100歳を超えた現在も精力的に活動するポルトガルのマノエル・デ・オリヴェイラ監督の代表作とも言える歴史大作。1990年の作品ですが、岩波ホールで2週間の期間限定で公開されていて観てきました。


1974年、アフリカとの植民地戦争を繰り広げていたポルトガルの兵士たちは、不毛な戦争に対して、不平不満を抱いていました。戦争の空しさについて語り合う中、カブリタ少尉が、ポルトガルの敗北の歴史について話し始めます。

●紀元前二世紀、まだポルトガルではなくルシタニアと呼ばれていた地方に侵略してきたローマ軍に対し、勇者、ヴィアリトに率いられた住民は果敢に抵抗しますが、ヴィアリトは、ローマに買収された部下に暗殺されます。

十字軍の時代、ポルトガル王国が形成されていき、アルフォンソ一世以降、歴代の国王はイベリア半島の統一と北アフリカのムーア人制服を目論見ます。15世紀後半、アフォンソ五世はスペインの一部の貴族と謀ってカスティリャの王位を狙い、レオン地方の大部分を占拠しましたが、トロの戦いに敗れ、野望は潰えます。

●ジョアン二世は1490年4月に息子のアフォンソ王子とカスティーリャのイサベラ王女を政略結婚さますが、8月に王子は落馬し死去。王子の死により、平和的な手段によるイベリア半島統一は難しくなります。その後、ポルトガルは海洋帝国を目指し、植民地主義へと向いますが、同時に新世界への道も開きます。ヴァスコ・ダ・ガマは、インド航路を確立します。

●16世紀後半、セバスチャン王は周囲の反対を押し切りモロッコ遠征を強行しますが、アルカセル・キビルで壊滅的な敗北を喫し、国王も戦死します。これが、ポルトガル史上最も手痛い敗戦でした。


カブリタ少尉の亡くなる日は"革命の日"。1974年に革命があり、その翌年にはポルトガルは植民地をなくします。すでに、植民地を持つことへの疑問がポルトガルの社会にも広まりつつあったのでしょう。植民地を"守る"ための戦いに参加する兵士たちも、その戦いについて疑問を持たざるを得なかったのでしょう。


いつの時代も、兵士は戦いのコマとされ、下手すれば命さえ奪われます。特に、セバスチャン王が、周囲の進言を無視したり、簡単に兵士を処刑したりする姿。戦争をして領土を拡げて利益を得るのは王家であり、貴族であり、教会の有力者。勝利したからといって大して利益を得られるわけではないのに、命を懸けて戦わせられる羽目になるのは庶民。歴史スペクタクルの中に、小技を効かせ、戦いの本質を炙り出しています。


コロンブスやヴァスコダ・ガマといったヨーロッパの歴史を大きく動かす役割を担った人物を生み出し、一度は、世界の覇権を握りかけながら、大きくその勢力を減じたポルトガル。そのポルトガルを描いたからこそ、"支配する"ことや"戦う"ことの空しさが実感させられるのかもしれません。


そして、多くのエキストラと馬を揃え、圧倒的な物量でもって描き出した戦闘シーン。遥か昔に使われていた大砲の性能の悪さは、ちょっと笑えましたが、多分、この時代の戦争は、こんな雰囲気だったのだろうと納得させられる映像でした。


きちんと歴史に向き合い、そこから学ぼうとすれば、戦争の空しさを理解することなど容易いはず。けれど、人々は、簡単に戦争の悲惨さを忘れ、新たな戦いに高揚し、熱狂してきました。戦いのコマとして消費されるだけの庶民も、熱狂しつつ戦いを煽っていくものです。正義を守るとか、国を守るとか、家族を守るとか、そうした大義名分が掲げられれば、それに抗うことは難しいもの。本当の意味で、戦争が家族を守ったり、正義を守ったりすることはあまりないのにも関わらず。そして、時として、軍隊は、国民に刃を向けるものなのに。


ラスト。重傷を負ったカブリタ少尉の妄想の中に現れるセバスチャン国王の狂気が滲み出る姿は圧巻。


ポルトガルの歴史については、あまり詳しくなかったこともあり、理解しづらい部分も少なくありませんでした。観終えてから調べてみて、成る程と納得したり...。予習してから観た方が楽しめる作品ではあると思いますが、k細部まで丁寧に作り込まれ、映像も見事、音楽も印象的で、一度は観ておきたい力のある作品だと思います。



ノン、あるいは支配の空しい栄光@ぴあ映画生活

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劇場版クレヨンしんちゃんの第10作目で、シリーズの中でも名作と言われる「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦 」を実写化した作品。


天正2年。小国、春日の武将、又兵衛は、合戦の際に撃たれそうになりますが、突然、未来からタイムスリップしてきた真一に救われます。最初は、未来から来たという真一の話を疑っていた又兵衛ですが、廉姫から面倒を見るよう命じられ、戸惑いながらも、次第に、真一と心を通わせていきます。そんなある日、大国の大名、高虎が廉姫を嫁に欲しいとの申し出があります。それは、小国の春日にとっては悪い話ではありませんでしたが...。


幼稚園児の"しんちゃん"が、実写化により小学生(それも高学年?)の"真一"に変身。時にハチャメチャでお下品なギャグ連発のしんちゃんを、それなりにしっかりと考え、行動できる少年に変化させたのは、成功していると思います。実写であの"しんちゃん"の味わいを壊さず映像の雰囲気にはまるように存在させるのは至難の業であったことでしょうから。それに、実写でオシリ丸出しにして...というわけにはいかないでしょうしね...。


一方、しんちゃんだけでなく、ひろしとみさえも真面目路線になりすぎた感じもしました。原作アニメのままのギャグ路線もどうかと思いますが、もう少し、笑いがあっても良かったような気はしました。


そして、あまりに真面目路線になったために、時代劇としてのアラが目立ってしまった感じがします。アニメなら許せても、実写となると...。特に喋り方とか、立ち居振る舞いとか、もっと姫らしく、武士らしくしてもらいたかったところ。ギャグを排して真面目路線でいくならもう少しちゃんとした時代劇にして欲しいところだし、その辺りにこだわらないなら笑いを入れたほうが自然に作品の世界を受け止められた気がしました。又兵衛たちの住まいの造形とか、合戦の場面とか、いかにも戦国時だの小国といった雰囲気が出ていたと思うのですが、命を懸けた戦いの場にしては、今ひとつ、緊迫感に欠けてしまった感じがしました。あまり、戦いの中で人が死んでいく感じがしなかったからかもしれませんが...。


そして、アニメで一番の感動ポイントだった"金打"と"青空侍"が消えてしまったところ。原作にはなかった写真撮影の場面も悪くなかったとは思うのですが、特に"金打"がなくなったことで、真一の家族の絆といった部分が薄れてしまって残念。


アニメを観る前に本作を観ていれば、両方楽しめたような気がしますが、一方、本作を観ながらも、そこに相当するアニメのシーンを思い浮かべながら脳内で補完していたからこそ楽しめた部分もあったようにも思います。やはり、アニメあっての本作だったのかもしれません。


アニメが"しんちゃん"だからこそ感動できた作品であったと思うのですが、本作はしんちゃんらしさを抜かれてしまっています。そのため、タイムスリップという要素はあったにせよ、平凡な”身分違いの悲恋物語”となってしまったのでしょう。もう少し、本作ならではのアニメとは違った魅力が出せていれば面白い作品になったのではないかと思いますが、その部分が今ひとつ感じられませんでした。


そして、アニメの印象を決定付けた"悲劇"。本作は、この部分も薄めてしまった気がします。又兵衛の死により引き裂かれはするものの、二人は互いの愛情を確かめ合うワケですし、又兵衛が存在した確かな証が現代にも遺されますし...。


又兵衛たちの存在が歴史に埋もれてしまったからこそ、アニメでは世の無常に涙を誘われたのではないかと...。


又兵衛役の草なぎ剛は、優しい感じと家臣として姫との間の一線を守ろうとする矜持、勇敢な武士としての強さを巧く表現していたと思いますし、高虎は大沢たかおがさすがの演技力で原作では感じられない人間的な魅力を出していたと思います。一方、廉姫の新垣結衣は、やや、最愛の又兵衛と結ばれない哀しさを表現しきれていなかった感じがしましたが...。


悪くはないと思うのですが、まぁ、DVDで十分でしょうし、特にお勧めというレベルでもないような...。良い評判を聞いていて期待もあっただけに残念でした。



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大いなる幻影

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第一次世界大戦中。敵情偵察の任務を与えられている元機械工のマレシャル中尉と貴族のボアルデュー大尉を乗せたフランスの飛行機はドイツの空軍に撃墜され、二人はドイツ軍の捕虜となり、収容所に送られます。二人が収容されたハルバハ・キャンプには、ローゼンタールというフランスに帰化したユダヤ人の金持ちの息子もいて、その彼の元に送られてくる慰問品のおかげで、同室の捕虜たちは贅沢な食事を取っていました。そんな収容所での生活の中、彼らは、捕虜になった将校の義務として脱走の計画を練っていましたが...。


"戦争=国と国の争い"という単純な図式ではありません。本作では、フランスとドイツという二国間の戦いという側面だけでなく、貴族と平民、将校と兵士、富裕層と庶民、フランス人とユダヤ人。


フランスの貴族であるボアルデュー大尉とドイツの貴族である収容所長のラウフェンシュタイン大尉。敵味方に分かれる二人ですが、貴族階級に属する者同士。フランスではすでに革命が起きていて、すでに、政治的、社会的な権力を失いつつあり、その他のヨーロッパの国々においても、滅びていく気配が濃くなっていた時代になっており、そのことは二人とも実感している様子。そんな中、貴族として誇り高く気高くあろうとする二人の間に生まれる儚い友情。


第一次世界大戦は、騎士道精神のようなものが尊ばれた最後の戦争だったのかもしれません。(なんて、長閑に言っていられるのも、相当の年月を経た遠い土地の出来事だからかもしれませんが...。)今、この世界で行われている戦争は、人間と人間の戦いというより、科学技術による殺戮。遠く安全な場所から沢山の人間を確実に効率よく殺していく方法が確立した現代の戦争から比較すれば、牧歌的とすら感じられてしまう世界が描かれます。貴族が滅びて庶民が台頭したように、戦争の様相も大きく変わっていく、そんな時代だったのでしょう。


本作における戦争は、人の命が賭けられるものではあったにせよ、そこには一定の”ルール”が存在し、それを敵も味方も尊重していたことが窺えます。収容所での捕虜の扱いにせよ、ラストの場面での国境の兵士の言動にせよ。もちろん、"ルール"無視の蛮行が全くなかったわけでもないのかもしれませんが。それでも、"極悪非道の敵"に対してであれば、"ルール"など関係ないという現代的な物の見方を考えると、今の世の中の荒廃が実感させられます。


そして、ヨーロッパ各国の支配階級にいた貴族の立場。元々、ヨーロッパ各国で繰り広げられていた領土を奪い合うための戦争は、各国の王室やそこに連なる貴族たちの勢力の拡大を図るものだったわけで、本作に登場するボアルデューもラウフェンシュタインも戦争で勝てば利益を得られる立場にありました。


けれど、その後、戦争の目的は領土というより、利権になり、さらに、現代ではイデオロギーの争いという側面が強くなっています。そう、貴族階級のための争いから、ローゼンタールのような商人が大きく関わる戦争への変質。ラストで、「(センスがなくなるというのは)幻影だ」と言うセリフがローゼンタールから発せられるのは象徴的。


次の次代を担う存在であるローゼンタールとマレシャルを逃がすために犠牲となるボアルデュー。ここにも世の移り変わりが象徴されています。


戦争を単なる国と国との争いという側面から描くのではなく、そこに関わる敵と味方の双方にある複雑な人間関係、対立構造を巧く取り込みながら、時代の大きなうねりを描き出したことにより、作品に単なる戦争映画を超えた深みを与えていると思います。


そして、最後のエルザが絡んでくるエピソード。戦争物にはつきものなエピソードではありますが、恐らくは、マレシャルよりも二人の行く先について冷静な視線を持つエルザの強さと清々しさが胸に沁みます。そう、きっと、エルザはこの地で女手一つで娘をしっかりと育てていくのでしょう。


製作されてから随分年月を経た作品で、古さが感じられる部分もありますが、印象深い名作。一度は観ておきたい作品だと思います。お勧め。



大いなる幻影@ぴあ映画生活

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わが街

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ヤシの木と美しい夕焼け。「天使の街」とも形容されたロサンゼルスも、今は、麻薬、経済格差、人種差別、犯罪で荒れており、史上最悪の黒人暴動も起きます。そんなロサンゼルスに住む家族や隣人との間に様々な問題を抱えノイローゼ気味のクレアと秘書との不倫関係がこじれる弁護士のマックの夫婦。ある日、マックは、運転中の自動車が故障し、レッカー車を呼びます。レッカー車を待つ間に、不良少年たちに囲まれたマックは、レッカー車の運転手、サイモンに助けられ、それをきっかけにサイモンとの間に友情が芽生えていきます。一方、クレアは、日課のジョギング中に捨てられた赤ん坊を見つけ...。


マックとクレア、二人の息子のロベルト、サイモン、サイモンの妹とその息子、マックの秘書のディー、その友人のジェーン。


不良少年に囲まれたり、強盗に襲われたり、家に銃弾が撃ち込まれたり、黒人であるというだけの理由で警官に追われたり、赤ん坊が捨てられていたり...。様々な辛さや苦しみ、そして、危うさを伴った人々の日常。そんな日常が淡々と描かれます。強盗も銃撃も単なる日常...というところがスゴイですが...。


サイモンが80歳を超えて亡くなった父について、「この街の黒人としては長生き」と語ります。健康に恵まれても、人種により生きていける時間が違ってしまう。その背景にあるのは、人種による経済的な格差、受けられる教育の差、居住環境の差。サイモンが不良少年たちと向き合う場面、サイモンとマックの会話、マックとロベルト、クレアとロベルトの会話。そこで語られる言葉の深さに胸を衝かれます。ありきたりの日常の場面ですが、一つ一つのシーンが印象的。演じる側の確かな力量が支えているのでしょう。


特にサイモンの穏やかな風貌から発せられる深い言葉は心に沁みます。彼も、決して、良い環境の中で生まれ育ったわけではないでしょう。そして、いわれのない差別に遭ってきたはずの彼が、その中で押し潰されることなく、きちんとした生き方を守り通そうとする姿には清々しさが感じられます。そして、マックも、そんな彼の逞しさに魅せられたのでしょう。


そして、何といっても、ラストのグランド・キャニオンの映像。自然の雄大さと人間の卑小さ。人は、自分の小ささ、無力さを知った時、初めて、自分の人生を粗末にすることの愚かさ、誠実に生きることの大切さを理解するのかもしれません。


大自然の生み出した見事な景観とそれを眺めるサイモンたち。私たちは、ここで、彼らと同じ想いを共有することになります。人生を踏み外しかけていたサイモンの甥。彼も、この先、光に向かって歩みを進めることになるのでしょう。


まぁ、予定調和的でありすぎる感じはしますし、取って付けたような展開もあったり、少々、説教臭さが感じられたりもしますが、それでも、一度だけでなく観たくなる作品です。


一見の価値あり。



わが街@ぴあ映画生活

アートスクール・コンフィデンシャル [DVD]/マックス・ミンゲラ,ソフィア・マイルス,ジョン・マルコヴィッチ
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芸術家としての評価を得るために必要なのは、才能よりも、自分の作品を認めてくれる強力な味方を作る"政治力"。まぁ、現実世界の中でもそんなことを実感させられる場面は少なくありません。特に、"前衛的"な分野になれば、その他大勢の一般人にとっては「何これ?」な世界だし、正直「ゴミなのか作品なのか」分からないケースもあるわけで...。


そんな"アート"な世界を皮肉った感じが、なかなか、面白かったです。学生たちが、自分たちの作品を批評しあう場面でのもったいぶった言い回しなど、地に足着かない浮ついた感じが見事に皮肉られていたと思います。


「21世紀最大の画家」になりたいという、あまりに純粋で真っ直ぐな、そして、幼い夢を持つジェロームの夢と現実とのギャップ。多くの人は、子どもの頃の夢を少しずつ失いながら成長していくのでしょうけれど、夢から現実の世界に明確に移行するのが社会に出る時期。本作で描かれるジェロームも、そろそろその時期を迎えようとしています。特にジョナが登場してからのジェロームは、ダメダメ。彼の根拠のない自信が崩れていく様子が、痛々しく、観る者の胸に青春の甘酸っぱさが拡がっていきます。


ただ、後半部分で、サスペンスタッチになっていく辺り、前半部分との繋がりが悪く、違和感がありました。


そして、ジェロームの行く末。このまま彼が殉じたフィクションの世界に生き続けるなら、アーティストとしての高い評価を維持できるかもしれません。けれど、一生、オードリーと、直接、触れ合うことはできないでしょうし、飽きられてしまえば、単なる悪人として人生を終えることになります。彼のフィクションが明らかにされてしまえば、アーティストとして興味を持たれなくなる可能性が高いでしょう。それでも、例え一瞬でも、間違いなくオードリーの心を掴めたのだから満足...なのでしょうか。


新人アーティストが世に出るきっかけを作っているカフェのオーナーが、カネのためでも名誉のためでもなく、一人の女性の心を掴むために画家としての評価を得たいと言うジェロームに、「応援する」と答えるシーンなど、結構、良かったと思います。


"アートな世界"への皮肉で最後まで押し通していれば、もっと、まとまりのある作品になったようにも思えます。途中から、変にシリアスになり過ぎた感じがありましたが、これも、前半のコミカルな雰囲気で最後まで通した方が作品の世界に集中できたと思います。この前半から後半の転換がギクシャクしてしまったところが何とも残念。


ところどころ、面白かったり、印象的だったりしましたが、全体としてのまとまりが悪く、作品自体の味わいが薄れてしまった感じで残念。悪くはないのですが...。



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ヴァンダの部屋

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ヴァンダの部屋 [DVD]/ヴァンダ・ドゥアルテ,ジータ・ドゥアルテ
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アフリカからの移民が多く住むリスボンのスラム街。再開発で、街が取り壊されていく中、住民たちは、麻薬に溺れ、当てのない日々を過ごしています。母や妹と生活しているヴァンダも、野菜を売り歩く他は、毎日、麻薬を吸い続け...。


破壊されていく街。貧困とドラッグに侵されていく人々。


本作に登場する人々に、明るい未来は見えてきません。何も抵抗せず堕ちていくように見える人々。その先にあるものが何なのか、全く分かっていないわけではない彼らは、そのアリ地獄から抜け出す術を知らず、這い上がっていこうという気力すら奪われてしまっているかのよう。正に絶望的な状況。


けれど、不思議と彼らの表情には絶望感や悲壮感は見えてきません。もっと静かな...淡々とした表情がそこにあります。そして、日に日に崩れていく街に射し込む光の美しさ。自然光を巧く取り入れているのでしょうか、壊されていく街の風景や家の内部を映し出す映像が、まるで、フェルメールの絵のようで、印象的。本作が描き出す状況とは別次元の静謐さが漂います。


その静けさを破る街を破壊する重機の音さえ、不思議と甘く響きます。


貧困と絶望を描きながら、なお、社会に何かを訴えて変革を求めるのではなく、ただただ、先の暗い状況にある人々を優しい光で包み込もうとする作品。それは、神の視線なのかもしれません。神は、世界に溢れる不幸からも、悲惨からも、人を救い出そうとはしないし、この世から悪をなくそうともしません。全能なはずなのに。けれど、いつも、人々に温かい視線を向けていて、人々が神に顔を向けさせすれば、その視線に包まれることができる...そんなことなのかもしれません。そして、その眼差しを向けられる幸福に身を委ねることこそが信仰ということなのかもしれません。


ドキュメンタリー...ということですが、実によく作り込まれた映像で、構成も練られていると思います。完成度の高い作品。


最初、3時間という長さに抵抗感はありましたが、それでも、観て良かったと思えました。できれば、映画館の大きなスクリーンで観たい作品だし、一度は観ておくべき作品だと思います。好き嫌いは別れるかも知れませんが、オススメです。



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シリアの花嫁

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イスラエル占領下のゴラン高原で家族とともに暮らすモナ。シリア側に住む人気俳優との結婚する日を迎えています。本来、幸せなはずのその日、姉のモナの表情は今ひとつ冴えません。結婚のため、軍事境界線を越えると、モナは、もう二度と、家族のいる側に戻ることはできないのです。モナは、複雑な想いを抱えながらウエディングドレスに身を包み...。


タイトルは、シリアの花嫁。その"花嫁"であるモナが本作のヒロインなワケですが、もう一人、本作を支えている...というより、むしろ、"本当の主役"と言うべき存在感を見せているのが、姉のアマルです。


妹のモナが結婚する日。その一日に、アマルのこれまでの人生が浮き彫りにされます。不幸な結婚をしながらも、二人の娘を慈しみ、育て上げ、守り、そして、やがて、自らの人生を切り開いていこうとする力強さ。彼女を取り巻く状況を考えれば、それが、どれ程の勇気と決断力を必要とするかがうかがい知れます。


国際的な政治状況、各国間の意地の張り合い、宗教、伝統、風習...様々なものに縛られる生活。そして、そのしがらみが、いかに強く人々を縛るか。その中で、娘たちに自分らしく生きる道を歩ませようと奮闘し、自分の人生を歩もうと努力するモナ。彼女は、妹と会えなくなる寂しさを乗り越え、モナを力強く送り出す役割も果たします。そして、モナの結婚を機に集まった家族を修復する活躍。


それは、妹の幸せを願い、家族の幸福を願うとともに、自らの旅立ちの準備だったのかもしれません。


一方のモナ。直接会ったこともない相手との結婚のため、再び戻ることのできない国境を越えようとするモナ。途中で揺らぎを覗かせながらも、決意を固めていく表情が印象に残ります。


二人の行く先にあるものが幸せであるとは簡単に信じられませんが、それぞれの道を切り開こうとするその決意が感じられる表情に光を見たくなります。


長い歴史を持つ重く厳しい国際問題、社会的な背景を取り込みながらも、複雑な問題を短い時間の中で分かりやすく浮かび上がらせ、さらに、深刻で暗い面ばかりを描くのではなく、時にユーモアを交えながらバランスよく描かれているとお思います。


境界線を挟んだイスラエル側と担当者とシリア側の担当者の対応については、やや、イスラエル側の肩を持つ描き方だったように思えましたし、その背景に何らかの配慮の存在を勘ぐってしまいたくもなりましたが、それでも、こうした国際的な問題が個々の人々を引き裂く現状を見事に訴えていて胸に刺さります。


公開時、観に行こうと思いつつ、見逃してしまっていたのですが、やはり、観に行っておけばよかったと思います。DVDであっても、一度は観ておくことをお勧め。



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アキレスと亀

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アキレスと亀 [DVD]/ビートたけし,樋口可南子,柳 憂怜
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裕福な家に生まれた少年、真知寿(まちす)は、絵を描くのが大好き。画家になるという夢を持っていて、両親は、そんな彼を留学させることも考えていました。しかし、経営していた銀行が破綻し、追い詰められた両親は自殺。真知寿を取り巻く環境は一変します。遠い縁者の元に預けられ、自由に絵を描くこともままならなくなりますが、それでも、画家になることだけを夢見る真知寿。やがて、青年になった真知寿の元に、幸子という一人の理解者が現れます。やがて、二人は結婚。真知寿の夢は夫婦の夢となります。二人の創作活動は、警察を巻き込むほどにエスカレートしていき...。


社会的な常識も規範も法律も、人間としての倫理も超えて、絵に人生を賭けようとする真知寿の姿。正直、そこまでやるなら、子どもを持つな...とも思いましたが、ここまで一つのことに全てを投げ出す人生には、やはり、どこか、清々しさを感じますし、羨ましさも覚えるもの。


そんな真知寿に全面的な愛情を注ぐ幸子にも、一般的な常識とはかけ離れたところにはあっても、人がなかなか味わえることのないある種の幸せが感じられるもの。


ただ、青年期の真知寿と幸子を演じた柳 憂怜と麻生久美子が、中年期を演じたビートたけしと樋口可南子の間に違和感が拭えなかったこと。ここは、青年期を演じた二人で最後で押し通した方が良かったのではないかと...。


そして、何より違和感が残ったのは、真知寿は、一体、何がしたかったのかが見えてこないこと。そこのところに引っ掛かってしまいました。多分、少年時代の真知寿は、純粋に描きたいものを描きたい様に描いていたのでしょう。どことなく、ジミー大西を髣髴とさせるような画風ですが、それなりの真知寿自身の想いを感じさせる絵だったと思います。けれど、青年期以降の彼の絵からは、その輝きが見えてきません。


特に画商との出会い以降は、何だか、画商の言うなりで。芸術に身を捧げるなら、ここまで全てを賭けるなら、自分自身が本当に表現したいものを表現したい形で描くのでなければ嘘だろうと...。


もしかしたら、"ゼンエイゲ~ジュツ"を皮肉った作品...なのでしょうか?所詮は、何とか売れるものを生み出そうと画商に振り回されるだけの人生なのだと。そんなものより大切なのは、すべてを包み込んで自分を受け入れてくれる"女神"の存在なのだと。


ある意味、"男の身勝手"なんでしょうね。そんな"都合のイイ女"がいるかって...。


北野武監督作品は、あまり、観ていないのですが、何となく、観る気になれないでいたのですが、どうも、肌が合いませんでした。題材は悪くないと思いますし、そこに興味を惹かれたからこそ、本作を観たのですが...。



アキレスと亀@ぴあ映画生活

愛のそよ風

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クリント・イーストウッドの監督第3作で、初めて監督業に専念した作品だとか。イーストウッド作品で唯一、日本では劇場未公開とのこと。


不動産業を営むフランクは、経済的には恵まれていましたが、妻とは別れ、孤独な日々を送っていました。ある日、ヒッピー風の少女、ブリージーと出会います。初めは、彼女の自由気ままな身勝手さに苛立ちを隠せずにいたフランクでしたが、次第に、彼女の魅力に惹かれるようになり...。


まぁ、ありきたりの歳の差ラブ・ロマンス。二人の間の年齢の差は、それぞれが影響を受けた文化の差にも繋がります。そして、それ以上に生まれ育ちの違い。


ぶつかり合いながらも、次第に惹かれ合っていく二人。なるようになる展開ではありますが、その過程が丁寧に描かれ、素直に物語の世界に浸ることができました。


もっとも、やはり、視点がブリージーよりもフランクに偏りがちな点はやむを得ないところでしょうか。フランクが自らの老いを感じ、周囲の視線を感じ、ブリージーとの恋愛に臆病になっていく辺り、なかなか説得力がありました。そして、一方、年齢を重ねてなお若く美しい女性と恋愛をする...オジサンの夢...といったところでしょうか。


それにしても、ブリージーを演じたケイ・レンツ。ヒラリー・スワンクかと思ったら、違ったのですね...。ソックリ!


イーストウッドらしさを実感できる作品ではないと思いますが、ありきたりのメロドラマをそれなりに印象的な作品に仕上げたのは、やはり、イーストウッドの手腕...ということなのでしょう。日本で公開されなかったのも、さもありなんという感じはしないでもありませんが、レンタルDVDで観るには悪くない作品だと思います。

マチュカ~僕らと革命~

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1973年のチリ、サンチアゴ。富裕層の居住地区に住むゴンザロが通う伝統ある学校に、統合政策の下、理想に燃える校長、マッケンロー神父の主張により、貧民街の子どもたち数人が入学してきます。その一人、ペドロは、いじめられっ子だったゴンザロと、生活環境の違いを超えて友情を育むようになりますが...。


アジェンデ政権下のチリで、ピノチェト将軍が軍事クーデターを起こしたのは、1973年9月11日。このクーデターは、CIAによる支援受けてのこと。アメリカにとっての、もう一つの"9.11"がここにあるのです。


育った環境の違いを超えて仲良くなるゴンザロとペドロ。けれど、二人の間にある溝はあまりに広く深い。ちょっとした場面で、その違いが浮き彫りにされていきます。


ペドロが父親にゴンザロを紹介した時、父親は言います。

「お前の友だちはあと5年もすれば大学に入り、お前は便所掃除をしている」

「10年後、お前の友だちは親の会社に就職し、お前は便所掃除を続けている」

「15年後、お前の友だちは親の会社を継ぎ、お前はやはり便所掃除だ」

そう。それが、彼らを取り巻く現実なのです。


そして、子どもだからといって、大人とは違って純粋でいられるワケではありません。子どもの裏切り、残酷さ...そんなところにもしっかりと目が向けられています。もちろん、そのことで子どもを責めているわけではありません。でも、それこそが現実。


大人たちの思惑や時代のうねりに翻弄される子どもたちの姿を描きながら、一方で、本作は、子どもたちの逞しい姿も見せてくれています。クーデター側にも反クーデター側にも小旗を売って稼ぐ子どもたち。厳しい中でも生きる道を懸命に探るその姿に、一筋の希望を見たいもの。


さらに、友情を裏切ってしまったゴンザロが、どのような大人になるのか。大人になったゴンザロの心に、この経験が何を残すのか。その部分を観てみたかった気がします。そして、ペドロのその後も気になるところ。


問題は、こうした現実をしっかりと見つめた上で、何ができるかということ。もちろん、簡単に綺麗な解決法を見出せるような単純な問題でないワケですが...。