エレニの旅

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エレニの旅 [DVD]/アレクサンドラ・アイディニ,ニコス・プルサニディス,ヨルゴス・アルメニス
¥6,300
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2004年の作品ですが、渋谷のユーロスペースでテオ・アンゲロプロスの作品を特集していて、それで、観てきました。


ロシア革命によりオデッサを追われたギリシャ人難民の中に孤児のエレニがいました。グループを率いていたスピロスは、妻を亡くしており、エレニに結婚するよう迫ります。けれど、エレニは、スピロスの息子、アレクシスと恋に落ち、駆け落ちしますが...。


1919年からの30年間のギリシャの歴史を、エレニの人生に重ねて描きます。


過酷な運命と彼女を取り巻く時代の流れに翻弄されるエレニ。彼女の人生は悲哀に満ちています。その人生を彩る僅かな輝きも、それが奪われる悲劇のための準備に過ぎないようにさせ思えます。辛い運命を生きる彼女を支えたのは、夫と2人の息子という愛する人々の存在。そのすべてを奪われたエレニの慟哭は観る者の胸に突き刺さります。


けれど、それは、エレに一人を襲った不幸ではありませんでした。同じ時代を生きた人々の人生には、多かれ少なかれ、同じような影が落とされたことでしょう。


歴史のうねりの中で家族が引き裂かれ、思想や信条の問題から身柄を拘束され、愛する者を戦争に奪われ...。その度に、人類は、同じ悲劇を繰り返さないと決意をし、常に、その決意は忘れられてきました。そう、本作で描かれているのは、エレニ一人の悲劇でもなく、過去として葬り去られてしまった歴史の遺物ですらありません。


エレニを襲った悲劇に、ギリシャの人々の、そして、世界の歴史が重なり、彼女の不幸が、人類の不幸に重なります。そして、そうした大きな悲劇を描き出す映像の見事さ。重厚な絵画のような映像が印象的です。そして、そこに重なる音楽との絶妙なハーモニー。


葬送に列する人々が船の上で黒い旗を掲げる場面、何頭もの羊が木に吊るされる場面、水没した村を船で脱出する場面...。エレニが夫と別れる場面で編み物がほどけていく映像は、少々、メロドラマチックであり過ぎたような気もしましたが...。


けれど、一つ一つのシーンの繋がりが悪く、集中力もブツブツと途切れる感じ。途中、特に前半部は退屈しましたし、眠くもなりました。正直、170分、ほとんど3時間は、長かったです。


迷わずオススメできる作品とまでは言えませんが、独特な味わいを持った印象的な作品です。観るなら大きなスクリーンで観たい映像がタップリ詰まっています。映像の力というものを実感できる作品であることは間違いありません。



エレニの旅@ぴあ映画生活

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ベティ・ペイジ

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ベティ・ペイジ [DVD]/サラ・ポールソン,リリ・テイラー,カーラ・セイモア
¥3,990
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1950年代に"ボンデージ・クィーン"と呼ばれ、数え切れないほどのピンナップを飾った人気モデル、ベティ・ペイジの半生を映画化。衝撃的なデビューから、毀誉褒貶が渦巻く絶頂期、突然の失踪を描きます。


R-15指定。確かに、ヌードのシーンは多いのですが、あまり、エロティックな感じはしません。あまりに健康的な笑顔と本作で描かれるベティ・ペイジ自身の罪悪感のなさ。アッケラカンとした感じ。そして、信心深い側面。彼女の性格やものの考え方と、カメラの前での行動を、なかなか、素直には結びうけられず、戸惑いを感じてしまいます。この落差の背景にあるものが、もっと丁寧に描かれていれば、興味深い作品になったと思うのですが...。


ベティ自身の中の想いや悩みといったものがきちんと描かれず、全体に、人物描写が表層的になってしまっているために、それぞれの言動が唐突に思えたり、言動のバランスの悪さに違和感があったりしたのだと思います。ベティの中にあったであろう葛藤については、僅かには、ベティの口から語られますが、簡単に済まされてしまっており、その言葉が上滑りしてしまっている印象が否めませんでした。


多分、時代背景を考えれば、彼女たちの行動は過激な印象を与えるものだったのだと思いますが、全体に淡々とした感じで、その当時にしてみれば"過激"であったり、"斬新"であったりした部分が見えてきませんでした。


こうした写真を"過激"で"良き青年たちを毒する"ものとして排除しようという上院議員を中心とした取り組みについても取り上げられていましたが、彼らの動きが、社会的にどう位置づけられるものだったのか、その辺りにあまり触れられておらず、インパクトに欠ける感じがします。


ベティの写真を撮ったカメラマンや雑誌の発行者、ベティの恋人といった、彼女を取り巻く人々の描き方も浅く、全体に焦点がぼやけてしまっています。


1950年代の性風俗を描くという点では、ある程度、成功しているのかもしれませんが...。


折角、ベティが憑依したかのようなグレッチェン・モルの、まさに、身体を張った熱演を生かしきることができていなくて、その点が、とても残念です。


グレッチェン・モルの熱演は一見の価値ありだと思いますが...。



ベティ・ペイジ@ぴあ映画生活

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ブラザーズ・ブルーム

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「TSUTAYA独占レンタル」とのこと。菊池凛子が印象的な役どころで出演していますが、日本では未公開のようですね。


幼い頃に両親を失ったスティーブンとブルームの兄弟。里親のもとで育てられますが、どこでもトラブルを起こし、様々な里親のもとを転々とせざるを得なくなります。不遇の時期をともに過ごした2人の結束は固く、やがて、2人で組んで周囲を騙して稼ぐ方法を身につけていきます。25年の月日が経ち、スティーブンが筋書きを作り、ブルームが演じるというスタイルが定着。そんな中、詐欺師生活に耐え切れなくなったブルームは、詐欺をやめることを宣言します。スティーブンは、そんなブルームを"最後の仕事"だと、豪邸に一人で住む女性に近付かせ...。


詐欺師の物語ですが、詐欺の手法の鮮やかさや騙し騙されるスリルを楽しむというより、スティーブンのこの世でたった一人の身内である弟、ブルームへの愛の物語となっています。


詐欺のやり方は、ある意味、あまりに陳腐。その繰り返される陳腐な感じが、ラストに生かされるはずだったのかもしれませんが、ラストに至る過程に、あまり、工夫がなく、ほどんど、ドキドキハラハラ感は味わえませんでした。


自分の書いた筋書きを弟に演じさせるスティーブン。弟を自分の犯罪に巻き込んでいる身勝手な兄にも見えます。実際、ブルームも、兄に操られるだけの自分に嫌気が差し、兄に対し、詐欺行為に加担することをやめると宣言します。恐らく、その後の展開は、スティーブンのブルームへのプレゼントだったのかもしれません。最後の仕事での、ブルームの心境の変化を予測した上で、ブルームとペネロペを結びつけようとしたのではないかと...。そして、ブルームを守る役割を降りようとしたのではないかと...。最初から、ブルームのために脚本を書いていたスティーブンは、最後に、ブルームのために完璧な脚本を用意し、最高のプレゼントをしたのではないかと...。


もっと、スティーブンのブルームへの想いにスポットを当てた描き方になっていたら、もっと、印象的な作品になったような気がするのですが、中途半端なスリル感と中途半端な詐欺の筋書き、中途半端な兄弟愛、中途半端なコメディ...。全体に、何かが足りない感じが否めず、消化不良なままに終ってしまいました。


エイドリアン・ブロディの情けない雰囲気は、ブルームの雰囲気にピッタリでしたし、どこかズレた雰囲気が、逆に世間離れしたお嬢様な感じを上手く表現していたレイチェル・ワイズは良かったと思います。菊池凛子も、ほとんどセリフがない(歌は歌っていましたが、セリフとしては、一言)役どころで、どこかわざとらしさが付き纏いますが、兄弟の犯す詐欺のカラクリの安っぽい感じには合っていたとは思いますし、存在感はありました。


なかなか小技が効いていて、面白い部分もあったのですが、全体にいまいち感が漂います。モンテネグロなど、洗練された感じの美しい風景の映像が効いた作品になっているので、もっと、全体にスタイリッシュな感じで仕上げられていれば、もっと、しっかりと、作品の世界ができあがったのかもしれません。


DVDで十分だとは思いますが、一度は観ておいても良いかなぁとは思います。

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アパートメント

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アパートメント 【ベスト・ライブラリー 1500円:第2弾】 [DVD]/ロマーヌ・ボーランジェ,モニカ・ベルッチ
¥1,500
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30歳のエリートビジネスマン、マックスは、結婚を目前にしたある日、カフェの公衆電話で、かつての恋人で、突然自分の元を去っていったリザの声を耳にします。マックスは、彼女の残した言葉とホテルの鍵を頼りに後を追い、彼女のアパートに辿り着きますが...。


二人のリザと彼女たちの周辺のオトコたち。交錯する偶然とすれ違い。少々、メロドラマチックな陳腐さが漂うものの、アパートのお洒落な雰囲気やスタイリッシュな映像の美しさで魅せてくれます。


ただ、残念ながら、マックスも、マックスを待ち続けたリザも、あまり魅力的には思えませんでした。特にリザ。何だか、あまりにエキセントリックというか、やることなすこと、そして、自分の言動に対する言い訳も、あまりにど~しよ~もない感じがして...。見ていて、苛立ってしまいました。


マックスも、どこをどうしたら、エリートになれたのか...。彼が、リザを追う姿を見ていると、とても、ビジネスの世界で成功するようには思えないのですが...。


そして、マックスは、ほとんど、というより、れっきとした犯罪行為をし、故意ではなかったものの、それが、アリスと彼女の恋人の運命を狂わせることになってしまいます。悲劇なのは、その理由も分からないままに巻き込まれていくアリス。


ラスト直前の"衝撃の展開"は、どうも、納得がいきませんでした。


まぁ、人間の運命なんて、誰もが意図しない、ホンの些細なことから大きく狂わされていくということなのかもしれません。


女性陣は、それぞれに美しく、存在感を出しているのですが、見分けがつきにくく(これは、狙いもあるのでしょうけれど)、最初は、少々、混乱しました。よくよく、誰が誰か、確認しながら、観る必要はあります。


偶然やすれ違いの描き方、マックスやリザの人物設定などにもう少し、工夫があれば、もっと、面白い作品になったと思うのですが...。全体に、全然ダメというワケではないけれど、いまいち感が漂います。



アパートメント@ぴあ映画生活




http://pia-eigaseikatsu.jp/tb/tb?movie_id=113790

リスボン物語

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リスボン物語【ユニバーサル・セレクション1500円キャンペーン/2009年第5弾:初回生産限定.../パトリック・ボーショー,リュディガー・フォグラー
¥1,500
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映画の音響の仕事をするフィリップ・ビンターは、親友の映画監督、フリッツ・モンローから"SOS、録音機材を持ってリスボンに来てくれ"との葉書を受け取り、リスボンのフリッツの住まいを訪ねますが、フィリップは、旧式のカメラを残したまま、姿を消していました。フィリップは、彼が撮影していたフィルムを手がかりに、フリッツの行方を捜し始め...。


美しい町の風景、登場する新旧の機器類、音を生み出す仕掛け...。リスボンへの愛、何より、映画への愛が感じられます。リスボン市からの依頼に応えて制作された作品ということですが、単なる都市のPRを越えた作品に仕上がっていると思います。


主が居なくなったフリッツの部屋を訪れる子どもたちとの交流。ところどころに散りばめられる哲学的な雰囲気も醸し出す印象的な言葉。子どもたちが操るデジタルな機器。フリッツの残した旧式のカメラ。過去を想い、大切にしながらも、未来への視点も感じられます。


そして、テレーザの歌声。美しく哀愁を感じさせる声が、心に響きます。美しい旋律にしっとりと寄り添う艶のある声。本作の味わいを深め、より印象的なものにしています。


リスボンの街のそこここでの人々との触れ合い。人と人の間に生まれる温かな交流。人々を包み込む街の美しい景観。街が見せる様々な風景。リスボンの街から動かないにも拘らず、しっかりと"ロードムービー"になるのは、ヴェンダース監督の面目躍如といったところでしょうか。


観ておいて損はない作品だと思います。



リスボン物語@ぴあ映画生活

レ・ブロンゼ 再会と友情に乾杯

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レ・ブロンゼ 再会と友情に乾杯! [DVD]/ジョジアーヌ・バラスコ,ミシェル・ブラン,マリ=アンヌ・シャゼル
¥3,990
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パトリス・ル・コント監督作品。「レ・ブロンゼ 日焼けした連中」(1978年)、「レ・ブロンゼ スキーへ行く」(1979年)に続く作品で、2006年の製作。前二作は未見です。


1978年、ポペイ、ジジ、ジェローム(ジジの元夫)、ベルナール、ナタリー(ベルナールの妻)、ジャン=クロード(ジジの現婚約者)コートジボワールのバカンス村で出会います。それから27年の間、彼らは付き合いを続けており、毎年、夏はポペイが支配人を務める(ポペイの妻、グラツィエが相続して所有している)豪華なリゾートホテル、プルナスリゾートに集まっていました。今年も、彼らが集う時期が来て...。


おフランスはドタバタコメディ。


登場人物たちが、何ともしょ~もない。自分勝手で、ハチャメチャで、愚かで、哀しくて。こんな人たちと付き合うのは、さぞ、苛立たしく、疲れることでしょう。けれど、とても刺激的で楽しい日々かもしれません。彼らのど~しよ~もなさに、注がれる視線は温かく、人間誰しもが抱える愚かさが見えてきます。


そして、ドタバタな中にも、ほのかに漂うおフランスな香り。やはり、ドタバタはドタバタでも、お国柄というものはあるのでしょう。


ジャン=クロードのカツラ・コレクションも面白く、ところどころ、キレのある小技が効いていて、楽しめました。


それぞれの人間関係の交錯の仕方とか、ついていけないものを感じる部分も少なくありませんでしたが、まぁ、それもおフランスのことと思えば、意外に、引っ掛かるものなく観ることができました。観ておいて損はない作品だと思います。

大丈夫であるように-Cocco 終らない旅- [DVD]/Cocco
¥3,990
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デビュー10周年を迎え、全国17箇所、18公演に及ぶツアーを行ったアーティスト、Coccoを追ったドキュメンタリー。


本作が、渋谷のライズXで公開されていた頃、他の作品を観にシネマライズに行き、本作の人気を知りました。ライズXが狭いことも大きな理由ではあったのでしょうけれど、週末は毎回満席の状態が数週間続いていたと思います。それで、本作に興味をひかれ、初めて、Coccoの存在を知りました。


正直、Cocco初心者の私とにとって、分かりやすい作品ではありませんでした。彼女の人となりのようなものは感じられましたが、もう少し、基本的な知識を織り込んで欲しかったとは思います。


最初の方で、「撮影中、故郷で作られた黒砂糖以外のものを口にする場面は見なかった」という意味のナレーションが入ります。ほとんど何も食べずに生きているということ。ラストで彼女が拒食症で入院したことが示されますが、この冒頭の部分と最後が繋がっていきます。


彼女が、あまりに、多くのものを大きなものを引き受けようとしすぎているように思えてなりませんでした。「引き受けている」のではなく、「引き受けざるを得ないでいる」のかもしれません。その重さが、大きさが、彼女を満たしてしまい、体内に、食物が入る余地を奪ってしまったのかもしれません。


宮崎監督の「もののけ姫」について語る場面が印象に残りました。最初に、この作品を観た時、救いや希望が描かれるラストに苛立ったのだと。どうしようもない人間に希望を残してどうなると。徹底的に懲らしめるべきではなかったかと。けれど、その後、子どもと観た時、ラストで救われることを祈らずにはいられなかったと。ラストで希望を描いた宮崎に感謝したと。子どもには、希望を見せたい。未来が明るいことを教えたい。その子どもも成長すれば、世の中に苛立ち、絶望を感じることもあるでしょう。それでも、幼い頃に見た希望が、その人を救うのだと。この部分に、とても、共感を覚えました。


ラスト、読み終えたファンレターを燃やす姿が映ります。自分だけで引き受けるには、あまりに膨大すぎるファンの人たちの想いを天に昇らせることで神に託そうとしているようにも見えました。


決して、流暢でも、丁寧でもない語り口ですが、そこに溢れる想いは温かく、私たちの胸に響いてきます。まるで、祈りのように。どうしようもない切なさや哀しさ、やり切れなさの果てにあるものが、祈りなのかもしれません。


「大丈夫であるように」とCoccoは語りかけます。その言葉を、その祈りをそのまま贈り返したくなります。「貴女こそ、大丈夫でありますように」。


多少は、Coccoというアーティストに関する基礎知識を持った上で観た方が、より味わえる作品かもしれません。観ておいて損はないと思います。



大丈夫であるように-Cocco 終らない旅-@ぴあ映画生活

マイレージ、マイライフ

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年間322日も出張し、「バックパックに入らない人生の荷物は背負わない」をモットーとするライアンの生きがいは、航空会社のマイレージを貯めること。7人目の1000万マイル達成者となることを目指し、「マイルにならないカネは使わない」とまで言い切ります。そんな彼が、同じように飛行機で各地を飛び回る女性やいかにもイマドキの若者な後輩と出会い...。


しがらみのない、気ままで自由な生活。けれど、そこには、地に足の着かない不安定さがつきまといます。荷物を背負えば、時として、その重さに潰されるかもしれないけれど、その重さをあってこそ鍛えられるものもあるワケで、悩み苦しむからこそ味わえる喜びや達成感もあるのです。


面白いのは、冒頭で、ライアンの人との繋がりを大切にしない姿勢を非難するナタリーが、仕事では、直接人に向き合うことよりネットやメールでの遣り取りに頼ろうとし、ライアンの方が、直接、会って話すことを大切にするということ。ビジネスとプライベートの割り切り方が面白かったです。人との繋がりを求めるかどうかの違いではなく、求め方のバランスの問題だということなのかもしれません。


出色なのは、ライアンが、妹の結婚式の日、結婚に怖気づいた妹の婚約者のジムを説得する場面。結婚に対する不安を語るジムに、ライアンは、自らが抱えていた恐れと不安に気付かされ、同時に、それを乗り越える道を見せられます。基本的なストーリーは、ある意味、陳腐なもの。人との繋がりも求めず、自分の道を突き進んでいた人物が、人と関わることの大切さに気付かされる。けれど、そのありきたりな流れに、ジムとの遣り取りと、それに絡む家族の中での居場所の回復があることで、本作の味わいを深めていると思います。


紆余曲折あり、結局は、元の生活に戻ったかに見えるライアン。けれど、その背景にある大きな変化は、確実に彼の人生にそれまでにはなかった豊かさをもたらすはず。


そう、彼にクビを宣告された人々も、家族や友人、周囲の人々との関わりの中で自分を取り戻していくのですから。


それにしても、クビ切りをカネで他人任せにし、それにより、大きな報酬を手にする企業やビジネスマンが居るというのは、やはり、ヘンな社会。クビを切られる側には、大きな痛みがあるもの。本来、企業には、雇った従業員に対し、それなりの責任があるもの。クビを切る側が、切られる側の痛みに向き合おうとしないという現状への違和感は拭えませんでした。その辺りの、ライアンたちに仕事を依頼する側への視点も盛り込まれていると、もっと、作品に深みが出たような気もします。


ところどころ、気の利いたセリフや、笑える遣り取りもあり、社会的な背景やそこに対する風刺を盛り込みながら、きちんとエンターテイメントになっていました。


なかなか面白かったです。観ておいて損はないと思います。



公式サイト

http://www.mile-life.jp/



マイレージ、マイライフ@ぴあ映画生活

ウディ・アレンの夢と犯罪

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マッチ・ポイント 」「タロットカード殺人事件 」に続くロンドン3部作の締めくくりとなる作品。


二人で小型のクルーザーを購入した兄、イアンと弟、テリー。イアンは、父親の経営するレストランを手伝いながらも、投資家としての成功を夢見ています。テリーは、自動車修理工として働きながら、ドッグ・レースやポーカーなど、ギャンブルで稼ぐ日々。イアンは、舞台女優、アンジェラに恋をし、彼女との新生活を夢見るようになり、テリーは、ギャンブルで巨額の借金を背負い込み、それぞれ、纏まった資金が必要となります。そんな時、大金持ちの叔父が彼らの家を訪れることになります。彼らは、叔父に助けてもらおうとしますが、その見返りとして、危険な頼みごとを引き受けることになり...。


原題は、「Cassandra's dreem(カッサンドラの夢)」。兄弟が買ったクルーザーに付けた名前に重なります。カッサンドラとは、ギリシャ神話に登場するトロイアの女王で、悲劇の予言者。


クルーザーの購入資金のほとんどは、テリーがギャンブルで得たもの。イアンは、投資家としての仕事を始めるための資金を叔父に頼ろうとし、恋人の成功の足掛かりまでも叔父の人脈に頼ろうとします。テリーも、自分の失敗の尻拭いを叔父にさせようとします。


イアンは、恋した女性を手に入れるため、テリーは、莫大な借金から逃れるため、人としての一線を超えていきます。元々、投資家として活動するための資金を作るため、コツコツ貯金していたイアンとケイトとの慎ましやかな幸せを手に入れるためにギャンブルで稼ごうとしたテリー。どうも、それぞれにチグハグな兄弟です。堅実さと一発逆転に賭ける危うさとが、それぞれの中で交錯します。兄弟のどちらの中にも、ギャンブラーな要素と堅実な要素が垣間見えます。


そして、カネで幸せを手に入れようとした愚かさ。ケイトに対しても、アンジェラに対しても、もっと他のアプローチがあったはず。彼らにとって、本当に"運命の相手"なら。結局、お金に換算できる程度のものしか夢見ることが出来なかった彼らの貧しさにも問題があったのでしょう。


さらに、何とも人頼みな心許なさ。いい大人が、何もかもを人の力に縋ろうとした点で、すでに、彼らは、失敗していたのでしょう。結局、イアンもテリーも、自分たちの悲劇を止めることができず、ドンドン深みにはまり込み、堕ちていきます。


彼らの悲劇は、決して、予測できないものではありませんでした。けれど、その時、彼らには、他の選択肢は見えず、そのために追い詰められ、自らを追い込んでいくハメになります。


そもそも、叔父の頼み自体、かなり、しょ~もないワケです。自分の犯した悪が暴かれることを阻止するために一人の人間を亡き者にしようとしたのですから。それも、自分の手を汚さずに。


兄弟は、犯した罪に対する報いを受けます。けれど、彼らに犯罪を指示した叔父は?彼にとっては、一番安心な結末を迎えたというべきなのかもしれません。そう、本作は、「勧善懲悪」な作品ではないのです。


イアンが、冒頭で誘ったウエイトレスとの関係がその後どうなったのか(中途半端な形で、ちょっと彼女が顔を出したりはしますが...)とか、消化不良な部分も残りますし、内容的にも、左程、面白いものとは思えませんでしたが、イアンを演じたユアン・マクレガー、テリーを演じたコリン・ファレルは、それぞれの役どころを見事に表現していて印象的でした。最初は、二人が兄弟というところに違和感もあったのですが、次第に、兄弟らしく見えてきました。


ところどころ、気の利いた遣り取りなどもあったりして、部分的には、それなりに楽しめたりもしたのですが、まぁ、DVDで十分かとは思います。



公式サイト

http://yume-hanzai-movie.com/pc/


ウディ・アレンの夢と犯罪@ぴあ映画生活

われわれはなぜ死ぬのか―死の生命科学/柳澤 桂子
¥1,680
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われわれはなぜ死ぬのか ――死の生命科学 (ちくま文庫)/柳澤 桂子
¥798
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私たちは、誰でも死ぬことが運命付けられています。人により、生きられる時間は様々ですが、それでも、どんなに長くても120年を超えることはまだないようで、宇宙の時間から考えれば、僅かな時間でしかありません。


人類が積み重ねてきた生の歴史。その背景には、当然、死の歴史が隠れています。生き残りをかけた生命の進化は、同時に死の機構をも進化させてきました。生まれた瞬間から死に向けて時を刻み始めるDNA。なぜ老化がおこるのか、何故、私たちは死ぬのか。生命にとって、死はどのような役割を果たし、どんな意味を持つのか。死の本質に迫ります。


ホンの小さな存在でしかなく、そう長くは存在することのできない人間。けれど、それは、60兆個という膨大な数の細胞に支えられた存在で、肉眼では中身を確認できない小さな一つ一つの細胞の中では、非常に複雑な営みが繰り返されているのです。人間のサイズをもって測ろうとすると、あまりに果てしなく巨大な宇宙。その中において、ごくごく小さな存在でしかない人間。けれど、その小さな人間の中には60兆個もの細胞があり、その一つ一つの中には、小宇宙とでも言うべき、果てしなく奥の深い営みが繰り返されています。今、この瞬間にも。


どんな生であれ、生まれてきただけで、生きてきただけで、それだけで十分に奇跡なのだと感じさせてくれます。かなり専門的な内容が含まれていますので、正直、一回読んだだけでは分からない部分が多い...というより、大半でした。けれど、それでも、生きるということの奇跡に触れることができ、心が動かされます。


そして、よりよく理解するために、再度、読んでみようと思わせられます。生きることの奇跡が実感できること。それこそが本書に描かれる希望であり、その力が、読むものを惹きつけ、難しさを乗り越えさせてくれるのでしょう。


かなりオススメ。一度は読んでおきたい書籍だと思います。