも思えます。




ラストは、少々、安易な展開に流れてしまった感じもしないではないですが、柔らかい光に包まれる2人の手の中には、希望の種が隠れているようにも思えました。




観ていて息苦しくなるような緊張感があり、負の感情を掻き立てられるような重苦しい作品ですが、大人も子どもも含めて出演陣の力のある演技と緻密な構成により、見応えのある作品に仕上がっています。疲れている時、落ち込んでいる時に観るのは辛い作品だと思いますが、お勧めです。






公式サイト


http://www.thepast-movie.jp/

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2002年から、TV朝日で、連続TVドラマとしてオンエアされいる刑事ドラマ「相棒」劇場版第三弾。TVシリーズとなる前、2000年6月が第一作となる土曜ワイド劇場での単発ドラマの時からTVを観ていますし、劇場版の 、スピンオフ作品(米沢守編伊丹刑事編 )も観ています。


東京から約300キロ離れた"鳳凰島"で、男性が馬に蹴られて死亡するという事故が発生します。警視庁特命係の杉下右京(水谷豊)と甲斐享(成宮寛貴)は、この島を巡るある疑いを確認するための調査を命じられます。その島は実業家(宅麻伸)が個人で所有する島で、元自衛隊員が集まり、民兵としての訓練に励んでいました。右京は男性が事故死したのではなく、殺されたのだと確信します。島には特命係、捜査一課トリオ、鑑識の米沢が集結しますが、何者かが彼らを襲撃し...。


"これまでとは違う相棒"が意識され作られた...という面もあるのでしょうけれど、少々、違和感がありました。ヘンに大風呂敷広げ過ぎというか、派手にし過ぎというか...。まぁ、劇場版だからということもあるのでしょうけれど、


舞台になっている島が"東京から300km"にしては、随分、亜熱帯っぽい感じです。右京たちが行くのだから"東京都"でなければならないワケで、"絶海の孤島"なら、小笠原方面でしょうか...。そちらの設定であれば、違和感は薄らいだのではないかと...。そもそも、"絶海の孤島"である必要があったのか...。奥多摩辺りの人里離れたどこかでも良かったような...。


民兵組織の人々も本気で国防を考えているにしては、訓練の状況についても、思想的な部分についても、甘いというか、ゲーム感覚というか、どこか、本気さが感じられません。この規模の"軍隊"が"国防"の戦いをしようとするなら、基本的には、ネットで各国の中枢機関にウイルスをばらまいて国の組織を混乱させるとかってことになるのではないかと...。この人数で、肉弾戦やっても勝ち目はないような...。もちろん、"だから、生物兵器"なのかもしれませんが、それならそれで、もっと、科学的な手段を講じるべきで、本作の民兵組織は、"身体機能を鍛える"部分だけに偏り過ぎているような...。


男性の死の現場も、"馬に蹴られて死んだ"って感じの状況ではなかったような...。普通に眠る時のような上を向いて真っ直ぐ寝そべっていましたよね...。


それに、男性を殺すのに、何も相葉を巻き込まなくたって良かったような...。あの島の環境なら、間違って落ちても不思議ではない崖やら川やら滝やら穴やらいっぱいありそうだし...。


相棒の面白さは、犯人側のどうしようもない切迫した事情や観る者が犯人側に心を寄せたくなるような人間的魅力があることで、犯罪を暴いていく右京の推理の冴えが際立っていくところにあるのではないかと思うのですが、本作の場合、そこが欠けているような...。


"大切なものを守る"ということについて、スッキリした回答を追い求めているようなラストでしたが、本当は、そんなものはないのかもしれません。自分や自分の大切なを守るということは、"攻撃されることを防ぐための攻撃"に繋がる可能性があります。これまでの歴史の中で、"防衛のために始められた戦争"がいかに多いことか。目指すべきは、矛盾のないスッキリした答えではなく、矛盾に耐えるための力を身に付けることなのかもしれません。甲斐亨くんの「出口はある」というあまりに単純明快に言い切る純朴さは、ちょっと、痛かったです。亨くんも、もう、そんなに青くても違和感ないほど若いワケではありませんから...。


とは言え、本作にも良かったところもあります。他にも、クスッと笑える部分もところどころに散りばめられ、ファンには面白く観られる部分も少なくなかったと思います。そして、何と言っても、神戸尊の登場!!!


相棒ファンがあまり期待せずに観に行けばそこそこ楽しめる作品、といっところでしょうか...。



公式サイト

http://www.aibou-movie.jp/

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テルマエ・ロマエⅡ

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ヤマザキマリの漫画を実写映画化した「テルマエ・ロマエ 」の続編。原作は未読ですが、映画の方は観ています。


古代ローマ。浴場設計技師のルシウスは、ユニークな浴場を作り上げて名声を得ていました。ある日、剣闘士の傷を癒やすための浴場建設の命を受けた彼は、頭を悩ませていたところ、またもや現代の日本へタイムスリップ。そこで見聞きしたものを元に使命を果たします。その後も、次々に浴場建設の命令を受け、現代日本にタイムスリップし、風呂雑誌の記者になっていた真実との再会を果たしますが、やがて、ローマ帝国を揺るがしかねない政争に巻き込まれ...。


爆笑というより、クスクス系ですが、笑わせてもらいました。ちょっと古めな昭和の感覚のギャグ映画...といった雰囲気でした。浪越さんとか、松島トモ子と動物とか、昭和の人間でないと分からないネタだと思うのですが、平成の若者たちは笑えたのでしょうか...。その辺り、ちょっと気になりましたが、何も考えず笑ってオシマイな感じは悪くありません。


笑いの感じが、今一つ洗練されず、泥臭くて、同じパターンが繰り返されるのも、ちょっとだけ昔の漫才やギャグの世界を思い出させてくれて面白かったです。それなりに手間暇かけて、費用もかけて、作っている感じがする作品なのですが、その割には、描いているものが薄っぺらくてしょ~~~もない感じが、無駄に贅沢で、それも、悪くなかったです。


ストーリー自体は、平凡。簡単に予測できる結末に真っ直ぐに進んでいきます。まぁ、もっとも、ヘンに捻って無理するよりも、その方が良かったのだとは思いますが...。


本作は、完全に"古代ローマが現代日本を取り入れる"だけで、古代ローマが現代日本に何も影響を与えることはないのですが、日本側からも古代ローマに乗り込む人間がいるわけですから、"相互交流"的な部分が取り入れられても良かったのではないかと思います。日本の力士が、グラディエーターのワザを学ぶ...とか...。


このテの味付けの作品なので、コロシアムで残酷な感情がエスカレートしていく流れと今の私たちの社会が重ねられるような部分は、少々、理屈っぽさや説教臭さがあり、ハナにつく感じもありましたし、個々のエピソードと後半のスペクタクルな感じのアンバランスなところもありましたが、あまりいろいろ考えず楽しむには悪くない作品だと思います。


GWだし、温泉でも行こうか...そんな風に思わせられる今の時期に相応しい映画といったところでしょう。なかなかに豪華な出演陣で、その力のある人たちが実に楽しそうにそれぞれの役を演じている感じが、伝わってくる軽く楽しめる作品です。



公式サイト

http://thermae-romae.jp/

ハムレット ゴーズ ビジネス

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ハムレット ゴーズ ビジネス/真夜中の虹 【HDニューマスター版】(DVD)/出演者不明
¥4,104
Amazon.co.jp


シェイクスピアの「ハムレット」を現代の企業乗っ取りドラマに置き換えたブラックコメディ。


大会社の経営幹部が何者かに毒殺されます。会社を相続した幹部の息子、ハムレットは周囲に潜む罠や権力争いに立ち向かいつつ、父殺しの犯人を暴こうとしますが...。


あまりに有名な古典劇。それを同族経営の会社のお家騒動に置き換えたといったところでしょうか。ハムを食べるハムレットとか、違和感たっぷりのアヒルを投入とか、会議中のお絵かきとか、瓶にあまりに分かりやすく髑髏マークが入っているとか、オフィリアのお兄さんの殺され方とか、狙いすぎて外している感じは否めませんが、元がハムレットだけに、それなりに観られる作品にはなっている...といったところでしょうか...。


ところどころ、茶々を入れながらも、基本的には、原作に沿って、物語は進んでいきます。色々な形で、作り変えられたりもしている有名な物語で遊んでみましたってところでしょうか。こんな風に遊ばれても耐え得るのは、古典の力ゆえなのかもしれません。


経営者一族は死に絶え、労働者が幸せになる...というのは、監督の思想の反映なのでしょう。


残念ながら、今一つ、映画作品としての面白さを感じ取ることができませんでしたが、肩の力を抜いて、ハムレットも傍らにおしやって、あれこれ考えずに観れば、それなりに楽しめる...のかもしれません。

上京ものがたり

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上京ものがたり [DVD]/北乃きい,池松壮亮,谷花音
¥5,076
Amazon.co.jp


作者の故郷での少女時代を描いた「女の子ものがたり」の前日譚であり、作者、西原恵理子の自伝的コミックである同名原作を映画化した作品です。原作は未読です。本作同様、映画化されている「女の子ものがたり」も、公開時に観ていて、ここ に記事をupしています。


自分にはみんなとは違うものがあると信じて田舎から上京した女の子、菜都美。憧れの東京で美大に通い、学費や画材を買うための費用を稼ごうとアルバイトに精を出しますが、同棲中の良介は怠けてばかり、美大の成績は最下位、ホステスのアルバイトでは、ストレスで顔面麻痺、と散々な日々。けれど、バイト先のキャバクラの先輩ホステスの言葉に奮起し、出版社に必死の売り込みをかけますが...。


夢の大都会、東京。そこは、華やかで、多くのチャンスが転がっていて、未来のある若者たちの夢を叶えてくれる街...のはず。けれど、東京で夢を叶える人の数十倍、数百倍、それ以上の人がもがいているのではないでしょうか。夢の大都会は、数多の夢が破れた場所でもあるのです。


そんな中でも、上位グループにはいるどころか、"最下位"な菜都美。その置かれた位置の低さを突き付けられた時、救いの言葉が投げかけられます。「最下位には最下位の戦い方がある。」最下位ではあったけれど、菜都美には、彼女を支えてくれる人たちがいて、その人と人との繋がりが、人生の道標となってくれるものなのかもしれません。


保険金を残して死んだ継父、良介、田舎から彼女を訪ねてきて借金をしようとする友人、いずれも、ダメダメな人たちなのですが、彼らに向けられた視線には最初から最後まで温かさが感じられます。いろいろな欠点も持っているのが人間...ということなのかもしれません。


"絵を描いて食べていきたい"その一心で、売り込みをかける菜都美。願いをシンプルな形に整理し、諦めず訴え続けていけば、大抵のことは叶うのかもしれません。もっとも、そこまですることは本当に大変なことで、なかなかできることではありませんが...。


単独の映画作品というよりは、「女の子ものがたり」に続く作品という色合いは強い感じがします。いくつかのエピソードは、多分、「女の子ものがたり」に繋げるために本作でも描かれているようにしか思えないし...。


主演の北乃きい。こう言ってしまっては失礼ですが、意外なほどに、しっかりした演技で、そこは見所だったと思いますが、全体としては、何となく物足りなさが残る作品でした。

テアトル新宿

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先週末、久し振りにテアトル新宿で映画(「そこのみにて光輝く 」)を観ました。


去年の7月の終り頃、「シャニダールの花 」を観て以来ですから、9か月振り位になるのですが...。行ってみてビックリ。入り口辺りからどうも雰囲気が以前とは違っていて...。ドアを開け、階段を下りて、更にビックリ!!!すっかり、新しくなっていました。


何でも今年の3月1日にリニューアルオープンしたのだとか...。たまたま、「シャニダールの花」の後、観たいと思った作品が本館で上映されていなかったため、ご無沙汰していたのですが、まぁ、これだけのリニューアルをしたのであれば、それなりの期間、閉館していたのでしょうし、"観たい映画の上映館として名前が出てこなかった"のも当然の話...。


これまで、邦画の両作を中心としたラインナップで、興味を惹かれる作品の上映が多く、定期的に、観に来ていた映画館でした。老舗感たっぷりというか、やや、古い感じはありましたが、比較的、客層も落ち着いた感じで、居心地の良い雰囲気の映画館でした。


劇場の扉を開けると、スクリーンの大きさも、席の配置も、随分、変わっていて、以前より、スクリーンが大きくなり、スクリーン手前の舞台も少し広くなり、席の配置も工夫され、どの席からも見やすい席の配置になっていました。


いかにも昭和な香りがたっぷりと感じられた以前とは違い、かなりイマドキなオシャレ度が上がった感じはしますが、全体に落ち着いた雰囲気は残されていたと思います。


スクリーンが一つだけの劇場なので、全体にこじんまりとしてしまうのは致し方ないところかもしれませんが、券の販売の窓口が2カ所だけで、先日は、結構、列ができていました。他では上映されていない、それでいて、結構、見応えのある作品が、比較的、上映されていて、混むことも少なくないのですが、観客が多く入る作品が上映されている時だと、窓口での待ち時間を考慮して出かける必要があるでしょう。


これまで、「かぞくのくに 」「一枚のハガキ 」「あぜ道のダンディ 」「冷たい熱帯魚 」「酔いがさめたら、家に帰ろう。 」「乱暴と待機 」「キャタピラー 」「転々 」、その他いろいろ...。なかなか印象的な邦画のラインナップです。


移り変わりの激しい新宿の街。その中で、長く営業を続けている老舗映画館の一つ。これからも、末永く頑張って欲しいものです。



公式サイト

http://www.ttcg.jp/theatre_shinjuku/

そこのみにて光輝く

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佐藤泰志の同名小説を映画化した作品。原作は未読です。


仕事を辞め、パチンコしながら、ダラダラと日々を過ごしていた達夫は、パチンコ屋で、気が荒いもののフレンドリーな青年、拓児(菅田将暉)と出会います。拓児の住むバラックには、寝たきりの父親とその世話に疲れ切った母親、そして姉の千夏(池脇千鶴)がいました。達夫と千夏は互いに惹かれ合うようになりますが...。


生きる意欲を失っているかのような達夫。自分なりの生き方を見つけられず苛立つ拓児。自分が望む生き方を諦めているかのような千夏。それぞれがそれぞれの痛みを抱えながら、それでも、それぞれの状況の中で生きています。そして、先が見えないようにも思えるそれぞれの日々の中に、小さな希望の芽が見え隠れします。


無為な日々を過ごす達夫を元の世界に戻そうとする人がいて、身体を売って家計を支えている姉に頼り切っている風な拓児にも、自分の将来を真剣に考えようとする気持ちがあり、人生を諦めているかのような千夏にも、将来への意欲が湧いてきて...。3人の出会いが、それぞれの日々に少しずつ波風を立て、変化をもたらしていきます。


千夏を演じた池脇千鶴の苦しさ、遣る瀬無さ、諦観を物語る表情が秀逸。終盤で、笑顔を見せるシーンがあるのですが、それまでの表情との落差に、彼女の心の束の間の解放を実感させられ、本作の中でも印象的な場面の一つとなっています。


達夫を演じた綾野剛も好演していますし、どうしようもないところもあるけれど、愛すべき部分も持っている拓児を演じた菅田将暉、殺したくなるようなワルっぷりが見事な中島役の高橋和也、夫の介護に疲れ切った千夏の母を演じた伊佐山ひろ子など脇もしっかりと力のあるメンバーで固められ、個々の人物に存在感を持たせています。全体に淡々とした静かな描き方なのですが、映像に奥行きが感じられ、物語に深い味わいを加えています。個々の人物の胸の内を分かりやすく解説することなく、丁寧に映像で示していて、見せ方の巧さが感じられました。実に映画らしい映画と言って良いのかもしれません。


ラストも、単純に"希望が見えた"とは言い切れない形になっています。苦しみが多く、痛みの激しい人生だけれど、それでも、ギリギリ生きる側に踏み止まってきた者たち。疲れながらも、痛めつけられながらも、諦めを感じながらも、それでも生きてきたことの強さが、彼らの中にはあった...ということなのかもしれません。ラストは手放しの"手放し"の希望ではないけれど、彼らが人生を完全には放棄しなかったことに対するささやかなご褒美なのかもしれません。人は、辛く厳しい日々でも、ほんの僅かな光を支えに生きていけるものなのです。そして、そこにこそ、希望とか、幸せとかいうものが隠れているのかもしれません。


観終えてからも、いろいろなものが胸に湧きあがってくる...そんな後を引く作品でした。お勧めです。原作も読んでみたくなりました。



公式サイト

http://hikarikagayaku.jp/

8月の家族たち

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ピューリッツァー賞を受けた同名戯曲を映画化した作品。


父親のベバリーが失踪したことで、オクラホマの片田舎に住む母親、バイオレットの元に、3姉妹が集まります。一癖ある母バイオレットはガンで闘病中、病気の痛みや先への不安から薬への依存を止められません。長女のバーバラは夫の浮気と娘の反抗期に悩んでいました。一方、次女アイビーはひそかな恋に胸を躍らせており、三女カレンは怪しげな婚約者を伴っての帰省。久し振りに家族が再会し、本音をぶつけ合う中で、秘密が明らかになっていき...。


家族が壊れていきます。決して、憎みあっているだけの家族ではありません。互いに思いやる気持ちも愛情も感じられます。けれど、ことごとくすれ違って、溝を深めていきます。気遣いが嫌がらせになり、心配が身勝手な束縛になり...。


互いへの期待や甘えがある分、家族同士の争いは深く激しいものになりがち。他人同士なら、血みどろの争いをするより、争えない程の距離をおくという洗濯をすることができます。けれど、衝突してもいがみ合ってもきっても切れない部分が残ってしまうのが家族。何よりもきついのは、相手の中にある一番嫌な部分が自分の中にも見えてしまうことかもしれません。それだけに、一度狂い出した歯車を止めることは至難の業。


この家族、少々、激し過ぎる感じは否めませんが、バイオレット、バーバラ、アイビー、カレンの母と3姉妹。そこに、バイオレットの妹、マティ・フェイまで加わった女4人。それぞれが他の3人の中に、自分に繋がる嫌な部分を見ざるを得ない関係だけに、難しさがあるのでしょう。いい


かなり重く苦しい澱んだ空気に満たされた作品ですが、その中でも、クスリと笑わせられる部分もあったりするのは、見せ方の巧さ、そして、鬼気迫る演技で圧倒するバイオレット役のメリル・ストリープ、そこに真っ向勝負を挑んで引けを取らないジュリア・ロバーツをはじめとする演技陣の力ゆえなのでしょう。正直、かなり胃もたれする感じもしましたが、見応えありました。


いつか、バーバラのどんな人生を選んでも構わないから、自分より先に死ぬことだけはしないで欲しいという言葉がジーンの心に届く日が来るのでしょうか...。この部分、愛する子どもに死なれる経験だけはしたくないという親たる者の切なる願いだと思うのですが...。


夫にも娘たちにも去られたバイオレットが縋りついたのは、それまで嫌っていたジョナでした。家を出てバイオレットの反応を見て行動を決めるという賭けに出たベバリーのバイオレットへの"保険"だったのかもしれません。どちらに転んでも、バイオレットが一人にならないように...。


バイオレット、バーバラ、それぞれのラストシーンは、光に包まれています。そこにあるのは、希望と言い切ることができる程、明るさを感じさせてはくれませんが、ひと時の安らぎを感じさせてくれます。


下手に家族に頼ろうとするより、全くの他人、それも、お金が介したビジネスライクの関係の方が、素直に想いを伝えられるということもあるのでしょう。一緒にいるよりも、離れた方が真っ直ぐに思いあえるということもあるのかもしれません。


家族というものの強さ、脆さ、危うさ、そして、儚い希望を感じさせてくれる作品でした。重く苦しい作品ですが、それでも、観て良かったと思えました。まぁ、元気のない時には観ない方が良い作品だとは思いますが...。



公式サイト

http://august.asmik-ace.co.jp/

タイピスト!

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タイピスト! DVDコレクターズ・エディション (初回限定生産)/ロマン・デュリス,デボラ・フランソワ,ベレニス・ベジョ
¥4,104
Amazon.co.jp


都会暮らしに憧れて、田舎から出て来たローズは、保険会社経営のルイの秘書に応募。晴れて採用されますが、不器用なローズは、一週間の試用期間でクビが確定。けれど、ローズの唯一の才能、タイプの早打ちを見抜いたルイは、彼女と組み世界大会で優勝するという野望を抱きます。その日からルイによる猛特訓が始まります。メキメキと才能を開花させていくローズでしたが...。


すっかり前時代の遺物となってしまったタイプライターですが、そのキー配列は、今こうして私が打っているPCのキーボードにその姿を留めています。ローズの打ち立てた1分間で515文字という記録ですが、タイプライターが、イマドキのキーボードよりずっと打ちにくい代物だったことや、紙の入れ替えがあったりすることを考えると、かなり驚異的な早さなのではないかと思います。いずれにせよ、タイプライターへの善きオマージュとなった作品と言えるでしょう。


青春のスポコン+ロマンス...ということで、日本でいう「アタックNo.1」とか「エースをねらえ!」といったスポコン少女漫画の系譜に連なるような物語。田舎から出てきた世間知らずのオンナノコが、才能を見出され、鍛えられ、思いもかけなかったところに上り詰めていく。その過程でお約束のコーチとの恋があり、ちょっとした障害があり、予定調和のハッピーエンドに向って突き進んでいく...。


最初は、野暮ったい田舎娘だったローズが、徐々に、美しく洗練されていく姿、それにともない、一人の男性としての成長を見せるルイ。彼らを見守るボブとマーリーが、あまりに大人な感じで、ルイの存在感を少し弱めてしまった感じもしますが、ルイの弱さや抱えた傷を示す役割を担っていて、彼らとの遣り取りもユーモラスで面白かったです。


ただ、ラストでのルイとボブの遣り取り。儲けは50/50とのボブからの提案をルイはそのまま受け入れますが、後で、父親からゴッホの絵の件と同じように怒られることになるのではないかと...。このボール式は後の印刷機などでも広く取り入れられる手法で、相当な儲けになったはず。ルイは、もっと自分の取り分を要求することができたはずなわけで...。恋については成長した姿を見せたルイですが、ビジネスに関してはまだまだ...といったところでしょうか...。


かなりベタな作品ですが、全体を包み込む、いかにも1950年代な雰囲気の映像が綺麗だし、家庭だけが居場所だった女性たちが社会に出ていく時代の息吹も感じられ、楽しめます。


綺麗で可愛らしい色彩が、いかにもファッションの国、フランスな感じで良かったです。


良くも悪くも最初から最後まで、安心して観ていられる作品。心地よく観終えることができました。