パララックス・ビュー

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パララックス・ビュー [DVD]/ウォーレン・ビーティ,ヒューム・クローニン,ウィリアム・ダニエルズ
¥1,500
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大統領候補とも目される上院議員の暗殺されます。その後、現場に居合わせた人間が次々に死にます。新聞記者のジョーのガールフレンド、リーもその場に居合わせており、彼女は、同じ場所にいた人々の死について調べ、それが口封じのための殺人だったのではないかと疑うようになります。彼女の話を取り合おうとしなかったジョーですが、やがて、彼女も死体となって発見され、彼女の推理が当たっていたことを確信。事件の背後に浮かんできた暗殺請負組織、パララックス社に潜入し...。


アメリカでなら、こんなことが現実に起こっているのかもしれない...そう思いたくなるような素地があるだけに、ラストにはリアリティが感じられたりもします。


そして、前半部、暗殺の影にあるものを探ろうとする辺りは、それなりに面白く、緊張感もありました。ただ、パララックス社に潜り込もうとする辺りから、何だかよく分からなくなります。別人の身分証明書を手に入れ偽名を名乗ろうとするジョー。でも、姿かたちは全く変えようとしません。それでいいの?どこかで自分を知る人間と出会ってしまう可能性を考えなかったとしたら、あまりに無防備すぎると思うのですが...。当然、命が懸かっていることは予想できていたでしょうに...。


何だか、大それたことをしようとしている割には、無防備なんですよね。ジョーが、その危険が予測できないほどに愚かだったとも思えないのですが...。リーが死に、保安官が死に、自身も狙われ...、相手が目的のためなら何人でも殺そうとしていることは十分理解していたはず。それに、ジョーのしようとしていることが見抜けない相手ではないことくらい予測できたはず。


大体、かなり特別な仕事をさせようとしているのですから、身元調査などは相当にしっかりするはずですよね...。パララックス社応募に当たって、やるべきは"試験対策"だけではないはずなのに...。


それなのに、潜入に当たって、万が一の場合への備えを全くしなかったのは、何故なのか?普通、ありますよね。経緯を書き残して誰かに託すとか、証拠となりそうな材料をそれなりの相手に渡るように手配しておくとか...。ジョーは、何を考えていたんでしょう?


これだけ、無用心だと、敵方の組織の恐ろしさよりも、ジョーの側のお間抜けな印象が強くなってしまって、本来、本作の魅力となるはずのドキドキハラハラ感や怖さが薄くなってしまっています。パララックス社は大統領候補となるような大物政治家の暗殺を請け負い、その証拠隠しのために何人もの人間を闇に葬る力を持っているわけです。舐めては駄目ですよね...。


結局、本作は、巨大な力に立ち向かう時は、それなりの準備と用心が必要ってことを言いたかった...、とも思えなくて...。


見せ方、語り方で、もっと面白くなったはずの作品だけに残念です。



パララックス・ビュー@ぴあ映画生活

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サイン

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サイン [DVD]/M・ナイト・シャマラン,メル・ギブソン,ホアキン・フェニックス
¥1,500
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牧師だったグラハムは、半年前に妻を事故で亡くし、一切の信仰を捨てます。妻の忘れ形見である2人の子ども(息子のモーガンと娘のボー)、そして、マイナーリーグのスター選手だった弟、メリルの4人で暮らしていましたが、ある日、彼のトウモロコシ畑にミステリー・サークルが出現し、それをきっかけに、不可解な出来事が周囲で、世界で、起こり始め...。


それにしても礼儀正しい異星人です。いきなり攻撃を加えるのではなく、何日も前から世界中のあちこちにサインをするなんて。多分、本気で地球を侵略したかったわけではないのでしょうね。大体、こうした事態にすぐ、"攻撃される"っていう被害者意識を抱くグラハムたち。確かに、わけのわからないことに対する恐怖はあるでしょう。けれど、「本気で攻撃する気なら、こんなに悠長なことはしないはず」と考える人がいてもよかったような...。


大体、"水の惑星"と言われる程に水に溢れている地球を攻撃する異星人の弱点が"水"だなんて!事前のリサーチがなさ過ぎ!そんな異星人、怖れるに足らずです。


高層ビル2棟を破壊されたからと、正義の名のもとに一国を壊滅的状況までに追い詰めても痛みを感じることすらない国の人々にとって、あらゆる理解できない出来事を敵からの攻撃と結びつけて解釈するは当然のことなのかもしれません。自分たちが平和に生活していた土地を"発見"し我が物にしようと攻撃してきた人間たちを"神"と勘違いし、簡単に滅ぼされ支配されてしまったインカ帝国の人々や、故国を追われ大海原を越えてきたピューリタンたちに同情を示した挙句に土地を奪われ辺境に追い詰められたネイティヴ・アメリカンの人々とは大違い。まぁ、だからこそ、世界唯一の大国として力を蓄えられたということなのかもしれませんが...。


家族愛の結実が"敵"を殺すことで示されるのも、過剰防衛の国アメリカらしい結末だと思います。家族が協力して異星人とのコミュニケーションに取り組むのだったら、温かい家族愛って感じがしたと思うのですが、家族でさえ共通の敵と戦うという体験を通してでなくては絆を確かめ合えないのだとしたら哀しいですね。


そもそも、モーガンを捕らえた(?)異星人、彼に悪意があったのか?悪意があったなら、の家族の前であんなにのんびりと構えていたのは変もですよね。モーガンのためになること(喘息の治療とか?)をするつもりだったからこそ、あんなに無防備にのほほんとしていたのではないか...。だって、その気になれば、相当敏捷に動く能力を持っているわけですしね...。


あまりに貧弱な異星人の姿や、そののんびりとした行動を見ていると、本作は、いかにもアメリカ的な被害者意識や攻撃性、あまりにキリスト教主義的というか何でも神様頼りな風潮を皮肉っているのではないかとも思えてきます。様々な不幸や悲惨さに出会った経験があったはずな牧師が、いくら愛する妻とはいえ、その死で信仰を失うというのも安っぽい話ではあります。そして、ちょっとした偶然で信仰を取り戻すのも...。まぁ、他人の悲惨さには無関心でいられても自分の不幸には衝撃を受けるというのはやむを得ないことかもしれませんが、彼は一応、牧師なのですからね...。


あれだけ引っ張っておいて、この結末?と、一瞬は、呆気にとられてしまいましたが、考えてみれば、意外に、深い作品なのかもしれません。途中から、どんどんトンデモな方向にいってしまっていますが、前半部の恐怖の見せ方などは良かったと思います。結構、ドキドキ、ハラハラしました。


後半部も、何人かでワイワイと突っ込みながら観るには手頃なのかもしれません。真面目に信仰や家族愛の素晴らしさを称える作品とも、無批判に神の意思を信じる傾向を皮肉る作品とも、あまりにアメリカ的な被害者意識を嗤う作品とも、様々に解釈できる辺りも嬉しいところ。


突っ込みどころ満載の作品は少なくありませんが、そのすべてが突っ込みながら楽しめる作品となっているわけではありません。その点、本作は楽しめそうです。



サイン@ぴあ映画生活

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熱狂はエル・パオに達す

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熱狂はエル・パオに達す [DVD]/ジェラール・フィリップ,マリア・フェリックス,ジャン・セルヴェ
¥3,990
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大西洋中南米沖にある小さな島。流刑地にもなっているその島で、専制的な権力を振るっていた総督のバルガスが暗殺されます。一方、そのバルガスの秘書官でありながらも、高い理想を抱いていた秘書官のバスケスは、かねてから思いを寄せいていたバルガスの妻だったイネスとの交流を深め、政治的な立場も固めつつありました。そんなところへ、後任の総督が赴任。彼もイネスに狙いをつけており、イネスを手に入れるため、バルガス暗殺の罪をバスケスに負わそうとしますが...。


36歳の若さで亡くなったフランス映画の貴公子、ジェラール・フィリップの遺作となった作品。


政治ドラマにメロドラマを加えた...というより、メロドラマに政治的味わいのふりかけをかかえたといったところでしょうか。政治風味のメロドラマ...。


外側からの改革を目指すのか、内側からの改革を目指すのか。内側からの改革をする場合、まずは、体制内の価値観のもとで認められて出世しなければなりません。その過程の中で体制の価値基準に染まらずにいることは至難の業。外側から改革する場合、圧倒的な力の差を乗り越えなければらないわけですから、通常、多くの犠牲を伴います。


ジェラール・フィリップ演じるバスケスは、体制内からの改革を目指します。そして、誠実に努力します。けれど、体制内で力をつけても、多勢に無勢。力の及ぶ範囲は限定的。そして、体制内であまりにあけすけなことをすれば力を発揮する機会さえ奪われることでしょう。まして、そこに、恋が絡んでくる、それも、上の地位にある者と争うような恋が絡む場合、両立は不可能でしょう。


それでも、恋も、理想も手に入れようとするバスケス。彼の理想は美しく正しかったわけですが、結局、自身の人生にとって一番大事な一つのものを選べなかったワケです。そんな彼の理想は儚く脆い...。本当に欲しいものを知っていて、それを手に入れるためならあらゆる手段を講じようとするイネスの潔さ、強さに比較するとその弱さが際立ちます。イネスは、両立の難しさを理解していた。だからこそ、欲しいもののためには大きな犠牲を払うことも厭わなかったのでしょう。


「二兎を追うもの一兎をも得ず」と言いますが、バスケスは、全てを失います。けれど、本作は、そんなバスケスの背に冷たい視線を浴びせようとはしていないように思えます。寂しげなバスケスの後姿。そこに注がれる視線には、どこか、温かさが感じられました。


多分、バスケスは愚かではあったけれど、悪人ではなかったのです。もっとも、自分の悪を自覚する悪人より、時に自分の中の悪に無自覚な善人の方が残酷であることを思えば、善人であることは、必ずしも長所とは言えないのかも知れず、バスケスが悪人であるか、或いは、善人であっても力を持たなければ、犠牲者は少なくて済んだのかもしれませんが...。


ジェラール・フィリップの美しさは堪能できます。けれど、人物描写は全体に浅く、その点に消化不良な感じが残りますし、主人公のバスケスの存在感より、イネスの力強さ、後任の総督の悪人振りが目立ってしまい、その辺りのバランスの悪さも気になりました。



熱狂はエル・パオに達す@ぴあ映画生活

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おいしい生活

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おいしい生活 ―デジタル・レストア・バージョン― [DVD]/ウディ・アレン,トレイシー・ウルマン,ヒュー・グラント
¥1,890
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自称、天才犯罪者、頭のキレる男なレイは、完璧と自画自賛する銀行強盗計画を思いつきます。銀行近くの空き家を借り、地下トンネルを掘って銀行の金庫に進入するというもの。カモフラージュとして、借りた空き家で妻がクッキー店を始めますが、これが大繁盛。一方、掘り進めたトンネルは、とんでもないところに行き着いてしまい...。


なかなか面白かったです。レイたちのあまりの間抜け振りには笑わせられます。トンネルを掘ろうとしているのに、ドリルの扱い方も分からないとか、図面を逆さに見ていて失敗したとか...。


そして、そんな間抜けな犯罪は、予想通り失敗して、でも、それでオシマイではなく、犯罪のためにしたことが、思わぬ展開を見せ、犯罪の成功を上回る成果を上げてしまうといった辺り、面白かったです。


ただ、何だかんだ言っても、フツ~の平凡な暮らしが一番っていう結末はどうかと...。ただモンではない商売繁盛までの部分が、あまりにありきたりの結末に、それも、特にヒネリもなく行き着くというのは、消化不良な感覚が残ります。所詮、庶民は庶民、背伸びするなという感じも見え隠れして...、っていうのは、ヒガミでしょうか?大体、レイは、メイとの関係を深めつつあったのに、フランシスに対してぬけぬけと愛を語る辺りも今ひとつな展開。


成り上がってからのレイとフランシス夫婦の描き方も、あまりにありがちな成金の描写で、少々、興ざめ。毒があるのは良いのですが、もう少し、愛も欲しいような...。


前半部分を盛り上げてくれていた、これまた変人な犯罪者仲間たちが、いつのまにか消えてしまうのも残念。彼らも、会社のお偉いさんたちなのですから、イザという時、多少は、存在感を見せて欲しかったです。


まぁ、そこそこ、軽~~~く楽しめる作品にはなっていると思います。でも、ラストを迎えたら、それで終わり、後腐れなくすっきりオシマイという、良くも悪くも後に残らない作品といったところでしょうか。それはそれで、正しいエンターテイメントのあり方かもしれませんが、どちらにしても、今一歩感が拭えませんでした。



おいしい生活@ぴあ映画生活

テザ 慟哭の大地

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1970年代、エチオピア北西部のタナ湖近くの農村出身で、医学を学ぶアルベンブルは、故国を離れ、ドイツに留学します。1974年9月、エチオピアでは革命が起こり、ドイツにいるアルベンブルやその友人のエチオピア人の学生たちの間にも、社会主義思想が広まり、政治についてあつく語り合う日々を過ごしていました。先に帰国していた留学生仲間に呼ばれ、エチオピアに戻り、研究を続けるアルベンブルでしたが、エチオピアの政情は不安定で、やがて、彼らも社会の変革の波に飲み込まれていき...。


1974年9月エチオピア革命が起こり、メンギスツが臨時軍事評議会(PMAC)の第一副議長に就任。その後、メンギスツを中心とし、学生、大学教授、労働者が支持していた急進派と、アマン・アンドムPMAC議長を中心とし、インテリ層や国民の多くが支持していた穏健派が対立。11月にメンギスツが、エリトリア解放戦線討伐問題に関する意見の不一致を理由にアマン議長を解任、軟禁、殺害し、実権を握ります。1977年にクーデターを成功させ、議長に就任し、社会主義軍事独裁政権を発足。エリトリア独立戦争、ソマリアとの東部オデガン地方を巡る戦争、飢餓により100万人を出します。恐怖独裁政治や粛正で数十万人が殺されたといわれています。1991年5月にエリトリア人民解放戦線がティグレ人民解放戦線とメンギスツ政権を打倒。メンギスツはジンバブエに亡命。現在もジンバブエで政府の保護を受けています。


1970年代から約30年にわたるエチオピアの歴史とその波に翻弄される人々が描かれます。


アルベンブルにしてみれば、「自分は自分のなすべきことをする。それこそが、国への最大の貢献。」という気持ちだったのでしょう。けれど、それは、ある意味、かなり、のんびりしたというか、世間知らずな考え方と言わざるを得ません。彼が生まれ育ったのは、田舎の小さな村。そこから、ドイツに留学したというのは、相当に優秀で運も良かったということなのでしょう。彼の生家に経済的な余裕がありそうにもなく、費用を出してもらっての留学なのでしょう。だからこそ、勉学に熱中し、他を省みなかった...という様子でもなく、それなりに遊んではいたようですが...。


彼が、本当のところ何をしたかったのか、そこのところが分かりにくかったです。信念を通そうとしているようで、若い頃の彼には、今ひとつ何かを貫こうとする強さが感じられませんでした。それが芽生えてくるのが、故郷の村で孤立する立場にあり、彼の母が引き取っていた女性、アザヌとの関係が深まってくる頃。愛し、護りたいと思える相手ができたことで、一人の人間として成長を見せたということでしょうか。


異国での様々な経験、社会情勢の波に翻弄される日々の中で、アルベンブルも、本当に大切にすべきものが何かを学んだということなのかもしれません。


アルベンブルは、ドイツにも、エチオピアの研究所にも、居場所を見出せず、やっと帰ることができた故郷でも、周囲の人々と同じ価値観の中で生きていけそうにはありませんでした。長く、西欧で過ごした彼にとって、故郷は、すでに、あまりに遠い場所になってしまったのでしょう。ずっと欧風の服装で居続ける彼の姿には、故国に裏切られた悔しさが滲んでいるようにも思えました。


そして、そんな彼が、やっと、自分の生きる道を見出したラスト。今後も周囲と摩擦を起こす可能性が感じられたりもしますが、一方で、確かな希望も感じられます。生徒たちの前に立つアルベンブル。以前の教師の政治的な内容とは一線を画す純粋に基本的な教科の勉強的な内容。いかにも、アルベンブルらしかったりします。


白髪が混じる頃になり、ようやく、居場所を見つけ、護るべき相手と押し通すべき信念を確信したということなのでしょうか。


一人の男性を主人公に、一つの時代と一国の歴史を描いた壮大な叙事詩となっています。現在と過去のエピソードが交錯しますし、エチオピアの歴史について丁寧な説明があるわけでもないので、ある程度の基礎知識を仕入れておいた方が分かりやすいと思いますし、現在と過去、悪夢が入り混じるので、馴れるまで分かりにくい部分もありますし、やや、長い感じはしましたが、印象に残る力のある作品だったと思います。


タナ湖の風景の美しさが胸に沁みます。"水と空が出会う"と表現されていますが、太陽が湖に沈む景色など見事でした。



公式サイト

http://www.cinematrix.jp/teza/



テザ 慟哭の大地@ぴあ映画生活

ブッダ

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ブッダ全12巻漫画文庫/手塚 治虫
¥6,108
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先日、映画 を観ました。期待していたのですが、かなりガッカリ。でも、原作は読んでみたいと思い、早速、買って、読んでみました。


で、本作を読んで、何故、映画が失敗したか納得。映画化するのは難しい作品だということがよく分かりました。


タイトルの通り、ブッダの一生を描く物語なわけですが、実在の人物を描きながらも、実に大胆にフィクションを加えています。主要な役割を果たす人物にも創作された人物が置かれ、あり得ないエピソードが描かれ、けれど、そのことで、よりブッダの人となりが血の通った存在として感じられ、彼を取り巻く社会の状況が実感できました。


ブッダの教えの解釈などについては、手塚治虫の考え方が色濃く反映され、その辺りは異論を唱える人もあるのかもしれません。主要な登場人物に架空の人物をもってきている点も、違和感を覚える人はいることでしょう。

けれど、タッタなどの創作された人物が超能力を発揮する一方、ブッダの超人的エピソード(誕生時の"天上天下唯我独尊"のエピソードなど)は、むしろ、現実に起こり得る形に表現されていて、そこに、本作の"巧さ"を感じました。大宗教の教祖としてその生涯に超人的なエピソードが加えられているブッダ。そのブッダをより人間的に描き、超人的な部分を周囲の人物に持っていくことで、より、ブッダという人物を身近に実感できるようになっているのだと思います。


特にタッタとブッダの関係。人生に対する洞察する力を覗かせる一国の王子として大事に育てられ軟弱な感じのブッダに対し、幼い頃から特別な能力を発揮し神聖を発揮するタッタ。その2人の人生が交錯していき、その終焉が大きく別れる様子も見事。殺戮の中に命を落とすタッタと悟った者として穏やかな死を迎える仏陀。自分の中にある能力を巧く活かしながら生きていくということは相当に難しいことなのでしょう。


手塚治虫最高傑作といってもいいかもしれません。一度は読んでおきたい作品でしょう。

アナとオットー

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アナとオットー [DVD]/フェレ・マルティネス,ナイワ・ニムリ,サラ・バリエンテ
¥3,990
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8歳のオットーは、自分を見つめる同い年の少女、アナと出会います。その日は、アナの父親が亡くなった日。アナには、オットーが父親の生まれ変わりのように感じられます。ある日、オットーが飛ばした紙飛行機がきっかけとなってアナの母とオットーの父が出会い、やがて、結婚し、アナとオットーは義理の兄妹となります。同じ家に暮らすようになったアナとオットーは、愛し合うようになりますが...。


2人とその周囲に散りばめられる様々な偶然。繰り返される似たようなエピソード。ここまでの偶然は、幾らなんでもやり過ぎなのですが、まぁ、あまり、ストーリーがどうこうという雰囲気の作品ではありません。


2度、3度と登場する"追いかけっこ"、交通事故、平手打ち、救助されるパイロット...。そして、循環する物語。逆さに読んでも同じな名前を持つ2人の主人公。彼らの出会いは、地平線を一周する白夜の北極圏という大きな輪の中で閉じていきます。その冒頭に繋がるラストは、本作そのものが循環する大きな輪になっていることを示しているのでしょう。


大小の様々な輪の重なり。循環する太陽と物語と運命。生命は、生き、死に、また生き...、循環していくものなのかもしれません。輪廻転生。


ストーリーを描くことより、何かを訴えようとする姿勢より、映像の凝り具合が印象的です。過去と現在が入り混じり、オットーから見た物語とアナから見た物語が交錯し、一つの大きな円が閉じていく流れに、悲劇よりも、不思議な落ち着きと幸福感が感じられます。


やや、技巧に走り過ぎて、印象的な映像やセリフがところどころに見られる割には、作品全体として訴えてくる力には弱さが感じられます。ちょっと勿体ない感じもしますが、この独特な味わいは長く印象に残りそうです。



アナとオットー@ぴあ映画生活

スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする [DVD]/レイフ・ファインズ,ミランダ・リチャードソン,ガブリエル・バーン
¥1,890
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マグラア原作のミステリー小説「スパイダー」を映画化した作品。


一人の男がロンドンにやってきます。彼、デニスの行き着いた先は、寮のような施設。彼は、町を歩きながら、自分の過去を回想し、ノートに綴ります。父親の不倫、母親の死、疎外感、孤独...。ついに、少年時代の最悪の記憶に辿り着きますが...。


全体に説明的な要素が少なく、何が何だか分からないままにストーリーが進んでいきますが、徐々に、状況が頭の中で整理できるようになっていきます。控えめな描写ながら、必要な情報はそれなりに提示してくれるところは、なかなか、心憎いところ。


デニスが落ち着いた場所は、どうやら、精神科を退院したものの行くあてのない人々のための施設らしいことが分かり、彼の回想が必ずしもすべて真実ではないであろうこと、彼が見ている現実すら、すべてが事実とは言い切れないかもしれないことが伝わってきます。


人間の記憶なんて、所詮、あいまいなもの。年月とともに塗り替えられていくものだということが実感されます。どこまでが現実で、どこからが彼の妄想なのか...。そして、段々、現在のこととして描かれる部分さえ、どこまでが事実か分からなくなっていきます。


そもそも、彼の母はどうなったのか?すべてが、彼の記憶の通りだったとは考ることには、やはり、無理があります。もし、母がいなくなってすぐ、イヴォンヌがやってきたのだとしたら、母の突然の失踪に周囲が疑問を持たないワケはないでしょう。周囲に誰もいないような辺鄙な土地に住んでいたわけではないのですから。大体、イヴォンヌの"変身ぶり"も変だし...。


そう考えると、イヴォンヌは、母親を殺してしまった少年が、その自分自身の大きな罪から逃れ、心が傷つくことを避けるため、心の中に作り上げた妄想の中の人物ということになります。であれば、酒場で仲間と話すイヴォンヌとデニスの父と一緒になった後のイヴォンヌの印象の違いも理解できます。所詮は、デニスの妄想の中に生きるデニスにとって都合の良いストーリーを組み立てるための素材ということですから。


そう、デニスの母親は、いわゆる「良い母親」ではないのです。幼いデニスを一人残して飲みに行くようなところがあったし、子育てに熱心とはとても思えないし...。その母の元で、デニスは孤独を抱えていたのですから...。


ただ、どこが本当で、どこが嘘か、確たる証拠は示されません。いくつかの解釈ができる余地が残されます。父と抱き合っていた相手は母かイヴォンヌか、母を殺したのは父かデニスか、イヴォンヌは存在したのか否か、大人になったデニスは外の世界に出たのか、大人のデニスの体験はすべて事実だったのかどうか...。


ジメッとした暗い雰囲気、そこには、単なる経済的な意味だけでない貧しさが漂っています。そして、少年時代のデニスの部屋と大人になったデニスの部屋に張り巡らされた"蜘蛛の巣"の異様さ。そこに、大人のデニスを演じるレイフ・ファインズの狂気に駆られた怪しさが重なり、作品の色合いを濃くしています。


デニスが張った"蜘蛛の巣"。けれど、そこに絡め取られたのはエサではなく、デニス自身だったのかもしれません。


ミステリアスな部分があり、そこを読み解く面白さは感じますが、一方で、観終えて「だから、何?」という感じもありました。技巧的な面での上手さは感じられるのですが、その割りに、伝わってくるものがないというか...。


悪くはないのですが、ちょっと、残念。



スパイダー・少年は蜘蛛にキスをする@ぴあ映画生活

太陽に灼かれて

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太陽に灼かれて [DVD]/オレグ・メンシコフ,インゲボルガ・ダクネイト,キータ・ミハルコフ
¥2,625
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1936年。ロシア革命の英雄、コトフ大佐は、妻のマルーシャや娘のナージャとともに穏やかで幸福な日々を過ごしていました。そこに、かつてのマルーシャの恋人、ドミトリがやってきます。彼には、ある目的があり...。


スターリンにより行なわれた大粛清。1934年に共産党幹部セルゲイ・キーロフが暗殺された事件をきっかけに始まった大粛清は、1936年になると赤軍への粛清が始まり、最終的には大佐クラスの75%以上、大佐以上の高級将校の65%が粛清されたのだとか。総死亡者数については、50万人から700万人まで諸説あるのだとか、少なく見積もったとしても相当なものです。


で、本作に登場するコトフもその一人。地位を利用しマルーシャを手に入れた彼ですが、マルーシャを奪われたドミトリィに反撃されます。けれど、ドミトリィも、それで、満足や幸福を得られたワケではありません。戦争に勝者はいない...とよく言われますが、ドミトリィもコトフも、加害者でありながら、同時に被害者でもあったのです。それぞれに傷とやましさを抱えるコトフとドミトリィ。2人と対照的な無垢なナージャ。彼女の存在が、平穏な日常の温かさを象徴し、その後の悲劇の酷さを際立たせます。


悲劇を伝えるラスト。けれど、作中では、ほとんど悲劇的な場面は描かれず、コトフ、マルーシャ、ナージャの行く末についてもテロップで説明されるのみ。


<ラストの部分を除き、かなりの部分が平和な日常の描写に割かれています。のんびりとした風景、穏やかな空気、愛に溢れた家族...。そう、押しなべて、安らげる幸福な風景を描いた作品なのです。


けれど、そんな中にも、ラストに繋がる暗さが見え隠れします。麦畑を通ろうとする戦車の隊列、"毒ガス避難訓練"の描写など、ありふれた日常が有事と背中合わせになっている状況が、その前の場面では、ドミトリィのコトフへの悪意がさり気なく描かれます。田舎の村ののんびりとした日常に迫る影...。その辺りの描写、安穏とした中に顔を覗かせる緊迫感が印象的です。ドミトリィの"御伽噺"も、マルーシャに真実を伝えると同時に、観る者に彼の心を伝え、その彼が起こすであろう波紋についての懸念を抱かせます。


最初は意味が分からない冒頭のシーンも見事にラストに繋がります。冒頭は、ドミトリィの逡巡だったのかもしれません。彼の任務を全うすれば、かつて愛したマルーシャをも不幸にするのですから。もし、ドミトリィとの再会で、マルーシャが心変わりしていたら、ドミトリィはどうしていたのか...。


冒頭のドミトリィの迷いとラストの後悔。彼だって、悪人ではなかったのです。それでも、粛清の先頭に立ち、その標的となった人々を死に追いやる役目を担わなければならなかった。まさに、"やるかやられるか"だったのでしょう。「生きていたかった」という彼の言葉が耳に残ります。


こんなに穏やかに静かに、悲劇を描く。穏やかに描かれているからこそ、静かに描かれているからこそ、その哀しさが強く胸を打つのかもしれません。静かに多くを語らず、けれど、強く悲劇を伝えるその表現力の見事さに、作品の世界に惹き込まれました。前半部分が、少々、長い気もしますが、映像の力が感じられる美しい作品だと思います。



太陽に灼かれて@ぴあ映画生活





恋するナポリタン ~世界で一番おいしい愛され方~ スタンダード・エディション [DVD]/相武紗季,眞木大輔,塚本高史
¥3,990
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単なる友だちではなかったけれど、恋人と言えるような関係でもなかった佐藤瑠璃とシェフの田中武。武の先輩シェフである水沢からプロポーズされていて迷っていた瑠璃ですが、水沢との結婚を決意します。瑠璃からの留守電へのメッセージを聞いた武は、急いで彼女の元に駆けつけますが、ピアニスト、槇原佑樹が起こしたアクシデントに巻き込まれてしまう。奇跡的に一命を取り留めた佑樹の体には、なぜか武の記憶が宿っていて...。


とってもファンタジックで、まさに御伽噺。あまりに直球勝負というか、真正面から、ストレートに何のヒネリもないというか...。まぁ、それはそれで悪くないのですが、ちょっと、スルッと行き過ぎている感じがしました。決して、凄くツマラナイというわけではないのですが...。よくあるいろんな話を程よくブレンドしてバランスよく無難に纏めただけというか...。


ピアニスト、槇原佑樹とシェフ、田中武。その2人が入れ替わるのではなくて肉体を失った武が祐樹と祐樹の肉体に同居するというところは面白かったですのですが、祐樹のピアニストとしての部分の描き方が、父親との葛藤の部分を含め、弱かった気がします。父親にも、あまり音楽の大家という風格が感じられませんでしたし...。


料理は美味しそうでした。料理人としての動作も頑張ってはいたと思うのですが、披露宴の料理を2人だけで作るには、あのスピードでは如何ともしがたいような...。かなりこじんまりとした披露宴ではありましたが...。もっとも、武がやっていた規模のレストランを切り盛りするシェフとしてもスピード感には欠けているような気がしましたが...。


細部を、もっとしっかり練り上げていれば、真っ直ぐなファンタジーであっても、もっと、しっかりと世界を感じさせてくれる作品に仕上がったような気がします。武のイタリアでのエピソードなど、ホッコリした良さが感じられる部分もあるだけに残念。



恋するナポリタン 世界で一番おいしい愛され方@ぴあ映画生活