ケドマ 戦禍の起源

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ケドマ~戦禍の起源~ [DVD]/アンドレイ・カシュカール,エレナ・ヤラロヴァ,ユーセフ・アブ・ワルダ
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1948年のパレスチナ。石油資源を確保したい英国により武力統治されていました。そんな中、イスラエル建国に向け、ナチスの弾圧から生き延びたユダヤ人たちは、パレスチナに密入国を試みていて...。


ケドマ号に乗り、海から密入国したユダヤ人たちの行く末を追います。ユダヤの人々にすれば、長い年月祖国を追われ、各地で差別や弾圧を受け、挙句にホロコーストの被害者となり、やっとのことで手に入れたイスラエル建国のチャンス。


けれど、そこには、すでに多くのイスラム教徒が住んでいました。パレスチナのイスラム教徒にすれば、平和な生活を営んでいたところに突然、平穏な暮らしを破壊する者として現れたのがユダヤ人。そう簡単に、ユダヤ人たちの"権利"を認めることができないのも当然の話。


エルサレムは、ユダヤ教徒にとっても、イスラム教徒にとっても大切な聖地。それだけではなく、キリスト教徒にとっての聖地でもあります。同じ神を信じる宗教なのですから、当然のことではありますが...。


いずれにしても、異なる宗教を信じる者同士が、神との約束をたてにして同じ土地を争えば、終わりのない戦いになるのもやむを得ないことなのかもしれません。


その先の見えない戦いの引き金の一つが、本作で描かれているケドマ号でパレスチナに入った人々の物語。


ただ、本作で描かれる1948年のパレスチナに"戦禍の起源"を見るというのは、どうなんでしょう?確かにその後、四次まで繰り返される中東戦争が始まった年でありますが...。イスラエルとパレスチナが揉める直接の原因は、第一次世界大戦でのオスマントルコとの戦いを有利に進めようとしたイギリスの"三枚舌外交"にあったはず。


そして、難点なのは、本作を観ていても、イスラエルとアラブ世界が憎みあうようになる背景が、よく分からないこと。クライマックスでの男性の独白で、ユダヤ人の想いは吐露されるわけですが、そうなった原因にはほとんど言及されていません。その程度の知識は常識ということなのかもしれませんが...。ただ、その辺りをきちんと描いたほうが、製作者の側の意図や想いが伝わったようなきがします。


中途半端な感じのままで終わってしまった感じがして残念でした。



ケドマ 戦渦の起源@ぴあ映画生活

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シングルマン

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シングルマン コレクターズ・エディション [DVD]/コリン・ファース,ジュリアン・ムーア,マシュー・グード
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1962年11月。ともに生活していた最愛のパートナー、ジムを事故で亡くして8カ月。ジョージは、鬱々とした日々を過ごしていました。ある日、"今日が人生最後の日"と決意し、大学で講義をし、銀行で貸金庫の整理と全預金の引き出しをし、かつての恋人で現在は親友のチャーリーと会い、一日の終わりに彼の決意を見抜いていた学生のケニーと会い...。


16年間も生活をともにした最愛のパートナーを失った後の色あせた日々。それが、"今日が人生最後の日"と決めたとたんに輝きだします。


死の覚悟が生に彩を与える...そこに、人生の皮肉があるのかもしれません。今日も明日も一年先も生きることが当たり前になっている時には、平凡でありきたりで退屈にしか思えなかった時間。けれど、その限りあることを意識した時、世界が変わります。


周囲に感謝を伝え、大学での講義ではいつになく熱く語り、煩わしく感じていた隣家の少女との会話に幸せを感じ...。当たり前の何気ない出来事に、周囲との関わりに温もりを感じ、輝きを感じ...。


別れる決意をしたときに初めて気づく魅力、美しさ、といったものが、ジョージの目を通して描かれます。そして、その映像日に、観る者も自分たちが生きる世界の美しさに魅惑されていく...。所々に挿入される死のイメージを纏う男性が海に漂うシーンを含め、実に美しい映画だと思います。


一つ一つのシーンが、実に緻密に作り上げられ、印象的な音楽とともに心に沁み込んできます。ジョージを演じるコリン・ファースが、ジョージの苦悩を実に見事に表現し、説得力があります。


難を言えば、美しく作り上げることに意識を集中しすぎたためでしょうか、ジョージの葛藤がいまひとつ描ききれていないような感じがするところ。ジムへの想いの深さは分かるのですが、本作の舞台は60年代初頭。今とは違い、同性愛に対する偏見が強かった時代です。保守的な地域であれば、殺される理由にもなる程のタブーなわけで、当然、そのタブーに触れていることに対する葛藤もあったのではないかと思うのですが...。その辺り、周囲に対して、巧くカモフラージュしていたということなのでしょうか。


例え、社交辞令だとしても、隣家の奥さんからホームパーティに誘われるのですから、隣家にはゲイだとしられなかった...ということなのでしょうか?だとしたら、随分、巧く誤魔化したということになるのですが...。でも、冒頭でジムの葬儀への出席を断られるシーンがありますが、あれは、やはり、ジムの親族のゲイへの偏見のなせる業なのですよね。ジムの親族の多くは、ジムの死をジョージに知らせること自体、こころよく思っていなかったようですし...。


ジョージのジムの死後の喪失感の大きさは、大きなタブーを乗り越えた関係だからこそという面もあるように思えるので、その辺り、もう少し描きこんで欲しかった気がします。その点だけが残念。



シングルマン@ぴあ映画生活

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君に届け

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君に届け スタンダード・エディション [DVD]/多部未華子,三浦春馬
¥3,675
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『別冊マーガレット』に連載中の椎名軽穂による同名マンガを実写化した映画作品。原作は未読です。


高校生の爽子は、暗そうな外見や引っ込み思案な性格から、周囲から避けられ、不気味がられ、"貞子"という仇名まで付けられていました。けれど、実は、とても健気で善意の塊のような性格。あるきっかけから、千鶴、あやかの2人と親しくなり、次第に周囲と積極的に関われるようになっていきます。爽子は、誰に対しても分け隔てなく接するクラスの人気者、風早君に憧れていましたが...。


きちんと言葉にして伝えなければ分からない。本当は、言葉にしてもなお、人と人が理解し合うのは、結構、難しいことなのですが...。ともあれ、人と人が分かりあうこと、気持ちを結ぶことの難しさを初めて実感する時期が思春期なのかもしれません。


そして、自分でも持て余してしまう過剰な自意識と扱い切れない劣等感。そして、傷つき傷つけられることの恐れ。その恐れこそが、余計に人を、自身を追い込んでしまったりするのですが...。


青春物としてよくある「実は互いに片思いだった」的ラブロマンスですが、そこに、孤独だった一人の少女が仲間を得ることで成長していく様子とその少女に関わることで成長していく仲間たちの姿が巧く重ねられ、同じようなカテゴリーに属する作品の中でも印象的な作品となっています。


言動も外見も言葉遣いも変わっていく爽子。彼女のちょっと思い切った行動が、千鶴とあやねを動かし、そのことで爽子もさらに変化し...。一方が与えられるだけ、他方が与えるだけという関係ではなく、相互に影響しあい、双方が成長していく...。ここに、本当に対等な友人関係が成り立っていきます。


その過程が、実に鮮やかに清々しく描かれます。イマドキの高校生としては、あまりに爽やか過ぎる感じがしないでもありませんが、いかにもなもどかしさを含んだ青春が、かつて、青春にあった者たちの心をくすぐるのでしょう。本作の評判が良いのも頷けます。


爽子と風早君の関係の描き方も良かったです。風早君が爽子の気持ちに気づく仕掛けも、冒頭と綺麗に繋がる感じが巧かったと思います。


演技陣もそれぞれに役柄にはまっていて、いかにもな世界を見事に表現していました。


なかなかのもの。お勧めの一枚です。



君に届け@ぴあ映画生活

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トレイター 大国の敵

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トレイター 大国の敵 [DVD]/ドン・チードル,ガイ・ピアース,ジェフ・ダニエルズ
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サミールは信仰心篤いイスラム教徒。中東イエメンで、プラスティック爆弾を売ろうとして逮捕され、投獄先で、サミールを突破口にテロリストの計画の全貌を探ろうとしているFBIのクレイトンに尋問されます。サミールは、獄中で世界中でテロを計画していたオマールと知り合い、オマールの仲間の手引きで脱獄します。FBIでは、サミールの過去を調べ、彼が、以前、アメリカ陸軍の特殊部隊に属し、爆弾の製造にも詳しい人物であることを知ります。そして、アフガン戦線に参加したことで、テロに目覚めたと推測します。そんな中、サミールとオマールは遂に行動を開始し...。


題名自体がネタバレしているのですから、今更という感じもしますが、サミールの正体は、途中でしっかりと明かされます。まぁ、彼が何者なのかを探ることがテーマになっている作品ではないのですが、それでも、そこで、緊張感が薄れてしまうのも確か。これは、最後に「そうだったのか」となる展開の方が良かったような気がします。そもそも、サミールを演じたドン・チードルがどこか善人顔なのもネタバレなようにも思えますので、仕方ないのかもしれませんが...。


それでも、サミールを演じたドン・チードルが、彼と同じ神を信じながらその神のために彼とは相反する行為に命を懸けようとする者たちに向ける複雑な思いを巧く表現していたと思います。


宗教というものが、人の死生観にどのような影響を与えるか...。宗教を理由に殺しあったり、死んだりするという状況が日常的に生まれるわけではない日本にいると、宗教が持つそうした厳しい面を実感しにくいのですが、これまでの人類の長い歴史の中で夥しい人間が宗教を理由に命を落としてきていることも事実。


人は何故生まれ、人生にはどういう意味があり、人は何のためにに死ぬのか、そうしたなかなか答えを出せない問題に取り組むことこそが宗教の役割のようにも思えますし、いずれは死ななければならないのが人間の運命である以上、信じることのために命を捧げること自体は理解できなくもないのですが、問題は、そこに無関係な人間の命を巻き込むことを是とするか否かということ。


どうも、近年、その無関係な人間を巻き込んでも仕方ない派=テロリスト=イスラム教というイメージが作られてしまっている感じがありますが、十字軍だとか何だとかで散々"異教徒"を殺してきたのは、キリスト教も同じ...、というか、イスラム教を遥かに上回るわけで...。その辺りも描かれているとより、、宗教と"テロ"の関係が浮かび上がってってきたのではないかとも思います。


最後は、一応、ハッピーエンドなのでしょうか...。異なる宗教のもとにいながら、"信仰する"ということについて理解しあえる立場にいる者同士の中に生まれた関係には、一筋の光も見えてきます。


けれど、中途半端な印象は否めません。結局、本質的には、何も解決されていないし、何かが大きく変化したワケでもないのです。別に、解決させることが良いことだとは必ずしも思いませんが、それならそれで、その解決しなさ、変わらなさを描いて欲しかった気がします。


テロ事件の決着のさせ方にしても、バスの運転手は明らかに犠牲者だったわけですし...。こうしたことのために無関係な人間を巻き込むことの愚かさを彼らは知っているはずなのに...。納得できませんでした。


もっと面白くなるはずの題材で、演技陣なのに、もったい気がします。

ポケットいっぱいの涙 -Menace II Society- [DVD]/タイリン・ターナー,ラレンズ・テイト,サミュエル・L・ジャクソン
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1960年、ロサンゼルス、ワッツ地区で起きた大暴動から30年。幼い時、母がヘロインの過剰摂取で、父が麻薬取引のいざこざで亡くなり、祖父母に育てられたケイン。友人のオー・ドッグたちとビールを買いに食料品店に行き、アジア系の店主に侮辱されたと腹を立てたオー・ドッグは店主とその妻を射殺。厳禁と防犯ビデオを奪って逃走します。ある日、従兄弟のハロルドと車に乗っているところを敵対するストリートギャングに銃撃され、ハロルドは死亡、ケインも重傷を負います。オー・ドッグは、ケインに仇討ちを主張。ケインとオー・ドッグ、友人のエイ・ワックスの3人はハロルドを殺した男を捜し出し、射殺。ケインは、初めて人を殺した衝撃に身を震わせます。彼は、食料品店での殺人の様子を繰り返しビデオで見ては興奮し、自慢しているオー・ドッグの無神経さに苛立ちますが、そんなオー・ドッグから離れることもできずにいました。自分の将来に不安を覚えるケインにとって唯一の救いは、彼が慕っていたバーネルの恋人ロニーと、6歳になる息子のアンソニー。ケインはいつしかロニーと結ばれ、親子と街を出ていくことを決意しますが...。


貧しく暮らす人が多い地域。そこにある問題は貧困だけではなく、貧困を生み出す背景にあるもの。子どもの生育環境、教育問題、職業問題...。根は深く、そこから抜け出したいと思っても、生半可なことでは抜けられない。


ケインの母はヘロインの過剰摂取で亡くなり、父は麻薬取引のいざこざで殺される。そんな彼が、麻薬や人殺しと無関係に生きていくことは簡単ではないでしょう。それに、周囲に居る友人たちも似たり寄ったりの育ち方をしていれば、犯罪にまみれて生きる以外の道を見つけ出すことは至難の業。


幼い頃から銃を握ることを覚え、酒を覚え、クスリを覚える。やめることに大きな決意も気力も必要なことを周囲にゴロゴロと転がっている誘惑を振り切ってやめることなど、なかなかできるものではありません。


それでも、ケインには、彼が犯罪にまみれることをヨシとせず、高校を卒業させようと努力した祖父母がいて、彼をこの環境の中から抜けdさせようとする恋人、ロニーがいました。そして、ケインが守るべき相手、アンソニー。


そんな人々の働きかけや助けがあり、それでも行きつ戻りつ迷いながら、やっと抜け出す決意をした時、彼の夢は打ち砕かれます。それは、犯罪にまみれて生きてきた者には相応しいと思われる最期、けれど、新しい人生に踏み出そうと決意した者だと思えば哀しい結末。


虐げられ、貧しさの中から這い上がれずにいた黒人たちの不満が爆発した大暴動から30年、ケインたちが置かれている状況は、30年前に比べ大きく改善したというわけでもなさそうです。差別の問題というのは、制度面の問題が解消されたとしても、長い年月の間に蓄積された生育環境や教育、職業に関する問題はなかなか解決できないところに難しさがあるのでしょう。


そんな困難の中でもがくケインの姿が観るものの心に沁みます。


まぁ、よくあるストーリーとも思いますが、個々の登場人物の生き方にリアリティが感じられ、作品の世界に入り込むことができました。



ポケットいっぱいの涙@ぴあ映画生活

ミッドナイトクロス

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ミッドナイト・クロス [DVD]/ジョン・トラボルタ,ナンシー・アレン,ジョン・リスゴー
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B級映画の音響技師、ジャックは、ある晩、風の音を収録している最中に自動車事故を目撃します。車に乗っていた被害者を助け出し、病院に運び込みますが、ジャックは、そこに現れた警察官の対応に不信感を覚えます。ジャックは、自分が助け出した女性、サリー以外に男性が事故車に乗っており、その人物が次期大統領候補であることを知ります。事故の音を拾ったテープを聴き、事故の背景に疑問を抱くようになったジャックは...。


主人公、ジャックの仕事が映画の音響技師、それもB級映画の、ということもあるのか、全体に地味な雰囲気の作品でした。ジャックが事件の背景を探るために専門分野である映画の技法を駆使するわけですが、これがまたチマチマした地味で根気の要る作業。この静かで地味な中に緊張感が漂い、作品の世界に引き込まれました。


サリーが呼び出しに応じるシーン。ジャックは、少々、距離をとり過ぎていたと思いますし、スキを見せ過ぎな感じは否めず、サリーの行く末を簡単に想像させてしまう点など、引っかかる部分もないわけではありませんが、飽きずに最後まで観ることができました。


クライマックスでは大掛かりなカーチェイスシーンなどもあったりしますが、そこに至るまでの地味な部分からの転換が巧く、ラストへ向けて気持ちがグッと盛り上がります。


冒頭のシーンと見事に繋がり、事件の真相に辿り着いた背景にあったジャックのプロ根性が、また別の角度から表現されているラストも唸らされました。後味の良いラストではありませんが、こうした「愛も常に勝つとは限らない」ラストも新鮮で良かったです。


携帯電話もなく、カメラもアナログだった頃。そんなに昔のことではないはずなのに、その時代にどんな生活をしていたのかということに思いを馳せると随分と前のことだったように思えてきます。そんな時代ならではのサスペンスなのでしょう。誰もが携帯電話を持つようになったことで、サスペンスを作る難易度はかなり上がったのでしょうね...。



ミッドナイトクロス@ぴあ映画生活

椿三十郎 (1962年)

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椿三十郎<普及版> [DVD]/三船敏郎;仲代達矢;加山雄三;団令子;志村喬;田中邦衛
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原作は山本周五郎。「用心棒 」で桑畑を名乗った三十郎が本作では"椿三十郎"として登場します。


ある城下町、ある晩、若侍たちが集まり密議をこらしていたところに三十郎が遭遇。三十郎は、彼らの話の内容から、彼らが気づかなかった点を指摘。騙されて命を狙われていた若侍たちを救い出します。三十郎は、藩の危機からあ救おうとしている若侍たちを助けることになり...。


前作に続き、相変わらず、三十郎がカッコイイのですが、本作では、入江たか子が演じた城代家老の妻の存在が、作品全体にホノボノとしたユーモラスな雰囲気とコメディっぽい空気、そして、独特の柔らかな優雅さを加えています。三十郎の力を認めながらも、それを抜き身の刀に例え、本物の名刀は鞘に収められているものだと説く辺り、とても印象的です。他にも三十郎のしようとすることに対し、乱暴過ぎると抗議する場面がいくつかありますが、さすがの三十郎も反論できません。その遣り取りが軽妙で面白かったです。


本作では、三十郎が前面に出て一人で戦った前作に比べ、一歩退いた感じがありました。自分が表に出るというより、若侍たちを前に出し、自分は裏方に回るといったところでしょうか。それは、もうすぐ"四十郎になる"という三十郎の"老成"でしょうか?四十といっても、人生五十年だった頃のこと。今の四十の印象よりはずっと老人に近い存在だったのかもしれません。


それでも、見せ場を作ることを放棄したわけではありませんでした。ちゃんと最後の最後で見せてくれました。敵方にいて、三十郎をてこずらせた室戸との対決。ホンの短い間で決着してしまうのですが、緊張感に溢れ迫力満点のシーンでした。


肩肘張らず、軽い気持ちで楽める作品だと思います。ユーモアと緊張感、ほのぼの感と迫力のあるハッタキッタのバランスがよく、最初から最後まで作品の世界を満喫することができました。



椿三十郎〈1962年〉@ぴあ映画生活

オカンの嫁入り

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オカンの嫁入り[DVD]/宮崎あおい,大竹しのぶ,桐谷健太
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日本ラブストーリー大賞のニフティ/ココログ賞を受賞した、咲乃月音の人気小説『さくら色~オカンの嫁入り』を映画化した作品。


ずっと母ひとり、子ひとりで生きてきた陽子と月子。けれど、ある日、突然、母の陽子が金髪で30歳の男、研二を連れてきます。そして、あろうことか、彼と結婚すると宣言。あまりのことに驚いた月子は、家を飛び出し、大家であるサクのところに転がり込み...。


娘のような部分を残しながらも母親らしい一面を覗かせる陽子。そのアンバランスな部分を併せ持つ陽子を大竹しのぶが好演。この人でなければ、陽子は魅力の乏しい人物になってしまったことでしょう。月子を演じた宮﨑あおいも、しっかりもののようで、過去の傷からなかなか立ち直れずにいる娘を可愛らしく作品に存在させています。そして、陽子の婚約者、研二を演じた桐谷健太も力のある女優2人に挟まれながらしっかりとした存在感を見せています。この3人の中心人物を支える存在となる大家、サク役の絵沢萠子、母の勤務先病院の院長に國村隼と脇も実力派で固められ、演技陣はなかなかのものなのです。


で、それぞれの演技には、それなりに見所があるにもかかわらず、どうも、個々の人物の魅力が実感できません。それぞれのキャラクターが、いまひとつ、作り込まれていないというか、何だか、場面場面で言動がバラバラになり過ぎているというか...。


陽子が研二との結婚を決めた理由とか、彼女が抱えていた悩みを研二以外には打ち明けられなかった理由とか、いくつか、思わせぶりに触れられながら、中途半端にほっぽられたまま終わってしまっているというのも落ち着きませんし...。


月子のトラウマにしても、あれで、解決ってワケにはいかないでしょうし...。陽子は月子を立ち直らせようと必死だった訳ですが、方法としても乱暴だし、効果の程も疑問。結構、本作の中で大きな部分を占めるエピソードなだけに、もっと丁寧に扱って欲しかったです。


そして、陽子の白無垢姿。もう少し美しく仕上げることはできなかったのか...。ここは、普段の陽子との違いを際立たせるためにも、もっとしっかりと美しく装わせるべきだったのではなかと...。


もう少し、テーマを絞り込んで、個々のキャラクターをきちんと作り上げいれば、もっとずっと面白い作品になったと思うのですが...。折角の豪華演技陣の力を十分に生かせていない点が、何とも残念。



オカンの嫁入り@ぴあ映画生活

マイマイ新子と千年の魔法

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マイマイ新子と千年の魔法 [DVD]/福田麻由子,水沢奈子,森迫永依
¥6,090
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高樹のぶ子が、故郷、山口県防府市で過ごした少女時代の思い出を描いた自伝的小説をアニメ化した作品。


昭和33年、自然豊かな山口県防府市。小学校3年生の少女、新子は、千年前にあったという古代の都や、そこに住む少女などを空想することが大好き。ある日、新子のクラスに東京から転校生、貴伊子がやってきます。やがて、2人は親しくなり、大人しかった貴伊子も活発になり...。


昭和33年。戦後、10年以上が経過し、徐々に世の中が明るい方向に向かっていった時代。「三丁目の夕陽」と同時代の地方の田舎町。今年53歳になる人が昭和33年生まれですから、50代後半以上くらいの世代の人にとって懐かしい時代ということになるのでしょう。


本作で好感を持てたのは、単に昔は良かったと懐かしむノスタルジーをそそるだけの作品にはなっていないところ。マイナスな面も描きながら、その時代、その町のことをリアルに描いた感じがします。


信じていた大人が不倫していたり、博打で作った借金で自殺するところまで追い詰められていたり...。そんな大人たちの都合で変化を余儀なくされる子どもたちの生活。死や別れ。


そして、千年前の都についても、結構、きちんと時代考証がされています。作中でも、新子の想像の世界に一定の根拠が与えられ、単なる子どもの空想というのではなく、地に足ついた感じがしました。そして、そこに関連するおじいちゃんとの交流。


はじめは新しい環境に馴染めずにいた貴伊子が、自然の中で、どんどん活発になっていく姿、何より、みんなで一つのことに取り組む中で連帯感が生まれてくる様子など、いかにも子どもな感じで心に沁みました。


背景となっている自然の美しさも、見事に表現され、印象的でした。


リアリティにこだわったあまりに、物語が薄くなってしまった感じもしますし、アニメでありながら、子どもには、少々、敷居の高い作品になってしまっているようにも思えますが、少なくとも、一定以上の年齢の人々にとっては、懐かしくシミジミと観ることができる作品だと思います。



マイマイ新子と千年の魔法@ぴあ映画生活

神々と男たち

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1996年にアルジェリアで実際に起きたフランス人修道士7名の誘拐・殺害事件を題材にした映画作品。2010年のカンヌ映画祭でグランプリを受賞しています。


1990年代のアルジェリア。トラピスト教会の9人の修道士は、医療活動を行いながら、現地のイスラム教徒と宗教を超えた交流を持ち、平和な生活をしていました。しかし、アルジェリア軍とイスラム教原理主義者による内戦は激化の一途をたどり、暴力の波が修道院にまで及んできます。修道院からさほど離れていない場所でキリスト教徒のクロアチア人がGIA(武装イスラム集団)に殺されるという事件が起きます。アルジェリア政府が軍による保護を提案しますが、修道院長のクリスチャンは、周辺住民との友愛関係が崩れることを恐れ、提案を辞退します。しかしその後のクリスマス・イヴの夜、GIAのメンバーが修道院に乱入する事件が起こります。その時は、キリスト教徒とイスラム教徒は隣人であるというコーランの一節を引用したクリスチャンの説得で、GIAは暴力にうったえることなく、立ち去ります。けれど、その後、アルジェリアからの国外退去を勧告され、修道院を離れフランスに帰るべきか否かという話し合いが何度も行なわれ...。


修道士として生きるということ、信仰を貫くということ、神に殉じるということ、それがどういうことなのか、簡単に応えの出る問題ではありません。良心から命を懸けても信じる道を突き進むこともあるのでしょうけれど、プライドを捨てても生きる道を選ぶことにも正義はあるはず。どちらの方が、彼らが信じる神の御心にかなう行為なのか。


神が、彼らの問いかけや祈りに直接答えることはなく、それだけに、彼らは、なかなか答えを見出すことができません。家族も友人も国も捨て、恋愛をすることも結婚して家庭を持つことも諦めて選んだ修道士の道を突き進むことは彼らにとってある種理想の生き方だったことでしょう。けれど、自殺を禁じるキリスト教を信仰する彼らのこと、生き続けることも彼らにとっての正義だったことでしょう。どちらかが完全な正義なのではなく、どちらの道にもそれなりの正義があるからこそ、彼らの迷いや悩みは大きかったはず。


何度も繰り返される修道院での話し合い。そして、繰り返される日々の宗教的な儀式。そこに、彼らが守ってきたものの大きさと信仰に生きる者の日常が描かれ、彼らの修道士として真摯に生きようとする想いが伝わってきます。


そして、行く末に覚悟を決めた修道士たちの"最期の晩餐"の背景に流れる白鳥の湖の音楽。宗教音楽でないところに興味を惹かれましたが、曲の醸し出す雰囲気は、そのシーンにピッタリ。オデットと王子の悲劇的な死で終わる白鳥の湖の物語と彼らの運命が重なります。


ただ、一方で、気になることもありました。何故、彼らがアルジェリアにいたのか。元々は、彼らの母国であるフランスがアルジェリアを植民地にしていたことから始まっているのです。作中でも、アルジェリア政府の担当者に指摘されています。アルジェリアを今の状態にした責任はフランスにあるのだと...。


アルジェリア側にもフランスに取り入った勢力もあったでしょうし、何もかもをフランスだけの責任にしてしまうのはどうかとも思いますが、フランスの責任が大きいことは確か。アルジェリアには、1854年から1862年の8年にも及ぶ激烈な独立戦争を経てフランスから独立します。晴れて独立をしたものの政情は安定しませんでした。その背景には、独立戦争の後遺症として、国が一つになりきれなかったこともあるのでしょう。


GIAの側も鬼ではありませんでした。クリスマス・イヴに修道院に押し入ったGIAは、クリスチャンの説得により静かに引き下がります。そう、彼らだって、むやみに暴力を振るうだけの存在ではなかったのです。


本作で物足りなさが感じられるのは、ほぼ、修道院というごく狭い場からの視点だけで描かれているせいなのかもしれません。そして、修道院の面々もGIAのメンバーも、アルジェリア軍の兵士たちも、修道院のある地域に根ざした人々ではありません。皆、他所からやってきた者ばかり。よそ者vsよそ者という構造になってしまっているような部分もあり、その点でも、切迫感が損なわれてしまっているようにも思えます。


そもそも、ここに修道院が存在している背景、GIAがうまれ勢力を拡大した背景、フランスの植民地としてのアルジェリアが背負った歴史...そういったものについて、もう少し、言及されていると、もっと作品に厚みが出たのではないかと思います。


撮影には本物の修道院が使われたというだけあって、映像にはリアリティが感じられましたし、修道士たちの立ち居振る舞いも実に自然で、かなり作り込まれた作品であると思いますし、真剣な議論を重ねる姿には、人間の生き方を問うような根源的な問題も含まれ、重みが感じられ、それなりに見応えもありました。


それだけに、もう少し、アルジェリア政府側、GIA側の視点が加味されると、もっと深みのある作品になったのではないかと思います。その点では、ちょっと残念でした。


ちなみに、実際の事件の経過は...

1996年3月27日 真夜中に20人の武装した男が修道院に乱入し、9人のうち、7人の修道士を拉致

5月23日 GIAから修道したちを殺害したという声明

5月30日 アルジェリア政府が修道士7人の遺体(頭部のみ)を発見したと発表

*7人を殺害した経緯は不明

*殺害を行なったのは、GIAでなく、アルジェリア軍との見方もある

*誘拐もGIAを陥れることを意図してアルジェリア軍が行なったとの説もある

ということだそうです。



公式サイト

http://www.ofgods-and-men.jp/



神々と男たち@ぴあ映画生活