アメリカン・ウェイ

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アメリカン・ウェイ [DVD]/出演者不明
¥3,990
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ベトナム戦争当時、古ぼけたB-29に乗り込み、TVメディアでゲリラ戦を遂行する特殊部隊"SM-TV"がいました(もちろん、そんな史実はありません)。主なメンバーは、"船長"デニス・ホッパー)、ずーっとマリファナ吸っててへろんへろんな"操縦士"、天才エンジニアの"ドク"、メカ車椅子に乗り始終具合が悪そうな"エース"、ミサイルの上でヨガやったり黒人とマッサージしあったりしているベトナム人青年、地上と機内を行き来しているレポーターの"サム"。彼らは、1986年になりようやく戦地から帰還。B-29内のスタジオから全国ネットの番組を次々電波ジャックし、人気を博していました。そんな彼を目の敵にしていたのが、大統領になろうとしていたタカ派女性議員、ウェスチングハウス。彼女が当選すれば戦争は必至。それを阻止しようと"SM-TV"の面々は、B-29で全米を飛び回り、彼女のキャンペーン番組を次々に電波ジャックしていきますが...。


本作に登場するキリスト教系TV局、WITVで歌われる、視聴者から寄付を募るために「キリスト様にお金を送りましょう」と歌われる"Send Jesus Some"が、なかなかの傑作です。


ラスト、まぁ、お約束通り、"ロックな精神"が勝利を収めるのですが、敵対するタカ派議員を失脚させるネタが、あまりにあまり...。ここは、やはり、本作のキモだと思います。ブラックユーモアを交えながらも、議員の主義主張の矛盾や問題点を正面から衝いて欲しかったような...。


本作が制作されたのは、レーガン大統領の頃。その後、"9.11"のショックもあって、ますます右に舵を取っていき、イラクでの戦争も泥沼化していくわけですが、それを推し進めたブッシュもキリスト教原理主義者たちの支持を受けて大統領になっています。現在のオバマ大統領は民主党。まぁ、基本的に、共和党の大統領に比べれば平和的なのでしょうけれど、それでも、キリスト教原理主義者たちの力は、アメリカ国家にしっかり根付いているわけで、アメリカという国を考える上で無視できない勢力だと認識すべきなのでしょう。


そう、ここに登場する"アメリカ人らしいアメリカ人"は、田舎で農業を営み、敬虔なキリスト教信者で、"LA"と言われてもそれがロサンゼルスのことだと分からないような"イージー・ライダー "に登場するような"典型的"アメリカ人なのです。


本作は制作国がイギリスになっています。ここまで宗教を攻撃した作品をアメリカで制作というわけにはいかなかったのでしょう。本作で描かれている通り、キリスト教原理主義国家ですから...。もっとも、日本で、ここまで、日本国家の在り方を批判する映画のを作って大きな劇場で公開することができるか...ということになると、かなり危うい感じがしますので、この点において、アメリカを非難することはできないのでしょう。


かなりの力を持ち、国家体制を支えている彼らを茶化すことは、相当に勇気のいること。それでも、そこに挑戦し、"政治"と"宗教"と"カネ"。その三位一体の関係を抉っているところが見事。


古ぼけた戦闘機にむさ苦しいオジサンがずらり。この画面は、なかなか見苦しかったりしますし、全体にチープな感じが漂う作りの粗さが目立つ作品でもありますが、一度は観ておきたい作品だと思います。

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友情

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友情 [DVD]/イヴ・モンタン,ミシェル・ピコリ,セルジュ・レジアーニ
¥3,990
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工場を経営するヴァンサン、作家のポール(セルジュ・レジアーニ,)、医者のフランソワ(ミシェル・ピコリ)は、昔からの友人。中年になった今、それぞれが悩みを抱えていました。ヴァンサンは妻と別居しており、離婚の瀬戸際。ポールはスランプに陥り、なかなか新作を書けません。フランソワは妻の浮気に悩んでいて、彼女に思わず暴力をふるってしまいます。さらにヴァンサンは、金銭問題による工場の倒産の危機という苦境に立たされ...。


一見、幸せそうに振る舞いながら、それぞれに苦悩を抱えている3人。"友人"ではあるようですが、"親友"と呼べる程、苦楽を共にしたり、何を措いても相手を助けるために力を尽くしたり、といった類の親密さは感じられません。ベタベタするわけでもなく、無関心でいるわけでもなく、程よい距離感での大人のお付き合い...といったところでしょうか。いろいろあっても一緒にいられる仲間...というところがポイントなのかもしれません。


特別に派手なことが起こるわけでもない日常が描かれます。別居、離婚、妻の浮気、スランプ、金銭問題...。まぁ、どこの世界でも、中年期に、人生の危機を迎えることが少なくないのかもしれません。若さが失われていることをはっきりと自覚し、老いを感じるようになる年代。そろそろ人生も終盤に差し掛かり、身体的にも、精神的にも無理ができなくなる時期。


長い付き合いの友人がいても、そのことで問題が解決されるわけではありません。ヴァンサンは離婚し、未練タラタラでしたが、復縁は叶わず、工場は手放さざるを得なくなります。フランスワは妻に捨てられ...。


それでも、それぞれが影響しあう部分もあり、互いに支え合っている部分もあり。派手さもなく、あつさもなく、ごくごく普通の日常の中に静かに確かに存在する関係性。彼らの間にある絆は、特別に固くも強くもないのでしょうけれど、しなやかで


ヴァンサンを演じたイヴ・モンタン、フランソワを演じたミシェル・ピコリ、ポールを演じたセルジュ・レジアーニが、それぞれ、役どころにぴったりと嵌っていました。他の出演陣の演技も、それぞれに印象的。丁寧にしっかりと作られた世界に、どっぷりと浸ることができました。


ヴァンサンが経営する工場のかつての共同経営者の息子で、彼の工場で働きながら、ボクサーとして試合にも出るジャンを演じたのが、若き日のジェラール・ドバルデュー。今のお姿が信じられない程、スリムです。


"友情"は邦題で、原題は"VINCENT, FRANCOIS, PAUL...ET LES AUTRES"。日本語にすると、"ヴァンサン、フランソワ、ポール...。他。"ということになります。原題の方がしっくりくるような...。

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桐島、部活やめるってよ

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桐島、部活やめるってよ(DVD2枚組)/神木隆之介,橋本愛,大後寿々花
¥3,675
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朝井リョウのデビュー小説を映画した作品。原作は未読です。


いつもの「金曜日」の放課後。ただ、いつもと違うのは、学校内の誰もが認める"スター"桐島がバレー部をやめるというニュースが校内を駆け巡ったこと。彼女さえ連絡がとれずその理由を知らされないまま。退部に大きな影響を受けるバレーボール部の部員たちはもちろんのこと、桐島と同様に学校内ヒエラルキーの"上"に属する生徒たち、そして直接的には桐島と関係のない"下"に属する生徒まで、 あらゆる部活、クラスの人間関係が静かに変化していき...。


タイトルにあり、登場人物たちを動かしていく存在の"桐島"は、その姿を見せません。"ゴドーを待ちながら"形式とでも言うべきなのでしょうか。タイトルにも入っている人物が姿を見せないまま、けれど、登場人物たちはその姿を見せない存在に動かされている...。


良くも悪くも若いというか、青春というか、未熟な素人っぽさが漂う作品でした。そこにあるのは、ごくありふれた高校生たちの日常。"夢と希望"ではない悩みとも不安とも決め難いモヤモヤに彩られた曇り空のような青春。


繰り返される金曜日。視点を変えて同じ場面が繰り返されるというのは、時々、見られる映画の手法ですが、さすがに"金曜日"だけでは耐えきれなかったのか、土曜日、日曜日と流れていきます。ここは、"金曜日"で押し通してほしかった気もしますが、まぁ、原作がある作品なので、仕方ないのかもしれませんが...。


人のことが気になるけれど、相手の立場で理解しようと歩み寄れるほどの余裕はなく、徐々に自分の限界を思い知らされ幼い頃に輝いていた未来は陰りだし、大人に干渉されるのはウザったいけれど大人に頼らず生きていく自信も持てず...。そんな宙ぶらりんで不安定な感じが出ていたと思います。


ただ、全体としてはモヤモヤなままで、それだけで最後まで突っ切ってしまっている感じがして、少々、物足りない感じがしました。もうちょっと引っ掛かるものが欲しかったような...。ラストで登場する前田の映画のタイトルは良かったと思います。それこそが、彼らを取り巻く状況なのでしょうから。


他ではあまり観られないかもしれないリアルな青春がそこにあったのは確かだと思います。かつて自分にもモヤモヤとした高校時代があったことをおぼろげながらでも記憶している人にとっては、記憶の奥を刺激するような映画だと思います。


登場しない"桐島"、視点を変えて繰り返される場面、淡々と描かれるありふれた日常...。どこかで見たような設定をどこかで見たような手法で描いた作品ということなのでしょうか。寄せ集め感がありますが、寄せ集めるバランスは良かったのではないかと思います。


けれど、"傑作"とか"名作"と言うには、もうちょっと突き抜けた何かが欲しいような...。悪くはない...という以上に、そこそこ面白く観ることができる作品ではあったと思いますが、あと一歩、惜しかったです。

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TABOO タブー

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TABOO タブー [DVD]/ロザンナ・アークエット
¥5,040
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ブルース・ワグナーのベストセラーとなった小説を作者本人が監督し、映画化した作品です。原作は未読です。


テレビドラマのベテラン俳優、ペリーは60歳の誕生日に親しい医師から末期ガンで余命が1年とと宣告されてしまいます。精神科医の妻と2人の子どもがいました。1人は、売れない俳優の息子、バーティ。もう一人は、ペリーの弟夫婦の娘で、弟夫婦の死後に養女にしたレイチェル。バーティは、俳優としての仕事だけでは生活できなため友人を頼って保険の営業をしようとし、余命の短い男性(ペリーがかつて出演したドラマの衣装係だった)と知り合います。また、気晴らしに参加したパーティでHIV感染者の女性、オーブリーに恋するようになります。そして、ドラッグ中毒の元妻の乱暴な運転により最愛の娘、ティファニーの命が奪われます。あまり死を実感することなく生きてきたバーティでしたが、身近に死を感じるようになります。一方、レイチェルは、事故死したと聞かされていた両親の死の真相を知り...。


パッケージの雰囲気から、ホラーかサスペンスか...と思ったのですが、あらすじを読んでみるとそうでもなく、ちょっと興味を惹かれて観てみました。


それまで、遠いものとしてしか捉えることができなかった"死"について、身近な人の病気や死を通して意識するようになるバーティが、新しい人生に出会うまでを描いたというところでしょうか...。パッケージから受ける印象とは全く違ったヒューマンドラマです。


それはそれで、悪くなかったのですが、


原作者が脚本を書き、監督をした...ということも影響しているのかもしれません。原作に対する想い入れが強すぎてあれもこれも詰め込み過ぎてしまったということなのでしょうか。原作がある作品の場合、原作に隊過ぎる強すぎる気持ちは、第三者が観てバランスを欠いたものになってしまうことがありますが、本作についてもそういうことなのかもしれません。


タハラというユダヤ系の遺体を清める儀式を執り行う様子が描かれます。遺体をあの世に送り出すために清めるという点で"おくりびと"を思わせるものがあり、印象的でした。


遅かれ早かれ、いづれ死ぬことになるのが人間。個体が死んでいくことで新しい個体が生まれる余地が確保され、世代交代が繰り返されることで種として存続してきたわけです。けれど、病院で死ぬことが一般的になっている現代の平和な先進国では、死と接する機会は少なくなっているのかもしれません。


けれど、死を想うことで、日常を大切に、生き生きと生活していくことができるようになる...という面もあるわけで、"メメント・モリ"ってところでしょうか。生まれてきてこの世にあるすべての人間に例外なく共通する運命が"死"なのですが、それ程、絶対的な宿命であるにも拘らず、私たちは"死"を忘れがちです。邦題は、何故か"タブー"ですが、原題は、"I'M LOSING YOU"。本作の一番のテーマは、身近な存在に死なれ、遺される側の想いなのでしょう。この"死なれる"という"死ぬ"という自動詞を受身形で表現する言葉は、結構、日本語独特の表現のような気がするのですが、この"死なれる"という感覚が、遺体に特別な儀式を施してあの世に送るという風習と結びついていくような気がしたり...。


ここに焦点を当てて、それ以外のテーマを薄くし、思い切りメリハリをつけると、もっと面白い作品になったのではないかと思うのですが...。

フレンチ・キス

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フレンチ・キス [DVD]/メグ・ライアン,ケビン・クライン,ティモシー・ハットン
¥3,990
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ケイトはカナダ人になることを願っているアメリカ人。フィアンセのチャーリーにフランスへの出張についてこないかと誘われますが、飛行機が大の苦手で、カナダに残ります。けれど、旅先のパリでチャーリーが恋に落ちたのを知り、彼を追って一世一代の覚悟で飛行機に乗り込みます。ケイトの隣の席にやってきたのは、フランス人のリュックという男性。恐怖でパニック状態にケイトにリュックはいろいろと話しかけてきて...。


飛行機で偶然、隣になった2人。まぁ、普通、いきなり、この2人のように"親密な"話をしたりはしない者でしょうけれど...。"プラトニックなどあり得ない愛の国"フランス人男性相手なら、可能性もある...のでしょうか...。例え、リュックのような奴であったとしても、話し相手くらいいないとやっていられないような心境だった...ということなのでしょう。ただでさえ、チャーリーとの愛が危機を迎えているというのに、大が3つも4つもつきそうなくらい大っ嫌いな飛行機に乗っているのですから...。


で、ケイトがとても可愛らしいくて印象的です。メグ・ライアンが、一途で純粋で、ちょっと子どもっぽい感じのケイトを実にチャーミングに演じています。


アイドル的な魅力の女優で引っ張っていく軽いタッチで安心して楽しめるラブ・コメディです。どこかにあるような雰囲気の作品ですし、ラストの捻りも奇を衒い過ぎず平凡であり過ぎず適度な感じで好感を持てました。そう、ただ、リュックに騙されているように見えたケイトですが、実は、なかなかしっかりとしていたのです。もちろん、それだからこそ、チャーリーとの結婚のために4万ドル以上も貯金することができたのでしょう。


チャーリーが大事な"紛失物"を探している時、ケイトがチャーリーにどれがどこにあるか示すのですが、チャーリーに丸め込まれているようでいながら、彼の虎の子をしっかりと握っている辺り、お見事。


何かと問題もあるチャーリーですが、こんなケイトにしっかりと手綱を握られていたら、きっと、真っ当な人生を歩んでいけることでしょう。


ジャン・レノ演じる刑事の"計らい"も、さすがに"愛の国"おフランスってところを見せてくれています。


良くも悪くも明るくサラッとした気軽に楽しめる作品だと思います。キュートなメグ・ライアン、怪しげな雰囲気の中にちょっとした渋さを感じさせるリュック役のケヴィン・クライン、カッコイイ刑事なジャン・レノ。この組み合わせも良かったです。


欲を言えば、ケイト目線ではなく、チャーリー目線で物語を展開していった方が良かったような...。その方が、ケイトとチャーリーの恋が自然に感じられた気がします。

推理作家ポー 最期の5日間

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推理作家ポー 最期の5日間 [DVD]/ジョン・キューザック,ルーク・エヴァンス,アリス・イヴ
¥3,360
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「レイノルズ…」。1849年10月7日、1人の作家が不可解な言葉を残してこの世を去りました。彼の名は、エドガー・アラン・ポー。ゴシック風の怪奇・幻想小説などで一世を風靡し、世界初の推理作家として歴史に名を残しています。


彼の最期の日々、世を震撼させる猟奇的な殺人事件が起こります。事件を担当した刑事、エメットは、事件がエドガー・アラン・ポーの小説に酷似していることに気付きます。その後も、ポーの別の作品を模倣した殺人事件が続きます。さらに、愛する恋人を誘拐されたポーは、小説模倣犯からの挑戦を受け、この命を懸けたゲームに巻き込まれていき...。


ポーを演じたルーク・エヴァンスは、イメージより、かなり普通な感じでした。特典映像に収められたインタビューで、今、巷に流布しているポーのイメージは、彼の死後、彼を嫌う批評家により創り上げられたもので、実際には、社交的で明るい人物だったとのこと。その作られたイメージを払しょくしようとしたのでしょうか。


ただ、本作の映像は全体的にポーの作品世界のままのおどろおどろしさが漂っています。かなりグロテスクな映像もあって、R15指定も頷けました。どうも、肉が裂け、血が飛び散る系の映像が苦手な私としては、正視できない部分も結構ありましたし...。ただ、そうした映像がところどころにあることよりも、作品にとってその映像があまり必要なように思えないところが残念な感じがしました。


ストーリーも今一つ。事件が起き、捜査や推理がなされ、犯人が割り出されるワケですが、犯人が分かっても、動機が納得できません。随分、大掛かりなことをしているのに、かなりな労力をかけているのに、きっと相当の費用も賭けているのに、肩透かしされた感じが残ります。どう考えても、犯人に、超人的な体力と天才的な頭脳と潤沢な資金があるように思えませんし...。その辺りが放置されたままなので、推理もので味わえるスッキリ感が味わえません。


犯人の屈折したポーへの想いを丁寧に描いていれば、それなりに味わいのある作品になったのだろうと思うのですが、その辺りは、作品全体のテンポの良さに置き去りにされている感じです。


ポーの死の真相の謎解きとしても何だか中途半端。謎解きなら、検視や現場検証の状況とか、"捜査"の部分をしっかり見せて欲しかったです。


で、史実として伝えられているポーの最期は以下の通り...


10月に結婚式を控えた1849年9月、ポー自分の選集の出版準備を始め、それに関してルーファス・グリズウォールドの協力を得るために、久しぶりにニューヨークに戻ることにします。27日にリッチモンドを出、48時間の船旅のあとにボルティモアに着きますが、彼は何故かそこに数日滞在します。10月3日、ポーは"グース・サージャンツ酒場"で泥酔状態に陥っているところを旧知の文学者にたまたま発見され、すぐにワシントン・カレッジ病院に担ぎ込まれます。4日間の危篤状態が続いたのち、1849年10月7日早朝5時に死去。その間、ポーはきちんとした会話ができる状態ではなく、どうして、その酒場に行ったのかも、何故酔いつぶれていたのかも分かりませんでした。その上、発見された時、他人の服を着せられており、また死の前夜には「レイノルズ」という名を繰り返し呼んでいましたが、それが誰を指しているのかも分かりませんでした。とうことで、その死の経緯、死の真相は謎に包まれたままとなっています。


この意識が混沌としていた4日間の間にポーが見た自分の小説世界を駆け巡る幻想世界を映像化...とかなら、もっと面白い作品に...ならないでしょうかねぇ...。

舟を編む

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2012年本屋大賞を受賞した三浦しをんの同名小説を映画化した作品。原作は未読です。


玄武書房辞書編集部では、新しい辞書「大渡海」の編纂に取り掛かっていました。けれど、編集部の責任者である荒木は、もうすぐ定年。嘱託として職場に残るよう辞書の監修者の松本教授から慰留にも、妻の看病に専念したいということで首を縦に振ろうとしません。その代り、自分に替われる従業員を探すことを教授に約束します。そんな荒木の目に留まったのが、営業部で変人扱いされていた馬締光也。言葉に対する並外れた感性を見込まれ辞書編集部に配属されます。松本教授の元、荒木、馬締、現代語に強いチャラ男、西岡正志、データのまとめ役、佐々木のチームで、20数万語を掲載する予定の「大渡海」の編纂作業が本格的に始まります。そんな頃、馬締は、下宿先の大家の孫娘、林香具矢と出会い、一目惚れし...。


普段、何気なく使っている辞書。最近は、ネットで検索することがほとんどですが、PCが普及する前に学生時代を終えた世代に属する私の場合、かなり、紙の辞書にはお世話になったわけです。"新開さんの謎"、"新開さんの読み方"、"新開さんリターンズ" について、本ブログでもご紹介したことがありますが、読み物としても、結構、面白かったりします。特別に疑問もなく、"辞書=正しいもの"として認識してきたわけですが、それだけ信頼に足るものとして辞書が存在できる背景に何があるのかを教えてくれる作品でもありました。


日常の中で使われている言葉を探しだし、実際にどのように使われている、その使用例を集めていく"用例採取"。一つ一つの言葉について、他の辞書に出ているかどうかを確認し、どの言葉を取り入れるかを選び出していく見出し語の選定。そして、辞書への掲載を決定した言葉をどう説明するか、語釈の文章を作っていきます。普段、特にその意味を考えることもなく、当たり前のように使っている言葉をどう解釈するか、喧々諤々の議論が繰り返される様子は、なかなか高尚で、時には、かなりユーモラスだったり、ヘンだったりします。


さらに、何度も繰り返される校正の作業。「大渡海」が完成に辿り着くまでに費やされる膨大な時間とそのために行われる気の遠くなるような果てしない作業。そんな地味な日々が淡々と描かれます。完成までの15年に及ぶ長い月日。


そんな言葉と格闘する日々の一つの"成果"が馬締の人としての成長。最初は、西岡の評価通り、コミュニケーション能力がかなり低かった馬締も、数多の言葉と向き合う中、言葉を使って人と理解しあい、繋がる力を身に付けていきます。ちょっとした挨拶や言葉がけに、満足な返事をすることもできなかった馬締が、一つの部署をまとめ、自分の思いを伝え、周囲の人間を動かすようになっていく。大きな仕事に携わることで人は成長するのです。もちろん、それは、馬締だけでなく、西岡も、後に不本意ながらファッション雑誌の編集部から移動させられてきた社員も。


辞書編集部の室内の空気感や採取された用例の整理の方法、馬締の住む、古びた下宿屋が、かなり昭和...それも、昭和中頃のような雰囲気で、その影響なのか、時代設定の割にレトロな感じがしまして、その点では、違和感もありましたが、"最新式のPHS"の扱いなど、確かにその当時の匂いが感じられました。思い起こしてみれば、この20年くらいの間の通信技術の変化には著しいものがあるのですね...。移ろいの速さを実感させられました。


馬締と香具矢との出会いと恋は、少々、唐突な感じもしましたが、この2人の関係の中に、馬締の人となりを表現するエピソードがいろいろと盛り込まれていたので、外すことができない部分ではあったのだと思います。


多少の波はあったものの、辞書の編集作業は、概ね順調に進んでいきますし、全体に薄味な感じがしないでもないですが、長編を映画化したにも拘らず、無理なくまとまった作品になっていると思います。


出演陣も実力派が揃えられています。主役の馬締を演じた松田龍平も、彼の先輩にあたる西岡を演じたオダギリジョーも、相当に演技力のある俳優であることに異論はないものの、実は、あまり、好きな俳優ではありませんでした。何だか、ヘンにその存在が目立って、作品の中で浮いてしまっているような印象を受けることが多かったのですが、本作では、実に自然な形で、役柄にピッタリの演技を見せてくれていると思います。2人を取り巻く出演陣を含め、見事なキャスティングだったと思います。


なかなか見応えありました。面白かったです。是非、原作も読んでみたいと思います。



公式サイト

http://fune-amu.com/

天使の分け前

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いつもケンカばかりしていて、前科もある青年、ロビー(ポール・ブラニガン)は、何度目かのトラブルを起こして警察沙汰に。けれど、恋人のレオニーが出産を控えていることなどから情状酌量され、刑務所に送られる代わりに社会奉仕活動をすることになります。レオニーに諭され、まともな生活をすることを約束したロビーは、社会奉仕活動に励み、その指導者ハリーにウイスキーの奥深さを教えられ、ウイスキーの魅力に目覚めます。ウイスキーについて勉強するようになり、生来の嗅覚の良さから、利き酒に才能を発揮するようになります。ようやく、落ち着いた生活が送れるようになったかに見えたロビーですが、長年、揉めてきた相手からつけ狙われます。摩擦を避けるため、他の土地に行こうと思っても、そのために資金はなく、資金を稼ぐために仕事につきたいと思っても、顔の傷のため面接ではねられてしまう八方塞がりの状況。そんな中、大きなチャンスが訪れ...。


観終えて、釈然としないものが残ります。本当に、それでいいのか...。ロビーたちの得たものが"天使の分け前"のおまけのようなもの...ってことなのでしょうけれど、明らかに犯罪です。確かに、それまでのロビーがやってきたような他人を傷つける行為ではないかもしれません。暴力を振るっていないのは確かですし...。でも、再出発が、そんなことでいいのか...。そこを受け入れられるかどうかが、本作の評価の分かれ目なのかもしれません。


確かに、ロビーの置かれた状況は八方塞がり。頑張ろうにもその機会さえ得られなのでは、頑張りようがない...というのは分からなくはない気がします。けれど、チャンスはあったのですよね...。彼のウイスキーについての才能は、とあるウイスキー・コレクターから高評価を受け、名刺を渡されます。そこに連絡をすれば、仕事を紹介してもらうこともできたかもしれません。ハリーに相談すれば、間に入ってくれたことでしょう。そこで、チャンスを得るための努力をしないままに、犯罪でいいのか...。


それだけ、絶望的な格差がある...ということは分かる気がします。けれど、少なくとも、ロビーは、そこから抜け出すための合法的なチャンスを得られたかもしれなかったのです。本当の意味で更生を誓うのなら、正当な手段で生活を築いていくべき...なんて綺麗事を言える程、ロビーたちは恵まれていなかったということなのかもしれません。そんな正論をかざすのは、所詮、ロビーたちの痛みなど理解できない恵まれた人間...なのかもしれません。それに、ロビーたちは、ウイスキーに莫大な金額を賭けることができるような大金持ちから懐が痛むこともないであろう僅かなものを抜き取っただけ。実質、明確に損をしている人はおらず、傷ついた人もおらず、購入者も、コレクターも、その顧客も、ロビーたちも、ハリーも、皆、万々歳。それに、世の中、ちょっとした才能が見つかったからと言って、そんなに簡単にそれで仕事が得られるわけなどない...のかもしれません。そんな嘘っぽい世界を描きたくはなかったのかもしれません。けれど、やはり、納得しきれませんでした。


ある意味、いくら貴重なものとはいえ、樽1本分のウイスキーに1億円以上のお金をポンと出すコレクターを皮肉っている作品なのかもしれません。ロビーたちの行為は犯罪ですが、このお金の使い方も賢いとは言えません。五十歩百歩なのかもしれません。金持ちも貧乏人も同じように愚かで、ロビーはともかく、ロビーの仲間たちは、折角の臨時収入を人生に生かすことはできそうにありません。人間なんてそんなもの...ということなのでしょうか。


人間というもののどうしようもなさに温かい視線が注がれているところは印象的。愚かさや弱さを抱え、しょうもないことを繰り返しながら、それでも、人生は生きるに値する...そう思わせてくれる作品ではあったと思います。



公式サイト

http://tenshi-wakemae.jp/

黄金を抱いて翔べ

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黄金を抱いて翔べ スタンダード・エディション [DVD]/妻夫木聡,浅野忠信,桐谷健太
¥4,095
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高村薫の同名ミステリー小説を映画化した作品。原作は未読です。


過激派や犯罪者相手の調達屋をしている幸田は、大学時代の友人、北川から、大阪市の住田銀行本店地下にあるという240億円相当の金塊強奪計画をもちかけられます。北川が幸田とともにメンバーに選んだのは、システムエンジニアの野田、爆破工作のエキスパートで元国家スパイの裏の顔を持つモモ、北川の弟、春樹、元エレベーター技師でチームの相談役でもあるジイちゃん。けれど、計画が進むに連れ、彼らの周囲で謎の事件が次々と発生し...。


犯人グループが6人。彼らの過去には、いろいろと複雑な関係があるようなのですが、6人の過去をあれこれ丁寧に語るには時間が足りな過ぎるのでしょう。全体に浅くて中途半端な感じになってしまっています。


何だか、やたらと殴り合っている映像が登場します。殴る蹴る、殴る蹴る...。

読んだことはないのですが、原作は、結構、ページ数ありそうな分厚さ。映画にするには、かなり思い切った取捨選択が必要な素材といえるでしょう。そこで無理があったのかもしれません。銀行強盗の計画もお粗末で緩くて行き当たりばったりだし、銀行のセキュリティもボロボロ。これでは、緊迫感も何もあったものではありません。やはり、こうした犯罪ものは、成功するのか、失敗するのかをハラハラしながら見守りたいもの。それができないので、どうしても、消化不良な感じが残ってしまいます。


この銀行、"鉄壁の警備システムに守られた"という設定のようですが、これで、"鉄壁"というのは、あまりに無理があります。原作がかかれたのが1990年。まぁ、20年以上も前のことではありますが、それにしても、ゆる過ぎるような印象を受けたのですが、当時はこんなものだったのでしょうか...。


240億円相当の金塊が保管されているということ自体にも不自然さを感じます。それは、原作の設定でもあるでしょうし、仕方ないのでしょうけれど、それだけのものを保管しているとは思えない警備員たちの緊張感のなさ。のんびりしたふりをして侵入者を油断させている...なんて意味のないことをしているわけでもないでしょうし...。


時代も1990年の設定なんだか、現代の設定なんだかよく分からない感じで中途半端でした。通信機器は現代、銀行のセキュリティは昭和前半、登場人物たちが関係を築いた時代背景は昭和40~50年頃。色々な時代をつまみ食いしている感じで違和感ありました。


ところどころ、笑わせたい演出なのだろうと思わせられる部分もありますが、そこも空振り感が否めません。キャストも豪華に揃えられているようで活かし切れていないし、全体にとっても残念な作品でした。


そもそも、映画化が難しい小説だったのだと思います。小説として読んだら、結構、面白いのではないかとも思いました。原作は読んでみたいと思います。

我らの生活

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我らの生活 [DVD]/エリオ・ジェルマーノ,ラウル・ボヴァ,イザベラ・ラゴネー
¥4,300
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ローマ近郊の建設関係の仕事をしているクラウディオは、3人目の子どもを妊娠中の妻と2人の子どもに囲まれ、幸せな日々を送っていました。ところが、子どもは無事生まれますが、妻は亡くなってしまいます。妻の死に動揺するクラウディオは、ある日、工事現場で、警備の仕事をしていたルーマニア人男性の遺体を見つけます。その後、その男性の妻と息子に出会い...。


元々、工事は納期に間に合いそうにもなく、あれこれ言われていたクラウディオです。基本的に、ヨミが甘いところがあるのでしょう。ラテン系で、乗りが良く、陽気であっ軽~~いイタリア人...ということなのかもしれません。あまり、先々のことをあれこれ心配せず、その場その場をスルッと潜り抜けていくタイプのようです。


あれこれあっても、懲りずに前進。あまり身近にいるといろいろな面倒に巻き込まれそうで、生活を引っ掻き回されそうですが、どこか憎めないところがあって、基本的には"イイヒト"なのでしょう。


そんなクラウディオが、突然の妻の死という理不尽さを背負わせた運命に反撃しようとしたのでしょうか。普段の彼にはない"悪事"だったのかもしれません。やはり、やり慣れないことをしても巧くいかないということかもしれません。まぁ、こうした"悪巧み"は似合わないのでしょう。


そして、とことん困った状況に置かれた時でも、手を差し伸べてくれる仲間に恵まれているのがクラウディオ。これも、人柄ゆえ...ということなのかもしれません。


家族、親戚同士の絆が強い...というイメージのあるイタリア。そんなイタリア的な温かさ、明るさが感じられますが、そこに、同時に現代ヨーロッパ諸国で大きな問題となっている移民問題、不法就労問題について言及されています。


移民も足元を見られ、社会の底辺に押し込まれていますが、クラディオもそう大きくは変わらない状況にあるわけです。立場は変わっても、社会的に弱い立場に置かれている者同士。いがみ合うべき関係ではなく、連帯し合うべき関係なのかもしれません。


遺体を見ぬふりしている後ろめたさと、遺族の対する罪の意識と同情。悪にもなり切れず、かといって、品行方正では生きにくい世の中であることも思い知らされているクラウディオを描きながら、人生の複雑さ、辛さ、可笑しさ...そして、素晴らしさを見せてくれる作品となっています。


何はともあれ、人生は続き、クラウディオは生きていくしかないのですから...。


それにしても、あんなところに死体を放置したままのあんないい加減な工事では、ちっとも大丈夫ではないように思われてならないのですが、どうなんでしょうか...。