リミットレス

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リミットレス [DVD]/ブラッドリー・クーパー,ロバート・デ・ニーロ,アビー・コーニッシュ
¥2,980
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IQが4桁というほとんどあり得ない天才になれる薬なのだそうですが、それにしては、やることがセコイのです。まぁ、それ程の天才ではない人々が作り出した作品なのですから、仕方ないのでしょうね。人類史上ベストを争うようなレベルの天才のイメージをリアルに作り上げるためには、それに近い才能を必要とするのでしょうから。まぁ、IQが150とか、200とか、フツ~に想像できる範囲の天才では太刀打ちできないレベルなのでしょうから、原作者や本作の製作者が力不足だったとしてもやむを得ないことでしょう。


ただ、大儲けするとか、権力を手に入れるとかでは、やはり、物足りない感じがします。大統領を目指すのも良いのですが、さすがにIQ4桁の天才と唸らされるようなずば抜けたビジョンを持って欲しかったです。金儲けをしてカリブ海で休暇を楽しんで、美女と遊んで、権力を手に入れて...では、あまりに凡人ぽくて哀しいです。


そして、どうやら、エディ以外にも同じ薬を使った経験のある人は数人は存在する様子。人によって効果の出方には差があったのでしょうし、エディが突出して薬との相性が良かったのかもしれませんが、これほどの天才を生み出す薬を飲んでいる人がそんなにいるのなら、薬を奪い合うより、こっそり同じものを複製するとか、副作用のないものを発明したりすることにまず能力を使った方がよかったのだと思いますが...。


それ程の天才なら、まず、そこに気づいて、サッサと自分の一生に必要な薬の確保をすべきだったでしょう。まぁ、それでは、ドラマにならないのかもしれませんが...。


結構、突っ込みどころは多かったです。結構、稼ぐようになってからも借金の返済を迫られたりとかもしていましたし...。頭の回転が速くなったり片隅に眠っていた記憶が蘇って勝てる喧嘩の方法が分かったからと言ってそれだけで、身体が強化されるわけではないので、それで、いきなり喧嘩に勝つというのも違和感ありました。アクションより、頭脳戦を繰り広げて欲しかったです。


そして、肝心の薬の正体やでどころもはっきりしないまま、というより、誰もはっきりさせようとしないままラストを迎えます。もうちょっと、薬についての説明があった方がよかったと思います。


けれど、悪い作品ではなかったと思います。そこそこ楽しめました。頭が冴えてくる過程の描写などは面白かったですし、薬が切れてきて能力が落ちていることを誤魔化そうとする場面での駆け引きもちょっとハラハラしました。設定が面白いだけにそれを活かしきれていなくて残念です。

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ロンドン・ブルバード

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ロンドン・ブルバード ラスト・ボディガード [Blu-ray]/コリン・ファレル、キーラ・ナイトレイ
¥4,935
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3年の刑期を務め上げて出所したミッチェル(コリン・ファレル)は、二度と塀の中には戻らないと心に誓います。裏社会とのつながりを断つためにもまともな仕事を探していた彼は、偶然元女優のシャーロット(キーラ・ナイトレイ)のボディーガードに採用されます。しかし、ミッチェルの活躍がギャングのボス(レイ・ウィンストン)の目に留まり...。


重々しい雰囲気のフィルム・ノワール...かと思いきや、コリン・ファレルのPVといったところでしょうか。コリン・ファレルがカッコいいです。でも、ストーリー的にはよくあるギャング映画というか、日本の任侠ものといった感じ。


ギャングから足を洗うのは簡単ではないっていうおハナシです。まぁ、よくありますよね。家族のため、恋人のために真っ当に生きようとしても、しがらみがそれを許さない。特に任侠の世界では人間関係や絆が大事。いろいろな人間関係から抜け出そうとしても、ことは簡単ではありません。


自分の想いを通そうと思っても、それを阻む者がいて、その想いを通すことによって迷惑を被る者がいて...。あちこちのことを考えると進むことも退くこともできなくなってしまいます。ギャングのボスも、ミッチェルを引き入れるため、各方面に手を回し、ポイントを押さえていきます。


折角、裏社会から足を洗おうとしているのに、結局は、ギャングの手法で戦うしかなかったミッチェル。周囲が彼を抜けさせないということだけでなく、ミッチェルの側もギャングの世界にどっぷりと浸ってしまった部分があったのでしょう。


まぁ、既視感のあるストーリーだし、ガン・ファイトも左程迫力が感じられませんでしたが、それでも、コリン・ファレルの存在感とカッコ良さが楽しめました。決して、つまらない作品ではありませんでした。ただ、コリン・ファレル以外、特に印象に残るような作品でもありませんでしたが...。


悪くはありませんが、レンタルのDVDで一度観れば十分かと...。

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さあ帰ろう、ペダルをこいで

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1983年にブルガリアからドイツに移住していた父、ヴァスコ、母、ヤナ、息子、アレクサンダル(愛称、サシコ、サシャ)の3人の家族は、2008年、里帰りをすることになり、車でブルガリアに向かいます。ところが、事故に遭い、サシコは一命を取り留めたものの記憶を失い、両親も亡くなってしまいます。そこに、事故の報を聞いた祖父、バイ・ダンがブルガリアから駆けつけてきます。祖父のことを全く覚えていないサシコは、最初、祖父を拒否しますが、結局、バイ・ダンに従い、記憶を取り戻すための故郷への旅に出ることにします。2人はタンデム自転車でブルガリアを目指し...。


祖父のバイ・ダンは、バックギャモンの天才的プレイヤー。そして、バックギャモンの才能が、バイ・ダンからその息子、その孫のアレックスに受け継がれていきます。このバックギャモンとタンデム自転車が本作の雰囲気を作る上で大きな役割を占めるアイテムとなっています。


サイコロを振って、その目に従い15個の駒を進めていくゲームで、ルールは単純で、誰でもすぐにやり方を理解できるようなゲームです。自分と相手の駒の進行を巡る駆け引きがあって、相手の手を読んだり、相手の進行を妨げながら自分の駒を進めていく技が必要だったりということがあって、なかなか奥が深いのです。バックギャモンの名手、バイ・ダンは、サシコにバックギャモンを語りながら人生を教えます。


ブルガリアといえば、ヨーグルト。自然豊かな長寿の国というのどかなイメージがある国ですが、1944年にソ連の侵攻を受け、王政が廃止され、共和制が成立してソ連の衛星国家となり、様々な形でソ連の支配を受けます。1989年に共産党政権が崩壊し、2001年には元国王のシメオン・サクスコブルクゴツキが首相となります。2007年にEUに加盟しますが、その時点ではEU最貧国でした。2人の旅は、ブルガリアがEUに加盟した翌年のこと。


勝ち負けには、サイコロの目の出方が大きな意味を持ちます。けれど、どんな目を出すかは多少は操作できるし、出た目をどう活かすかは、その人の才覚の問題でもある。バックギャモンというシンプルながら奥の深いゲームに人生そのものが重なります。


自転車で旅をしながら、バックギャモンを教えられ、ゲームの勘と記憶を取り戻しながら、人生を学んでいくサシコ。そして、2人の旅は、観る者にブルガリアの歴史を教えてくれます。バイ・ダンが舵を取るタンデムの自転車を漕ぐ主体はサシコ。バイ・ダンからサシコに歴史が受け継がれていく様子が胸に沁みました。


バックギャモンとサシコの記憶の再生と成長、そして、ブルガリアの歴史。いろいろな要素を取り込みながらも、全体のバランスがよく作品としての纏まりを保っています。


サシコがバイ・ダンと王者の地位をかけた勝負をする場面も秀逸。本戦で勝負がつかず、サイコロ勝負となり、先攻のバイ・ダンが6のゾロ目。これに勝つ目なんてないのですが...。そうくるかぁと驚かされる展開でした。まぁ、下手すればそのあり得なさが怒りをかうのでしょうけれど、しっかりと笑わせてくれる辺り、巧さが感じられました。


長く印象に残るであろう作品でした。お勧めです。


ところで、疑問が一つ。いろいろな映画関係のサイトなどで、本作のストーリーを見ると、バイ・ダンはサシコの母の父であるとの記述がみられます。本作の中で、ヤナが、ヴァスコに対し、亡命について実家の親に知らせたいと訴える場面があったような気がするのですが、私の記憶違いでしょうか?どうも、自信がなくて...。秘密警察の男とヴァスコが遣り取りする場面では、バイ・ダンはヴァスコの舅となっていたような気もするし...。DVDが出たら確かめてみようと思います。



公式サイト

http://www.kaerou.net/

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ポテチ

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伊坂幸太郎の「フィッシュストーリー」に収められた短編を原作に制作された映画作品。


空き巣を生業とする今村は、恋人の若葉とともに、プロ野球選手、尾崎の家に侵入します。若葉は早く金目のものを盗って帰ろうと今村を促すのですが、今村はのんびりと構えてトレーニングマシンを試したり、テレビを見たり...。今村にとって、かつて高校野球で大活躍し、プロ入りしながら巧く監督に使ってもらえず活躍のチャンスを掴めずにいる尾崎が気になって仕方ない様子。尾崎とは同じ生年月日とのことなのですが...。


伊坂幸太郎原作作品にはありがちなことですが、相当にご都合主義な部分があり、リアリティという点から見るとちょっと厳しいところがあります。けれど、そこが、本作のよさでもあります。そりゃないだろう的な"奇跡"
が繋がり、こまごまと張られていたいくかの伏線が見事に収束していく時の爽快感。そして、ラストまで行き着いた時に、そこに至るまでの過程がサ~ッと思い起こされていき心地よい余韻に浸れる。これが、伊坂幸太郎原作作品の魅力なのでしょう。


嘘くさくてあり得ない世界なのですが、作品自体の世界がしっかり作り込まれているからその現実感のなさが欠点ではなく魅力になっている...といったところでしょうか。


笑えて、泣けて、ジンとくる作品です。68分という短編で、地味な作品ですが、印象的な見応えのある作品に仕上がっていました。


車の中で今村と若葉がポテトチップスのことでもめるシーン。あの場面が、クライマックスで効いてきます。そう、コンソメ味を食べたいと思っていた時に塩味が回ってきてしまったけれど、塩味も食べてみれば美味しいし、元々欲しいと思っていたコンソメ味より良いと思えたりもする。そこが、人生の面白さなのかもしれません。


この"車中のポテチ事件"に、冒頭の方で説明されている今村の行動、今村の母の言葉を重ねると、クライマックスで明らかにされる事実は推測されるのですが、それが予め分かってしまうことで作品の魅力が損なわれていない点も良かったです。


今村役の濱田岳、その恋人若葉役の木村文乃、今村の母役の石田えり、今村が空き巣の先輩として頼りにしている黒澤役の大森南朋。いずれも、さすがの演技を見せていて、作品に安心感を与えています。


決して震災関連のことを描いた作品ではありませんし、そこのとが作品の評価に直接的な影響を及ぼしているワケでもないとは思いますが、震災の傷跡もまだまだ生々しい2011年9月の仙台で撮られた作品であるというところにも、重みを感じます。


観てよかったです。お勧め。上映時間が短いからか、料金も一般で前売1000円、当日券1300円と安めの設定になっています。



公式サイト

http://potechi-movie.jp/

恋と愛の測り方

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舞台はNY。ジョアンナとマイケルは結婚3年目を迎え、安定した日々を送っていました。けれど、ある時、ジョアンナは、マイケルと彼の新しい同僚、ローラとの関係に疑いを抱き、そのことから喧嘩になってしまいます。そんな状態の中で、マイケルはローラと他の同僚と3人でフィラデルフィアに出張に行ってしまいます。一方、ジョアンナは、かつての恋人、アレックスと再会し...。


それなりの年齢になってから初めての結婚をする人も少なくない昨今、結婚する相手の知らない過去の恋の想い出の一つや二つ持っている人も珍しくはないでしょう。別に、過去の恋に引き摺られているとか、結婚相手と過去の恋人を比較してどうこうとか、そういうことではなく、でも、結婚する相手に巧く説明できる自信もないというような...。


マイケルとローラに疑心暗鬼なジョアンナ。もう、ほとんど被害妄想状態にあるジョアンナはマイケルを問い詰めます。そのしつこさは、これでは、マイケルは、本当にローラと不倫しないと損な気分になってしまうのではないかと思うくらい。


で、ジョアンナにもアレックスの存在がありました。ジョアンナにとって、アレックスは終わってしまった過去...のようではありますが、未練がないわけでもないような...。どうも、中途半端なのですよね。まぁ、人の心なんて、そう簡単に割り切れるものではないとは思いますが、それにしても...。彼女の倫理観から考えれば、"一線は越えていない"ということになるのでしょうけれど、それは、アレックスがイイ人だったから。ジョアンナが自制したわけではありません。ローラとの仲を疑って、あれだけマイケルを攻撃した割には、自分に甘いジョアンナでした。マイケルとの関係においても、アレックスとの関係においても、相手の人のよさに甘えてしまっていながらそのことへの自覚は薄い様子。


さて、一線を越えてしまったのはマイケルの方でしたが、こちらも、何だか煮え切らない。ローラは、こんな中途半端なマイケルの何がよかったのか...。そして、マイケルには、ローラの何が魅力的だったのか...。


どっちつかずのマイケルとジョアンナがフラフラするだけで時間が過ぎていく感じに集中力が途切れがちになってしまいました。


相手側は、ローラもアレックスも自分が欲しいものを明確に意識していました。やっていることは褒められたものではありませんが、ある意味、自分に正直で、はっきりしていて潔さが感じられました。


ジョアンナ:マイケルとアレックスの人のよさに支えられ自分を守れたけれど、どうも、そのことに無自覚なまま。

マイケル:心の底からローラとどうにかなりたかったわけではないけど、ジョアンナへの罪悪感を抱きつつもローラに押し切られます。

ローラ:ホンの僅かな時間ではありましたが、欲しいものを手に入れます。

アレックス:欲しいものを手に入れようとし、そのチャンスに巡り合いましたが、相手を尊重し欲しいものを諦めます。


どっちつかずのジョアンナとマイケルを中心に、ダラダラと流れていきますが、ラストで一気に締まります。このラストが、なかなか秀逸。和解したかに思えたジョアンナとマイケル。けれど、マイケルは、ジョアンナの肩越しにジョアンナの昨夜の行動を示す手がかりを見てしまいます。何かを悟ったマイケルに対し口を開くジョアンナ。甘ったるい感じのフラフラした作品に、ピリッとした怖さを付け加える場面になっています。


原題は「LAST NIGHT」。そのまま訳せば「昨夜」。このラストのあと、2人はそれぞれの"LAST NIGHT"について闘うのか、互いに受け入れあうのか...。"LAST NIGHT"を巡ってひと悶着あるのか、それとも、臭いものにはフタの方向で行くのか...。


この後の展開を様々に想像させ、余韻を残します。そう簡単にはハッピーエンドとならない男と女。擦れ違い、ぶつかり合いながら2人だけにしかわからない関係を紡いでいくのが夫婦なのでしょう。


公式サイト

http://www.alcine-terran.com/koitoai/

ため息つかせて

テーマ:
ため息つかせて [DVD]/ホイットニー・ヒューストン,アンジェラ・バセット,ロレッタ・ディバイン
¥1,490
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テリー・マクミランの同名小説を映画化した作品。


サバンナ、33歳、独身。仕事の成功と理想の男性との出会いを求めて親友バーナディンの住む町フェニックスに引っ越してきました。裕福で幸せな結婚生活を送っていたはずのバーナディンですが、11年連れ添った夫は、こともあろうに白人の秘書と浮気。彼女と子ども2人を置いて出ていってしまい、離婚訴訟中。バーナディンは、サバンナに、2人の親友、容姿抜群で仕事もできるのに、男にはめっぽう弱く、騙されてばかりいるロビンと、かなりの重量オーバーだが心の優しいシングル・マザー、グロリアの2人を紹介します。4人は友情を深めていき...。


SEX AND THE CITY 」のアフリカンアメリカン編といったところでしょうか。もっとも、本作の方がと庶民的ではあります。「SATC」は、あまりに、ゴージャスでしたから。白人とアフリカ系では経済格差が大きい現状を考えれば、まぁ、こんなもんなんでしょうか...。


イマドキの女子は欲張りです。美人でいい女で、バリキャリで、女としての魅力も社会的地位も経済的安定も手に入れて、それでも、なお、欲しいものがある...らしい。そんなに容姿にも能力にも恵まれていない分際の者としては、そのうちのどれか一つでも手に入れることができたら、それだけで満足できるような気がしますが...。


それはともかく、それでも、オトコなんかいなくても女子同士まとまれば生きていける。イイオトコは、生活を楽しくする要素の小さくない一つではあっても、人生になくてはならないものではないのです。オトコが必要な場面は子どもを持とうと思った時くらい...だったわけですが、かつては、バンクもありますしね...。


恋愛が、様々な芸術作品のテーマになり続けているように、オトコにとっても、オンナにとっても、恋愛が大きな関心事であることは確か、だからこそ、そこに縛られなくなった時、人は自由になれるのかもしれません。


「SATC」よりも前には「フライド・グリーントマト 」とか、「マグノリアの花たち 」などの名作もありました。本作のような"女子会"系作品は、時々、作られています。まぁ、既視感のある作品ではありますが、そこそこ楽しめました。アフリカンアメリカンな辺りが本作のオリジナリティを感じられる部分なのでしょう。


夫の不倫相手が白人女性だと分かった時に、夫を「黒人の恥」呼ばわりする辺りも面白かったです。



ため息つかせて@ぴあ映画生活




http://cinema.pia.co.jp/tb/tb?movie_id=5033

愛の勝利を ムッソリーニを愛した女 [DVD]/ジョヴァンナ・メッゾジョルノ,フィリッポ・ティーミ,ファウスト・ルッソ・アレン
¥5,040
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20世紀初頭、祖国イタリアを救おうと立ち上がったムッソリーニ。彼の熱のこもった演説を聞いた女性、イーダは、彼に惚れ込み、すべての財産を彼に貢いでその活動を支えます。ムッソリーニは、イーダから得た資金でファシスト党を組織し、その勢力を拡大していきます。やがて、2人の間に息子が生まれます。ところが、イーダは、ムッソリーニには既に妻と子がいることを知り...。


凄まじいばかりの激しさです。もはや、愛とは思えません。成程、彼女がムッソリーニの活動資金を支えたのかもしれません。そのお蔭で彼は世に出ることができたのかもしれません。でも、ここまでやられたら、ムッソリーニが逃げるのも当然のような...。


ムッソリーニに迫っていく段階で、全く"戦略"というものを考えようともしていない風なイーダ。それは、純粋さゆえと解釈すべきなのかもしれませんが、あまりに無垢な純粋さは周囲も自分自身も深く傷つけるもの。彼女の剥き出しの鋭い刃は、周囲からは危険視され、彼女の心をも深く抉ります。


「ムッソリーニを一番理解しているのは自分」だと、イーダは主張しますが、その姿には、狂気と哀しさが漂います。


収容された精神病院の柵を登り、病院の職員に投かんを依頼して断られた手紙を投げるイーダ。ムッソリーニ、国王、教皇...その手当たり次第な感じに、彼女の狂気と紙一重の純粋さ(または、純粋さと紙一重の狂気)が現れているようです。この柵を登って紙をばらまくというシーンはクライマックスにも登場しますが、訴えても訴えてもその言葉を取り上げてもらえることのない彼女の哀しみが迫ってくる場面となっています。この場面を観ると、それまでの彼女の言動から抱いていた彼女に対する嫌悪感のようなものが一気に抜けていく感じがします。


病院を抜け出したイーダが警察官に連行される場面。それを阻止しようと大勢の村人が集まります。故郷の人々は彼女の真実を知っていた...ということなのでしょうか。この場面が入ることで、イーダの"真実"にリアリティが与えられます。イタリアに、ヨーロッパに、世界に狂気が吹き荒れていた時代、狂っていたのはイーダなのか、世界なのか...。


そして、その狂気はイーダから息子のベニートに受け継がれていきます。そう、この若きベニートこそ、本作の最大の被害者。イーダの自身のムッソリーニに対する感情への強すぎるこだわりが息子の人生を決定付けたのでしょう。この息子の運命が実に痛ましいのですが、イーダが恋したムッソリーニと息子ベニートの2役を演じたフィリッポ・ティーミが若きベニートとして登場するクライマックスからラストにかけてが見事。


正直、前半部では、登場人物に気持ちを寄せることも難しく、ストーリーの流れ方にも澱みがあり、集中が途切れがちでしたが、クライマックスになると、グッと気持ちを惹きつけられました。この終わりの30分程の時間帯のために耐えてきたかいがあった...といったところでしょうか。


映像は美しかったです。歴史絵巻を描くのに相応しい重厚な雰囲気で、印象的でした。

モンスターズクラブ

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山小屋で隠居生活を送りながら、小包爆弾を送り全米を震撼させたという、数学者ユナボマーの事件にインスパイアされ、作られた作品。


雪山にある山小屋で孤独な生活を送る良一は、爆弾を作り、マスコミや広告代理店の社長、有名大学教授に送りつけていました。しかし、ある時から彼の前に死んだはずの兄や弟の幻が現われるようになります。社会と隔絶された環境の中で、自身の家族の"過去"と向き合う良一は少しずつ追いつめられていって...。


作中で読み上げられる声明文の冒頭、「「現代社会に生きる人間は 規則や規定のひもで縛られており 自分とはまったく関係のない人物によって運命を左右されてしまう」確かにそうかもしれませんが、まぁ、現代社会に生きる人間だけがそんな生き方をしているわけではありませんよね。古代から、多くの人間は社会のシステムに縛られて生きてきたのです。生まれによって職業や社会的地位、経済状況などが規定される社会は珍しくありませんし、そうした時代も長かったわけですし...。


人類の歴史において、基本的に、人間は自然の本能から離れる方向に発展してきたわけですし、爆弾をあちこちに送り付けたくらいで社会システムを破壊することができるわけもないのです。


だから、要人や大企業に爆弾を送ったところで、声明文で指摘されているような問題は何一つ解決されないのです。まぁ、良一自身にも自分の行動に対する疑念があるのでしょう。その疑念は、亡くなった兄や弟の姿を借りて良一に翻意を促そうとします。


妹との対話以外は、良一の脳内でのできごとでしょうが、例えバーチャルなものであっても、第三者との交流がないところでは、人は暴走しやすいものなのかもしれません。人里離れ、雪に閉じ込められた世界。(とはいえ、本当に完全に社会と断絶していたら小包を送りつけたりすることさえできないわけですが...。)そこで、一人、思索にふける中で、その思想はどんどん純化し、先鋭化していったのでしょう。そして、ついには、社会に牙を剥く...。


そんな良一も、生きている妹、兄や弟の幻影、正体不明の化け物との対話によって変化します。やがて、渋谷の雑踏の中に踏み出し、本作はラストを迎えます。このラストは本作の提示する希望なのでしょう。


閉じられた空間で先鋭化していく良一を包み込む雪景色。純粋さの象徴でもある白と雪の持つ冷たく厳しい一面が、良一の心象と見事に表しています。美しく切ない映像が印象に残りました。


音声で語られる部分があまりに多く、映画作品としては、もう少し、表現に工夫が欲しかった感じもします。言葉に頼る部分が多い割には集中が途切れなかったのは、コンパクトに纏められているからなのでしょう。ただ、それでも、もっと言葉ではなく映像で表現する部分が多かった方が映画作品としては楽しめたと思います。


ちょっとした表情の変化で良一の内面の動きを巧く表現した瑛太を始め、出演陣が良かったです。映画館でなくてDVDでも良いかとは思いますが...。



公式サイト

http://monsters-club.jp/

少年と自転車

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少年シリルは、父親に児童相談所へ預けられます。その後、父からの連絡は途絶えますが、彼は父親を見つけ、また一緒に暮らしたいと思っていました。ある日、シリルは父を探すため、かつてともに住んでいた団地を訪ね、そこで、美容師のサマンサと出会います。シリルは、自転車を見つけて施設に届けてくれたサマンサに、週末だけの里親になってくれるよう頼みます。サマンサはその願いを聞き、週末ごとにシリルを引き取るようになりますが...。


父に捨てられた少年。けれど、彼はその事実をなかなか受け入れられず、もがきます。何とか父を見つけたい、そして、父に受け入れて欲しい、その一途さゆえに、周囲と摩擦を起こし、彼を想ってくれる人々の生活を掻き乱します。


反発されても、恋人との仲がギクシャクしても、彼が離れていっても、怪我をさせられても、何があってもシリルに寄り添おうとするサマンサ。何が彼女をそうさせるのか、彼女の過去に、彼女の心の中に何があったのかは分かりません。けれど、サマンサのシリルに対する想いは揺らぎません。そしてその確かな愛情がシリルを変えていきます。


このシリルの側にある事情が多少なりとも描かれていると、違和感なく観られた感じがするのですが、ここまで超人的な愛となると、違和感を覚えます。そう感じるのは、人に対する信頼感の欠如しているからなのでしょうか...。


自転車で並走するシリルとサマンサ。自転車を交換するシーンに2人の中に生まれた確かな絆が感じられました。子どもがきちんと育っていくためには大きな愛情が必要。けれど、それを注ぐ者が実の親でなければならない必然性などないのです。ちょっとした偶然から出会っただけの赤の他人同士の間にも確かな絆が生まれることはあるのです。


そんなに大事な自転車なら、鍵もかけずに放置するなとか、突っ込みどころはあるものの、世の中に背を向けざるを得ない状況に追い込まれた少年の心情と、そこからの再生が見事に描かれ印象的な作品になっています。


映像もきれいでした。少年の着る服の赤が脳裏に残ります。


なかなか見応えのある作品でした。一見の価値ありです。



公式サイト

http://www.bitters.co.jp/jitensha/

幸せの教室

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仕事が生きがいのラリー。何度も沢山の従業員の中から"今月の人"に選ばれるほど、その仕事振りは高く評価されていました。けれど、大学を卒業していないというだけの理由でリストラされてしまいます。そこで、再就職のため、短期大学に通うことにします。学生部長の勧めで、経済学とビジネスとスピーチの講義を選択したラリーですが...。


学歴社会なアメリカですが、このリストラは酷い!アメリカだとリアリティのあるリストラなんでしょうね。仕事でダメ出しされるならともかく、何年もの間、職場で重ねてきた実績が評価されないなんて。


中年になって再び大学で学ぶチャンスを手に入れやすい環境があるという点は素晴らしいことだと思います。でも、ラリーが通ったのは短大。で、正式な学生というより聴講生って感じでしたが、それで、"大卒"にはならないですよね。彼にリストラ宣告が行われる場面にいた男性の一人が「自分は大学に3年間通っていた」と言っていましたが、"大卒"でなくても"大学での勉強の経験"があれば良いってことなのでしょうか。一般に"入るのは簡単だけれど卒業するのは難しい"と言われているアメリカの大学。そんなに簡単に手に入れられる"学歴"なら、ラリーがそれだけのためにリストラされたというのは、ますます理不尽に思えます。


それはともかく、経済学とスピーチ、そして、作中ではきちんと取り上げられていませんでしたが、ビジネス関係の講義に出るようになったラリー。経済学の知識を活かして実勢価格を上回る金額のローンを抱えている自宅を処分します。そして、スピーチの講義では恋人を手に入れます。


理不尽なリストラから悔しさをバネにして再起していくオジサンの物語かと思っていたのですが、全体としては、ラリーとメルセデスのロマンスが中心となっています。ラリーの再就職も、知り合いの店の調理場。ここは、学校に通っている間のアルバイトってことなのかもしれませんが、本来の入学の目的だったはずの再就職の部分について、ほとんど触れられていないため、テーマがボケてしまった感じがします。


まぁ、高校を卒業した後、軍隊で国のために尽くし、スーパーで懸命に働いてきたラリーですから、若い同級生たちとの交流やキャンパスライフが楽しくて仕方ないのは分かる気がします。そして、そんな中でも、真面目に勉強することを忘れていないラリーの姿は見事だと思います。


でも、本作をありきたりのラブストーリーとは違ったものにするためには、もっと学ぶことそれによってビジネスのスキルを向上されているとか、就職活動に変化が出てきたとか、そういった要素が必要だったのではないでしょうか。


そして、ヤル気のないスピーチ担当の教授、メルセデスが、自分自身について振り返ったりすることがなかったところにも物足りなさを感じました。夫との関係についても、彼女自身の問題もあったわけで、その辺り、きちんと反省して変わろうとする過程は欲しかった気がします。


笑いどころもきちっと入れた、軽~~~い感覚のラブコメディといったところでしょうか。さすがにトム・ハンクスとジュリア・ロバーツの大物コンビ、観る者を飽きさせはしません。でも、もっと深さとか味わいといったものが欲しかったです。


悪くはありませんが、レンタルのDVDで十分だと思います。



公式サイト

http://disney-studio.jp/movies/shiawase/