34歳、「再起」にかけた沖縄の豪腕の3分間… | ボクシング&ロック野郎 higege91の夜明けはまだか?

ボクシング&ロック野郎 higege91の夜明けはまだか?

人生の曲がり角に遭遇したボクシング&ロック・マニアhigege91。暇を見つけてはホール通い。ああ、俺は戦っているか!? ああ、俺は俺の求める『俺』に近づいているのか!?

09 5 3 The4th GTカーニバル 阿倍野区民センター



ボクシング&ロック野郎    higege91の夜明けはまだか?


東京から新幹線で揺れること約2時間半…


ボクシングの生観戦で関西は大阪の地にやってくるのは初めてのことだ…


東京駅から新大阪へ、地下鉄を利用して天王寺へとやってきた…


予め時間には余裕があったから天王寺公園を横切って恵美須町、千日前まで延々と歩き続けた…


もっとも、ボクシング観戦以外に目的はなかったから、ただ、大阪の空気を味わうためだけだった…


3時間ほど歩き続けて、正直、僕にはこちらの空気は合わないなぁ… などとしみじみと感じながらも、いつか読んだ、関西はオール拳所属だったフィリピン人ボクサー、神と呼ばれるほどのテクニックを戦後のボクシング界で発揮した名ボクサー、ベビー・ゴステロについて想いを馳せる…


いつかの天才は、その晩年、この街のどこかで人知れずひっそりと過ごしていたのか…だなんてやたらと感慨深くなってもいた…


歩き過ぎて股関節が痛み出したころ、僕がいた場所は難波界隈で、土地勘もなく、仕方なくもう一度地下鉄に乗りなおす始末だった…


彼は、宮城竜太はきっちり勝利して、再起を飾れるのだろうか…?


昨年中ほどまで、彼は「竜宮城」…というリングネームで戦っていた沖縄のジム所属のボクサーであった…


昨年敵地フィリピンへ赴いてWBOアジアパシフィックタイトルに挑み、ダウンを2度奪う健闘をみせるも、しかし、ダウンを奪い返され、さらに偶然のバッティングが発生しチャンピオンのジムレックス・ハカが試合続行不可能となり、負傷ドローという苦い結果に終わってしまい、さらに、再びフィリピンの地でダイレクトリマッチが実現するも、これ、またもや痛恨の序盤負傷ドローという結果に終わってしまったのだ…


竜宮城×ジムレックス・ハカ 07.8.27 WBOアジアパシフィックスーパーフェザー級タイトルマッチ youitube


竜宮城×ジムレックス・ハカ パート2 07.11.14 Youtube


しかし、この敵地フィリピンにおける連戦後、試合の予定が全く聞こえてこなくなってしまったのだ…


この時点で、竜選手は32歳、ボクサーとしてはその全盛期を越え、どれだけがんばっても下降線を辿ってしまうであろう年齢に達していた…


後に知ったのだが、彼は「移籍」を希望していたのだが、それがなかなかスムーズに進展しなかったようだ…


これに関しては、後に世界挑戦を果たした日本屈指の名日本・東洋太平洋チャンピオン、本望信人さんに代表されるように、これに苦労する例はたくさんあるようでありますが、僕は生憎素人だからその詳細は解らない…


ただ、ここで重要視すべきは、選手生命ギリギリのボクサーがこの渦中でもがき苦しみ、さらに、お金よりも貴重である「時」を失ってしまった、という事実の大きさには目を向けるべきである…と思う。


かくして、支援者の方の多大な努力と行動力を受け、ついに「移籍」は実現したわけでありますが、しかし、32歳~33歳という、彼にとってもっとも貴重な約1年間はこれに費やされてしまった…


しかし、周囲の支えと温情を一身に浴びた彼、竜選手である… そのファイトスタイルは打たれようが捌かれようが意に介さず、真っ向勝負を挑むファイタースタイルである…


約1年半のブランクを経てもなお、しかし、それでも更なる上積みも期待できる素材である…


とは言え、しかし、負の要素も当然いくつか思い当たる…


一つは実践から遠ざかってしまったという現実と加齢による基礎体力の減退… 


そして、もう一つはかつては日本フェザー級2位まで躍進した彼であるが、その後はスーパーフェザーをその主戦場に移していた事実であり、しかし、この再起に当たり、なんとかつてより2階級下のスーパーバンタム級でのエントリーとなっていて、さらに、この対戦相手1発目に東洋太平洋ランク13位のフィリピン人選手を迎え撃つ…という大胆なものであった…


常識的に言えば、これはかなりのリスクを背負うマッチメークであり、ブランクと加齢を鑑みれば「危険」と呼ばれる種類の内容である…


が、しかし、彼、「竜宮城」にはそのKO率が示すハードパンチがあり、そして、打たれても打たれても決して退かない精神力があることは過去の実績が証明してもいる… 過去に専門誌に取り上げられた際、その右ストレートは「蛇のように伸びる武器」…と評されていたが、そのようなナチュラルな独自性も秘めている稀有なボクサーでもあるのだ…


決して「器用」なボクサーではないが、過去にもテクニシャンをその怒涛のプレッシャーで幾度も粉砕してきたのだ…


僕は正直馴染めない大阪の街を股関節が痛くなるほど歩き続けながら、いつかの天才「ベビー・ゴステロ」の面影を感じ、そして、34歳にして今なお、過去最高のボクシングを発揮し、その証を立てようとする努力型のハードパンチャーの「再起」に想いを馳せ続けていた…


そして、ついに、その再起戦のゴングは鳴り響いた…


54.5キログラム契約ウェイト 8回戦 


東洋太平洋スーパーバンタム級13位

カルロ・マガレ 12W4KO4L4D 

※場内にはこのようにコールされたがBOX-RECによるとその戦績は「4W2KO4L2D」となっている。

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宮城竜太 16W12KO1L4D



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約1年半振りのリングに昇った竜… その胸に去来するものは大きいはずだ… 


僕は度々彼とメール交換をさせて貰っているが、彼の人間性を一言で表すとしたら、それは「純朴」という一語である… 


『ド』がつくほどの真面目な男…


びっくりするくらい口下手ながら、しかし、その熱い感謝の気持ちをその瞳の奥に常に湛えていて、そして、それは驚くほどの低姿勢にも現れている…


苦労人…


彼のデビューを紐解くと、それは1998年3月22日…と記録されている。


つまり、23歳で沖縄の地でデビューし、それから数えて11年目のリング生活となる… 


この長いキャリアに対して、21戦というのは少し少ないのかもしれないが、それは沖縄の地でプロボクサーとして生きることの難しさも如実に表しているようにも感じる…


そう、いつか竜選手から貰った写メールにこんなものがあった… 


それは沖縄の空の写真で、その空に浮かんでいた雲の形がなんと「人間の手」のような形をしていて、その写メールにはこんな言葉が付されていたのだ…


----これは「神様の手」と呼ばれています…


さて、この再起にあたり、彼はそのリングネームであった「竜宮城」から本名の「宮城竜太」に改めた…のであるが、どういうわけかリングアナウンサーは「竜宮城」とコールし続けたのである…


これに対し、僕はかなり不満を感じたが、客席から怒号を浴びせても竜選手が困惑するだけだと感じ、奥歯をかみ締めたのだ…


その「改名」に込めた彼の『想い』を感じて欲しかったのだ… 1年半も待ち続け、ついに再起に漕ぎ着けたのだ…


故郷である沖縄の地から遠く離れ、京都の地に単身飛び込み、すでに34歳を迎えてしまった、一刻も無駄のできない切羽詰ったボクサーの「改名」に込めた想いと決意を、なぜ、理解してあげられないのだろうか…?


竜~!!! 


と、僕は叫んだ…


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1R 両者右構え… 距離が詰まる… おっ… 両者頭をぶつけて激しいほどのボディー打ち合戦から試合は滑り出す… ん!? 大抵、どの選手も竜の激しいプレスに根負けして後退し、これを迎え撃つ形でカウンター迎撃を始めるのだが、このフィリピンから来た東洋太平洋ランカーであるマガレは違う… 


ドン、ドン、ズドン…!!!


観ている観客が思わず息が苦しくなるほどのボディー打ちの交換が続く… いきなりガチンコ消耗戦の様相を呈してきた…


マガレ、こいつ、気が強い…!!!


ショートパンチの交換も思い切りが良く、さらに、キレのあるそのパンチには「一発」の重みもありそうだ…



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竜も真っ向勝負だ… しかし、この超至近距離では得意の「伸びる右ストレート」は出せない… 



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痛!?


バッティングが効いたのか!? あるいは、度々繰り出されるマガレの左右フックがテンプルを直撃したか!? 竜の動きが鈍る… 


いや、約1年半にも及んでしまったブランクの支障がここに現れたのか、いや、34歳にして2階級も下げて挑んだことの弊害が、ここに露呈されたのか…!?


竜が押し負けてる…


嘘だろ、下るな、下るな、竜!!!


以下、極度に興奮状態にあった僕の見た目なので間違っているかもしれませんが、記憶を辿り、ここに書いてみます…


マガレのショート左フックをもろに浴びた竜、動きが完全に鈍った…と、マガレは追撃の左ボディーを竜の鳩尾に打ち込み、さらに、サイドへと回り込む、が、ここで竜はそのマガレのサイドへの動きに対応が効かず、マガレはまんまと視界の外へと身を隠し、そして…



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追撃の右ストレートへと繋げた…ように僕には見えた…


竜はこれを浴びてニュートラルコーナーへと後退、その意識は遠のきかけている…


嘘だろ、竜、負けちゃうのかよ、負けないだろ、いつだって前へ出て打ち返して相手は嫌になっちゃうはずなんだ…!!


コーナーを背負った竜の意識と肉体は完全に「時間」に取り残されていた…


それは客席の誰もが感じていたはずで、さらなるマガレの追撃の前に、もはや無防備であること以外の対応ができない状態であった…


レフェリーが割って入ったのは、3分経過直前であった…


1R 2:52 TKOで、勝者、カルロ・マガレ!!!


1年半かけてようやく漕ぎ着けた竜選手の再起戦は、僅か、3分にも満たない、2分52秒で終わってしまった…


故郷である沖縄から遠く離れ、単身新天地である京都に復活を求め、そして、多くのしがらみと戦い、ついに再びよじ登ったリングで、ボクサー人生初めてのTKO負けを喫してしまったのだ…


加齢による基礎体力の減退にこの無残な結果の原因があるのか…?


いや、長いブランクと大胆な階級変更が原因か…?


それとも、「想い」が強すぎて、本来の「戦い方」を見失ってしまったからの、痛恨の戦術ミスがその原因か…?


いずれにせよ、負けたのだ… 34歳の、ボクサーとしてギリギリの選択をして挑んだ東洋太平洋ランク獲りは完全に失敗に終わったのだ…




その試合直後、僕は竜選手の控え室を訪ね、その硬い拳を握りしめ、そして、思わず、声を上げて泣いたのだ…




この夜の興行でありますが、前座試合ではタイ人選手がことごとくボディー打ちに悶絶し、TKOで敗退していったのでありますが、この波乱のセミファイナル直後のメインイベントでは、更なる波乱が待ち受けていた…


先日お亡くなりになった元東洋太平洋フライ級チャンピオンであった小松則之選手の肖像写真を掲げて入場してきた闘将青木誠選手でありますが、これがタイ人のカウンターをまともに喰ってマットに沈んでしまったのだ…


完全にカウンターでチンを打ち抜かれてしまった…


なんとか立ち上がるも、もう試合再開は酷な状態であり、その直後再び倒された瞬間、その決着は2RTKOとなった…



ボクシング&ロック野郎    higege91の夜明けはまだか?


僕はこの観戦記を書くために、しばらく通天閣を見上げ続けなければならなかった…


そして、腹も減ってないのに無理やりお好み焼きを飲み込み、そして、焼酎を煽ったのだ…


そうでもしなければ、この辛い敗戦を消化できそうもない、と考えたからで、しかし、そんなことをしてみても、心は落ち着きはしないのだ…


解ってはいたのだ…


今夜、竜選手は眠れない夜を過ごすことだろう…


一旦停滞を余儀なくされたボクシングへの想いと、また、自分を支えてくれた周囲の人々への申し訳なさと、そして、いつまでも頭を巡るもの、それは、強気なマガレとの僅か3分にも満たない戦いであり、きっと延々と、いつまでも螺旋を描きながら断ち切れることはないのだ…


僕は焼酎を飲み込みながら、竜選手の硬い拳の感触について、ずっと考え続けていたのだ…


そして、いつか竜選手に送ってもらった写メールに映っていた、「神の手」と彼が呼んだ、あの、人間の手の形をした不思議な雲について、考え続けていたのだ…


彼は、きっと、再起するに違いない…


次こそは、リングアナウンサーは「竜宮城」ではなくて、「宮城竜太」と彼の名を叫ぶのだ…


その時こそ、真の「再起」の時は訪れるのだ…


もう残された時間は限りなく少ない…


そして、僕は彼、いや、ボクサーという存在を理解しようと努めながら、しかし、そこに僕のような素人には理解到達し得ない巨大な壁を見た…


彼らは、言葉などでは語れないのだ…


「拳」を通じてでしか、本当の気持ちを表現できないのだ…


だから、「戦う」のだ…


『次こそは絶対に勝ちます』と、それだけを言って、涙を流すことしかできないのだ…


僕はそんな彼らの『本当の声』を聴きたくて会場へ足を運ぶのだが、それを受け止めきれないもどかしさに歯軋りするのだ…


ただ、「がんばれ」としか言えない自分に歯軋りし続けるのだ…


そして、いつか見せてもらった「神の手」に、思わず祈らずにはいられないような気持ちになるのだ…


御愛読感謝


つづく