少年H

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少年H DVD(2枚組)/水谷豊,伊藤 蘭,吉岡竜輝
¥4,935
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妹尾河童の同名小説を映画化した作品。原作は未読です。


昭和初期の神戸。洋服の仕立屋を営み、柔軟な考えを持ち、家族を温かく見守る父親の盛夫。大きな愛で家族を包む母親の敏子。そんな二人のもと、好奇心旺盛に育つHこと肇と妹の好子。幸せに暮らしていた4人でしたが、H一家の周りでも、近所のうどん屋の兄ちゃんが政治犯として警察に逮捕されたり、召集令状がきたオトコ姉ちゃんが入隊せずに脱走して、憲兵に追われるなど、徐々に不穏な空気が漂うようになってきて...。


平和は突然失われるものではないし、戦争も急に起こるものではありません。戦争ができる環境を整えるのは、それなりの準備が必要なわけで、大抵の場合、阻止するチャンスがあるものなのだと思います。日本が中国との戦争に突入しようとしていた頃も同じで、少しずつ、社会のルールが変えられていき、世の中の"空気"が変わっていき、いつの間にか、後戻りできないところに辿り着いてしまい、行くところまで行ってしまう...。


"進め一億、火の玉だ"と叫ばれたあの時代でも、全くの例外なく、日本国民が戦意を高揚させていたわけではありません。出征の兵士を勇ましく盛大に送り出しながらも、陰では涙を流していたりしたのですし、"贅沢は敵だ"というスローガンの"は"と"敵"の間に"素"を入れるセンスを持つ人までいたのですし、本作の登場するうどん屋の兄ちゃんの様な政治犯もいましたし...。


けれど、多くは、危うさを感じつつも、自分の、家族の、大切な人々の身を護るために、口をつぐんでしまいました。盛夫もその一人。そして、口をつぐむという行為が、戦争への歩みを後押ししてしまったことも事実。


いくら外国人との付き合いがあるとはいえ、盛夫たちが、かなりの情報通だったのは変な話で、これなら、彼がスパイと疑われるのも仕方ないというか、実際、スパイ活動のようなことをしなければ、そんな情報は得られないのではないかとか、そんな部分もありましたが、それは、原作の問題なのでしょう。原作について、事実誤認があるというのは、随分、指摘されていましたし、その部分は、いつの間にやら改訂されていたとかいないとか...。


終戦後、見事に"変節"する大人たちが描かれます。"空気"を読む能力にたけている彼らは、空気が変わればそれに順応していくのでしょう。空気の流れに従って、世の中が一色に染まっていくこと、それは、右に振れるのであろうと、左に振れるのであろうと、社会に生きる人々に窮屈な思いをさせ、追い詰めていくことになるのでしょう。


本作を観ていて、今の私たちは、危ない道に踏み出していないか、きちんと考えるべき時にいるような気がしました。


妹尾家の人々の支え合い、頑張る姿は素敵なのですが、やや、綺麗に描き過ぎている感じは否めませんでした。まぁ、原作が"自伝的小説"であるといおうこととも関係しているのでしょうけれど...。

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拳銃の報酬

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拳銃の報酬 [DVD]/ハリー・ベラフォンティ,ロバート・ライアン,シェリー・ウィンターズ
¥5,040
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免職された元警察官のデイヴ・バーク(エド・ベグリー)はハドソン川に沿って北にあるメルトンの銀行強盗を計画します。バークは、前科者で職につけず、情婦ロリー(シェリー・ウィンターズ)に養われているアール・スレイター(ロバート・ライアン)を誘います。けれど、黒人に対する差別意識の強いアールは、もう1人の仲間が黒人と知ると仕事を断ります。バークは黒人音楽家のジョニー・イングラム(ハリー・ベラフォンティ)も誘っていましたジョニーは、競馬での借金が膨らみ、暗黒街のボスから、返済をしないと別れた妻と子どもに危害を加えると脅され、追い詰められていました。バークは、借金を肩代わりする条件で仲間に引き入れます。こうして彼ら3人はそれぞれの苦境を脱け出すため、大きな賭けにでますが...。


それにしても、警察官だったデイヴなら、目的を達成するためにはチームワークが必要なことなど百も承知だったのではないか...。仲間割れで失敗した犯罪が多いことなど知っていたのではないか...。それなのに、このメンバーでチームを組んだのは、何故か?この計画には黒人の協力者が必須、ということで、ジョニーを外すことは難しいのでしょうけれど、アールは、代替え可能なような...。元警官のデイヴなら、他にも条件に見合う前科者を見つけることもできなのではないかと...。


まぁ、やはり、本作は人種差別を描きたかった映画だと思いますし、そうなると、それを言ってはオシマイだし、他に選択肢がなかったと言うことでもアリだとは思うので、それはさておき...。


このジョニーとアールの対立が、なかなか見応えあります。最初から波乱含みの計画に対する不安を醸し出し、本作の雰囲気を作り上げています。特に、いよいよ、計画を実行に移すという段階でのぶつかり合いは、迫力があり、そこから予測される計画の行方に不安が高まっていきます。


3人のキャラクターや暮らし振りを丁寧に描いているので、ともに行動する場面でのそれぞれの心の動きに深みが生まれています。特に、時を待つ間の3人の映像が、それぞれの緊張感、焦燥感や不安などを如実に物語っています。3人それぞれのしょうもないところがあり、愛すべきところもあり...その辺りのバランスも良かったのかもしれません。


アールのジョニーに対する差別意識が原因となって計画が失敗に終わるであろうことは初めから予測できるのですが、終り方が実に巧い!!!人種差別を扱った作品の中でも、出色といって良いと思いますが、何とも皮肉の利いたラストでした。


流石に本職だけあって聞かせてくれるハリー・ベラフォンティのライブも聴き応えありました。しっかりとそのシーンに時間が割かれているのは、サービス...かもしれません。


今となっては、ありきたり感も否めませんし、犯罪の計画があまりに杜撰で、準備も不足していると思いますが、ハリー・ベラフォンティの歌と皮肉の利いたラストで、なかなか面白い作品になっていたと思います。

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風にそよぐ草

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風にそよぐ草 [DVD]/サビーブ・アゼマ,アンドレ・デュソリエ,アンヌ・コンシニ
¥5,040
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1996年にクリスチャン・ガイイの書いた小説「ランシダン」が原作(集英社文庫「風にそよぐ草」河野万里子訳)。原作は未読です。


ある日、歯科医のマルグリット(サビーヌ・アゼマ)は街で引ったくりに遭いバッグを持ち去られます。駐車場に捨てられた財布を拾ったのは初老の男性、ジョルジュ(アンドレ・デュソリエ)。中に入っていたマルグリットの小型飛行機操縦免許の写真を見て、彼の中で何かが弾けます。迷った挙句、警察に届け、財布は、マルグリットの元に戻り、彼女はお礼の電話をかけますが...。


どこからどうみても完全にストーカーなジョルジュ。何故か、そんなジョルジュを追うようになるマルグリット。ストーカーで、変にエラそうで、すぐ切れて、訳の分からないことを言い出すジョルジュのどこが良かったのか...。まぁ、マルグリットにとって、初めてのタイプの男性で、初めての体験で、これまでに触られたことのない感情を揺さぶられたのかもしれませんが...。


もっとも、人が人を好きになる理由なんて、本当は、明確なものがあるワケではないのでしょう。そう、訳もなく、恋してしまうのであり、愛が生まれてしまうであり、恋や愛の理由などというものは、後付けの理屈にすぎないのかもしれません。


年齢を重ねても愛し方が大人になるわけではなく、第三者が納得できるような理屈があって恋愛するわけでもありません。恋だの愛だの、そんなものは、理屈では説明できないものなのだし、当事者たちが予想できないところで突然生まれてしまうものだし、人はいくつになっても恋愛にドキマギするものなのかもしれません。


マルグリットの心が、何故、ジョルジュに向かったのかという点については、共感しにくいものを感じましたが、マルグリットの、そして、ジョルジュの心情の変化は実に丁寧に描かれます。ジョルジュに心を奪われていくについて、患者が痛い思いをする...といった辺りも、なかなかコミカルに描かれていて印象的でした。


ジョルジュが追う側から追われる側に立ち位置を変えた辺りからは、ジョルジュの妄想なのかと思いながら観ていたのですが、そうとも言い切れないような...。


何がどうなっているのかを気にしだすと、オカシナところだらけで物語に集中できません。何も考えず、作品の世界に浸るのが正解でしょう。


ジョルジュも、「トコリの橋」という映画を観た後で、言っています。"映画のあとでは何も驚かない。あらゆることが起こりうる。すべてが自然に起きるんだ。"って。

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パーフェクト・プラン

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パーフェクト・プラン 完全なる犯罪計画 [DVD]/グレッグ・キニア,アラン・アーキン,ビリー・クラダップ
¥3,990
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田舎町で保険のセールスマンとして働くミッキーは、代理人が一堂に会する集会に参加した際、財布の現金を盗まれてしまいます。そんな中、ボブという人の良い新人代理人と知り合い、まが保険業の資格を持っていない彼を見習いとしてスカウトします。ボブは、熱心に営業をし、町はずれで暮らす老人、ゴルヴィーに保険の勧誘を行います。ボブからゴルヴィーへの営業を引き継いだミッキーは、ふとしたことからゴルヴィーの持っているヴァイオリンが価値のあるものであることを知ってしまい...。



ネタバレありです。








あまりに見事なタイミングで、適切な人物が登場し、意味あり気な出来事が起こるので、全編に妖しさが充満という感じではあるのですが、なかなか力の入った大ドンデン返しだとは思います。まぁ、最後の"説明"が丁寧過ぎて長過ぎる感じはしますが、悪くない感じはしました。


最初、主人公の計画が"パーフェクト"なのかと思って観ていると実は...という展開なのですが、主人公の"計画"があまりに粗いので、何が"パーフェクト・プラン"なのか、すぐに予測がついてしまう点はもったいない感じがします。このタイトルのネタバレがなければ、もっと気持ちよく騙されたかもしれないのに...。


出演陣が、それぞれの演じたキャラクターによく合っていて、作品の雰囲気は良かったと思います。ラストも、大ドンデン返しの後に、ちょっとした捻りが効いていて、なかなか楽しかったです。


ちょっとずつ変だったリ、ちょっとずつ身勝手だったりする登場人物たち。そんな人間味のある彼らが、それぞれに何かを手に入れる...そんな纏め方が心地よかったです。


レンタルのDVD鑑賞で十分かとは思いますが、それなりに楽しめる作品です。

時の流れに~鳥になれ

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"時の流れに"というと、テレサ・テンの"時の流れに身をまかせ~♪"という歌があまりにも有名ですが、今回、取り上げるのは、五輪真弓作詞作曲の歌です。


五輪真弓と言えば、一番のヒット曲は"恋人よ"で、カラオケ屋でも、五輪真弓の曲はそれだけか、"リバイバル"との2曲ってところが多くて、カラオケ屋で分厚いカタログを探しても、見つからなかったりするのですが、紅白(1986年)でも歌われたことのある曲です。


私が初めてこの曲を聞いたのは、深夜のテレビ東京。何かのコマーシャルで使われていました。歌詞も曲もとても素敵で、一度歌ってみたいと思いながらも、なかなか楽譜を入手することができずにいたのですが、ついにGETしたのが、昨年の春頃。


過ごしてきた日々への想いと過去への慈しみを感じさせつつも、未来へ向かう姿勢が感じられて、静かに心に沁み込むような重みと清々しさを同時に味わわせてくれる歌詞になっています。


昨年の10月、初めて、今歌を習っているところの発表会で歌いました。さらに、先週、仲間内でのコンサートで歌いました。


1986年4月にシングル(もちろん、CDではなくレコード)が発売されたという古い曲ですが、今も色褪せない魅力を持っている曲だと思います。


あまり、世に知られていないのは何とも勿体ない感じがします。


amazonでは、この曲が入っているCDを取り扱っていました。MP3での購入も可。You Tubeでもご本人が歌っている映像を視聴することができますので、是非、聴いてみてください。

GOLDEN☆BEST deluxe 五輪真弓 コンプリート・シングルコレクション/五輪真弓
¥3,999
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17歳

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名門進学校に通う女子高生、イザベルは、家族と夏の休暇を過ごした浜辺で知り合った男と"処女を捨てるため"の初体験をし、その数日後、17歳かの誕生日を迎えます。パリに帰ったイザベルは、出会い系サイトで相手を物色し、売春を繰り返すようになります。




裕福な家庭で生まれ育ち、医師の母とその母の再婚相手で血の繋がらない仲ながらも優しい継父に愛情を注がれているイザベル。美人でスタイルも良く、その気になれば、ボーイフレンドにも困らない彼女が、何故、売春を繰り返すのか...。




嘘か誠かはっきりしない母親の"不倫疑惑"とか、仲が良いと思われた知人夫婦の家に置かれていたあるグッズとか、"大人の世界にあるいかがわしさ"も描かれますが、それが売春に走る原因...というのも無理があるような...。




彼女の生活を見る限り、お金のために売春をせざるを得ない程、経済的に困窮しているとは思えず、こうした形で相手を見つけなければならない程、異性と出会えない環境にいるとも思えません。売春で得たお金はクローゼットの中にしまいこんで使わないし、セックスを楽しんでいるようにも見えません。それなのに、何故、売春を繰り返すのか...。コトがばれて母親に問われても何も言おうとしないイザベルですが、彼女自身の中にも、その答えはなかったのかもしれません。




大人にもなれず、子どもでもいられない17歳の危うさ、若さと美貌を兼ね備えていたからこそ入り込んでしまった迷宮。もちろん、これは、17歳の側だけの問題なのではなく、若さと美貌を売れる市場を形成する側の問題でもあります。イザベルは、若さと美貌だけに金を払う客たちをどう感じているのか...。




イザベルを演じるマリーヌ・ヴァクトの見事な美しさは印象的なものの、どこかで観たことがあるような"大人になる少し手前で、大人の世界の裏側に落ち込みそうになった少女の物語"で終わるのかと、がっかりしかける頃、"大物登場"。




ジョルジュの妻、アリスの登場によって、物語が急展開し、本作の持つ味わいがぐっと深まっていきます。




アリスは、イザベルに言います。「私も若かったら、金を払わせて男と寝たかもしれない...。ただ、勇気が足りなかっただけ。」と。けれど、今では、自分の方がお金を払わないといけないだろうと。イザベルが持っていてアリスが持っていないものは、若さと綺麗さ(イエ、アリスを演じたシャーロット・ランプリングは、十分美しいですが...)。それでも、アリスの存在感は、イザベルを圧倒します。イザベルもアリスに対する"負け"を自覚したのではないでしょうか。




この時、イザベルは、少女から大人の女性に一歩を踏み出したのではないかと思います。このクライマックスを観て、もしかしたら、イザベルは、売春をすることによって、自分の若さと美貌の価値を実感していたのかもしれないと思いました。そして、若さと美貌を武器に、世の中と闘っていたのではないかと...。




子どもが大人になるためには、大人に対して徹底的な敗北感を味わうという体験が必要なのではないでしょうか。そして、イザベルは、アリスに対し敗北感を味わったのではないかと...。イザベルのこの先を予感させ、余韻を残す印象的な幕切れでした。






公式サイト


http://www.17-movie.jp/

ビル・カニンガム&ニューヨーク

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ビル・カニンガム&ニューヨーク [DVD]/ビル・カニンガム,アナ・ウィンター,トム・ウルフ
¥4,935
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ニューヨーク・タイムズ紙の人気ファッション・コラム"ON THE STREET"と社交コラム"EVENING HOURS" を長年担当する写真家のビル・カニンガム。ニューヨークの街角で50年以上にもわたりファッション・トレンドを撮影してきたニューヨークを代表するファッション・フォトグラファーですが、彼自身については謎につつまれており、親しい業界人でさえ彼のプライベートを知る者はほとんどいません。そんなビルの日々の密着したドキュメンタリー。


「プラダを着た悪魔」の鬼編集長のモデルとして知られている米ヴォーグ誌編集長のアナ・ウィンターに「私たちは、いつもビルのために着るのよ。」と言わしめるほどの存在であるビル。求めれば、相当のお金も名誉も得られるはずの彼は、そうしたものには無頓着な様子。ファッションを愛し、ニューヨークの街を愛し、ひたすらそれを記録していく。愛があるからこそ、そこを流れていく一瞬を記録として留めておきたいという情熱が湧くのかもしれません。


"金に触れるな、触れたら最後だ。""自由より大事なものはないんだ。"人は、お金で変わるもの。お金を使うのは自分と信じていながら、お金に振り回される...という実例を目にすることは少なくないワケで、ビルは、そんな人間の弱さが自分の中にもあることを自覚しているのかもしれません。自分が本当に欲しいものが何なのか、それをきちんと認識していれば、余計なものに振り回されず、歩むべき道に集中することができるものなのかもしれません。この潔さがビルの一番の魅力なのだと思います。


愛用のニコンのカメラは、デジタルカメラではなく、フィルムのカメラ。で、フィルムは富士フィルム。現像された写真をスキャンし、最終的にはデジタルで編集するわけですが、フィルムでの撮影に拘るのは、やはり、その画質でしょうか。ファインダーを覗き込みながらの撮影スタイルには、懐かしさと、職人的なこだわりが感じられました。


1928年生まれとのことですから、御年86歳。本作撮影時は、もう少しお若かったとはいえ、自転車にまたがって街を疾走する姿は、とても80歳を超えているようには見えませんでした。


ビルが、少しでも長く、写真を撮り続けていけるよう祈りたくなる、そんな作品です。本作を観るまで、ビル・カニンガムについて、全く何も知りませんでしたが、十分に楽しめました。お勧めです。

プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命 [DVD]/ライアン・ゴズリング,ブラッドリー・クーパー,エヴァ・メンデス
¥3,990
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天才的なライダーのルーク(ライアン・ゴズリング)は、移動遊園地で命懸けのバイクショーを行い、その日暮らしの生活を送っていました。ある日、ひょんなことから、かつての恋人ロミーナ(エヴァ・メンデス)と出会い、彼女の住むNY州スケネクタディにやってきます。ロミーナが自分の子どもを産んでいたことを知ったルークは、2人を養えるようになるため、街で出会った自動車修理工の男と銀行強盗を行い、大金を手に入れます。一方、立身出世に野心を燃やす新米警官のエイヴリー(ブラッドリー・クーパー)は、ルークを追い詰めますが、彼と対峙した際に重大なミスを犯してしまいます。ところが、彼はこの一件で、周囲から高く評価され、それを足掛かりに出世します。15年後、ルークの息子ジェイソン(デイン・デハーン)は、高校生になっていました。何も知らず、同級生としてエイヴリーの息子AJ(エモリー・コーエン)と親しくなりますが、やがて父親たち、ルークとエイヴリーの秘密を知り、復讐心に駆られて...。


3つの物語が描かれます。ルークが家族との生活を夢見て銀行強盗をする物語、エイヴリーが警察の腐敗と闘う物語、そして、息子たちの物語。ルークからエイヴリーへ、そして、ジェイソンへと主人公が変わっていきます。


この最初の物語で主人公になるルークの存在感が強く、最後まで、彼の印象が脳裏に残ります。まぁ、そのルークの存在が、3つの物語を繋げてもいるので、それがあって、一つの作品としての纏まりが得られているのかもしれませんが、やや、バランスを欠く感じもしました。そして、ルークが中心から外れることで、物語も失速してしまいます。ラストに向かうに連れ、面白さが減っていくので、140分はかなり長い感じがしました。


元カノと息子のために、その日暮らしを改めようとしたルークですが、生活の基盤を整えるための手段が銀行強盗というのは、いただけません。そして、そんなルークの"敵"となったのが、エイヴリー。自分のミスに悩んだりする様子も見受けられるエイヴリーですが、結局は、要領の良さや狡猾さを見せつけてくれます。どっちもどっちな2人ですが、命を奪われた分、ルークに同情が集まるのは致し方ないところでしょう。


血の繋がりのない息子に本物の愛情を注いでくれる父を得たジェイソンですが、その父の偉大さを理解しながらも、実の父への想いを強くするジェイソン。彼の行く末がルークの歩んだ道に重なってしまうのではないかという一抹の不安も残りますが、"復讐心"に魂を絡め取られることのなかったジェイソンの強さを信じたくなるラストでした。そう、ジェイソンは、ルークが受けられなかった"父親からの愛情"を得ることができたのですから。


むしろ、問題を抱えているのはAJなのでしょう。なかなかワルなAJは、祖父や父の血を受け継いだ存在ということなのでしょうか。エイヴリーの罪が暴かれる時が来るのかどうか...。


宿命を克服しようとする者と、宿命に巻き込まれていく者。それぞれの来し方、行く末を考えさせられます。なかなか重い余韻の残る作品でした。


終り方が中途半端というか、唐突な感じもありましたし、ラストに向けての失速感は残念ですが、不思議と心に残るもののある作品です。

トゥ・ザ・ワンダー

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トゥ・ザ・ワンダー [DVD]/ベン・アフレック,オルガ・キュリレンコ,レイチェル・マクアダムス
¥3,990
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フランス西海岸に浮かぶ小島、モンサンミシェル。アメリカからやって来たニール(ベン・アフレック)は、そこでマリーナ(オルガ・キュリレンコ)と出会い、互いに深く愛し合いますが、アメリカへ渡り、オクラホマで生活を始めたふたりの幸せな時間は長く続きませんた。マリーナへの情熱を失い、やがて幼なじみのジェーン(レイチェル・マクアダムス)に心奪われるニール。そして、彼との関係に苦悩するマリーナはクインターナ神父(ハビエル・バルデム)のもとを訪れ...。


まぁ、何がしかの"雰囲気のある作品"です。何となく、哲学的で、芸術的で、神秘的で、抒情的で、詩的で...。そんな雰囲気です。が...、雰囲気だけではないかと...。深そうで意味あり気だけれど、実は、そんな風に装っているだけという。


雰囲気のある言葉をところどころに散らして、綺麗な映像を背景に流し、耳触りの良い音楽を流す...。中心に言葉があるように思えるのですが、その言葉に、観る者の心に訴えてくる力が感じられません。


登場人物たちの状況や感情が、セリフや表情ではなく、ナレーションで語られてしまうからなのだと思いますが、登場人物たちも、風景写真の添え物という感じで、生身の存在のようには感じられませんでした。ニールとマリーナが愛し合う時も、互いに相手に夢中になっているというより、観客の目を意識して動いている感じがしてしまうからなのかもしれません。


朗読に映像、それも、動画というより、沢山の写真と音楽を加えた作品と思い、何も考えず作品の世界に浸ることができれば、それなりに心地よく時間を過ごせるのかもしれません。好きな人は相当好きになれるのでしょうし、嫌いな人にとってはとびっきりの駄作といった感じで、好き嫌いが判れる作品だと思います。

アルマジロ アフガン戦争最前線基地 [DVD]/ドキュメンタリー映画
¥4,935
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国際平和活動(PSO)の名の下、前線基地に派兵されたデンマークの若い兵士たちに7カ月間、密着撮影されたドキュメンタリー。平和な日々を過ごしていた若者たちが、タリバンを敵とする偵察活動という戦争の現場で徐々に変化を見せ...。


70年近い年月、国内が戦場となることも、直接的な形で、国外の戦場で戦うこともなくきている日本。このところ、そんな平和主義も妖しくなってきていますが、今のところ、まだ、身近な人間がいきなり戦場に駆り出され、殺し合いをせざるを得ない状況に置かれる心配をしなくて良い状態ではあります。そして、ニュースなどで触れる今この世界のどこかで起きている戦争や紛争でも、兵士と兵士が接近して命の遣り取りをするというよりは、遠く離れたところから殺傷力の高い武器を操る方法も開発されたりして、生身の人間が命を張って闘う...というイメージから少しずつ遠のいている状況もあります。


本作を観ると、戦争が、少し前まではごく普通の若者であった兵士たちが殺し合うことを基本とした行為なのだということを改めて実感させられます。


殺人を楽しんでいるとしか思えないような人物もたまにはいるというのも事実ですが、それでも、人を殺す...というのは、普通に生活する多くの人にとっては、簡単なことではありません。例え、相手を殺さなければ自分が殺されるという状況での"正当防衛"だったとしても、人を殺して全く後悔が残らないと言うことはないような気がします。そんな普通の若者だったはずの兵士たちが、"敵を殺す"行為に馴れていき、達成感まで得られるようになる。それが、戦争...。


けれど、それでも、戦争は、"怖ろしい"だけのものではありません。


一方、人は、基本的には優れた適応力を持つもの。かなり過酷な環境でも、いずれ適応していきます。そうしないと生きていけないから...。武器を取って、特別に恨みのない相手を殺す。そんなことも、日常となってしまえば、最初の躊躇も薄れていきます。"殺さなければ殺される"という戦場の環境と彼らが送り出された大義名分も、彼らの変化を後押しする力になっているのでしょう。そして、単に馴れる以上に、"日常"となった戦場においても、人は、楽しみを見つけ、喜びを見出すもの。


で、"相手が撃ってくれれば願ったり"などというセリフまで登場。敵を見つけた以上、攻撃せずにはいられなくなる、そして、攻撃する理由が欲しくてたまらなくなる。敵と対峙する状況に追い込まれることに不安を感じていた最初の頃との変化に、戦争の恐ろしさを実感させられます。


英雄として凱旋帰国しても、なかなか平穏な日常に戻れないのでしょう。最後に少なくない兵士たちがアフガンに戻ったことが示されます。極限の体験をした彼らが、同じ体験を共有できる相手は戦場にしかいなかったということなのでしょうか。


一人一人のキャラクターの描き方などが丁寧で、"本物の映像"なだけあって、実にリアルなのですが、不思議と、却って、リアリティが迫ってこない感じがします。"本当の戦い"を知らない私たちが、なかなか、その現実の中に生きた者たちの心情を理解できず、彼らを"異端"として社会からはじき、戦場に戻してしまうのも、そんなところに原因があるのかもしれません。


軍隊に居心地の良さを感じてしまう人間が少なからずいるという現実。そして、私たち、人間は、戦い、殺すことに快感を覚えてしまう性質も持っているのだということ。もしかしたら、人の命が簡単に酷く奪われていくことより、このことが本当の戦争の怖さなのかもしれません。


"何故、戻ったのか"という点をもう少し掘り下げて欲しかった気はしました。その点は残念。とはいえ、世界のどこかで常に起こっている戦争の現実の一部を観られる本作が、私たちにとって観るべき一本であることは間違いないでしょう。