ジュリエットからの手紙

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ジュリエットからの手紙 [DVD]/アマンダ・セイフライド,ガエル・ガルシア・ベルナル,クリストファー・イーガン
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「ロミオとジュリエット」の舞台、ヴェローナには、物語のモデルとなったジュリエットの生家があり、ジュリエットあてに恋の悩みを綴った手紙が、世界中から届けられています。そして、その“ジュリエット・レター”1通ずつに“ジュリエットの秘書”と呼ばれる女性たちが返事を書いています。


アメリカ人女性、ソフィーは婚約者のヴィクターとともにヴェローナを旅します。ところが、ヴィクターは自分のレストランを開くための準備で頭がいっぱい。レストランで出すワインや食材探しに夢中でソフィーは面白くありません。ヴィクターと別行動で訪れた"ジュリエットの家"で、イギリス女性、クレアが50年前に書かれた古い手紙を見つけ、その手紙に返事を書くことになります。数日後、返事を受け取ったクレアは、孫のチャーリーとともにすぐにヴェローナにやってきて...。


"ジュリエットの家"に絡む話ですから、当然のごとくラブロマンスです。そして、割とオーソドックスで、安心して観ていられるタイプの。50年前のロマンスと現代のロマンスが重なり、収まるべきところに無難に収まっていきます。まさに王道のファンタジーです。


クレアが辿る過去の愛と、ソフィーの現在の愛が絡んで、2人は旅の中でそれぞれの愛を振り返ることになります。


出てくる人はみんな好い人で、それぞれにカッコよさがあって...。作品の中心となっているソフィーもクレアもそれぞれに乙女で可愛らしいところもあって魅力的。ドロドロした感じや修羅場はなく大円団。都合よすぎな展開も散りばめられますが、不思議とあざとさは感じられず心温まる作品となっています。


そして、ヴェローナの魅力がふんだんに盛り込まれて観光客誘致作品としても成功していると思います。街やブドウ畑の美しさと美味しそうなワインや食べ物。ヴィクターの"お仕事"が巧い形で活かされていて、そんなところにも製作者側の"ウデ"が感じられました。


きちんと丁寧に作れば、よくあるパターンの王道作品も面白く仕上がるという見本のような作品。観ておいて損はないと思います。



ジュリエットからの手紙@ぴあ映画生活

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クロサワ映画

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クロサワ映画 [DVD]/黒沢かずこ,渋江譲二,村上知子
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森三中のメンバー黒沢かずこは一人だけ独身、恋人なし。大島美幸は売れっ子放送作家と結婚し、村上知子はアパレル業界のイケメン男性と結ばれました。ある日、鈴木おさむ、大島美幸 結婚8周年パーティに出席していた黒沢は、出席しているメンバーの既婚率の多さに嫌気がさし、唯一心を許せる独身女芸人椿鬼奴と、幸せそうな大島を遠目に見ながら管を巻いていました。そこへ黒沢のファンであると自称するイケメン俳優が声を掛けてきて...。


悪くはなかったと思います。女芸人たちの想いのようなものがリアルに描かれ、シンミリとしたところもあって...。登場人物たちが実名で出ているだけにリアルな感じがして、切なさや女芸人という職業に賭けようとする女たちの覚悟のようなものも伝わってきました。


ストーリー自体は、まぁ、ありきたりというか、TVのお笑い番組の特番レベルというか...。映画館で観たくなるような映画作品になっているかというと疑問も感じます。


そして、いくら売らんがためとは言え、やり過ぎ感はありました。黒沢の置かれた状況を考えれば、彼女が本気になることは予測できたわけで...。だからこそ、こうした企画が生まれたし、ドッキリとして"成功"したのでしょう。お笑いの"芸"として、人を貶めてその姿を笑うという分野があるわけですが、ここまでやると、しかも追い討ちをかけるような2回目となると、素直には笑えませんでした。


イケメン俳優くんも、あまりにあっけらかんとし過ぎていて、何考えているのだろうという感じがします。もっと罪悪感のようなものをもってくれてもよかったような...。彼の中に何らかの葛藤が生じたという場面があればもやもやはあまり残らなかったかもしれません。


女芸人の愛と仕事というテーマ自体は悪くなかったと思いますし、作中に表現される女芸人たちの友情も心に沁みるものがあって良かったです。ドッキリというかたちでなく、あるいは、ドッキリにしても1回目のレベルで止めておけば、モヤモヤしたものが残らず楽しめたのかもしれません。


残念でした。



クロサワ映画@ぴあ映画生活

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MAD探偵 7人の容疑者

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MAD探偵 7人の容疑者 [DVD]/ラウ・チンワン,アンディ・オン,ラム・カートン
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舞台は香港。類まれなプロファイリング能力がありながら、そのあまりに独特な捜査方法が元となって警察を追われた元刑事のバン。未解決の刑事失踪事件を調査していたものの暗礁に乗り上げていたホー刑事は、バンに協力を依頼。2人は行方不明になった刑事の相棒だったコウ刑事の身辺を調べ始めます。奇抜な方法で事件の核心に迫っていきますが...。


確かに、元刑事の探偵、バンは"MAD"です。この"MAD"という表現は"政治的な正しさ"を意識した表現なのでしょうけれど、まさに"MAD"でした。警察をクビになるのもやむを得ないでしょう。これでは、かりに事件の真相を究明できたとしても起訴できるかどうかは難しいし、公判を維持することもできないでしょう。


まぁ、その辺りのあり得なさは確信犯なワケですから置いておくとして...。


なかなか面白かったです。バンが目を付けたコウの多重人格の描き方は巧かったと思います。特に彼らが勢ぞろいで小さな車の中にひしめき合っている映像など、本筋とは離れた部分でコミカルな味わいを付け加えていて面白かったです。


そして、ホーの心境の変化。当初、バンの奇行を目の当たりにしても彼の気持ちに寄り添おうとしていたホーでしたが、あることをきっかけにコウのバンへの信頼は大きく損なわれ...。この変化が丁寧に表現されていてラストの展開を盛り上げています。


あまりに"MAD"な設定ですが、描き方が丁寧で、重厚感のある映像が美しく印象的でした。



MAD探偵 7人の容疑者@ぴあ映画生活

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アントキノイノチ

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さだまさしが2009年に発表した同名小説を映画化した作品。原作は未読です。


高校生時代のある事件を機に心を閉ざしてしまった青年、杏平は、遺品整理の仕事に就きます。先輩社員のゆきや同僚たちとの交流の中で次第に心を開くようになります。杏平とゆきは、互いに惹かれ合うようになりますが...。


人はいつか必ず死にます。けれど、それがいつになるのか、前もって知ることは難しく、ほとんどの場合、きちんとした準備もできず突然この世を去ることになります。


一人の人間が日々の生活を営んでいくには意外に物が必要。そして、長い月日、一つの場所で生活していれば、いつの間にか物がたまっていくもの。けれど、現代社会の中で、その残された物を片付けてくれる人が身近にいないというケースも少なくない...。


そんな"無縁社会"の中で需要を伸ばしているのが”遺品整理業”ということなのでしょう。


大きな心のしこりを抱えている杏平とゆき。2人は、多くの人の遺品を通して多くの人の死に触れ、その人生に接することになります。亡くなった人の部屋に残された膨大な物がかつての持ち主の人生を語ります。そして、その死により生じる部屋の荒廃。人一人が死ぬこと、生きることの大変さを実感されられます。


仕事を通じての杏平の変化、ゆきとの関係の変化...。様々な人生に触れることは、彼らに人が生きることの大変さを教え、人と人の繋がりの脆さと切なさ、大切さを教えたのでしょう。


杏平やゆきとチームを組み、杏平の指導をする役の原田泰造が、必要以上にベタベタせずクールに、けれど、温かく包み込むように若い2人を見守る上司を好演していて印象的でした。


テーマが良く、演技陣も良く、派手さはないものの日常の中に起こっている事実を切り取った映像も心に沁みました。


ただ、ラストがいけません。原作がある作品なので、原作通りなら仕方がないのですが、クライマックスに至るまでの過程を台無しにしてしまっていると思います。


そして、細部の粗さ。杏平と松井くんの山での場面。普通、あの状況で顧問の教師が2人だけを別行動させるっておかしいですよね。たとえ、杏平と松井くんの関係に気付いていなくても...。あの状況で杏平と松井くんが無事に帰れるっていうのも、かなり杏平が超人的でないと無理な感じがしますし...。


クライマックスも、あれだけ見通しの良い道路であの道の状況、あの車で、ああなるか...?とか...。ラストもあれでは、杏平の想いは親子に伝わらないでしょうし...。ゆきを大切に想うなら、杏平の気持ちを丁寧に伝えるべきではなかったかと...。


そもそも、あそこで、あざとい"お涙頂戴"は避けるべきではなかったかと...。


何とも残念なラストでした。



公式サイト

http://www.antoki.jp/index.html



アントキノイノチ@ぴあ映画生活

お墓に泊ろう!

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お墓に泊まろう! [DVD]/金田哲,河本準一,川田
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地デジへ完全移行した2011年。テレビ東京が倒産し、葬儀屋に買収されます。番組制作に関わっていた多くの社員が去り、放送も1日3時間になり、仕事は葬儀の手伝いばかりという毎日。バラエティ番組の制作に関わりたくて入社したばかりの今井は変わり果てた会社に意欲をなくします。そして、かつてバラエティの雄と言われた伊藤プロデューサーが葬儀局異動を命じられます。そんな時に島田元社長が亡くなります。遺書には“世界一くだらない葬儀にしてくれ。”と書かれていました。今井たちは、社長の願うくだらない葬儀番組を作ることになり...。


TV東京のPVとしては悪くないのではないでしょうか。


ただ、残念なのは、本作の"お葬式"がバラエティありきのお葬式だということ。もう少し、葬式というものがどういうものなのかという辺りに拘って設定や展開が練られていたら、本格的に泣き笑いできたような気がするのですが、何だかお葬式そのものがとってつけたような感じで、笑いもその後のちょっとシリアスな泣きも中途半端になってしまった感じがします。


いかにもな笑わせようという姿勢が表に出すぎてあざとい感じになってしまったことも作品の世界に入り込みにくかった原因の一つでしょう。くだらないことをしようという意図が見え過ぎてしまうと、観る側の気持ちが引けてしまうというか...。


かなり短い作品なので仕方ないところもあるのでしょうけれど、個々の登場人物の設定も全体に甘い感じが否めません。


全体に印象がボケてしまっているのが残念。着眼点は面白かったと思いますし、このテの"自虐ネタ"をこうした映画にまでしてしまうTV東京という存在は好きなのですが...。


タイトルは「田舎に泊まろう」から来ているのだと思いますが、作中の葬儀のタイトルとしてはちょっと合わないですよね...。この点も残念。



お墓に泊まろう!@ぴあ映画生活




http://cinema.pia.co.jp/tb/tb?movie_id=153916

京都太秦物語

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京都太秦物語 [DVD]/海老瀬はな,USA(EXILE),田中壮太郎
¥3,990
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舞台はかつては日本のハリウッドと呼ばれるような映画の街だった京都太秦。


クリーニング店の娘、東出京子は、立命館大学の図書館に勤めています。幼なじみの梁瀬康太は豆腐店の息子で、アルバイトをしながらお笑い芸人を目指しています。ある日、京子は図書館で白川文字学を研究する榎大地と出会います。学問一筋の大地は京子に人目惚れしてしまい、一途な情熱を京子に注ぎ始めます。一方、康太は自分の将来に悩み、京子との関係もうまくいかず苛立ちます。大地は京子に、京都を出て留学先の北京に来てほしいと一方的にプロポーズし、新幹線のチケットを無理やり手渡しますが...。


製作に立命館大学の学生が参加し、太秦の商店街の人々が多数出演ということもあるのでしょう。手作り感たっぷり、ホノボノ感たっぷりの作品でした。


軸になるラブロマンスはありきたりな感じがしましたが、彼らを取り巻く街の人々の雰囲気は良かったです。もっと街を前面に押し出した描き方でも良かったような...。


途中で、豆腐屋さん、クリーニング屋さんなど、街の人たちがお店の紹介を含めた街についてのコメントをする場面が数箇所あり、最初は、一瞬、何が起きたのかと驚きましたが、まぁ、本作の雰囲気には合っているのでしょう。


TV東京の「出没!アド街ック天国」的な映画作品といったところでしょうか。映画館で観たくなる作品ではないような気がしますが、本作のホノボノ感は悪くなかったと思います。レンタルのDVDで十分だとは思いますが...。



京都太秦物語@ぴあ映画生活

1970年の青春映画「いちご白書」がニュープリント&デジタルリマスター版で公開されるとのことで観てきました。


1968年4月、大学経営陣が大学周辺の土地を買収、公園だった場所に軍事関連施設に建てようとしたことに端を発し、ロンビア大学で学園闘争が起こります。その渦中にいたジェームズ・クーネンの体験記を基に青春映画として作られた作品。


1968年、大学周辺の公園に軍の施設建築しようとする動きに学生が反発し、ストライキを起こしていました。政治にも学生運動にも無関心だったポート部の学生サイモンは、活動家の女生徒リンダと恋に落ちたことから運動にのめりこんでいきます。やがて学校側は武力による学生の鎮圧に乗り出し...。


松任谷由美(当時は荒井由美)が作詞作曲し、1975年8月にバンバンがリリースして大ヒットした「いちご白書よもう一度」。私にとっては、その歌によって存在を知った映画でした。けれど、DVD化されておらず(かつてLDで出されことがあるそうですが)、映画の方は観る機会のないままでした。


今回、初めてこの名作として名高い作品を観たわけですが...。


良くも悪くも時代とともに存在した映画作品だったのだと思います。世界的に学生運動が盛り上がった時代。日本でも安保闘争とかが大きなうねりとなりやがて浅間山荘事件にいきつきます。その時代の熱さが映像からも伝わってきますが、当時をリアルに知らない身としては、やはり、どこか違う世界の物語としてしか受け止めにくい感じは否めません。


熱くて、そして、ある意味幸せな時代だったのかもしれません。彼らの行動の是非はともかく、理想の社会の姿を夢見て、自分たちの力で社会を変えられると信じることができたのですから。


特に運動に関心を持っていなかったサイモンは、リンダへの恋心から運動に近付いていくことになります。彼のさめた気持ちに火をつけたのはリンダへの気持ちですが、それだけではありません。大学側のやり方を知り、それに対する怒りこそが彼を熱くしたのです。


しかし、大学側にしてみれば、学生に反対されたからといって計画を変えるわけにもいかないでしょう。様々な利害が絡んでいることで、大学としては経営を考えないわけにはいかなくて、大学で働く多くの人に給与を支払わなくてはならなくて、土地に関する計画もいろいろな契約先との約束を破棄するわけにはいかなくて...。大学の経営者は世の中がそう単純ではなく、正義や正論ばかりが通るほど簡単でもないことを知っている大人なのです。正義をかざせば世の中が動くと考える学生の子どもっぽさには付き合えないのでしょう。そう、多くの大人は自分たちがかつては熱い若者であったことを忘れているのですから...。


全く丸腰の学生たちが力で捻じ伏せられていくラストシーン。バックを流れる「Give Pease a Chance」とともに胸に沁みてきます。


ただ、本作の名作たるゆえんは、単に学生たちの切ない運命を描いただけではないところにあるのでしょう。作中に、大勢の学生たちが警察官を取り囲んでボコボコにする場面があります。警察官だってしがない労働者なんですよね。それもアメリカの警察官の労働環境は決して良くはないようですし...。ある意味、多くの学生は警察官たちより恵まれた環境にあるワケで...。理不尽に夢を散らされた被害者という以外の面もあったことを描いているところが印象的でした。


今観ても実感しにくい面もありますが、当時の時代を物語る名作であることは間違いないでしょう。是非、このチャンスに観ておきたい作品だと思います。



公式サイト

http://eiga-ichigo.com/



いちご白書〈デジタルリマスター版〉@ぴあ映画生活

ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い [DVD]/ロレンツォ・バルドゥッチ,リノ・グワンチャーレ,エミリア・ヴェルジネッリ
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1786年「フィガロの結婚」、1787年「ドン・ジョヴァンニ」、1780年「コジ・ファン・トゥッテ」と3つオペラの名作を生み出した作曲家モーツァルトと詩人で劇作家のダ・ポンテ。本作では、「ドン・ジョヴァンニ」製作に纏わる物語が描かれます。


1763年のベネツィア。ユダヤ人であったもののキリスト教に改宗し聖職者となった劇作家、ダ・ポンテは、放蕩に満ちた生活が原因で、ベネツィアを追放され、ウィーンに亡命します。彼は友人カサノヴァの紹介で、当時作曲家として名を成していたサリエリに紹介されますが、サリエリからは新人作曲家のモーツァルトと組むことを勧められ、「フィガロの結婚」をこの世に生み出します。その後、それまでにも多くの作家によりその物語が描かれてきたドン・ジョヴァンニを題材にオペラを作ることを思いつき...。


モーツァルトの代表作の一つであるオペラ「ドン・ジョヴァンニ」がどう製作されたかを描いた作品のようにも見えますが、事実を元にフィクションを交えたというより、実在の人物を登場させてフィクションを作ったというべき作品のようです。


オペラの登場人物のキャラクター設定の背景なども史実と違う部分があるようですし、「ドン・ジョヴァンニ」がウィーンで初演されたように描かれていますが、実際には、ウィーンにおける初演(1988年5月7日)より前、1987年10月29日にプラハで初演されています。元々、プラハで「フィガロの結婚」が大ヒットしたことから翌シーズンのための新作としてプラハのエステーと劇場から依頼されたのが「ドン・ジョヴァンニ」なワケですし...。


ということで、「ドン・ジョヴァンニ」のイメージを膨らませ、それに作曲家のモーツァルト、劇作家のダ・ポンテ、ドンファン的な生き方を体現した人物の一人であり台本製作にも参加したカサノヴァという実在した3人のイメージを重ね合わせた作品として観ると楽しい作品と言えるでしょう。


オペラの舞台と、それに関わる人々の物語。劇中劇であるオペラの舞台で演じられるフィクションと作品の中での現実。その2つが入れ替わり、入り混じり...。現実の場面がいかにもなセットで演じられていたりして、リアルな世界とフィクションの世界の垣根が低くされていることも本作の味わいを深めているのでしょう。


当時の雰囲気を感じさせる衣装や建物、調度品といった道具立ても良かったです。


映像が実に美しく惹きつけられました。光の使い方が見事でタメ息の出るような映像がふんだんに使われています。


特にオペラやモーツァルトについて詳しくなくても楽しめる物語だとは思いますが、モーツァルトが天才と言われた作曲家であったこと、ダ・ポンテが宮廷のお抱え詩人で多くの作曲家に台本を提供した劇作家であること、本作のストーリーは基本フィクションであることを知っておかないと、その辺りは本作を観るだけでは掴みにくい部分だと思います。


ラストで、モーツァルトがウィーンにおける「ドン・ジョヴァンニ」初演の1988年の3年後(つまり1991年)に亡くなったことが字幕で示されますが、その死の前年の1990年には、もうひとつのモーツァルトとダ・ポンテによるオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」が製作されています。さらに亡くなった年である1991年には、ダ・ポンテの台本ではありませんが、モーツァルトの代表作の一つ「魔笛」が製作されています。


本作が描いている時期は、モーツァルトが彼の膨大な曲の中でも特に構成に残る名曲を生み出した実り多き時期だったと言っていいのではないでしょうか。モーツァルトの予言通り、ウィーンで「ドン・ジョヴァンニ」が受け入れられるまでには、少々、時間が必要だったようではありますが...。



ドン・ジョヴァンニ ~天才劇作家とモーツァルトの出会い~@ぴあ映画生活

イキガミ

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イキガミ [DVD]/松田翔太,塚本高史,成海璃子
¥3,990
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週刊ヤングサンデーに連載され、大反響を巻き起こした間瀬元朗の同名コミックを映画化した作品。原作は未読です。


国民の"生命の価値を高める(?)"ために若者が1/1000の確率で殺されるという“国家繁栄維持法”が施行された日本。厚生保健省に勤務する藤本は政府から発行される死亡宣告書「逝き紙」を志望対象者に配達する仕事を担当していて...。


イキガミを受け取った3人の若者の物語が描かれます。


国家が死を管理する。かなりブラックな状況ではあります。どうやって、死ななければならない人間が選択されるのか、それを巡って汚職事件が多発しそうですが...。


飢餓はなく、医療が発達し、戦争からも久しく縁遠くなっている日本では、人が死ぬ原因がどんどん排除されています。平均寿命も高くなっています。けれど、その一方では自殺者が増えている。死ぬ原因がなくなりすぎて困っているかのように...。


だからといって、国家権力が一定の割合で国民の命を容赦なく奪うというのはグロテスクな話。こんな風に絶対的な力をもって人の命が奪われていく状況の中で人が人の命の価値を実感できるようになるという論理は今ひとつ理解しにくいのですが、24時間後の死を突きつけられた人の心理の描き方は悪くなかったと思います。


確率が1/1000。01%というのは巧かったかもしれません。無視できる確率の低さではないし、かといって、すぐ絶望的になる高さでもない。ただ、それだけの人数の犠牲者を出すと遺族に年金を支給する財源を確保するのは大変そうですが...。


ストーリー的には突っ込みどころ満載ですし、どこかで見たような雰囲気も感じられます。


けれど、配達人藤本を演じた松田翔太、3話目のエピソードで死亡宣告される手術を待つ妹を抱えた兄を演じた山田孝之が見事。この2人の演技が本作の魅力の大部分を占めているといっていいかもしれません。



イキガミ@ぴあ映画生活

やがて来たる者へ

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第2次世界大戦末期、イタリアのファシスト政権は倒れますが、ナチス・ドイツは北イタリアに侵入、ファシスト政権の残党と組み、勢力を維持しようとします。一方、彼らに対抗するパルチザンの動きも活発になり...。


ナチス・ドイツがイタリアの村人を大量虐殺したマルザボットの虐殺をモチーフにしたフィクション。


貧しい農家の8歳の少女、マルティナは、弟を生まれたばかりの頃に亡くして以来、誰とも話さなくなりました。1943年の冬、母親が妊娠してマルティナと家族は新しい子の誕生を待ち望みますが、村やその周囲ではパルチザンとドイツ軍の戦いが激しさを増して...。


冒頭で1943年と示されるので、第二次世界大戦末期だということは分かります。けれど、最初に出てくる映像に見られるのは、ごく当たり前の日常。けれど、そんな貧しいけれど賑やかで幸せな日常にも戦争の影響が及んできます。


本作はマルティナの目を通して描かれますが、彼女には、戦争以前に生まれたばかりの幼い弟を亡くすという辛い体験があり、そのために言葉を発することができなくなっています。冒頭とラストに流れる彼女が歌う子守唄。途中で読み上げられる戦争の本質を突いた彼女の作文。それ以外では、彼女の声は聞こえてきません。けれど、彼女の表情が、そして、彼女が村の状況を見つめる視線が彼女の心を観る者に語っています。


ドイツ兵を平然と殺すパルチザンたち。家に来て食糧を買ったり、若い女性陣をからかっていたドイツ兵たちが、一転して冷酷な虐殺者となる展開。それでも女性や子どもを前に機関銃の掃射をためらうドイツ兵の姿。どちらかが正義でもう一方が悪というのではなく、互いに殺しあうのが戦争だと伝えているようです。


ドイツ兵も殺されるかもしれないという恐怖の中にいて、パルチザンの側も命懸けの緊張感の中にいて、双方ともに自分たちの身を護るため、正義を貫くため、戦い、敵の命を奪っていく。人間である以上、人を殺す時に少しのためらいも感じない人は少ないでしょう。相手の方が、腕力において圧倒的に弱い場合は特に。それを押し殺して、平時には気の良い若者であった青年を冷酷な殺人者に変えるのが正義への献身であり、命を奪われるかもしれないという恐怖なのでしょう。


比較的、淡々とした描き方をされていますが、却って、何気ない日常の中にも大虐殺が起きる恐怖が迫ってきます。そして、イタリアの山間部の農民たちの暮らし振りや彼らを取り囲む自然の美しさが平時の幸せを伝えて、その後の事件の悲惨さを伝えています。


多くの命が無残に奪われてラストを迎えますが、その厳しい状況の中で、生まれたばかりの弟を護りながら必死に生き抜こうとするマルティナの姿が一筋の光となって心に沁みてきます。


第2次世界大戦末期のイタリアの状況についてある程度の基礎知識がないと分かりにくいところもあるかもしれませんので、若干の予習をした方が良い作品かもしれませんが、観ておいて損はないと思います。



公式サイト

http://www.alcine-terran.com/yagate/



やがて来たる者へ@ぴあ映画生活