「こんな気がする」ディランを観て第十二弾 ● 2016年4月23日

今夜のディランはいつも以上に声をコントロールしながら歌っていた。テクニカルな術がなければ到底できない事である。2010年のZEPPツアーでの日替わりメニューのような曲の入れ替えは、今回は無い。曲が変わったのは1曲で一日だけ。だから基本的に毎日同じセットリストが続く。しかし同じ歌ながら異なる表情をまとっている。それはディランが同様に歌うのを嫌うのか、バンドとのコンビネーションなのか、観客の反応か、会場の違いによるものか、体調によるものか・・・それは聴いた者が感じ取るしかないだろう。

1. シングス・ハヴ・チェンジド 
センターでヴォーカル。やや小さめの声で歌い始め、その後も声をセーブしたように歌っている。同じ東京ながら会場が変わったので音のなり方が違って聴こえるのか。PAの音量を落としているのかもしれない。

2. シー・ビロングズ・トゥ・ミー 
ディランはセンター。崩して歌い始めるも、巧みに声をコントロールしながら歌う。ヴォーカルが聴こえやすくなった。自由なハーモニカ演奏を披露し、後半はディラン節のヴォーカルになる。

3. ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシング
ディランはピアノでヴォーカル。ラフな感じで崩しながら歌い始める。声は抑制気味だが歌詞をじっくりと歌い込んでいる。バッキングが徐々にまとまってくる。

4. ホワットル・アイ・ドゥ 
センターでヴォーカル。曲が始まると女性の黄色い声が聞こえてきた。やや崩して歌っているが、今夜は気持ちが過剰に入り込まない様に歌っているかのようだ。

5. デューケイン・ホイッスル
ディランはピアノでヴォーカル。曲が始まると歓声が上がる。ディランの自由なピアノ演奏にバンドが何とか合わせながら曲が進んでゆく。軽い感じでテンポ良く歌っており、リセリが素晴らしいドラミングを聴かせる。バンドがホットになってくるとディランの声もが前に出てくる。

6. メランコリー・ムード
センターでヴォーカル。イントロが始まると嬌声があがり、チャーリーのギターソロでディランはウロウロと。崩すことなくきちっと歌い、チャーリーのギターソロも一音一音が綺麗に聴こえる。出来に満足したのだろうか、両手を横に広げ曲を締める。

7. ペイ・イン・ブラッド
センターでヴォーカル。バンドの演奏が締まっていて素晴らしく特にリセリのドラムの切れが良くて惚れ惚れする。そんなバンドに煽られたのかディランの声はより力強くなった。

8. アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー
センターでヴォーカル。ディランのヴォーカルマイクの音量を上げたのではないかと思えるほどすぐそばで歌っているように聴こえる。一語一語を大変丁寧に歌っており、静かな感動を呼ぶ出来となった。

9. ザット・オールド・ブラック・マジック
センターでヴォーカル。軽快に歌い始め徐々にディラン流の崩しに変わった。この曲の軽快なテンポを生み出すリセリのドラムが誠に素晴らしい。

10.ブルーにこんがらがって 
センターでヴォーカル。軽い感じで歌い始め声の強弱をつけることなく語るように歌い綴る。自由なハーモニカ演奏の後、ピアノに移るが、今日はやけに落ち着いたヴォーカルだ。ただバンドの素晴らしいまとまりによりエンディングにかけて一気に盛り上がる。

今日は「みなさぁーん、どうも、ありがとー」、とやや上達した日本語で挨拶してはけた。

11.ハイ・ウォーター(フォー・チャーリー・パットン)
ディランはセンター。軽い歌い方で語るように言葉を繰り出してゆく。軽く歌っているようだが、その歌唱には味がある。バンドは広がりのある見事な演奏を展開し曲の魅力を再確認させた。両手を広げて曲をしめた。

12.ホワイ・トライ・トゥ・チェンジ・ミー・ナウ 
センターでヴォーカル。余計な力を入れずに歌っており軽いタッチの歌唱になった。そのせいだろうか、寂しげで枯れたニュアンスが強く伝わってくる。最後はきっちりと決めた。

13.アーリー・ローマン・キングズ
ピアノ演奏でヴォーカル。声をだいぶコントロールしているようだ、かなりソフトに歌い始める。曲が進むと共に声に力がみなぎって来てバッキングもそれに応えるようにまとまりをみせる。上手くいった証か、立ったままピアノ演奏をして曲をしめた。

14.ザ・ナイト・ウィ・コールド・イット・ア・デイ
センターでヴォーカル。震えるような声での歌い出しだったのでドキリとしたが、今日の歌唱スタイルに合った曲調のため良い出来となった。グーッと沈み込んでゆくような歌い方に気持ちが揺さぶられる。

15.スピリット・オン・ザ・ウォー ター 
ピアノ演奏とヴォーカル。乾いた声で落ち着き払ったヴォーカルを活かして曲を進めてゆく。チャーリーのギターソロに呼応するディランのピアノ演奏は同じフレーズのくり返しだったりするので、あえてバンドを煽っているような印象を受ける。ピアノから立って客席を観るディラン。

16.スカーレット・タウン 
センターでヴォーカル。声を巧みにコントロールしているのだろう。バンドの控え目ながら手堅い演奏が歌の陰影を演出するのに大きな役割を果たしている。

17.オール・オア・ナッシング・アット・オール
センターでヴォーカル。歌の内容を色濃く反映させたのか、ある種投げやりな雰囲気で歌い始まる。サラッと歌い流すかのようなヴォーカルに対し、チャーリーのギターは安定していて信じられないフレーズを連発。気分良く歌いきったのか、両手を広げてしめた。

18.ロング・アンド・ウェイステッ ド・イヤーズ 
センターでヴォーカル。いつもよりも抑えて歌っている。バンドは淡々とまとまりのある演奏を続け、曲の後半に入って観客からの反応も作用したのか良い感じでアツくなってきた。

19.枯葉
センターでヴォーカル。イントロが流れると拍手が起こる。きちっと歌おうとする姿勢が強烈に伝わってくる。今日はオリジナルよりもスタンダードの方が良い出来だった気がする。

暗転して本編を終了、客席からアンコールの拍子が続く。

20.風に吹かれて
ピアノ演奏とヴォーカル。バイオリンが流れ歓声がわく中で落ち着き悟りきったような声で崩して歌い始めるが、歌詞の一語一語はハッキリと聴こえる。チャーリーとディランが繰り広げるジャム風の演奏を他のメンバーが用心深くフォローする様は緊張感があってよい。

21.ラヴ・シック
センターでヴォーカル。今日のラヴ・シックはバンドの演奏に力があったからだろう、後半に向けて声が出てきてアンコールに相応しい内容となった。

最後、メンバーたちはステージ中央へ。暗くて見えなかったのだがお辞儀をするような仕草があり、手を上げ客席を見回しやや頷きながら、ディランは去っていった。




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