2008年のリーマン・ショックの内情に迫るドキュメンタリー作品。


世界経済を危機に陥れたリーマン・ショックの裏側を、金融界を代表するインサイダー、政治家、大学教授、ジャーナリストなど、様々な人々へのインタビュー、独自のリサーチ、データ等から暴いていきます。


「知られざる真実」というほど、新しい事実が出てきているようには思えませんでしたが、世界的な経済危機が起こった背景がコンパクトにとめられています。


ただ、分かり易いかというと少々、疑問も残ります。金融危機に関する基本的な知識はないと分かりにくい部分もありましたし、英語で提示、あるいは、語られている部分の日本語訳が、端折られ過ぎて分かりにくくなっている部分もありました。(端折られている部分の英語が完全に理解できたわけではないのですが...。)


さらに、白い字幕の背景が白っぽくて、ほとんど読み取れない部分も、結構、ありましたし...。


池上彰さんの実に親切で分かりやすい解説に馴れていると、余計に、厳しい部分があるようにも思えます。


でも、世の中を動かすのは、一部の強い権力や大きな経済的基盤を持つ者であって、社会がどのような方向に進んでも、得をするのは、本当に力のある一部の人々。多くの庶民、特に貧困層は、偶然や幸運や奇跡が重なって富裕層のおこぼれに与ることがないわけではないにしても、基本的には、常に搾取されることから逃れられないという世の中の仕組みが伝わってきます。


そして、本作で追求されている"犯罪"。そこには、銀行、投資会社、保険会社、政府の金融関係の部署、中央銀行、格付け会社、経済学者、大学...実に様々な立場の組織や人々が関わっていて、本当に悪いのは誰か、責任を持たねばならないのは誰かという点がぼやけてしまっています。


まぁ、そもそも、連鎖反応を起こすように経済危機が拡大していったのは、借金が貸し手と借り手の関係の問題に止まらず、多くの金融機関や投資家、企業が関わる問題になってしまったところに端を発しているワケで、原因をどこか限定された部分に見出すことが難しい問題なのでしょうし、それだからこそ、あちらこちらに問題が波及していったのでしょうけれど...。


追求されている側は、何かというと、経済の仕組みは複雑だと言い逃れようとします。それだから、説明責任を果たせないのも仕方のないことなのだと。確かに、アメリカで、大勢の人の住宅ローンが焦げ付いたからといって、それが、世界に波及するというのは、なかなかピンと来ない仕組みではあります。高名な経済学者や優秀な金融関係者たちが考え出した仕組みです。複雑なのは確かでしょう。でも、それをフツ~の人々に説明し辛かったのは、仕組みが複雑だったからではなく、一般の投資家や客を騙す必要があったからなんですよね。簡単に言えば、「売る側が損する可能性はほとんどなく、買う側が損する可能性が大いにある金融商品」なのですから。


その多くの組織や人々を巻き込んだ事件の真相が暴ききれたのかどうか、疑問は残ります。もっと時間をかけないと明らかにできないことも多いでしょう。アメリカのマル秘扱いの公文書類が表に出てくる時がきて初めて分かることもあるでしょう。本作の取材を断った大物もいましたし、取材を受けた人物たちが真実だけを語ったわけでもないでしょう。


観ていると、世界経済を動かすあまりに巨大な力に圧倒され、無力感を覚えたりもしますが、本作のラストの言葉は効いています。


「闘う価値はある。」そうなんでしょうね。そして、闘わなければ、勝利する日は訪れない。というか、「同じ土俵に乗らずに生きる道を探す。」というのもありなのかとは思います。


本当に必要なものとそうでないものを見極める。何か購入する時は、将来入ってくる予定のお金ではなく、現在の手持ちの資金を当てる。それだけを心がければ、大きく損をすることは避けられると思うのですが、それにしても、生活していくために必要な最低限の費用を賄えるだけの収入を得られる仕事は必要なワケで、失業率の高い社会では、なかなか、簡単ではないのでしょうけれど...。


十分に満足できる内容とは言えませんでしたが、この先、金融機関の口車に乗せられて損をすることのないようにするために役立つ内容にはなっていると思います。ごくごく簡単にまとめると「セールス担当者の『オススメ』には手を出すな」でしょうか?



公式サイト

http://www.insidejob.jp/



インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実@ぴあ映画生活

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運命の逆転

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運命の逆転 [DVD]/ジェレミー・アイアンズ,グレン・クローズ,ローン・シルバー
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1980年のクリスマスにアメリカで実際に起きた事件を元に描いた作品。この事件の1審で有罪となったクラウス・フォン・ビューローの弁護を引き受け、逆転無罪を勝ち取った弁護士、アラン・ダーショウィッツの手記が原作となっています。


富豪の妻、サニーを殺害しようとして、植物状態にしたとして、殺人未遂で起訴された夫のクラウス・フォン・ビューローは、懲役30年の有罪判決を受けますが、無罪を訴えて控訴します。クラウスの弁護士を引き受けたユダヤ人の大学教授、アランは、プロジェクト・チームを作り、クラウスを無罪にするための方策を探り...。


本作制作時にはこん睡状態ではあったものの生命は維持されていたサニーですが、その後、28年間こん睡状態が続き、2008年12月7日、彼女の死亡が発表されたとのことです。ニューヨーク市内の介護施設で76歳で亡くなったそうです。


弁護士も依頼人の無実を信じているわけではありません。それでも、無罪を勝ち取るために誠心誠意努力を重ねる弁護士チーム。それこそ、プロフェッショナルなのかもしれませんが、一方で疑問も残ります。


弁護を引き受けた理由を説明する場面で、クラウスを訴えたサニーの子どもたちの行動について、「金持ちだから検察官経験者を雇って捜査ができる。それでいのか?」と語る場面があります。でも、それを問うなら、同時に、「金持ちだから優秀な弁護士を雇える。それでいいのか?」という疑問への答えも用意すべきなような...。


そして、事実で勝負するのではなく、法の解釈や裁判の手法で勝負しようとする姿勢。まぁ、それが、アメリカ社会における"正義"なのかもしれませんが、無理な解釈を重ねても無罪に導いていく...それで、本当に良いのか...。


無罪を勝ち取ったクラウスに対する、アランの最後の言葉。アランはクラウスに彼の良心に訴えかけようとしますが、アラン自身の良心は何を感じたのか...。どんな大罪人にも弁護士を雇う権利はあり、弁護士の役目は被告人の利益のために働くこと。けれど、そのために、良心や正義に目を瞑っても良いのか...。釈然としないものが残ります。


アランが、金のため、名声を得るためなら何でもやるというタイプの弁護士なら分かるのです。でも、そうでないだけに、彼なりの正義を真面目に考えている人のようなだけに、問題の根は深いような気がするし、見ていて割り切れない気持ちが残るのです。


とはいえ、作品そのものは面白かったと思います。タイトルを見れば、クラウスの運命が逆転する=有罪から無罪に逆転するという結末は簡単に予測できるわけですが、それでも、その結末にどう向かっていくのか、興味を惹かれながら観ることができました。


クラウスを演じたジェレミー・アイアンズの"あんたが犯人に決まっている!"的オーラを強烈に放つ不気味な佇まいが実に見事。どんなにアランが頑張っても、クラウスを無罪だと素直に信じられないのは、この彼の放つ怪しさゆえでしょう。そして、結末が分かっていながらも、最後まで作品の世界に浸れたのも、彼の怪しげな存在感ゆえかもしれません。実に印象的でした。


ただ、一点。クラウスの支払う弁護費用で当たっていたもう一つの事件。2人の運命はどうなったんでしょう?気になります。



運命の逆転@ぴあ映画生活

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手塚治虫が1972年から10年に亘って書き上げた超大作を全三部作でアニメーション映画化した作品。原作は未読です。


勢力を伸ばしつつあるコーサラ国に狙われているシャカ国の王子、ゴータマ・シッダールタは、王となるべく教育を受けますが、武人とし敵を殺すための訓練を受けることには違和感を拭えませんでした。やがて、生まれ育った城の外にある貧しい人々の生活を知るようになり、厳しい階級制度に疑問を抱くようになります。やがて、奴隷階級の生まれでありながら、チャンスを掴み、身分を隠して将軍の身分にのぼりつめたチャプラが率いるコーサラ国の軍隊がシャカ国に攻め入り...。


原作が超大作なので、端折り過ぎているのでしょうか、全体に浅く薄い感じや、エピソードからエピソードへの繋ぎの悪さが目立って作品の世界に浸れませんでした。いくら3部作にしても、原作の全てを描くことは難しいでしょう。思い切ったエピソードの取捨選択をして、ポイントを絞らないと散漫で薄っぺらな作品になってということの見本のような作品と言えるかも知れません。


全体が、ぶつ切りな感じになって、何が言いたくて、何をしたくて、本作が作られたのか、どうも、製作者側の想いのようなものが伝わってきません。


タイトルにわざわざ、「手塚治虫の」と入れながら絵に手塚治虫っぽさがあまり感じられなかったことにも違和感が残りました。


そして、何よりも、主人公のシッダールタ、そして、その父、スットーダナ王の声が...。特にスットーダナ王の棒読みな感じが耳障りでした。まぁ、アニメ作品で、本職の声優を使わず、もっと話題になりやすい人を選ぶケースというのは、珍しい話ではありませんが、「何故、この人選?」という疑問が拭えません。本職の声優が演じている人物もいるだけに、差が目立ってしまっていて、そこも引っかかります。


絵にもあまり表情がなく、主役クラスの声にも表情がないので、全体に平板な印象になってしまっています。


チャプラのエピソードでも、国一番の勇者を決める大会の決勝戦での逆転劇など、いくらなんでもやり過ぎだし、その前のどんなにボコボコにされてもたちまち復活する辺りも、ねぇ...。


他のエピソードはもっと削って、シッダールタ自身の苦悩を中心に描き、チャプラのエピソードを描くにしても、シッダールタの人生ときちんと交錯させる形にすべきだったのだと思います。


今後、第二部、第三部と公開されるのでしょうけれど、観に行く気にはなれないような...。まぁ、金券屋では、かなり、安くなってはいたので、もっと下がるなら、ポイント稼ぎにといったところでしょうか?でも、時間の無駄かぁ...。


でも、原作は読んでみたいです。元々が、映画を意識したコマ構成になっている手塚漫画。漫画をそのままコマ撮りして映画にした方が良かった...なんてこともあったりして...。



公式サイト

http://wwws.warnerbros.co.jp/buddha/



手塚治虫のブッダ 赤い砂漠よ!美しく@ぴあ映画生活

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ボビー・フィッシャーを探して

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ボビー・フィッシャーを探して [DVD]/ジョー・モントーニャ,ローレンス・フィッシュバーン
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スポーツ・ライターのフレッド・ウェイツキンが、実子ジョシュの少年期を描いたノンフィクションを映画化した作品。


アメリカ人で初めてチェスの世界チャンピオンとなり、アメリカ中を熱狂させたボビー・フィッシャー。その彼を髣髴とされるようなチェスを打ち、わずか7歳にして天才と言われたジョシュ。彼の父親は、その才能を伸ばすために環境を整えようとします。一方、母親は、普通の子どもとして育てようとしていました。そんな中、迎えた全国大会。彼と同年代のもう一人の天才、ジョナサンも登場し、勝負に怖れを感じるようになるジョシュでしたが...。


もし、自分の子どもが、何か、とても秀でた才能を持っている可能性に気づいたとしたら、その才能を徹底的に磨いてやりたいと思うのも親心。過剰な期待をかけることや、親の想いだけで行動を制限せず、子どもの思いを大切にするよう努力しようとするのも親心。


天才少年は、天才として存在するだけでなく、フツ~の少年の部分も持っているワケで、その相反するいくつかのパーツのバランスの取り方が掴めず苛立つのも、子どもの特徴のひとつと言えるのでしょう。


ジョシュは、チェスが嫌いになったわけではなく、ただ、それだけの生活をしたくないだけ。そして、勝利する自分だけでなく、勝負に怖れを抱く自分も受け入れてもらいたいだけ。


敗北を怖れるというのは、明らかに大人へと成長しかけている証拠。天真爛漫、あるいは、果敢で無鉄砲な子どもは、自分の限界をイメージできるようになり、負ける可能性を感じ取れるようになり、それに対して怖れを抱くという経験を経て初めて大人になれるのかもしれません。


試合を前に父親に怖れを訴えるジョシュの姿、ラストでのジョナサンとの対決の前に師であるブルースに心の内を語る姿。自分の中にある怖れから目を背けず、それにきちんと対峙する。そうした過程を経てこそ本物の強さが生まれるものなのかもしれません。


その辺りを丁寧に描いたところが良かったと思います。


ジョシュを演じたマックス・ポメランツ。ちょっとした目の動きや素振りなどにも豊かな表情が感じられ、印象的でした。彼の周辺の子役たちも、なかなかに実力派揃いで作品の味わいを深めています。いえ...大人たちも良かったです。


前半部分、丁寧なのは良いのですが、やや、冗長な感じを受けました。けれど、一気に緊張感が高まるラストの対決は見事。チェスをよく知らなくても十分に楽しめました。一度は観ておきたい作品だと思います。




ボビー・フィッシャーを探して@ぴあ映画生活

暗黒街の弾痕

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「俺たちに明日はない」でも取り上げられたボニーとクライドをモデルに製作された最初の映画。


前科3犯のエディ・テイラーは、出所し、迎えに来てくれた恋人のジョーと結婚します。弁護士に仕事を紹介してもらい、真面目に生きようと張り切りますが、世間は、前科者のエディに冷たく、エディは何かと理不尽な扱いを受けます。そんな中、強盗事件が発生、エディは濡れ衣を着せられ、逮捕されます。潔白を訴えるものの死刑が宣告され...。


いくら前科3犯だからって、「次に何かしたら終身刑」っていうのは、時代を感じさせられます。3回も刑務所に入れられてもこの若さでいられるのは、どれもが、そんなに大きな罪ではなかったからのハズ。それでも、これだけ弾かれてしまうというのは、かなり辛いことでしょう。それだけで同情したくなります。


まぁ、製作当時としては、この「次に何かしたら...」というのは、ごくフツ~の感覚だったのでしょう。そんな感覚で見ても、主人公の2人に心を寄せたくなる仕掛けがたっぷりで、自然と、2人に感情移入しながら作品の世界に惹きつけられていくことになります。


エディの真面目に頑張ろうとする姿勢、ジョーのエディへの純粋な気持ち、カエルの話...。そして、決定的なのは、エディに仕掛けられた"罠"。エディとジョーが揃いも揃って、若くて美しいことも功を奏したのでしょう。


濡れ衣を着せられたエディに警察にいくことを勧めるジョー。無実なら、必ず、警察が真実を明らかにしてくれる...という期待が裏切られることがあるのは、洋の東西、時代を問わず、周知のこと。ジョーの期待通りにはことが運ばず、2人の運命は大きく狂わされ...。


エディとジョーの心の変化、追い詰められていく様子が、緊迫感をもって描かれます。


「俺たちに明日はない」を観てしまっている身としては、やや、大人し過ぎるというか、全体に、平板な感じを受けてしまいます。映画の面白さとしては、「俺たちに明日はない」の方が上だと思います。けれど、良識的だったジョーがエディへの想いから"ちゃんとした犯罪者"になっていく様子が切実に描かれ、その気持ちの切なさが胸に沁みました。


で、「暗黒街」って何だったんでしょう?原題とは違う邦題がつけられているようですが、原題の意味を活かしたタイトルにした方が良かったと思います。タイトルだけ見たら、ギャング映画の雰囲気ですよね...。



暗黒街の弾痕〈1937年〉@ぴあ映画生活

マン・ハント

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マン・ハント [DVD]/ウォルター・ピジョン,ジョーン・ベネット,ジョージ・サンダース
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イギリスの作家、ジョフリー・ハウスホールドの小説『Rogue Male』を映画化した作品。原作は未読です。


世界的に狩の名手として知られるイギリスの大尉、ソーンダイクは、ドイツへの旅行の際、悪戯心で、ヒトラーの山荘付近でヒトラーにライフルの照準を合わせたところを捕らえられます。彼は、ナチス幹部から「イギリス政府に命じられヒトラーを暗殺しようとした」という供述書へのサインを迫られますが、拒否。自殺に見せかけて崖から突き落とされますが、命拾いしてイギリスに逃れます。ナチスも、彼を追ってイギリスに侵入しますが、ソーンダイクは、偶然出会った若い女性に匿われ...。


深みのある白黒の映像が印象的です。光と影のバランスがよく、登場人物の影が実に表情豊か。その人物の感情を伝えてくるようで、効果的な感じでした。


ただ、ストーリー的には、あまりに突っ込みどころ満載。


大体、ソーンダイクはイタズラが過ぎます。かなり大それたことをしているのに、無防備で無計画で、無用心過ぎて...。あれで、大尉とは...。それなりの地位につけたのは、実力ではなく、お家柄ということ?紳士なだけで、無能な感じが違和感ありました。


ナチスからの逃げ方も、間が抜けてい過ぎて笑えます。女性宅に匿われたものの、追っ手に勘付かれたと知り、兄の屋敷へ行くのは良いとして、単にタクシーでは、追っ手にバレバレでしょう。おまけに、そこから、また、彼女の家に戻るなんて!捕まえてくれといっているようなもの。


もっとも、追っ手も、相当に間が抜けているので、ソーンダイクたちはのんびりお買い物なんかしちゃったりしていますが...。


郵便局のオバちゃんの分かりやす過ぎる怪しさとか、郵便局での無用心さとかもあり得ないレベル。


"隠れ場所"に出入り口とは別に逃げるためのルートが確保されていないというのも、狩の名手とは思えない間の抜け方。追う方も、あの決定的な場面で、1人で来るとは!それ程、人手不足なようにも思えませんでしたが...。


原作の責任なら、致し方ないところなのでしょうけれど、あまりに引っかかる部分が多すぎて、作品の世界に入れませんでした。


ソーンダイクを匿う女性を演じたジョーン・ベネットは、子どもっぽい純真さと無邪気な一生懸命さ、そして、大人の色香をバランスよく出していて良かったのですが、それに比べ、主役のソーンダイクを演じたウォルター・ヴィジョンの影が薄いのも気になりました。


何とも残念な作品でした。



マン・ハント@ぴあ映画生活

外套と短剣

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外套と短剣 [DVD]/ゲーリー・クーパー
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死刑執行人もまた死す 」「恐怖省」に続き、F・ラングが反ナチをテーマにした作品。


第二次世界大戦の末期。アメリカの物理学者でマンハッタン計画にも関係している、ジェスパー教授は、ナチスの原爆開発状況の調査を依頼されます。その頃、ドイツの同盟国であるイタリアからスイスに亡命していたドイツの物理学者、ロダー博士を訪問、博士がナチスに脅されていることを知ります。ロダー博士から、やはり、ナチスに脅されてイタリアで原爆開発に取り組んでいるポルタ博士の話を聞いたジェスパーは、ポルタ博士の救出に向かいますが...。


いくらなんでも、スパイとしては完全に素人なジェスパーを、何の訓練もせずにスパイに仕立てるなんてあり得なさ過ぎるのですが...。いくら、物理学の専門知識が必要だとはいえ、何の経験も知識もない初心者にスパイになられても、足手まといなだけで、余計な犠牲者を出したりするのがオチ。しかも、本作を観る限り、少なくともイタリアに行く仕事に関しては、特別に専門的な知識が必要だったとも思えませんでした。


物理学者をスパイに仕立てるより、本職のスパイに必要な知識を仕込んだほうが手っ取り早く、確実性も高かったのではないかと思います。


何て言っていると、物語の前提から覆ってしまうので、それはさておき...。


まぁ、どんな状況であれ、大人の男女、それも、美男美女が揃えば、そこに愛が生まれないわけはなく、本作も、ラブロマンスとなっていきます。ただ、後半は、このラブロマンスの部分が占める割合が大きくなり過ぎて、全体としては、中途半端なバランスを欠いた物語になってしまったような気がします。


前半のジェスパーがイタリアに渡るくらいまでの部分については、それなりに緊張感もあり、多少なりとも、ハラハラしながら、成り行きを見守ることができたし、作品の世界に入り込むことができたのですが、ジェスパーとジーナが2人になる辺りから、迷走していく感じがしてしまいます。


そして、歯科医院でのシーン。1人を倒してその場を立ち去るジェスパーたちですが、こういう場合、相手が1人だけで来ているワケはないと思うのが常識なのではないかと...。そもそも、その後の展開を観る限り、敵方は、歯科医院で彼らを押さえる必要はなかったわけだから、こんなところで見張りなんかする必要もなかったはずだし...。ただ、格闘シーンを作るためだけにいた人材ということなのでしょうか...。


途中までは、目を瞑るべき場面がありながらも、それなりに楽しめたのですが、後半の失速が残念です。


本作で描かれている時期は、アメリカは、ナチスよりも先に原爆を開発しようと必死になっていた時期。そのアメリカ側、ナチス側、それぞれの必死さと焦り、敵側との情報戦の緊迫感...といった辺りも描かれていると、もっと、テーマがはっきりしたのではないかと思います。ラブロマンスと入れ換えて、そうした面が描かれていると良かったのではないでしょうか。



外套と短剣@ぴあ映画生活

キングの報酬

テーマ:
キングの報酬 [DVD]/リチャード・ギア,ジーン・ハックマン,デンゼル・ワシントン
¥2,625
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選挙の候補者と契約し、あらゆる手法を駆使し候補者を当選に導くメディアプロデューサーの仕事をしているピートは、劣勢候補者さえも当選させる腕の持ち主。1カ月25000ドルと必要経費という高額の報酬で仕事を請け負い、業界一の評判をとっていました。長年、彼の顧客であった上院議員、サムが病気のために引退します。サムに関しては、その施政方針などに共感し、心から応援していたピートでしたが、サムに頼まれたこともあり、ピートは、その後釜となる候補者、ケイドにメディアプロデューサーとして雇われます。けれど、やがて、選挙運動の裏に隠された事実に気づき...。


今では、こういった"業者"の存在も当たり前のようになっているわけですが、本作の公開は20年も前。今よりは、はるかに、新鮮味のある素材として受け止められたはず。テーマに古びた印象を受けてしまうのは仕方ないところでしょう。


ただ、そこを差し引いても、全体に中途半端な感じは否めませんでした。


本作では、裏の裏でオイルマネーが絡んでいるわけですが、その辺りが最初からバレバレなために、緊張感が削がれてしまっています。でもって、このオイルマネー絡みの部分の処理も突っ込み不足で半端な感じ。


多くの選挙戦を掛け持ちで駆け回る主人公なので、致し方ない面もあるのでしょうけれど、あっちこっちに話が飛び、それぞれのエピソードがどれも中途半端なままに終わってしまった感じがします。もう少し、ポイントとなる部分を絞り込んで、メリハリをつけた方が伝わってくるものがあったような気がします。


本作のキモは、ピートとビリングの対決なんだと思うのですが、その描き方も、どこか、中途半端。2人が直接顔を会わせる場面も温いままに終わってしまいます。


どこか一箇所でも、もっと突っ込んでいれば、グッと作品が引き締まったと思いますし、それを可能にする演技陣なだけに残念でした。当時の状況としては、こうした作品で突っ込みにくくなるような背景があったのか...と勘繰りたくなります。



キングの報酬@ぴあ映画生活

SEX AND THE CITY THE MOVIE

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セックス・アンド・ザ・シティ・ザ・ムービー[SEX AND THE CITY THE MOVI.../サラ・ジェシカ・パーカー,キム・キャトラル,クリスティン・デイビス
¥1,500
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1998年に放送を開始し、大ヒットしたテレビシリーズ「セックス・アンド・ザ・シティ」を映画化した作品。ドラマの最終回から4年後のNYを舞台にキャリーたち4人の女性の"その後"を描きます。テレビシリーズ未見です。


NYで有名ライターとして活躍するキャリーは、これまで別れてはヨリを戻してきた恋人ビッグと結婚することになり、それまで、彼女が結婚するとは夢想だにしていなかった周囲を驚かせます。同じ頃、シャーロット、ミランダ、そしてLAで暮らすサマンサたちは、それぞれに悩みを抱えていて...。


若いと言える年齢ではなくなっても、女子たちは、お洒落もし、ハツラツと働き、オトコにトキメキ、存分に人生を楽しむ。そう、お金さえあれば、いくつになっても、御伽噺のお姫様でいることができるもの。


キャリーも、シャーロットも、ミランダも、サマンサも、自身にキャリアと相当な収入があったり、資産があったり、夫の稼ぎが良かったり...、買いたいものを買って、行きたい所に行く、赦せないことは赦せないし、ヘンなところで妥協はしない。そんな生き方が出来るのも、経済的な基盤があればこそ。思うように生きるには、自由になるには、やっぱり、おカネかぁ...とタメ息が出るような作品でした。


最上階の豪華ペントハウスは変えなくても、自分の稼ぎでそれなりのところに住めて自由に買い物ができて、そこそこ贅沢な生活ができるから、金持ちの彼氏の裏切りを赦さずにいることができるのです。でなければ、一度は怒ったとしても、もっとずっと早い段階で赦して、彼氏の経済力に頼らざるを得えないわけですから。


そして、自由な4人は、それぞれの人生を満喫しています。華やかに装い、自分の夢を追い...。オトコとはいろいろあっても、女同士の友情はそう簡単に壊れないもの。キャリーとミランダもトラブリましたが、キャリーはビッグとの関係よりもずっと早くミランダとの関係を修復します。ビッグの不在より、こたえるのは、ミランダとの関係が途絶えること...なのでしょうか。


キャリーのアシスタント、ルイーズ役のジェニファー・ハドソンが、クルッとした表情のある瞳と活き活きとした表情が可愛らしく、良かったです。決して裕福なわけではないけれど、身の丈に合わせた生活を工夫しながら楽しんでいる様子も魅力的でした。キャリーとの日々の中でも自分を見失いあたりも好感が持てます。地に足着いた彼女の存在が、ともすれば絵空事の御伽噺になる可能性のある本作を、細々とではあっても現実に結び付けているのかもしれません。


あまりに典型的でいかにもなキャラクターと舞台設定が揃いすぎた感じがしなくもないのですが、華やかな雰囲気が楽しい軽く楽しめる作品でした。



セックス・アンド・ザ・シティ@ぴあ映画生活

ダンシング・チャップリン

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世界的に有名な振付師、ローラン・プティが、喜劇王、チャップリンの名作を元に構築したバレエ映画。


第一幕では、周防監督とローラン・プティの対話や、ルイジ・ボニーノ、草刈民代の他、海外のダンサーたちが参加した60日間のリハーサルなどの様子を収録。第二幕では、ローラン・プティが、「黄金狂時代」「ライムライト」「街の灯」「モダン・タイムス」といったチャップリンの名作映画を下敷きにして振付けた「チャップリンと踊ろう」全2幕20場を13場に構成しなおしたハレエ作品が映し出されます。


本作が撮られるきっかけは、ローラン・プティの妻で、ダンサーでもあるジジ・ジャンメールが「あなたが踊らなくなったらこの作品を誰も踊れず、消滅してしまうかもしれない。このバレエを映像に残すべき。女性パートなら民代が踊れるし、民代の夫は映画監督なんだから」と、ルイジに話したことにあるのだとか。


ローラン・プティの作品が初演されたのは、1991年。その時から、ずっとチャップリンを踊っているのがルイジ・ボニーノ、御年、60歳。確かに、彼がチャップリンを踊れなくなる日は、そう遠くはないのでしょう。けれど、そんな年齢を全く感じさせられない見事な動きです。もちろん、もっと若い他のダンサーたちもそうなのですが、それぞれに鍛えられた身体が美しかったです。


ムキムキになり過ぎていない均整の取れた筋肉、スリムな肢体はもちろんのこと、その筋繊維の一筋一筋まで神経が行き届いているかのように細部までコントロールされている辺り、観ているだけで自然とタメ息が出るほど。人間の身体の可能性というものを見せられた感じがします。


この辺りは、第一幕があってこそ。この第一幕で、ダンサーの凄さ、バレエの魅力や舞台裏、そこにかかわる人々の想い...といったものが描かれ、それを観ておくことで、第二幕をより楽しめる構成となっています。


ただ、一方で、二幕にわけただけ、双方に物足りなさを感じてしまったのも事実。第一幕でローラン・プティと周防監督の意見がぶつかる部分があり、それがどうなったのか、二幕を見れば分かるのですが、さて、その結果に対するローラン・プティの意見はどうだったのか、気になるところです。


もともと、ルイジ・ボニーノの踊りを残すためという目的があった作品なのですから、彼の踊りの場面をもっと観たかったですし...。


途中で、ダンサーの交代があります。どうしても上手くいかない一場面。そこで、ルイジから男性ダンサーの交代が提案されます。そして、呼び寄せられたのが、リエンツ・チャン。ダンサーの世界の厳しさが見えてくる場面でもありますが、他の部分に比べ、少々、長かったような...。やや、バランスを欠く感じになってしまっていて残念。まぁ、この場面、男性ダンサーが完全に黒子になる場面なので、こうして取り上げないと存在をアピールする余地がなくなってしまう...ということなのかもしれませんが...。


もっとも、交代させられた方のジャン=シャルル・ヴェルシェールも、黄金狂時代の酒場の客役で、警官役で、登場しています。彼の踊り手としての能力や技術だけの問題というよりは、草刈民代との相性とか体格のバランスの問題が大きかったのですよね...。


本作の一番の魅力は、草刈民代の美しさかもしれません。ローラン・プティも、彼女を知性と美しさを併せ持つ稀有なダンサーと評価していますが、監督にとっても、自慢の魅力に溢れた妻なのでしょう。彼女の魅力を存分に引き出した作品だと思います。


物足りなさが感じられる部分も、バランスが悪い印象を受けるところもある作品ですが、バレエと妻への愛情が溢れていて、温かい気持ちで観られる作品です。



公式サイト

http://www.dancing-chaplin.jp/



ダンシング・チャップリン@ぴあ映画生活