サイコムのメルマガ用のニュースのまとめ。まとめ終わったあとに考えたことは、メディアにでてくるような医療研究が正確ではないことについて、間違っているだの、無責任だのと非難するってことは違うのではないかということ。研究成果も、正確を期するのはルールだと思うけれど、それ以外にも発表することの意義はあるのかもしれない。そのへんの機微を読み取らないと、これこれの論文はあとで誤りがいくつ見つかりましたといったことをあげつらっても、水掛け論におわってしまうだけのような気がしてきた。
自然科学の誤りがどうのこうのっていってたら、それこそ社会科学の論文はどういう言い訳が立つのだろうか、と思ったってこともある。どうして、発表後に誤りが見つかるような状況になってしまうのかということをもっと考えると、それは案外自然なことなのだと思えたりして。
科学ニュース8/7
■先週は、科学と研究関連のニュースは少なめです。普段から報道されているニュースとして、動物の権利と大学のビジネス化に関連する記事がありました。この二つのトピックについて少しだけコメントしてみます。
■霊長類を実験に使うことに反対する署名が163,000人も集まったそうです。日本では、ここまでの数字にはならないような気がします。動物の権利運動が大きなものであることを感じさせます。人間を至上とするいわゆる西洋的価値を否定しはじめているのは、当の西洋の人たちなのかもしれないと思ったりもします。
■一方で、大学のビジネス化は、少子化などで経営の改革を迫られている日本の大学にとっても他人事ではない話しだと思います。英国では、特に有名大学において経営改革が懸命に模索されています。スター研究者を呼び込んだり、財政に強い学長が就任したり、国外キャンパスを立ち上げようとしたり、2008年の大学評価にむけた準備をしたり。。。今回の記事のように、積極的な資金運用も、昔より多くの大学で行われているのだと思います。誰のための改革か?研究者、大学役員、それとも学生か。大学のビジネス化もどの立場から見るかというだけでも、様相が大きく変わってきます。
■また、アメリカのテンプル大学の数学者による意見記事は、データは弱いと思いましたが、医療研究とメディアにまつわる、研究者があまりメスを入れたがらない問題を総合的に論じていて面白かったです。私も、医療関連の報道は内心「また言ってるよ」と思いつつ読んでいることが多々あります。(岡橋)
意見記事
●Healthy scepticism http://education.guardian.co.uk/higher/comment/story/0,9828,1542380,00.html
▼アメリカの数学者による意見記事。曰く、「医療研究はメディアでは注目記事になるかもしれない。しかし、新しい分析結果によると、後になって正確とは言えないということが判明する研究が多すぎる。」一流誌に発表された45の研究を分析したJohn Ioannidis博士によると、三分の一ぐらいの研究が後の研究によって、矛盾をはらんでいることがわかったり、成果が弱められたりするという。医療研究とメディアの問題は、情報の受けてと送り手、研究の手法や審査過程、統計など複合的なものであることを論じている。 生殖技術
●After Dolly the sheep comes Snuppy the puppy http://education.guardian.co.uk/higher/research/story/0,9865,1542287,00.html
▼「羊のドリーの後は、子犬のスナッピー」。ドリーの後、羊、子豚、ネズミ、ウサギ、牛、などのクローンは多くの研究室で行われてきたが、犬を複製するのは難しかった。しかし、まだ成功率が低いことや倫理的な問題を専門家の間でもっと議論される必要があるという声も。
大学
●St Hilda's tries its hand at online poker http://education.guardian.co.uk/higher/news/story/0,9830,1543420,00.html
▼オックスブリッジの大学は昔は所有する農家から利益を得ていたけれど、今やオンライン・ポーカーの会社に投資している。こうした動きはアメリカの大学の追随。しかし、エンロン事件でUCLAが大きな損害を被ったことなど負の側面もある。
●Truce called in war over Viking relics http://education.guardian.co.uk/higher/research/story/0,9865,1541691,00.html
▼英国におけるバイキングの研究で、ヨーク大学の考古学の研究者とアマチュアの検知器屋(地面を穿り返して、めぼしいものを集める人たちがいて学者からは疎まれたそうです)が手を組む。(写真つき)
動物権利
●Petition calls for end to testing on primates http://education.guardian.co.uk/businessofresearch/story/0,9860,1541137,00.html
▼霊長類を実験に使うことに反対する抗議者が、ダウニング・ストリート(首相官邸のあるところ)を訪れる。163,000人の署名が集まったそうです。Research Defence Societyという団体のディレクターは、ワクチン、生殖医療、パーキンソン病の医療などに欠かせないと言う。
健康
●Vitamin tablets' value questioned http://www.guardian.co.uk/medicine/story/0,11381,1542997,00.html
▼総合ビタミン剤を飲んでも効き目がない(65歳以上)という研究結果。英国の少なくとも四分の一の高齢者はサプリメントを飲んでいると考えられているそうです。
●Cold comfort harm
http://www.guardian.co.uk/medicine/story/0,11381,1540800,00.html
▼アメリカインディアンが使っていた風邪薬(echinacea)の効き目がないという研究結果の話から、ワクチンや911や進化論などに広げて、studyとbeliefの違いを指摘する短い記事。
●Tenth planet discovered in outer solar system http://www.newscientistspace.com/channel/solar-system/dn7763
▼太陽系の外に10番目の惑星。惑星の定義についての議論あヒートアップしているそうです。
ひさびさに論文をとりあげてみる(三回目くらいかな)。久々に社会科学とは何か?系の分厚い本をめくっていたらこの論文がでてきました。こういうことをたまにしているのは、難しい(というか読みにくい)といわれることの多い彼のテクストを自分なりに消化しようとすることによって、「わかる」ことと「わからない」ことを確認したいがためである。こないだのサマースクールで、社会科学の哲学が専門のYさんのおかげで、フラーの位置づけがやっと見えてきたくらいなのだし。
Fuller, S. 2003. From Content to Context: A Social Epistemology of the Structure-Agency Craze. In: Alan Cica (ed.) What is Social Theory?: The Philosophical Dabates. London:Blackwell Publishers.
ある現象を分析するときに、個人の心とか行動とかの「作用」を分析する方法と、文化とか制度とかの「構造」の影響を分析するという方法の二つがある。これは、社会理論でも昔から議論される問題であり、これをフラーは、"構造-作用論の熱狂(Structure-Agency Craze)"とよんでいる。
おそらく、どんな問題やプロセスにも、StructureとAgencyの二つの観点から見ることができると思う。社会理論でなくても、私達は物事をそうやってとらえようとすることが多い。言い換えるならば、物事を大きな枠組みから見るか、小さな枠組みからみるかという違いのことである。
ギデンスの「構造化」理論は、そうした二つの観点をつなげる理論だということになっている。これは一見、有用そうな理論だし、私の知る限りでは、フレデリック・エリクソンの近著「Talk and Social Theory」とかイアン・ハッキングのフーコーとゴフマンをつなごうとしている論文などにそうした傾向がみられる(ハッキングの論文は、そんなに単純ではなさそうだが)。エスノメソドロジストといわれるような、今では社会科学の大きな派閥になっている研究群も大体はこの二つの枠組みをつなげるような努力をしているようにみえる。
実際、私が科学カフェや科学コミュニケーションなどに興味を持っているのも、人と人のミクロなつながりやコミュニケーションが何らかの形でコミュニティなり社会に影響を与えていくという単純なモデルをある程度信じているからでもある。そして、その逆もあると思っている。だから単純化していってしまうならば、、社会理論を援用しながら対人コミュニケーションの機微を読み解くという作業を通して、私達が影響下にある(あるいは想像している)社会構造なりが明らかになってくるのではないかと考えてしまう。また、本棚に並んでいる学術本や学部の先生達の本とかでも(例えば、Agency理論で有名なマーガレット・アーチャー先生とか)、基本的にはそういう方向の研究が多いような気もする。
しかし、フラーによるとこれらはほとんど物事を「記述」しているだけに過ぎないらしい。ただ、そういうことになっていますというだけで、なにも新しいことを言っていないということだ。つまり、私の意訳で表現すれば、「近頃の社会理論は、オルタナティブな道すじ(可能性?)を論じずに、一つの道すじについてオルタナティブな解釈を積み重ねているだけ(p.113)」という。社会理論は何をいっても現状と変わらない路線の議論に終始してしまっているという批判である。これは、科学哲学にも当てはまるらしい。
ここからの主張の理解度が低くなっていくのだが、私が理解した限りによると、最後に「歴史」をどう扱っていくのかということを考えているらしい。というのも、ミクロをみる理論もマクロをみる理論も、それぞれの主張の違いは、それぞれの考え方が違うというよりも(同じ文化資源を共有しているので)、どう未来を定義するのかという争い(Structureは「過去」と「ルール」を重視し、Agencyは「未来」と「変化」を重視する)のなかでの違いと考えることによって、それらの理論とは違う「第三の道」を選び取ることによって、歴史が不動のものではなくなり、今の「コンテクスト」をもっと考えていくことができるのではないかと提案しているのだと思う。つまり(注:ここからはさらなる曲解を含む可能性あり)、StructureでもAgencyでも、そういう社会理論は社会という「コンテント」を前提としてしまい、歴史を硬直化したものと捉えてしまうからよくないのだということだ。だから、つねに、特定の「コンテクスト」に当てはめて考えて、歴史を再解釈し続け、社会をどう捉えるかという可能性を探っていく(オルタナティブな社会観を示していくこと?)ことが大切だといっているのだと思う。
社会理論の哲学として考えるとどうしても小難しくなってしまうが、「コンテクスト」重視の社会認識論は、なにも学問の世界だけの話ではないはずだ。ビジネスをする時も、社会活動する時も、もしかしたら私達は「歴史」や「社会」というものを知らず知らずのうちにある種の前提としてしまうことで、新しい道すじ(未来)を考えられなくなっていってしまうことが多々あると思う。社会認識論者だろうと社会科学者だろうとビジネスマンだろうと市民活動家だろうと、あるいは科学者や科学コミュニケーターだろうと、常に「コンテクスト」を考え、柔軟性を持った仕事を様々な考え方と関わりあいながらやっていける人たちが、その罠を逃れることができるのかもしれない。しかし、そんなの可能なのだろうか。哲学者すらも(だからこそ?)、その罠にはまってしまう時代に。
ブログに手が回っていない。
引越し準備で忙しいというのも確かなのだけど、心の余裕が明らかになくなっている。
一日一言くらい、振り返れる余裕が欲しいものである。
そんなわけで(ということでもないが)、今日はJack JohnsonのIn Between DreamsとAstor PiazzollaのCD(十枚組み10ポンド)を購入。前者はCoyoteのハワイ特集で出てきたミュージシャン。いい意味でどこかで聞いたことのあるような心地よい音楽。後者は、気合入れて聞きたい(計9時間!)。
英科学ニュース7/31
■先週は、遺伝子組み換え作物の遺伝転移(gene transfer)のニュースとクローニング研究のための卵子提供問題が目につきました(ガーディアン紙)。どちらも、センシティブな論点がたくさんあります。丁寧に書かれた記事ほど、そう思えてきます。月並みですが、近道は無く、粘り強く考えていくことが大切のようです。
■科学コミュニケーション関連では、ナノテクノロジーに関する市民陪審についてのレポートがありました。これは、ケンブリッジ大学、グリーンピース、ガーディアン紙などが協働ですすめているプロジェクトの一貫です。このようにして市民の意見を吸い上げることはいいことだと思いますが、そうした意見がどのようなところへ伝わっていくのかという点も気になります。意欲的なプロジェクトのようですので、これからの活動にも注目していきたいと思います。
■高等教育関連では、外国からの研究者の数が多くなっていることが報じられてました。もともと多いとは思っていましたが、過去二年の採用のうち35%も海外から(16の大学が調査対象)という数字には驚きました。研究者を海外から調達できるという利点はありますが、自国民の研究者が育たなかったり、外国人研究者の出身国の研究環境に影響を与えたり、と悩みも大きいようです。
■さて、ここで報告をさせていただきます。私事で恐縮ですが、私はこのほど北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニットで学術研究員として働かせていただくことになりました。これも、このメルマガやサイコムという場があったおかげだと思っています。今後、このマルマガ編集にどれだけ関わっていくかまだわからないのですが、ここで培った経験を活かし、皆様の批判に耐えられるような仕事をしていけたらと思っています。今後とも、よろしくお願いいたします。(岡橋)
科学コミュニケーション
●It's good to talk: Can the Citizen's Jury on nanotech avoid another GM-style fiasco? Ian Sample reports http://www.guardian.co.uk/life/nanojury/story/0,16015,1536989,00.html
▼ヨークシャー州ハリファックスで行われたナノテクノロジーに関する市民陪審(Citizen's Jury)のレポート。様々なバックグランドを持つ人たちが(Juryに参加する前はナノテクノロジーに関する予備知識がほとんどなかった)数回にわたるセッションを経て、モデレーターの助けを借りて、答申をまとめる。「政府はもっと厳しいルールを設けるべき」「市場に出る前にもっと研究が必要」「ナノテクノロジーが全てを解決するユートピアのように語られている」「GMと同じようにほとんどの人がどういうものか知らない。無知がより大きなリスクだ。」などの意見が紹介されている。ケンブリッジ大学とグリーンピースの話し合いで生まれたプロジェクト。ガーディアン紙もメディア・パートナー。
クローン研究
●Cloning plan poses new ethical dilemma :Scientist courts controversy with call for women to donate eggs http://education.guardian.co.uk/businessofresearch/story/0,9860,1536303,00.html ▼ドリーを生んだIan Wilmut教授がHFEAに女性の卵子のドネーションを可能にするように求めている。◆インフォームド・コンセントの問題だけでなく、そのプロセス(ovarian hyperstimulation)自体にもリスクがあることが問題のように思いました(死亡する可能性もあるそうです)。
●Cautious revolutionary: The latest weapon in Edinburgh University's research armoury is Ian Wilmut, creator of Dolly the sheep. He tells Donald MacLeod why he has turned his attention to people http://education.guardian.co.uk/academicexperts/story/0,1392,1535747,00.html
▼そのWilmut教授のインタビュー記事。 遺伝子組み換え
●GM crops created superweed, say scientists: Modified rape crosses with wild plant to create tough pesticide-resistant strain http://www.guardian.co.uk/life/science/story/0,12996,1535429,00.html
▼イギリスでは、GM作物の商業的栽培は行われていませんが、二年前に終わった政府のトライアル研究のフォローアップの研究により、GM作物が、地域の植生にも影響を与え「スーパー・ウィード(super weed)」を生み出していることを伝える記事。政府の研究所であるCentre for Ecology and Hydrologyが調査結果をウェブサイトにアップ。
●Weed discovery brings calls for GM ban http://www.guardian.co.uk/life/news/story/0,12976,1536317,00.html
▼上記の発見に反応して、前環境大臣のMichael MeacherがGMの禁止をしなければならないと主張している記事。 ◆慎重気味の上の記事にくらべて、断定的な言い方をしており、少し政治的な発言のような感じもします。
大学
●It's time to cut the red tape
http://education.independent.co.uk/higher/article302012.ece
▼高等教育改革についてのレポートは幾多あるが、一番必要なのは行動に移すこと。元テレビ会社社長の、Patricia Hodgson(Newnham College, Cambridgeの長)が改革に乗り出す。
●£14m bid to attract new blood to region
http://www.thes.co.uk/current_edition/story.aspx?story_id=2023720
▼サウス・ウェールズ大学が、地元の工業の発展に寄与する分野の研究者をかけて募集。1400万ポンドのプロジェクト。主に、15人のポスドクと、130人のドクター学生のために使われる。
●University of London faces break up http://education.guardian.co.uk/administration/story/0,9860,1539075,00.html
▼ロンドン大学は19のカレッジがあるのですが、それぞれが分離独立するかもしれないという記事。メンバーシップが学問的にも評判にも意味がなく、学生のためになっていないという主張(Imperial College)。 ●UK looks abroad to fill jobs
http://www.thes.co.uk/current_edition/story.aspx?story_id=2023645
▼16大学の過去二年間のアカデミック・ポストの35%は海外から。オックスフォード大学は48%、インペリアル・カレッジは46%。イギリスの学生はアカデミアから出て行くこと、外国での頭脳流出など、議論するべき点がたくさんあります。来年の3月にはカンフェレンスがある。
●Entry to degree course gets even tougher http://education.guardian.co.uk/universityfunding/story/0,14337,1434174,00.html
動物実験
●Animal militants set fire to Oxford boathouse http://education.guardian.co.uk/businessofresearch/story/0,9860,1533085,00.html
▼動物権利武装派(Animal militants)が大学所有のボートハウスを燃やす(2000万円相当)。
その他 ●Climate prof risks French grapes of wrath http://education.guardian.co.uk/higher/research/story/0,9865,1537880,00.html
▼Quest (quantifying and understanding the earth system)という研究プログラムをひきいる、ブリストル大学のPrentice教授が、温暖化がフランスのワイン産地に大きな影響を与えるようになるだろうと警告。 ●UK-centred company adds to knowledge of non-nuclear energy research http://www.researchfortnight.co.uk/getPage.cfm?pagename=ResearchDay&lang=EN&type=UK&Publication=Research%20Day%20UK&Issue=2365
▼ブライトンを本拠にするTechnopolisという会社が、欧州議会のために行った「非核エネルギーの研究と技術発展」のレポートを完成させた(調査期間:2003年9月~2004年9月)。
●Twenty are injured as tornado hits Birmingham http://news.independent.co.uk/uk/environment/article302287.ece
▼バーミンガムで竜巻発生。20人以上が負傷。
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