海角七号/君想う、国境の南

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海角七号/君想う、国境の南 [DVD]/ファン・イーチェン,田中千絵,中孝介
¥4,935
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台北でミュージシャンになる夢に破れた阿嘉は故郷である台湾南部の海辺の町に戻ります。事故で怪我した郵便配達人の代理をすることになりますが、ヤル気は出ず、配達しなければならない郵便物を自分の部屋に溜め込んでいきます。ある日、郵便物の中に今はない住所、"海角七号"あての住所を見つけます。一方、その頃、海辺のリゾートホテルでは、日本人の歌手、中孝介を呼んだイベントが企画され、その前座として登場させるバンドを地元の人間を集めて作ることになり、日本人のモデル崩れの友子が、そのコーディネートに関わることになり...。


全体に、ゴチャゴチャした感じがしました。脇役たちが、それぞれ個性的で、主人公とのバランスが悪く、作中のいくつかのエピソードの描き方もバランスが悪く、人物の配置にもストーリーの流れにもまとまりのなさが感じられます。


コミカルな要素もいろいろと詰め込まれるのですが、それも、少々、しつこい感じで、それも作品のバランスを悪くする原因になってしまっているような...。


友子は意味もなく切れまくるし、阿嘉は怠け過ぎ。それぞれの感情の背景にあるものが分かりにくく、その感情の発露の仕方が、あまりにも子どもっぽく唐突に感じられてしまいました。


もっと、60年越しのラブレターを前面に押し出し、それ以外のエピソードを背景にしつつ、友子と阿嘉のそれぞれの心の内と互いの交流を丁寧に描いたら、ずっと心に響く作品になったような気がします。


中孝介のライブのリハーサル辺りから、俄然、作品の世界に惹き込まれました。この辺りは、音楽の力が感じられます。台湾の風景、特に、海辺の風景は美しくて、その映像は印象的。それだけに、もう少し、映画作品として丁寧に作りこんで欲しかった気がします。


台湾で大ヒットした映画とのこと。だとすれば、本作に登場するラブレターの内容は、台湾の人々が、日本の本当の台湾への気持ちはこうであって欲しいと期待しているものなのかもしれません。日本は、その想いに応えることをもっと真剣に考えなければならないのでしょう。



海角七号 君想う、国境の南@ぴあ映画生活

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ロスト・イン・ラ・マンチャ

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ロスト・イン・ラ・マンチャ [DVD]/テリー・ギリアム,ジョニー・デップ
¥3,990
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テリー・ギリアム監督は、長年、構想を練っていた「ドン・キホーテを殺した男」の製作に着手します。制作費50億円、ジョニー・デップ、ヴァネッサ・バラディなど豪華出演陣...。けれど、俳優のスケジュールの調整のゴタゴタ、予測できない大雨と洪水による機材の被害、ドン・キホーテ役の俳優の病気、撮影現場を飛び回る戦闘機、クランク・イン6日目に


史上初の「作られなかった映画のメイキング・フィルム」として異彩を放つドキュメンタリー映画。


転んでもただでは起きない...というより、それだけ、撮りたかった映画で、撮影の中止が悔しくて、幻の作品のままにしておくことを惜しんだということなのでしょう。本作を観ていると、「ドン・キホーテ」製作への情熱の強さが実感されます。


そして、映画製作に関わる様々な立場の人の存在を目にすることができ、現場が覗けるのも本作の楽しみではあります。


恐らくは、様々な事情で製作が中止された作品は数多くあり、そのほとんどは、その取り組みがあったことさえも忘れられてしまっているのでしょう。そんな映画史にその痕跡をわずかにでも残すことが出来なかった作品があることを改めて思い起こさせてくれる作品にもなっていると思います。そういう意味では、本作は「ドン・キホーテを殺した男」の墓標であるとともに、生み出されることもなく埋もれていった数多くの作品へのレクイエムでもあるのだと思います。


それにしても、本作に登場するテリー・ギリアムは、まさにドン・キホーテ。次々に困難が降りかかる中、果敢に映画作成に挑戦をし続けます。ドン・キホーテ(=テリー・ギリアム)を殺したのは誰か?...と考えると、本作こそが「ドン・キホーテを殺した男」本編になっているのかもしれません。


そして、ジョニー・デップがイイ。どんな中でも、ジョニー・デップはジョニー・デップで、しっかり俳優している辺り、印象的でした。これまでも、様々な形でイイ人であることが伝えられていますが、本作で、ますます好感度アップですね。


テリー・ギリアムの「ドン・キホーテを殺した男」製作への意欲が潰えたわけではないようです。2011年公開に向けて製作を再開するという話でもありますが、果たして、この先、私たちは、完成された「ドン・キホーテを殺した男」を目にすることが出来るのかどうか...。本作を観た上で、完成された「ドン・キホーテ」を観るというのは、楽しみなような、怖いような...。


ちょっと面白かったのは、テリー・ギリアムのTシャツ。「鼓童」のTシャツ着ている場面がありました。それも、白と黒の2パターン。鼓童がお好きなのでしょうか?



ロスト・イン・ラ・マンチャ@ぴあ映画生活

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ラスト・ソング

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ラスト・ソング [DVD]/マイリー・サイラス,グレッグ・キニア,ボビー・コールマン
¥3,990
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ロニーは、ニューヨークに母と住んでいましたが、両親の離婚への反発から心を閉ざすようになっていました。ずっとやってきて才能を認められていたピアノを弾くこともなくなり、それでも彼女の才能を認めて入学を許可してくれていたジュリアード音楽院への進学も拒否、万引きをして補導される始末でした。そんな彼女を心配した母親は、ロニーとその弟を、離婚後、故郷に戻った父親の元でひと夏、過ごさせることにします。父との再会を喜ぶ弟とは対照的に、ロニーは、反抗的な態度を崩そうとしません。散歩中にビーチバレーをしていたウィルと知り合ったロニーは、最初、素っ気無い態度をとっていましたが、徐々に打ち解けるようになり、父に対しても少しずつ心を開くようになりますが...。


まぁ、爽やかな青春ラブロマンスではあります。こうした形で「余命僅かの父」を持ち出すのは、あまりに安易という感じもしますが、道を踏み外しかけたヒロインが、本来の進むべき道に戻り、その過程で、不仲だった父との関係を修復し、運命の恋人との愛を確認しあう。ごくオーソドックスな展開ではあります。


特別に目新しさも感じられないストーリーではありますが、美しい海辺の風景と穏やかな雰囲気の街を背景に紡がれる予定調和的な進行には安心感があり、安心して観ていられる作品になっていると思います。


ただ、ロニーの心境の変化が、あまりに唐突。反抗しまくっていた彼女が父の気持ちに寄り添うようになり、父の最期を一人で看取ることを引き受けるまでになる。最初の父親へのあまりの態度を見ると、少々、変化が急すぎて違和感があります。


ウィルへの態度もそう。最初の出会いから、親しくなるまでは、左程、違和感なく観ることができたのですが、父と二人の生活に入る前にウィルに感情をぶつける辺り、少々、子どもっぽいというか、やり過ぎというか...。ロニーの振る舞いが、全体的に、子どもっぽ過ぎて、だいぶ歳の離れていそうな弟よりも幼い感じで、その辺りが違和感の元なのかもしれませんが...。


もう少し、ロニーの人物設定に工夫があり、彼女の心の変化が丁寧に描かれていれば、もっと、味わいの深い作品になっていたのかもしれません。特にツマラナイ作品というわけでもないのですが、残念な感じは残ります。


暇な時間を潰すのにチョコッと観るには悪くはないのでが、観るならレンタルのDVDでかもしれません。



ラスト・ソング@ぴあ映画生活

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ガルシアの首

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ガルシアの首 [DVD]/ウォーレン・オーツ
¥3,990
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メキシコの大地主は、愛娘を妊娠させたガルシアの首に100万ドルの賞金を賭けます。情婦のエリータからがルシアが既に死んでいることを聞き、その首で一攫千金を狙うことにします。エリータとともに、ガルシアの墓に向かったベニーですが...。


ベニーは、ガルシアの首に賞金を賭けた大地主に「おまえのせいで16人が死んだ」と言うのですが、かなりベニーのせいですよね。そもそも、ベニーは、金目当てで友人の死体を掘り出して首を切り取ったヤツなワケで、どのツラ下げてそんなセリフをほざくか...という感じも大いにするワケで...。


ガルシアを恨む理由がある大地主の罪より、姑息な手を使って一攫千金を狙ったベニーの罪の方が大きいような...。


最終的には、ベニーを含め、悪い奴らは、別に悪くない人々も...ですが...皆、死んで行くワケで、まぁ、落ち着くところに落ち着いたと言うべきなのでしょう。


結局、16人どころか、さらに、何人もの死者が出ました。膨大な数の犬死な人々。その死体の相当部分を作り出してしまったベニー。単なるピアノ弾きとは思えないスゴ腕です。ピアノ弾いているより、用心棒とか、殺し屋とかしていたら、もっと稼ぐことが出来ていて、ガルシアの墓を荒らさなくて済んだのではないかと...。


それにしても、ガルシアの首。かなり悲惨な状態だったのではないでしょうか。墓の中に数日間は埋められ、暑い中を運ばれ...。かなりのハエがたかっている様子が描写されている場面もありましたが、あれで、本当に本人確認できたのでしょうか?ちょっと、気になりました。日本と違って、乾燥していて、腐敗しにくかったりするかもしれませんけれど、それにしてもねぇ...。


でも、ガルシアの首、そこに賭けられた大金の周辺で、変わっていく人の心が丁寧に描写され、そこには、ある面での人間の真実が確かに感じられ、味わい深い作品になっていたと思います。


砂埃の舞う乾いた感じや鼻の粘膜にベトつくような臭いが、伝わってくるような映像で印象的でした


なかなか、面白かったです。一見の価値アリです。



ガルシアの首@ぴあ映画生活

ソフィアの夜明け

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歴史的背景からトルコに対する反感が強いブリガリアに住む17歳のゲオルギは反抗期で、ネオナチ組織に加入しています。ある時、トルコ人旅行者の一家を襲撃します。偶然、その現場を目撃し、被害者たちを救ったのは、長い間音信不通だった兄のイツォでした。イツォは、一家の娘ウシュルと親しくなり...。


本作は、ブルガリアで製作されていますが、年間映画製作本数が、わずか7、8本という国。貴重な一本ということになるのでしょう。


ブルガリアといえばヨーグルト。そのイメージが強く、健康的でのどかで...という印象を持ってしまいがちですが、当たり前ですが、そこにも、社会的な病理は存在し、闇があり、様々な不幸や貧しさがあるもの。本作は、そんなブルガリアの影の部分を見せてくれます。


閉塞感に取り込まれ、社会の底辺で鬱屈する人々。そのやり場のない怒り、不満の捌け口は、自分たちより弱い立場に向かうもの。それが、トルコ人であり、ロマの人々であり...。もちろん、これは、ブルガリアだけの問題ではありません。日本でも、社会的に弱い立場に置かれた人々に、怒りの矛先が向けられ、不当な攻撃がされることは珍しいことではありません。


現在も、この地球上の少なからぬ場所を覆う社会的格差の問題と底辺にいる人々を襲う閉塞感。同じようなテーマを扱う作品も少なくありません。けれど、そうした作品の多くには、そうした問題に抗おうとする力が感じられました。本作では、疲弊し、社会の状況に抵抗する力も奪われ、もう漂うしかなくなっています。とは言え、その彷徨の先に、僅かではあるけれど確かな光が射していることが、本作の救いではあります。特に、イツォが老人に連れられていった部屋でウトウトする場面は、穏やかで美しく、心に沁みました。


上映館も少なく、地味な扱いの作品ですが、一見の価値ありだと思います。



公式サイト

http://www.eiganokuni.com/sofia/



ソフィアの夜明け@ぴあ映画生活

息子とともに馬で砂漠をゆく黒装束のガンマン、エル・トポは、道中、山賊に襲われます。彼らの仲間が襲った町に向かい、そこで、住民たちを次々に嬲り殺す山賊のボスを倒し、そのボスの愛人を連れ、息子を捨てて再び旅に出ます。エル・トポは、「一番強い男が好き」という彼女の心を得るため、砂漠に住む4人の銃の達人と対決することになりますが、まともに戦って勝てる相手ではありません。彼女に言われるまま、卑劣な手を使い、4人を殺します。けれど、自分の行いに虚しさを感じるようになります。やがて、彼女に裏切られたエル・トポは、瀕死の重傷を負い、フリークスたちに助けられ...。


一応、ストーリーらしきものはありますが、ストーリーを表現することに力が注がれた作品ではありません。不条理というのか、何というのか...。


とにかく、次々と人が死んでいきます。ほとんどすべて、誰かに殺されます。奪うために、正義のために、愛のために、怒りのために、恐れのために、恨みのために、その存在が不要となったために...。そして、夥しい血が流れます。この血が実にチープというか、どこからどう見ても作り物で、嘘っぽいのですが、その人工的することになります。な赤が、空の青さ、砂漠の砂の色に良く映えて印象的でした。


そして、このフェイク感が、人の死の軽さを強調しているようでもありました。現代の私たちにとって、人の命というのは何より優先して守るべきだと信じられている重いもの。けれど、人の命が重いというのは、人間にとって普遍的な価値観ではなかったのかもしれません。そう、かなり、長い間にわたって、人間は簡単に死んだし、今でも地球上の多くの場所で人の命は軽く扱われているのです。


章立てになっていて、「創世記」「預言者」「詩篇」「黙示録」となっていますので、背景に聖書とかキリスト教があるのでしょう。男を唆す女とか、苦い水を甘い水に変えるとか、ハチミツとか、キリスト教の世界を思わせるようなものが登場します。一方、砂漠の銃の達人とか、輪廻転生を思わせる場面に見られるような仏教的というか、東洋的な思想も見えてきます。そして、キリスト教的思想が、汚い手段を弄して東洋的思想を押し潰した(?)ようにも思える部分は、むしろ、キリスト教への批判でしょうか?いずれにしても、その辺りが、本作に宗教的な味わいを加えているのでしょう。


ただ、本作は、解釈を考えたり、意味を見つけようとしたり、というところに必死になるべき作品ではないのかもしれません。あまり、あれこれ考えず、作品の醸し出す空気の中に身を任せ、その雰囲気を感じ、味わう作品なのかもしれません。


決して、観ていて気持ちの良い作品ではありませんが、心に刺さる強烈な印象があり、目を離せない力が感じられる作品です。


こうした作品が、ただ独善的なだけのオレ様作品になってしまうか、多くの人から料金を取るエンターテイメント作品として成立するかは、どこか、人の心の奥底を動かすものがあるかどうかで分かれるのかもしれません。そういう意味では、本作は、ギリギリ、エンターテイメントとして成立しているのではないかと思いますが、好き嫌いは大きく分かれる作品ではあるだろうと思います。


それにしても、他には、なかなかない独特な作品であることは確か。一度は観ておきたい作品だと思います。それも、できるなら、映画館のスクリーンで。



公式サイト

http://www.el-topo.jp/



エル・トポ〈製作40周年デジタルリマスター版〉@ぴあ映画生活

森崎書店の日々

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第3回ちよだ文学賞を受賞した八木沢里志著、「森崎書店の日々」を映画化した作品。原作は未読です。


貴子は勤務先の先輩と1年半ほど付き合っていましたが、その相手から、突然、別の女性と結婚すると告げられます。しかも、その相手も同じ会社に勤務。貴子は、会社を辞め、部屋に閉じこもるようになります。そんな彼女を心配した母親は、神保町で古書店を営む自分の弟、悟に、貴子の面倒を見てくれるよう頼みます。悟は、半ば強引に貴子を書店の2階に引っ越させ、店を手伝わせます。貴子は、神保町の人々との触れ合いや本との出会いにより、徐々に、心を開いていき...。


静かな作品です。古書店の雰囲気をそのまま画面に映したような静けさが全体を覆っていました。ヒロインは、かなりショッキングな体験をしたわけですし、軽く修羅場なところも登場しますが、そんなこんなを織り込みながらも、とても、穏やかな空気に包まれた作品となっています。


貴子の再生の物語が中心になってはいますが、それと同時に、神保町という街を描いた作品になっています。ただ、残念なのは、その両方が、どちらも、今一歩踏み込みが足らず、中途半端な感じになってしまっているところ。


貴子は、数々の本と神保町の人々との交流により癒されていくわけですが、その本との交流にしても、貴子がどんな本を読んだのかが分かった方が、貴子の心の動きに寄り添えた気がしますし、貴子が他の古書店を巡る場面でも、もう少し、神保町の凄さが分かるような映像が入ってもよかった気がします。


神保町を離れられない悟のようですが、それなら、悟が神保町の魅力がもっと伝わるように街を案内するとか。喫茶店には連れて行きますが、それもわりとフツ~の喫茶店で、相当に個性的な喫茶店も多い神保町の魅力には迫りきれていない感じがします。


大規模の書店が数店あり、様々な規模の古書店が数多くあり、それぞれがそれぞれの独自の色を出しながら、全体として世界最大級のブックセンターとして存在する街。その中には、こんな分野があったのかと驚くような本の世界があったり、かなりマニアックな分野の専門店があったり...。そして、そんな古書店の合間には、それぞれに印象的な喫茶店の数々。そして、最近...という程、新しくはないのかもしれませんが、これまたそれぞれに個性的なカレー店。その辺りのディープな神保町の姿をもう少し見せて欲しかった気がします。


私自身は、かつて、相当な頻度で神保町を巡った時期がありました。書店、古書店については、もちろん、いろいろと想い出深いものがありますが、喫茶店も随分と行きました。御茶ノ水~神保町~水道橋エリアでは、パッと思いつくだけでも、「さぼうる」「李白(今はありませんが)」「ミロンガ」「古瀬戸」「白十字」「ラドリオ」「ロザリオ」「ミロ」...。


貴子の再生物語については、あまりにありきたりな感じもするので、もっと神保町の魅力を伝えるという部分にポイントを絞って、そこに重ねるスパイスとして貴子の物語を重ねるような感じであれば、もっと本作の個性が光ったのではないかと思います。いろんなものに同程度に焦点を当てたために、なんだか薄い感じの作品になってしまっているようで残念。


結局、森崎書店がどんな古書店何だかもよく分からなかったし...。特に、専門分野なく古書一般を扱う...という雰囲気でもないような気がしたのですが、どうなんでしょう?


神保町の映像は懐かしく、それだけでも興味深いものはありましたが、特に、神保町という街についての想い出や知識、思い入れなどがない人が観てどれだけ楽しめる作品なのかというと疑問が残ります。



公式サイト

http://www.morisaki-syoten.com/



森崎書店の日々@ぴあ映画生活

ルイーサ

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単調な日々を淡々と過ごすルイーサは、ブエノスアイレスのアパートに住む一人暮らしの60歳の女性。墓地の受付の仕事と女優の家の手伝いをしながら何とか生活を支えています。そんな彼女が、唯一、心を許すのは、愛猫のティノでした。ところが、ある日、ティノが息を引き取り、その上、2つの仕事を失います。ティノの葬式代もなく、困った彼女は...。


いろいろと事情があり、不幸を抱えたルイーサ。普通、映画のヒロインにはなりにくい60歳の愛想のないオバサン(というよりオバーサン)で、頑固で、嘘も方便で...。そんなルイーサが、何とも可愛らしく見えてきたりする場面があり、そこにちょっとしたオドロキがあったり...。ちょっと不思議な魅力を持った作品でした。


本作の魅力は、何といっても、ルイーサでしょう。最初から、とても幸せには見えない彼女の不幸の原因が何なのか、次第に明らかにされますが、どうやら、その不幸以来、孤独な生活に埋没してしまい、人との付き合いも避けている様子。そんな彼女ですが、管理人は、彼女の不幸への同情ゆえか、彼女に、随分、親切です。その親切度、人の良さ度は、相当のものなのですが、ルイーサの描写に浮かび上がる彼女の魅力が、それを不自然に感じさせません。


愛猫ティノの死、そればかりか、失職。ルイーサの人生に止めを刺すかのような大きな打撃が、一度にやってきます。それでも、運命を呪うでもなく、ただ泣き暮らすわけでもなく、人を恨んで悶々とするわけでもなく、ティノの火葬費用のために奔走するルイーサ。全く経験のない世界に迷わず入っていくその姿は、なんとも逞しく、力強さが感じられます。そのためには人を騙してもというのはどうかという気がしなくもないですが、そんなことさえ吹き飛ばすような必死さがルイーサにはありました。


そして、彼女がお金に執着する理由が、自分の生活のためではなく、猫の火葬費用というところも泣かせます。彼女自身だって、満足に食べるものも買えない状況にあるはずなのに、そのことを嘆く様子はあまり目立っては見えてきません。


さらに、その埋葬費用を稼ぐための方法がスゴイ。いくつかの手段をとり、そのための道具を買うわけですが、彼女は、その初期投資を回収できたのでしょうか?道具を手に入れるため、時計と物々交換する場面もありますが、それなら、時計を売る方が効率はよいような...。その辺りの、ちょっと抜けたところも本作の面白味を作っているのかもしれません。


かなり深刻な状況にあるはずのルイーサの生活。けれど、悲惨さや不幸より、どこか、突き抜けた冷静さと人間というものの愚かさをユーモラスに捉えた視線が感じられ、ほんのりとした温かさが感じられる作品となっています。


さて、これから先のルイーサはどうなるのか?決して、前途洋々とはいかない...というより、かなり、厳しいものがあるでしょう。けれど、ずっと孤独を守ってきたルイーサが、他人と協力し合い、他人に頼ることを覚えた(思い出した?)のは、大きな前進。


人間、いくつになっても、成長したり、変化したりできるものなのかもしれません。ちょっとした他人の支えがあれば...。世知辛く、なかなか良いことのない世の中だからこそ、ちょっとした温もりがありがたく感じられることがある。そんなちょっとした温かさを感じさせてくれる作品です。


ルイーサの表情や行動が変化していく過程が、きっちりと演じられ、その容貌までもが美しくなっていく感じが印象に残りました。


地味な作品ですが、観ておいて損はないと思います。



公式サイト

http://www.action-inc.co.jp/luisa/



ルイーサ@ぴあ映画生活

依頼人

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依頼人~ザ・クライアント~ [DVD]/スーザン・サランドン,トミー・リー・ジョーンズ,ブラッド・レンフロ
¥2,100
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ジョン・グリシャムのベストセラー小説を映画化した作品。原作は未読です。


11歳の少年、マークは、弟のリッキーと森に行った際に、偶然、殺された上院議員の死体の隠し場所を知ってしまいます。けれど、そのため、上院議員殺人事件を追っている野心家の連邦検事とFBI、さらに、上院議員の死体が発見されては困るマフィアから追われることになります。追い詰められたマークは、自分と、母、弟を守るために弁護士を雇おうとします。通常の弁護士費用など支払えるわけもないマークでしたが、離婚訴訟に負けて子どもを手放した過去のあるレジーは、1ドルで彼の依頼を受けます。最初は、レジーにも真実を打ち明けられなかったマークでしたが...。


善人役、善人面した悪役、悪役、被害者。それぞれの役柄が明確で、分かりやすく、ストーリーもテンポ良く進むので、エンターテイメント作品として、純粋に楽しめました。


マークが、適当に賢く、子どもっぽく、そのアンバランスさが、少々、ご都合主義名印象を受けなくもありませんでしたが、子どもなんて、多かれ少なかれそんなもんなのでしょう。本人にとって都合の良い時だけ、妙に頭が働いたり、気が利いたりして、「そんなにきちんどできるなら、何故、普段、もっとちゃんとないのか!」と、却って、周囲の大人たちを苛立たせたりする...。


その辺りの、いかにも子どもっぽい、傲慢さ、大人に依存したい気持ち、不安、背伸びしたい気持ちが、マークを演じたブラッド・レンフロの絶妙な演技で表現されていたと思います。彼とともに、映像に登場するレジー役のスーザン・サランドンも、野心満々の連邦捜査官ロイを演じたトミー・リー・ジョーンズも演技に定評のある俳優。その中で、遜色のない存在感を示したのは、見事です。彼の存在あっての本作と言っていいでしょう。このマーク役の人選こそが本作の成否の鍵で、ブラッド・レンフロのキャスティングは大正解だったということなのでしょう。


彼の言動にイライラしたり、ハラハラしたり、彼の運命に同情を寄せたり、彼の愛らしさにホロホロしたりしながら、作品の世界に引き込まれていきました。


マフィア側、特に"剃刀"が、適度にお間抜けだったお陰で助けられた部分も少なくなかったとは思いますが、それでも、丁寧に作りこまれた世界は、なかなかに説得力があり、少なくとも、観ている間は、細かいところがあまり気にならず、観ることに集中できました。マフィア側が、完璧だったら、そもそも、ストーリーが成立しなかったでしょうし...。マフィアも人間ですからね...。


スーザン・サランドン、トミー・リー・ジョーンズは、期待通りの好演。マークに振り回され、甦ってくる過去の傷に痛みを感じながらも、必死に信じた道を歩もうと戦うレジー。そして、自分の目的を果たすために大きな事件とそこに関わる人々を利用しようとする野心家のロイ。それぞれに持ち味が発揮され、丁々発止の演技が光ります。


レジーが、1ドルでマークの依頼を引き受けることが出来た背景には、彼女が他で稼げるということもあるわけですし、彼女の生きることに対する"余裕"の部分を使っただけと言えないこともないかもしれません。けれど、2人が、年齢を超え、立場を超えた人間的な関わりを見せるようになる時、そこには、確かな対等な人間同士の交流と友情、そして、それぞれの成長が見られます。その辺りの描き方に無理がなく、心にスッと届いてきました。


最初からラストまで、安心して作品の世界に遊べます。一度は観ておきたい作品だと思います。



依頼人@ぴあ映画生活

波止場

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波止場 コレクターズ・エディション [DVD]/マーロン・ブランド,カール・マルデン,エヴァ・マリー・セイント
¥1,980
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ニューヨークの波止場で働くボクサーくずれのテリーは、港を牛耳る組織の親分、ジョニーの指示を受けた兄のチャーリーに仲間を呼び出すように頼まれます。テリーの予想とは違い、彼の仲間は殺されてしまいます。警察の捜査がありますが、組織にそむけば仕事、下手すれば命さえ失うことになると、波止場の住民たちは犯人を知りながら事件について、一切、口を開こうとしません。そんな中、殺された男の妹、イディと教会の神父が真相を明らかにすべきだと人々に訴えかけます。イディの悲しむ姿に心を動かされ、彼女に惹かれるようになったテリーは、組織の罪を証言しますが...。


1954年ですから、56年前の作品です。その時代故ということもあるのでしょうが、なかなかに真面目で、真っ当な作品でした。


思いがけず他人を死に追いやる片棒を担いでしまい、そのことへの責任と現実的な生活の問題との間に悩む姿。殺しに関わった男と殺された男の妹とのロマンス。正義と悪との戦い。


その正義と悪の戦いが巧くできています。善良なる市井の人々の日常を支配する組織。単純な正義と悪との戦いではありません。悪の側が、市井の人々の生活を支配する中では、悪に対立することが、善良なる市民たちの生活を脅かすことに繋がってしまいます。それは、本当は、幻想なのかもしれません。本当は、"悪"の側は、人々が考えるほど巨大ではないし、皆が思うほどには、社会を支配しているわけではないのかもしれません。けれど、そう人に信じ込ませるところに、"悪"の恐ろしさがあるのかもしれません。そう、彼らは、悪の力によってではなく、彼らの心の中に生まれた恐怖に支配されていたのでしょう。


ラストでは、その呪縛から解き放たれた彼らの姿を見ることができます。この辺りの展開が、本当に、真っすぐで、すんなりと心に入ってきました。


それにしても、神父さん、過激です。殺されるかもしれないと組織を告発することを恐れる信者に対し、命を賭けても戦えと言うのですから。人間には、命より大切なものがあるということなのでしょう。ラストで、ボコボコにされたテリーを立ち上がらせる辺りも勇ましいです。さすが、遠い地まで十字軍を送り出した宗教です。


単純な勧善懲悪ではなく、悪の側に付かざるを得ない人々の心の機微を巧く炙り出しながら、けれど、ちゃんと正義の通るラストに結びつけていく。その過程を説得力を持って描き出していて見応えありました。


一度は観ておきたい作品だと思います。



波止場@ぴあ映画生活