ツレがうつになりまして。

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ツレがうつになりまして。 スタンダード・エディション [DVD]/宮崎あおい,堺雅人,吹越満
¥3,990
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細川貂々のコミックエッセイを映画化した作品。原作は未読です。


サラリーマンの夫、通称ツレは、バリバリ仕事をこなしていましたが、このところ、ちょっと調子が悪い様子。ある日、うつ病と診断されます。それを聞いた妻のハルは、ツレの変化に気付かなかった自分を反省する一方、うつ病の原因と思われる仕事を辞めるよう勧めます。そして、それまでは趣味程度としか捉えていなかった漫画の仕事に必死に取り組むようになります。退職し、治療に専念したツレは、徐々に体調を回復させ...。


本作でのうつ病の描き方が軽すぎるという批判も少なくないようですが、しかし、うつ病というのは意外に治る可能性のある病気でもあります。


早い段階に病院に行くことができ、適切な治療を受けることができ、十分に休養を取ることができれば、うつ病の人の3分の1に3~6カ月で症状の改善が見られ、70%~80%の人が1年以内に回復すると言いわれています。(とは言え、75%くらいの人は、1年以上症状が続くということでもありますし、再発する人もそれなりにいるわけですが...)


まぁ、実際には、自分の症状に気付けないことや精神科受診の抵抗感などから、かなり病状が進行してからの受診になりがちだったり、医師の技能の問題などから適切な治療を受けられなかったり、経済的な理由などから十分な休養を取れず、回復途上で焦って仕事を開始してしまったり、という人も少なくないので、長引いてしまったりするのでしょうけれど...。他にも、うつ病ではなく躁うつ病なために経過長引くこともあるようです。躁の症状が比較的穏やかな躁うつ病が、「うつ病」と診断されてしまうことも少なくありませんから。


本作の場合、多分、比較的早期に適切な治療を受けることができたのでしょう。そして、ハルに収入を得る手段があったために、経済的な問題で追い詰められる心配をしなくて済んだ。これは、好条件だったと思います。「ツレがうつになりましたので、仕事ください!!」これが、大きかったのです。


生活ができなくなるから、〇月〇日までに復職しなければならない、何としても頑張らなければならない...という状況に追い込まれたら、治療に専念なんでできませんから。「働かなくても食べられないわけではない」、「働かせなくても、生活ができないわけではない」、このお蔭で、かなり安心感あったはず。


確かに、ハルやその両親のうつ病に対する偏見のなさや、前向きな捉え方は、かなりポジティブで、少々、リアリティに欠けるような感じがしないでもありませんが、うつ病が、左程珍しい病気ではなくなった今、特別なシチュエーションとも言い切れないでしょう。「うつ病は心の風邪」なんて言われるようになって、何年も経っていますし...。


もちろん、現実よりは、軽やかにコミカルに美しく描いている部分が少なくないことも確かでしょう。けれど、現実離れした、稀有な例を描いているとまでは言えないことも間違いありません。


というわけで、エンターテイメントとして受け入れられるようにあえて軽くコミカルに描いた部分は確かにあったでしょうけれど、大きく、現実から外れているとも思えませんでした。


少なくともうつ病について、うつ病やうつ病患者との付き合い方についての理解を進めやすい入門書の役割は十分に果たしているのではないかと思います。


そして、ツレとハルの関係が素敵。やはり、この2人の関係があったからこその順調な回復だったのでしょう。やはり、人間にとって、人との関わりが大切なのだと、本当に人の心を癒すのは、人による支えなのだと実感させられます。


堺雅人が見事。半分笑ったような表情で、さまざまな感情や内面を表現してしまう辺り、さすがです。


少々、癖がなさ過ぎるというか、こじんまりと無難にまとまっていて、全体に優等生過ぎる感じは否めませんが、それでも、楽しみながら、夫婦愛をシミジミ味わえる作品でした。一見の価値ありだと思います。

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キャノンボール デジタル・リマスター版 [DVD]/ジャッキー・チェン
¥1,500
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アメリカ東海岸コネティカットから西海岸カリフィルニアまでの5000キロ高速道路でスピードを競う最大のレース、キャノンボール。参加者はレーサーの資格不要。公道を普通の乗用車で走ります。交通ルール、制限速度55マイルなどすべて無視。スタート地点とゴールでタイム・レコーダーにタイム・カードをパンチし、その時差の少ない車が優勝となります。参加者は一癖二癖ある個性的な面々。救急車の運転手に扮装した2人は、救急車としての体裁を整えるため、医者と患者を探します。ロジャー・ムーアにそっくりのプレイボーイ風の男シーモアは、007ばりにアストン・マーティンに乗って颯爽と参加。参加者名簿にロジャー・ムーアとサイン。日本の名車スバルに乗るのは最新科学装置を武器にする東洋人チーム。牧師に扮したジャズ狂の黒人と白人の2人組。そして男性陣に混ってシャレたジャンプスーツで参加する美女2人組。白いロールス・ロイスで乗りこんだのは、アラブの石油王。会社の重役で飛行中の自家用機からパラシュートで降り立った男は、2輪車で挑戦。そしてこのレースにつきものの違反摘発にやっきになる全米ハイウェイ安全実施機関副長官。やがて、レースが開始され...。


大物スターが名を連ね、それぞれにいじられています。実に楽しそうにバカをやっている作品。いろいろなものを無駄遣いしている感じが何とも贅沢。ストーリーなんてどうでもいい感じで、ただひたすら大盤振る舞いのお遊びを楽しむ作品になっています。


実際、作中でも、あれだけ、優勝を目指して必死になったにもかかわらず、結局、勝敗なんてほとんどどうでもいいという感じのラスト。それまでの様々な準備や5000キロも走った過程など全く何でもないというか、そんなことすっかりどこかにとんでしまっているような感じです。


何故か、ジャッキー・チェンが日本人役で登場。乗っている車はスバルだけど、喋っている言葉は中国語。で、相棒はマイケル・ホイ。アジア系の人物をアジア系の車に乗せようとしたら、日本車しかなく、俳優として客を呼べそうなのはジャッキー・チェンだったから無理矢理くっつけたということでしょうか。それで、日本人設定なのだとすると、主役は人間でなく車?


確かに、出演陣だけでなく、登場する車もバラエティーに富んで、高級車がいっぱい。車についての知識があれば、その辺りも楽しめたのだと思います。おまけに、スバルは変にコンピューター化されていましたし、ロジャー・ムーアはボンドカーのパロディ車でしたし...。


バカをやってお金を取るなら、ここまで徹底して無駄に豪華にやらなきゃダメってことでしょうか。もう30年も前の作品で、さすがに、古臭さを感じる部分もありましたが、それでも、面白かったです。


一度は観ておきたい作品だと思います。

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甘い生活

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甘い生活 デジタルリマスター版 [DVD]/マルチェロ・マストロヤンニ,アニタ・エクバーグ,アヌーク・エーメ



¥3,990

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作家志望だったものの、その夢が破れ、しがないゴシップ記事を書いている記者のマルチェロは、奔放に異性と戯れ、暮らしていました。そんな彼の唯一の心の支えだった友人スタイナーが自殺したことで、マルチェロの精神はバランスを崩していき...。



高度成長期の華やかなりしローマ。



ヨーロッパの金融危機が叫ばれ、"深刻な経済的問題を抱えている国"の一つであるイタリアの現状を想うと隔世の感がありますが、まぁ、栄枯盛衰は世の常。まぁ、本作が製作された1960年頃の経済成長の時期も栄えていたのでしょうけれど、はるか何世紀も前には、強大なローマ帝国の中心地であり、"世界の道はローマに通じ"ていたのですから、何はともあれ"大都市ローマ"です。



そして、華やかな都市の裏側には、退廃がつきもの。多くの人が集まり、富が集まれば、他の地で食い詰めた人々も、仕事や夢や富を求めて、あるいは、せめて大都市に集まる富のおこぼれに与ろうと様々な人がやってきます。



そこには、集まってくる富を自由に動かせる裕福な者たちと、その者たちに搾り取られる貧しき者たち。



いつの時代にも、派手に遊んでいる人々の生活を支える労働する貧しき人々の群れがあったのです。かつて世界的な大帝国の首都として栄えた時代、ローマには、奴隷同士の命懸けの闘いを見物することは市民の大いなる楽しみでした。



爛熟...という表現がふさわしいのかもしれません。腐敗し滅びていく一歩手前に、最も輝き甘い香りを放つ時期があるもの。それは、当時の現実のローマというより、都市が栄える時、普遍的に見られる状況なのかもしれません。



マルチェロや彼を取り巻く人々の生活のあり方が丁寧に描かれ、その軽佻浮薄な空気感が伝わってきます。マルチェロが参加した伝統を担う上流家庭でのパーティ。そこの息子は、マルチェロを家族に紹介して歩きますが、その時の家族の反応に、彼らの人付き合いの浅さが見事に表現されています。



そんな中で、唯一、マルチェロが友人としての交流を持てたスタイナー。愛する家族と幸せに生活しているように見えたスタイナーの突然の死。スタイナーを殺したのは、地に足付いた生活に価値を見いだせない時代の空気なのか...。



一見、好きに遊んでいたように見えるマルチェロも、その中に深い闇を抱え、平穏で幸せな生活を味わっているかに見えたスタイナーも計り知れぬ悩みを抱いていました。豊かで平和な生活の中でも、人が生き生きと生きることは簡単ではないのでしょう。



ラストの少女の笑顔。マルチェロが、そちらの方向に一歩、踏み出せるのだとしたら、そこには、まだ未来があるのかもしれません。



さすがに、古びた感じがする描写があったり、やや冗長な感じもしないではありませんでしたが、丁寧に作られた作品で、しっかりと一つの世界が作り込まれ、その世界を堪能できました。



一度は観ておきたい作品だと思います。

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ピュ~ぴる

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ピュ~ぴる [DVD]/出演者不明
¥4,935
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コンテンポラリーアーティスト、ピュ~ぴるの軌跡を8年間にわたって追ったドキュメンタリー。手作りのコスチュームでクラブ通いをしていた2001年から、2008年、横浜美術館でのパフォーマンスに至るまでが描かれます。


独創的なニットのコスチューム。当然、機械編みだと思ったら、手編みだとのこと。まず、その事実にビックリ。


性同一性障害...というと、最近はそうでもなくなってきたようにも思えますが、やはり、あまり普通のことではないというイメージがあります。けれど、自分の身体が自分の思いと違う...ということは珍しいことではないような気がします。背が高すぎるとか、低すぎるとか、太っているとか、痩せているとか、顔のつくりに関する問題とか...。


太っている人が標準体重を目指してダイエットをする...というのは大いに実感をもって理解できます。肥満を治すために脂肪吸引などの手術をする、顔のつくりを思う通りにするために形成手術をする...ということには、個人的には、少々、違和感も覚えますが、イマドキ、すごく珍しいこととは言えないでしょう。では、性を思うように変えるということになると、もっと、ハードルが高いような気がします。


鏡を見て、痩せなきゃとか、思ったりはしますし、新しいダイエット法について聞くと、結構、真剣に試してみたりはする私ですが、それ以上に手間暇をかけて自分の身体に手を加えようとも思えないのは、そこまで手間暇かけるだけの意欲を持てないということもありますし、そこまで自分の身体に対するこだわりがないからなのかもしれません。正直、面倒くさいという気持ちも強いですし...。


「生物学的な性と精神的な性の違いに悩む」というのは、性へのこだわりであり、身体へのこだわりなんですよね、多分。男として生まれてきていながら、心は女だったとしても、「外見的な女らしさ」に対するこだわりがなければ、心と外見の違いにそんなに悩むことはないような気がするのです。


私は、本作で初めてピュ~ぴるという人について知りました。全く、予備知識なしで観ています。本作で描かれるピュ~ぴる。そのコスチュームにも、パフォーマンスにも、自己への強いこだわりが感じられます。


本作では、ピュ~ぴるの性同一障害という一面にもフォーカスが当てられています。ただ、「性同一性障害の人物を追う」ことがメインになっている作品ではありません。ピュ~ぴるの作品は、自分自身に対するこだわりとそのに向けられるエネルギーの強さを背景に持っているからこそのものであり、恐らく、ピュ~ぴるが性同一障害であること抜きに生まれ得た作品ではないのだと思います。そう、本作は「ピュ~ぴるが身も心も女になっていく過程」を描いているのではなく、一人のアーティストとしての軌跡を、そして、その創作を成り立たせている大きな要素について描いているのだと思います。


そして、そのこだわりの自身を作り変えていこうとする大きな動機が"愛する人のため"ということろが切ないのです。それだけこだわりっていたものだからこそ、それは、真摯な愛の表現であったのに...。愛する人への想いを形にすることと、自分を愛し育ててくれた親への想い...胸に沁みる場面でした。


前半は、わりとホームメイド的な無理のない自然な雰囲気を感じさせるのに比べ、後半は作りものっぽさが感じられ、少々、違和感もありましたが、本作は、"素材の勝利"というところでしょうか。その作品群やパフォーマンスは十分に見応えありました。


そして、ピュ~ぴるの家族(父、母、兄)の存在感が良かったです。特にお兄さん、マルコメ君のような素朴な坊主頭、シンプルな服装に、このところさっぱり見かけなくなったJALの鶴マーク入りのバッグを肩からかけて登場...、なんて、最高です。


一見の価値ありだと思います。

恋愛社会学のススメ

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恋愛社会学のススメ [DVD]/ビルギット・ミニヒマイアー,ラース・アイディンガー,ニコル・マリシュカ
¥4,300
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避暑地、サルディニアにあるクリスの母の別荘に来たクリスとギッティは、傍からも熱烈に恋をしているカップルのように見えましたが、2人の関係は微妙な時期にさしかかっていました。ある日、2人はクリスの仕事の先輩、ハンスに会い、食事に誘われます。そこで理想的なカップルの様子を見てしまったクリスとギッティは...。


最初は、目を逸らしたくなる程、アツアツなクリスとギッティ。将来について、仕事について、いろいろ思いを巡らせながらも、なかなか理想の方向に向かわない現実にいら立ちを見せるクリス。自由奔放でクリスに対しても素直な気持ちをぶつけるギッティ。


そんな2人の前に現れるクリスの先輩、ハンスとその妻、ザナ。ハンスもその妻もそれぞれの仕事で社会的な成功を収め、ザナは妊娠中。ハンスはクリスの才能を認めていると言いつつも、クリスに対して常に上から目線。クリスは、ハンスに会うことを避けようとしていながらも、会ってしまえば親しげに振る舞い、仕事に関するハンスの助言を受け入れます。


ハンス夫妻の登場により、徐々に、クリスとギッティの関係はギクシャクしていきます。仕事について、ハンスの言葉に影響を受けるクリス。そのクリスの心をつかむため、ザナを真似ようとするギッティ。けれど、それぞれにとって、それは、本心に反する行為。それぞれ、少しずつ自分を見失い、2人の間にも微妙な空気が流れていき...。


すれ違いながらも、どこかで、相手を繋ぎとめようともする2人。心を開きあうことも、別れることもできない膠着状態。その状況は、2人を苛立たせ、相手への怒りが生まれ...。


2時間近く、クリスとギッティがすれ違っていく過程が丁寧に描かれるのですが、全体に単調で、正直、集中力が続きません。けれど、退屈さも感じてしまう割には、結局、最後まで観てしまったりもしました。そこは、やはり、丁寧で繊細な描写がされているゆえなのかもしれません。


まぁ、"隣の芝生は青い"ってことなんですよね。しかし、それにしても、こんなことで、揺らいでしまうクリスとギッティの関係の弱さは一体なんだろうという気もします。それぞれ、社会人になって少しは年数がたっているんですよね...。何だか、年齢の割に幼いような...。その辺りも観ていて違和感ありました。


ラストも唐突。どうやら、ギッティは不思議ちゃんな自分自身を取り戻したようですが、さて、クリスは...?といったところでしょうか。


退屈な感じは否めませんでしたが、それにしては、どこか心に残る作品でした。

ジョイフル♪ノイズ

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ジョイフル♪ノイズ ブルーレイ&DVDセット(初回限定生産) [Blu-ray]/クイーン・ラティファ,ドリー・パートン,キキ・パーマー
¥3,980
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アメリカ南東部にあるジョージア州の不況にあえぐ小さな町。そんな町の教会の聖歌隊は、なかなかの実力者揃いで、全米ゴスペルコンテストへの出場を目指して地区大会を勝ち抜きます。町の人々は、聖歌隊に夢を託しますが...。


設定はありがちで、どこかで見たような物語で、先の先まで難なく読めてしまう展開、見せ方も下手。パフォーマンスを作り上げていく過程が描かれていないために、大きな感動ポイントが失われてしまっています。"新しい歌"も、最初からほとんど完成されてしまっているし、ラストのコンテストでの舞台の歌も唐突。コンテストの舞台で、ガウンを脱ぐ場面もねぇ...。皆が脱ぎ捨てたガウンもいつの間にか消えているし...。


それでも、最後まで観てしまうのは、それ以上に、結構、心を掴まれてしまうのは、ひとえに歌の力。迫力のあるゴスペルのメロディが、リズムが、歌声が、胸に響いてきます。


それにしても、アメリカの南部の町。貧しいアフリカ系と金持ち白人が同じ教会に通い、同じ聖歌隊の一員となっているというのは、今のアメリカでは、リアリティのあることなのでしょうか。もしその設定がファンタジーではなく、リアルなのだとしたら、それこそが感動のポイントかもしれません。


折角のパフォーマンス。もっと、ストーリーや展開、描き方を工夫すれば、もっとずっと心揺さぶる作品になったと思うのですが、惜しいです。何とも残念。

ドキュメンタリー映画「LIGHT UP NIPPON ~日本を照らした、奇跡の花火~」限定版特.../出演者不明
¥2,500
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2011年3月11日に起きた東日本大震災。未曾有の地震と津波による膨大な被害を受けた東北太平洋沿岸10カ所で花火を同時に打ち上げるというイベントを計画した人物がいました。次々に中止が決められた各地の花火大会。そこで使われるはずだった花火はどうなるのか、そんな疑問を抱いた高田佳岳。その花火を使って、東北を、日本を元気にしようと、被災地に出かけ、瓦礫が積みあがっている中、イベントの企画を持ちかけますが...。


2011年3月11日。あの時、私は、千葉にある職場にいました。最初は、普通に「地震だ」くらいにしか感じなかったのですが、いつにない大きく長い揺れ。事務室内の可動式の書棚が左右に大きく動き、なかなか揺れが収まりません。これは、ただごとではないと、TVをつけ...。しばらくして、凄まじいまでの津波の映像。今まさに飲み込まれていこうとしている町。押し寄せる波の先には、逃げようとしている人や車。「逃げろ!頑張れ!」と願いながらも、どうしようもありません。TVの向こうの世界では手を出しようもない、いや、例え、すぐ近くにいたとしても何もできないのです。遥かに離れた場所から映像を観ていても衝撃的なことなのに、それが目の前で起こったら、その瓦礫の中での生活を余儀なくされたら、どんなに大きな傷を残すことか。


多くの人が呑み込まれ、家が流され、生活の場そのものが奪われ、瓦礫の山となった町が残され...。そんな中で、花火を上げようというイベントの企画。津波の傷跡が生々しい町を訪ねて企画についての説明をしても、相手の表情がさえないのも当たり前。正直、「何て能天気な!」という感じだったことでしょう。


でも、それでも、哀しさの中に浸り続けていることができないのも人間。どんなに悲惨な出来事の後だったとしても、そこを生き残れば、その後には日常の生活が待っています。その終わりの見えない日々、ずっと、悲しみに沈んでいることはできません。それでは、生きていけないのですから。


そして、生き続けている以上、楽しみも必要。笑い、感動し、涙を流し...。そんな体験が必要なのです。"遊びをせんとや生まれけむ"。前を向いて生きていくエネルギーを蓄えるためには、日々の生活を成り立たせるために必死にならざるを得ない中であっても、イベントが必要なのです。


それでも、震災から間もない時期に、イベントの企画を持ちかけるために被災地を回る高田さんの姿には、嫌悪感すら覚えました。いくらなんでも、早すぎないかと...。けれど、8月11日の花火...という日程には頷けるものがありますし、必要な準備期間を考えれば、やむを得ないところ。


彼の誠意が被災地の人々の心を動かしていくにつれ、観る者の心も動かされていきます。時には、たった一人の人間のあまりに無謀な行動が、大勢の人を勇気づけることになる場合もある。たった一人から、大きなことが始まることもある。そこに、人間の可能性というものが見えてくるような気がします。


そして、何よりも心に残るのは、本作が、未曾有の甚大な被害の後でも、人は、立ち上がり、前を向く力を持ち得るのだということを示していること。それぞれが、まだ、日常を取り戻すことができていない状況の中で、イベントを成功させようと力を注いだ人々の存在。


全体に、映像が、ホームビデオっぽいというか、何だかシロ~トな感じで、もう少し何とかして欲しい感じはするのですが、それでも、冒頭の津波の映像を含め、一度は観ておきたい作品だと思います。

宇宙飛行士の医者

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宇宙飛行士の医者 [DVD]/チュルパン・ハマートヴァ,メラーブ・ニニッゼ,アナスタシア・シュベレワ
¥4,300
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1961年、カザフスタン。ソ連初の宇宙飛行計画に医者として従事するダニエルは、同じ医者のニーナと結婚していましたが、現地で若い女ヴェラとも付き合っていました。後日モスクワへ戻ったダニエルは、宇宙飛行士たちの健康管理の責任者になります。生還の見込みが少ないと思われていた有人宇宙飛行の計画。20人の候補者の中から、誰を選ぶか、その重大な判断にダニエルも関わることになります。候補者たちと医師以上の気持ちで接していたダニエルは、なかなか、若者が国家の犠牲になることに納得できず...。


人類史上、初めて宇宙に行った人物、ユーリイ・アレクセーエヴィッチ・ガガーリン。訓練を受けた20人の候補者の中から、彼が選ばれた最大の理由の身長だとか。158cm、ロシア人男性としては小柄と言っていいでしょう。それは、宇宙船、ボストーク3KA-2が小さく、大柄な人間が乗ることが難しいことがあったのだそう。そして、彼が労働者階級出身で、温和で社交的な性格であり、「ユーリイ」というロシア的な名前の持ち主であったことも影響しているとのこと。


そして、宇宙飛行後に残した有名な言葉「地球は青かった」。無事に帰還した彼は、ソ連の英雄になりました。アメリカと争っていた冷戦時代、ソ連は、この有人宇宙飛行でアメリカとの差を見せつけ、アメリカは、形勢を一気に逆転させようと月を目指すことになるワケです。


ただ、本作の中でも描かれていますが、この有人宇宙飛行が、かなりの危険を伴う冒険だったことは確か。飛行中のガガーリンに中尉から少佐への昇進が告げられたそうですが、そのニュースが飛行中のガガーリンに伝えられたのは、当時の政府高官が、ガガーリンが生還する可能性は低いと考えていたからだと言われています。送り出した側も、生還できない可能性の大きさを考えずにはいられない程の危険な行為だったのです。


作中でも、実験の失敗により、1人の兵士が犠牲となる場面が登場します。その光景を目の当たりにした苦悩。そうした体験をする中で、国家の犠牲となる決意をするガガーリン。


共産主義のソ連で、国家に逆らって生きていくことはかなり難しいこと。ガガーリンに逃れる道はなく、ずっと兵士として鍛えられてきたガガーリンは、そのことを骨の髄まで理解していたのでしょう。決断をダニエルに語るガガーリンの表情に重いものを担う決意をした凛々しさが感じられ、一方で、そうせざるを得ない状況に置かれていることの哀しさが胸に迫ってきました。


で、本作の主人公は、そのガガーリンではなくダニエル。国家権力に奉仕すべき立場にあることと、本来ならば命を救う役割を担うべき医師としての良心の狭間に置かれた苦悩が、丁寧に描かれます。


そして、彼を取り巻く、逞しき女性たち。いつの間にかタッグを組んでいるらしきニーナとヴェラ。ダニエルは、最初から敵わなかった...ということでしょうか。


でもって、ダニエルの魂は、ガガーリンを載せた宇宙船とともに遥か彼方へ飛び、亡くなった良心の魂と再会っていうのは、相当に、反共産的なような...。


作品全体が、ロシア文学的な陰鬱さと重々しさに包まれ、2時間近い時間、本作に集中するというのは、少々、疲れますが、なかなか印象的な作品でした。

銀河

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銀河 [DVD]/ポール・フランクール,ロラン・テルジェフ,エディット・スコブ
¥3,990
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パリ郊外から、聖ヤコブの遺体が安置されているというスペインにある聖地、サンチャゴ・デ・コンポステラに至る道「銀河」を歩く、2人の男。道中で、キリスト、聖母マリア、サド侯爵、死の天使、異端審問にかけられる男...、様々な人(中には神も)に出会い、キリスト教を巡る色々な出来事に遭遇し...。


巡礼の道なのですから、尋ねる先がキリスト教の聖地なのですから、キリスト教や聖書に関連することが様々に描かれるのも当然ではあります。


本作で描かれる巡礼の道は、最近観た「星の旅人たち 」、以前に観た「サン・ジャックへの道 」でも取り上げられている道。「星の旅人たち」を見る限りでは、現在も、この道は多くの巡礼者が旅をしているようですが、本作に登場する巡礼者はグッと少人数。まぁ、今のように、人々がお気軽に自由に旅を楽しめる時代ではなかったということなのかもしれません。


本作は、他の2作と、少々、趣を異にしています。まぁ、「星の旅人たち」の主人公は、息子の死に触発された巡礼で、自ら決断した巡礼とは言え、元々、彼自身が巡礼への強い想いを持っていたわけではありませんし、「サン・ジャックへの道」に至っては、全くその気のない兄弟が遺産を相続するため仕方なく始めた巡礼。特に「サン・ジャックへの道」は、かなり不純な動機による巡礼。けれど、どちらも、基本的には、主教的な行為としての巡礼であり、キリスト教をあからさまに否定するような論調は見えてきません。本作は、どちらかというと、キリスト教に対する批判的な視線が感じられます。


本作に登場する宗教家たちは、盛んに争っています。そして、それぞれにとっての"異端"を激しく罵り、攻撃します。中には、異端の者の命を奪うことすら正当な行為だと主張する宗教者も登場します。清く美しく正しくあれと育てられてきているであろう少女たちに異端者を罵る言葉を歌わせる教師や親たち。何ともグロテスクな場面です。宗教こそが異端を生み、激しい争いを引き起こします。確かに、人類の歴史においても、宗教が原因となった戦争は数知れず。


本作にも引用されているキリストの言葉「地上に平和をもたらす為に私が来たと思うな、剣を投げ込む為だ」は、まさに真実なのだと伝えているような作品です。


まぁ、もっとも、何も議論も争いもない世界が、面白いものだとも思いにくかったりします。神様が人間の世界を掻き回すからこそ、人は考え、悩み、工夫し、努力しようとするのかもしれませんし...。天国と地獄。実に豊かなイメージに彩られている地獄に対し、天国のイメージというのは単調で退屈で幅が狭いもの。人は天国の安穏に耐えらないものなのかもしれない、争い、命を懸けて戦う日々の中にこそ、生き生きとした日常を見出せるのではないか、そんなことすら考えさせられました。


ルイス・ブニュエルにしても、キリスト教の存在あればこそ、本作を製作できたわけですし...。


天敵を失った野生動物が個体数を増やし過ぎて滅びることがあるのと同じように、争い、殺しあわないと種としての存続を危うくしてしまうのだとすると、情けない気もしますが...。


ある程度以上のキリスト教や聖書に関する知識がある方が楽しめる作品だと思います。特に、まとまったストーリーがあるわけでもないので、ところどころツマミ食いしながら観ても楽しめるのではないでしょうか。


なかなか印象的な作品。繰り返し観るほどに深く味わえる作品だと思います。DVDを買っても良いかも。

眠れぬ夜の仕事図鑑

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ヨーロッパ10か国で撮影された夜の風景がまとめられたドキュメンタリー作品です。


スペイン、メリリャでも国境警備隊は夜も休まず、

イタリア、ローマのジプシーキャンプでは、責任者がロマの人々を郊外に強制退去させていて、

ドイツ、ミュンヘンでは夜を徹してビール祭り、

やはりドイツのドレスデンには、夜中も稼働する火葬場があり、

その他にもドイツ、ヴィットリッヒの警察官訓練所では夜中も訓練が行われ、

イギリス、ロンドンの警備会社は夜中も町中に設置された監視カメラの映像をチェック、

同じくイギリス、プレストンの工場では戦闘機の組み立てが夜中も続けられ、

さらにイギリス、ラングリーにある郵便仕分け会社も24時間、せっせと郵便物をさばき、

オランダ、ヘンゲロの自殺防止ホットラインの職員は真夜中の電話にも対応し、

そのオランダのアーネムでは徹夜のダンスイベントが開催され、

オーストラリアのグラーツ病院では夜中も医師が新生児の様子を見守り

チェコ、プラハの売春宿、こちらは、夜こそ稼ぎ時で、

老人施設では、寝ている老人たちの様子を見まわり、寝返りさせ、

チカンでは深夜に大勢の人々が祈りを捧げ、

国際会議は夜も"踊り"


人間の欲望の果てしなさを見せつけられる感じもしました。最初は、日中に受けられるだけでも嬉しかったサービスも当たり前になれば、同じサービスを夜にも受けたいと思うようになり、そのうち、日中に利用できるサービスを夜だからという理由で利用できないことが理不尽にも思えてくるもの。


一方、商売しようとする側も、競争相手のいないニッチな市場を狙おうとすれば、日中から徐々に早朝や深夜にシフトしていくわけで、眠るしかなかった夜の時間外が、どんどん活動する時間になっていき、その活動を支えるためにエネルギーが消費されるようになり...。


夜、大勢の人間が集まるイベントがあれば、そこに関わる仕事が色々と発生します。電気が必要、警備も必要、清掃も必要、飲食物の用意も必要、病気や怪我への緊急事態への対応も必要、そこで使われている様々な機器類のトラブルへの対応も必要...。一つの"夜の仕事"が成立するためには、その周辺で数種類の夜の仕事が必要になってくるわけで...。どんどん広がっていき、とまらず...。


夜の地球の映像を観たことがあります。特に北半球には、夜になっても明るい部分が広く、中でも、日本は、列島の形がしっかり分かる程、輝いていました。その少なくない一部が原子力発電により生み出された光であることを考えると、現代の私たちの生活のあり方に大きな疑問を感じてしまったことも事実。


本作を観て、更に、人間の欲求の深さに圧倒されました。かつて人類が存在することを許されなかった場所に進出し、活動できなかった時間帯に侵食することで、人類は、存在し、活動する領域を広げ、それにより、"発展"してきたのかもしれません。そして、こうして活動する人々が放つ光を集めた夜景の美しさが、実に感動的であることも確か。


そして、病院とか、老人施設とか、様々な人が生き永らえるために必要としている施設については、その存在意義を受け入れやすいですし、ビール祭りのように非日常的なイベントは生活にメリハリをつけ、溜まったものを発散させるために必要な感じもします。


でも、夜でも、ほとんど、日中と変わらない活動ができるようになった今だからこそ、私たちは、何を手放すべきかについても真剣に考えなければならないのではないかと思いました。


いろいろと考えさせられました。この先、美しい夜景を今までとは違う印象で眺めることになるのかもしれません。一見の価値ありです。



公式サイト

http://nemurenuyoru.com/