黄色い星の子供たち

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1942年にパリで起こったユダヤ人一斉検挙を描いた作品。


ナチス占領下のパリ。ユダヤ人の少年、11歳のジョーは、ユダヤ人であることを示す黄色い星を胸につける義務や公園や映画館などの公共の場への立ち入り禁止に腹を立てながらも、家族とのささやかな幸せが続くことに疑問を持ってはいませんでした。そんな中、1942年7月16日、ナチスと取引したフランス警察によるユダヤ人一斉検挙が始まり...。


パレスチナからパレスチナ人を追い出しイスラエルを建国し、何かとパレスチナに攻撃を加えているユダヤ人ですが、本作で描かれているのは、そのユダヤ人たちが受けた歴史的にも大規模な虐殺事件に関連した事件です。第二次大戦終戦後のイスラエル建国に関するユダヤ人たちがしてきたことを考えると、本作を観ながらも、複雑な思いがするのですが...。


それはさておき...です。


宣伝文句にはフランスの負の歴史を描き出したという点が強調されていますが、どちらかといと、勇気を持ってユダヤ人たちを護ろうとしたフランス人たちの物語という印象を受けました。


約1万人ものユダヤ人たちが、フランス市民によって救われたのだとか。まぁ、ヴィシー政権がどれだけ積極的にナチスに協力しようとしたかという点では疑問も残ります。本作での描かれ方でも、決して、ユダヤ人の摘発に積極的になったという雰囲気ではありませんでしたから。元々、フランス人のドイツへのシンパシーは低いでしょうし...。何かと敵対してきた国同士ですからねぇ...。ということを考えると、この"勇気あるフランス市民"たちの行動も、割と周囲からの支えを受けてのことだったのかもしれません。それでも、もし同じようなことが日本で起こったら、フツ~の日本人たちがどれだけ冷静に"善きこと"を行なえたのか、大いに疑問なワケで...。


本作には、積極的にユダヤ人たちを護ろうとした少数のフランス人とユダヤ人の摘発、連行に敢えて反対しなかった、そして、多くの場合、消極的ながらナチスやヴィシー政権に加担してしまった多くのフランス人が登場します。しかし、国家が犯す悪行の背景には、多くの場合、こうした"消極的ながら悪行に加担してしまった善良な市民"が存在するのです。かつて、日本が戦争に突入し、アジア諸国を侵略した時も。ドイツでナチスが権力を握った時も。ソ連でスターリンが大粛清を行なった時も。中国で文化大革命の嵐が吹き荒れた時も。


その"消極的な加担者"について言及された点は良かったと思います。けれど、その描き方がやや浅い感じがして残念でした。


その他大勢の"消極的な加担者"をアネットに代表される"勇気ある人々"と併せて描いていたら、本作にもっと深い味わいが生まれたような気がします。そして、そこが描けて初めて、本作がフランスの負の歴史を描いたことになったのではないかと...。


やや、甘さを感じる部分もありましたが、私たちが知っておくべき歴史を確かに描いた作品であることには間違いありません。


一度は観ておきたい作品です。



公式サイト

http://kiiroihoshi-movie.com/pc/


黄色い星の子供たち@ぴあ映画生活

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バウンド

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バウンド [DVD]/ジェニファー・ティリー,ジーナ・ガーション,ジョー・パントリアーノ
¥3,990
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盗みのプロフェッショナルだったけれど、相棒に裏切られ5年間服役したコーキー。彼女は、内装や配管などの仕事に就きますが、ある仕事を請け負った時、彼女が仕事をしていた部屋の隣に住むヴァイオレットに出会います。ヴァイオレットに誘われ恋におちたコーキーは、ヴァイオレットにマフィアのものである200万ドルを奪う計画に誘われ、加担することになりますが...。


なかなか面白かったです。マフィアのものである200万ドルの現金。ボスを裏切ってそれを横領しようとする者。その裏切り者を追い詰め金を奪い返す者。その金を巡る騙し合い、裏切り、殺し合い...。金の行方はどうなるのか、コーキーとヴァイオレットの間にある"信頼"は本物なのか...。


実際は、左程、金自体が右往左往、動き回るわけではないのですが、クライマックスまで、しっかり興味を引っ張っていってもらえます。


配管の修理をしたり、天井や壁のペンキ塗りをしたり、ヴァイオレットの依頼に応えて指輪を取り出したりするコーキーは、なかなかに馴れた風な手際の良さが、そのボーイッシュな姿とよく合って魅力的でしたし、いつ誰を裏切るか分からない危うさを醸し出すヴァイオレットの魔性の女風の雰囲気も良かったと思います。


ただ、コーキーの作戦が、割とゆるい感じで、彼女が盗みよりも配管修理においてプロフェッショナルな感じがしてしまうところは、少々、残念な感じがしました。実際、結構、行き当たりばったりに状況が流れていきますし、これでは、プロフェッショナルな計画があって成功したというより、たまたま運が良かっただけという感じがしてしまいます。


そして、コーキーとヴァイオレットの関係。ドキドキハラハラ感を高めるには、この2人の関係が、もう少し、不安定だったほうが良かったような...。ちょっと安定しすぎていて、互いに素直に信じ合い過ぎていて物足りない感じがしました。


決して悪い作品ではない...という以上に、そこそこ面白い作品であることは確かだと思います。ストーリーは基本的に良かったと思いますし、ハラハラドキドキもありましたし、演技陣も良かったですし...。それだけに、少々、残念な感じが残ります。



バウンド@ぴあ映画生活

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市民ケーン

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市民ケーン [DVD] FRT-006/オーソン・ウェルズ
¥500
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荒廃してしまった大邸宅。その中で、新聞王ケーンは"バラのつぼみ"という言葉を残して息を引き取ります。死後のケーンには賞賛と非難の声が寄せられますが、ニュース記者、トムスンは、このケーンの最後の言葉である"バラのつぼみ"の意味するところを探ることで彼の人間性を解くことができると信じ、ケーンの生涯に関係のある人々を訪ねることになります。


ケーンが幼い頃、彼の母は、宿泊代のかたに受け取った金鉱の権利書から、思わぬ大金を手にします。そのため、ケーンは、財産管理と教育のため、親元を離され、ニューヨークに送られます。やがて、青年になったケーンは、興味を持っていた新聞社経営に乗り出します。手始めに、破産寸前のインクワイアラー紙を買い取り、友人の劇評家リーランドとバーンステインの協力を得て完全に立ち直らせます。さらに斬新で強引な経営方針と暴露と煽動の編集方針で遂にニューヨーク一の新聞に育てあげます。けれど、絶大な権力を手にするのとは裏腹にケーンの人生は孤独で...。


取材が進むにつれ、次第に明らかになるケーンの生涯。富と権力をほしいままにしながらも満たされない心。逃れられない孤独。そして、挫折。


貧しく生まれたケーンが、才覚を頼りにのし上がり、大きな富と力を得ていく。それは、まさにアメリカン・ドリーム。けれど、そう滅多に叶えることのできない大きな夢をかなえるためには、それなりに犠牲も必要。富と社会的な力を得るため、常に上を目指して駆け上がろうとす中で、ケーン自身が、どれほど、その"犠牲"の大きさを自覚していたのでしょうか...。


本作は、ケーンが成り上がるために払った犠牲を描き、アメリカン・ドリームの対価を描いています。少なくないアメリカ人が叶えることを望み、そのほとんど全てが手に入れられないアメリカン・ドリーム。ケーンは、その僅かにしかいない勝者の1人ではありましたが、同時に、幸福を追い求めた人間としては勝者たり得なかったのかもしれません。


"バラのつぼみ"の正体を探ることでケーンの人間像を焙り出そうとしたトムスン。彼の進んでいた道は、間違いなく彼の目的に達する道でした。けれど、あと一歩のところで答えを掴み損ねます。自分でもそれとは気付かぬままに。彼もまた夢を手に入れられずに終わった人間の一人となってしまったのでしょう。


ラストで明かされる"バラのつぼみ"の謎。死の床で握り締めていた雪景色の中の家が中に収められたガラス玉。その景色とともに、彼の幼き日の記憶に結びつく"バラのつぼみ"が意味する物。


ケーンの寂しさと哀しさが伝わってくる場面です。"バラのつぼみ"の意味を明かした後に描写される煙突から立ち上る煙、屋敷の門扉に掲げられた"立ち入り禁止"の札。大きな夢の哀しい終焉が胸に沁みました。


よく映画ランキングで最上位に登場し、映画史上における傑作と称えられる本作。正直、そこまでの作品かというと疑問は残ります。ケーンの"不幸"の原因が、あまりに幼い頃のトラウマにばかり求められている感じも気になりますし...。それでも、アメリカン・ドリームの光と影を巧みに描いた印象的な作品であることは間違いないと思います。



市民ケーン@ぴあ映画生活

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アグネスと彼の兄弟

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アグネスと彼の兄弟 [DVD]/マルティン・ヴァイス,モーリッツ・ブライブトロイ,ヘルベルト・クナウブ
¥3,990
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性転換し、女性としてショークラブでダンサーをする末っ子のアグネス、長男で政治家のヴェルナーは仕事一筋で家族の中で孤立、次男のハンスは覗きで図書館司書の仕事を続けられなくなり...。それぞれに悩みを抱えながら幸せになろうとする3兄弟を描きます。


性転換をしたショーダンサーのアグネス、政治家のヴェルナー、図書館司書のハンス...、3人とも、それぞれに外れています。けれど、一見、一番、ズレているように思われるアグネスが、人間として一番ノーマル。そして、一番、強烈なのがハンスでした。ヴェルナーにも指摘されていますが、彼自身の"悪癖"を父親に責任転嫁する辺り、相当に子どもっぽいというか、身勝手というか...。もっとも、そう指摘したヴェルナー自身、かなり我儘ですが...。


けれど、この3兄弟の愛すべきところは、それぞれが、自身の問題点について、全く無自覚なわけではないこと。ヴェルナーも不十分ながら、妻に歩み寄ろうと努力はしますし、ハンスは自助グループのような集まりに定期的に参加しています。


そして、彼らの"偏り"は、少々、極端な感じに描かれていますが、こうした偏りは、もう少し穏やかな形であったとしても、多くの人の中に存在し、そのために社会との間に多少なりとも摩擦を起こしたり、そのために周囲から阻害されたり、しているもの。変な彼らを観ながら、私たちは、自身のことを振り返らざるを得なくなります。


タイトルには、3人の中のアグネスの名前だけが入っていますが、より多く部分を割いて描かれるのが、ヴェルナーとハンス。この2人のエピソードが交互に描かれるその合間にアグネスについて触れられるといったところでしょうか。そして、2人が抱える問題が描かれるほどに、アグネスがフツ~に思えるようになり、観る者の心は彼女の存在に寄せられるようになります。


それでも、一番、解決できないものを抱えていたのはアグネスだったのでしょう。3人、それぞれに訪れるラストを観ると、アグネスの心の傷の深さが感じられます。もっとも、ハンスの問題が、これで本当に解決できたとも思えませんし、ヴェルナーにしても、結構、危うい...。


重い題材を扱っていますし、かなりブラックだったり、下品だったりもします。それでも、音楽の力もあるのか、不思議と軽妙な空気が感じられる作品となっています。


かなり下品だったり、汚らしかったりする表現も登場するので、好き嫌いは分かれるでしょうけれど長く印象に残りそうな作品であることは確か。


もう少し、彼ら3兄弟と母親の関係とか、掘り下げて欲しかった気もしますが、それをすると、救いようもな暗くなってしまうかもしれませんね...。少々、物足りなさも残りますが、まぁ、程よく仕上がっているといっていいのでしょう。


それなりに面白かったです。



アグネスと彼の兄弟@ぴあ映画生活

最後の忠臣蔵

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最後の忠臣蔵 [DVD]/役所広司,佐藤浩市,桜庭ななみ
¥3,480
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1703年、大石内蔵助以下、赤穂浪士四十七士による討ち入り、切腹。実は、それは「忠臣蔵」の本当の結末ではありませんでした。赤穂浪士の中には、大石内蔵助の密命を受け、討ち入り前夜に姿を消した瀬尾孫左衛門、討ち入り後、赤穂浪士の遺族たちを援助するよう命を受け、切腹に加わらず仲間の元を離れた寺坂吉衛門。討ち入りから16年、2人は再会することになります。かつては、あつい友情で結ばれた2人でしたが、吉衛門にとって、孫左衛門は命惜しさに逃げた裏切り者。あの日、孫左衛門に何があったのか...。


実在した吉衛門が生き証人としての使命を帯びて諸国を旅した史実に、内蔵助の忘れ形見を育てる役割を担った孫左衛門というフィクションを絡ませ、さらに、人形浄瑠璃「曽根崎心中」の舞台の映像を所々に挿入することで孫左衛門と可音の中に隠された気持ちを匂わせています。


主従であり、親子にも似た生活をし、"恋人未満"な関係でもある微妙な2人。もし、孫左衛門が「武士道」から自由になれていたら、孫左衛門と可音には、別の形の幸福が訪れていたかもしれません。2人の奥底にある想いが成就することを阻むものこそ武士道なのです。そして、孫左衛門の矜持を支えてきたのも武士道。武士道の美しさを描いているとも受け取れ、武士道の残酷さを描いているとも受け取ることができます。そのどちらとも決定はできない微妙なバランスを保っている辺り、技ありといったところでしょうか。


孫左衛門の忠義は美しかったのか、人間としてあまりに頑なで窮屈だったのか。2人の年齢差を考えれば、そして、可音の日常の雑事のほとんどを孫左衛門に頼ってきたこれまでの生活を考えれば、孫左衛門の選択は正しかったと言えるでしょう。可音の心のままにしていれば、彼女の生活が立ち行かなくなる時が遠からず訪れることになり、孫左衛門も死ぬに死に切れなかったでしょうから。


けれど、孫左衛門の中にも、確かに、可音に対する恋心が潜んでいます。絶対に表に出すまいという決意のもと、封じ込められたその想い。孫左衛門自身は意識すらしていない、というより、無意識のうちに意識の底に封じ込めてしまっているその想いが、時々、顔を覗かせます。その辺り、役所広司の力量により、見事に表現されています。可音を見つめる家臣としての眼差し、父親としての視線、1人の恋する男としての目。その繊細な表現が心に沁みます。


可音を演じる桜庭みなみの世間知らずで可憐で上品な雰囲気も、彼女の境遇や孫左衛門とのこれまでの生活を滲ませていましたし、もう1人の"生き残り"である吉衛門を演じた佐藤浩市も安心感のある演技力で作品を支えています。やはり、演技力のある出演陣が揃った作品は、観ていて安心感がありますし、心地よさが感じられます。


そして、同じく密命を帯びて切腹に加わらなかった吉衛門だからこそ思いを馳せた孫左衛門に与えられたかもしれない秘密の役割。この2人の友情の描写も印象的。剣を交えた後、橋の上から橋の下の孫左衛門に語りかける吉衛門。名場面の一つでしょう。


さらに、出自を知った後の可音の成長。孫左衛門に護られるだけの存在だった可音の大人の女性に成長した姿がそこにありました。


なかなか見応えのある作品でした。公開時に劇場に観に行くべきだったと悔やまれます。



最後の忠臣蔵@ぴあ映画生活

この世でいちばん大事な「カネ」の話 (角川文庫)/西原 理恵子
¥580
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お金がない辛さを味わった子どもの頃。お金を稼ぐことで自由を手に入れられることを知った駆け出し時代。その後、味わったギャンブルという地獄。お金という存在と闘い続けてきた漫画家、西原理恵子が「カネ」「働くこと」について語った作品。TVドラマ化もされた感動のベストセラーが文庫化されました。


以前から評判を聞き、読もうと思っていたのですが、文庫化をきっかけに遂に読むことができました。


200ページにも満たない作品だということもありますが、何より、作品の迫力とその面白さに引き摺られて、一気に読みきってしまいました。読後も余韻が強く残り、まだ、読み終えてから何日も経っていないのに、その間、何度か読み返しています。


お金、それは、不思議な魔力を持っています。ほとんどあらゆるもの...、時として人の生き死にまでもお金が左右することのある現代の社会、少なくとも日本の現代社会においては、お金なしでそれなりの生活をするのは至難の業。そして、資産家に生まれたとか、ごく少数の人間にしか与えられないような幸運に与れなかった大多数の人間は、自分の力で稼がないと生活が成り立たないという状況にあります。


私たちの周囲にある物のほとんどの価値は、お金に換算することができ、様々な物がお金を媒体にして取引される。そんな社会においては、お金そのものが人の欲望の対象になり、お金に絡んでいろいろな不幸が引き起こされ、上手く操れば幸せを生み出すこともできる。私たちの生活の多くの場面に登場する重要な存在。


大切なものではあるけれど、しかし、そこにあまりに縛られすぎたり、振り回されたりでは、幸福に生きることは難しい。重要視し過ぎても、軽視し過ぎても、やっかいなものがお金。そして、付き合い方を間違えれば破滅の原因ともなり、上手く扱えば幸福の理由ともなるのがお金。


本作には、お金があったからこそできたこと、お金の扱いを間違えたためにしてしまった大失敗、お金に纏わる様々なエピソードが描かれ、お金を得ることの意味、お金との付き合い方について多くの示唆を与えてくれます。


著者本人が、実際に味わったエピソードが溢れているだけに、そこには、真実が感じられ、胸に迫るものがありました。


特に「おわりに」と題した最後の3ページちょっと。読んでいて泣かされました。人が働くことの尊さ、社会の中で仕事をすることの先にあるものについて考えさせられます。そして、悲惨なことも哀しいことも多いけれど、それでも、人生は生きるに値するものであることを信じたくなるような内容でした。


中学生の息子に、是非、読ませたいと思いました。そう遠くない将来社会に出る子ども、将来の職業に繋がる進路の選択を迫られる時期にさしかかっている子どもには、読んでおいて欲しい一冊だと思います。


村上龍の「13歳のハローワーク」とともに、13歳の子どもの必読書とすべき本かもしれません。


すでに大人になってしまった人にとっても、一度は読んでおきたい本だと思います。

天井桟敷の人々

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天井桟敷の人々 HDニューマスター版 [DVD]/アルレッティ,ジャン=ルイ・バロー
¥2,940
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第二次世界大戦中のドイツ占領下のフランスで製作された映画。第1部「犯罪大通り」、第2部「白い男」の2部構成の3時間を超える長編となっています。


1840年代のパリ、犯罪大通り。パントマイム役者のバチストは、偶然出会ったガランスに心を奪われます。けれど、彼女の周囲には、彼女を仲間にしたがっていた無頼漢のラスネール、彼女に言い寄る役者のルメートルがいました。そして、そんなバチストを愛していたのが、彼が出演するフュナンビュール座の座長の娘、ナタリーでした。やがて、ガランスもこの劇場に出演するようになり、バチストの名演が評判を呼び、連日、満員の客が入るようになります。そんな観客の中にいたモントレー伯爵も、ナタリーの崇拝者となります。最初は、彼の告白を拒否していたナタリーでしたが、ある事件に巻き込まれたことで、彼の力を借りるしかなくなり...。


その5年後、バチストはナタリーと結婚しており、ガランスは伯爵のもとにいます。バチストはパントマイムの役者として名声を得ており、ルメートルは別の劇場で人気の俳優となっており、それぞれ、連日、大勢の客を呼んでいました。ある日、バチストが出演する劇場に行ったルメートルは、ガランスと会い、彼女に頼まれてバチストに引き合わせます。バチストの心は、ガランスへの想いに揺れ...。


女とカネにだらしなく、チャラチャラしているようで、"役者馬鹿"なルメートル。彼にとっては、彼の嫉妬も恋心も芸の肥やし。そんなルメートルが認める才能の持ち主、バチストは、彼の一世一代の恋に舞台を投げ出します。


この演技とガランスを通してのバチストとルメートルの関係...というよりは、ルメートルのバチストへの想いが、本作の1つの軸となっています。


そして、ラスネール。彼のガランスへの想いも報われないわけですが、ガランスが伯爵のもとへ行くことになった原因は、彼のしたことにあります。それを知っているのかどうか、彼は、やがて、ガランスを伯爵から開放する役割を担います。


ナタリーのバチストへの一途な愛。バチストの心が自分に向いてはいないことを知りつつも、彼に愛を捧げます。伯爵の愛も報われません。彼女には何でも与えたい伯爵ですが、それで、彼女の心を掴むことはできなさそうです。


古い作品で、白黒で、それでも、古さよりも時代を超えた普遍性が感じられるのは、多くの人がその人生で一度は夢想する"永遠の恋"の本質を描き出しているからなのかもしれません。


ストーリーを動かすきっかけをいろいろと作っているのは、ルメートルですが、バチストを演じるジャン・ルイ・バローの存在感が見事。舞台でのパントマイムの演技はもちろん、舞台を降りた"素"の場面での表情にも独特の色気が感じられて印象的でした。


190分という長さを感じさせない力のある作品でした。名作という評判の高い作品ですが、確かにその通り。この先も長く残っていく作品であることは間違いないでしょう。



天井桟敷の人々@ぴあ映画生活

黒い罠

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黒い罠【ユニバーサル・セレクション1,500円キャンペーン2009WAVE.1】 [DVD]/オーソン・ウェルズ,ジャネット・リー,ヴィクター・ミラン
¥1,500
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アメリカとメキシコの国境の町で、突然、車が爆発し、車中の富豪とストリッパーが死ぬという事件が起きます。ハネムーンの最中に事件に遭遇したメキシコの犯罪調査官、ヴァルガスとアメリカの敏腕刑事、クインランは共同で捜査をすることになりますが、2人は衝突ばかり。やがて、ヴァルガスは、敏腕といわれたクインランの実績の裏を知ることになり、クインランは、ヴァルガスと彼の妻、スーザンを陥れようと...。


1958年勢作。白黒の50年以上前に作られた古い映画です。さすがに古びた感じがするのは、実際に古いということ以上に、本作に影響を受けた作品がその後いろいろと現れ、そうした作品群を見た後では既視感があるのもやむを得ないところ。多分、勢作当時としては、かなり画期的な作品だったのだろうとは思います。


クインランを演じるオーソン・ウェルズの印象的な容貌と巨漢、過度にも感じられるまでに抑え目の演技ゆえに却って浮き上がるような存在感、彼が醸し出す不気味な雰囲気に合った映像の独特な空気感。クインランを始めとするいかにも怪しげな人々の中で孤立するヴァルガスの上に立ち込める暗雲。ヴァルガス夫妻を取り巻く、黒い情念が渦巻くような空気感が印象的です。


クインランの情婦、ターニャを演じるマレーネ・ディートリッヒが、また、見事な存在感を出して、国境の町の怪しげな夜の雰囲気を出しています。特にラストの彼女の後姿は心に残ります。


犯罪ものの場合、どうしても、犯罪捜査のあり方などに時代が反映されてしまい、その点でも、古さが感じられてしまうのかもしれません。特に、証拠の揃え方、誤魔化し方が、今を知る私たちから見ると、あまりに稚拙で引っかかってしまいます。もちろん、それは、全く、作品の製作者側の問題ではないのですが...。


"時代に耐える"という点において、犯罪者の場合、不利があるのは間違いないでしょう。


それでも、映像の美しさ、オーソン・ウェルズ、マレーネ・ディートリッヒは見応えありました。メキシコ人のヴァルガスを演じたのがチャールストン・へストンというのは、少々、無理があったと思いますが...。


レンタルで十分かとも思いますが、一度は観ておきたい作品だと思います。



黒い罠@ぴあ映画生活

デコレーション・デイ 30目の勲章

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デコレーション・デイ 30年目の勲章 [DVD]/ジェームズ・ガーナー,ローレンス・フィッシュバーン,ジュディス・アイヴィ
¥3,675
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戦後30年。長年、判事として働いていたアルバートは妻、ビクトリアに先立たれた後、退職し、愛犬のリッシー、お手伝いのロウィーナとともに池の畔でのんびりとマイペースの生活を楽しんでいました。ある日、アルバートが名付け親になっていた幼馴染の息子、ビリーが訪ねてきます。ビリーの訪問の目的は、彼の父親やアルバートが幼い頃世話になっていた黒人の老人、ジーについての相談でした。ジーは、第二次世界大戦で従軍しており、30年後の今、政府から名誉勲章を贈られることになったのに、受け取ることを拒否しているとのこと。おまけに、ジーの依頼で勲章を辞退する旨の手紙を政府に書いたビリーは、「人種種差別主義者でジーの叙勲を妨害しようとしている」と疑われてしまい困っていました。アルバートは、久し振りにジーの元を訪れますが...。


ちょっとした行き違い...というよりも、もっと些細なことかもしれない感情のズレから、行き来が途絶えてしまうアルバートとジー。2人の間に人種の違いがなかれば起こらなかったかもしれない問題。


幼い頃からの関係は、人種差別のような社会的な背景の影響は受けにくいもの。けれど、社会の現状を知り、純粋に一人の人間対一人の人間という関係でなく、それぞれの属する社会的なグループのあり方や関係について意識せざるを得なくなると、個人対個人の関係も純粋な相手への気持ちだけでは処理できなくなっていくもの。


成長と共に社会との関わりが深くなり、その分、友人関係が純粋なものではなくなってくる、その辺りの機微が繊細に描かれ、胸に沁みてきます。


疎遠になってしまった2人。そこに起こったジーの叙勲問題。思わぬことで2人の間に波紋が起こります。勲章を拒否しているというジーの意に沿った形で請願書を作るアルバート。彼は、ジーの気持ちを汲んだわけですが、しかし、問題は、それだけで、本当にジーの想いを尊重したことになるのかということ。


かつては、確かにあったジーとの信頼関係。そのことを考えるならば、表面的な部分だけでジーの言葉に応えようとしても、それは、意味のあることとは言えないのではないか。そう、アルバートに働きかけるロウィーナや国防省担当者。彼らの言葉が、徐々に、アルバートの心に沁みこんでいく過程が丁寧に描かれ、友情について考えさせられます。


一方で展開されるビリーを中心とした物語。妻との関係、そして、自身に起きた大きな問題。さらに、アルバートと速記者、テリーとの関係。そこにも、表面的な言動からだけでは推し量れない想いが隠されていました。


アルバートとテリーの成り行きは、やや、安易な感じもした...というより、なくても良かった気がしなくもありませんが、穏やかな空気が流れる温かな作品です。戦争、人種差別、友情、夫婦関係、病気、恋...。様々な要素が絡まりあいながらも、全体に上手く整理され、バランスの取れた受け入れやすい穏やかな雰囲気の作品になっています。演技陣もそれぞれに好演し、作品の味わいを深めています。



デコレーション・デイ 30年目の勲章@ぴあ映画生活

完全なる報復

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完全なる報復 DVD/ジェラルド・バトラー,ジェイミー・フォックス,コルム・ミーニイ
¥3,990
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舞台はフィラデルフィア。ある夜、エンジニアのクライドは、自宅に侵入してきた2人組みの強盗に、目の前で妻子を惨殺され、自身も瀕死の重傷を負います。犯人はすぐに逮捕され、起訴されます。けれど、明確な証拠が少ない中、確実に有罪にすることを優先した検事が主犯格の男と司法取引を行ったため、犯人は、有罪にはなったものの軽い刑で済んでしまいます。強盗殺人事件の10年後、犯人が惨殺され、容疑者としてクライドが浮かび、、逮捕されますが...。


クライドは、司法制度の不備を訴え、司法取引に関わった者たちへの復讐を宣言します。そのクライドの復讐心は理解できますし、司法取引という制度を憎む気持ちも理解できます。


そして、繰り広げられる復讐劇。最初の犯人殺害については、復讐というには、バランスを欠く残虐さだったとは思います。けれど、全く理解を超える行動ではありません。クライドの追い詰められた恨みも判るような気がします。


けれど、途中から、その復讐の規模が、やたらと拡大し、司法制度の不備だとかなんだとかといったものも吹き飛び、さらに、そのクライドと"仇"である検事も超法規的...というか、殺人でしょう、あれは...という手段に訴えることになり...。


いろんなことがどうでもよくなり、単なる殺し合いになっていく辺り、違和感ありました。


どんな理由や言い訳があっても、所詮、復讐など非合法な行為。そんなことで目的を達成することはできないし、結局は、恨みが恨みを買う負の連鎖を生み出すだけ...ということなのかもしれませんが...。


確かに、この経験は、検事に大きなダメージを与えたことでしょう。そして、"殺人犯と取引をしてはいけない"ということを肝に銘じたことでしょう。そういう意味で、クライドの検事への"完全なる報復"は完了したといってよいのかもしれません。でも、これだけのことをして検事一人を変えるだけでよかったのか...。


あれだけのことをする力があるのなら、司法制度の改革に向かうような方向性を考える方が納得しやすかったのではないか...。どうも、ストーリーの流れに釈然としませんでした。


逮捕されたクライドと検事の遣り取りなど、緊迫感あってよかったのですが、それが、グズグズになり、あり得なさ満載になっていってしまうのが、なんとも勿体なく、残念。



完全なる報復@ぴあ映画生活