「んはー! やっぱ空はキモチイイー! 悶々としたら、空を飛ぶに限るわー!」
 路地裏から空へと躍り出たオトハは、空中から町を見下ろして満足げに言った。
「空を飛ぶのは運動不足にも良いんだよね~」
 常に羽を動かしていないと落ちるので、ダイエットにはもってこいだ。
 空を飛びながら尾天の町を見下ろすオトハ。
 風に乗り、ご機嫌でいると、後ろから鳴き声が聞こえてきた。
「カァー! カァー!」
「ん? カラス? アタシに何の用よ?」
 一話のカラスが尾行してくる。
「あ……ははん、これはオスね。アタシと交尾したいのかしら。クスクス」
 オトハは急激に飛ぶスピードを上げた。
「アタシの速さに付いてこられたら、交尾してあげてもいいよ」
「カ……カァー!?」
 オトハのカラスらしからぬ飛翔速度に、カラスは驚いている様子だった。
「クスクス。やっぱ無理か。交尾……最近そういうのやらずに健全な生活しているから何だか久々にムラムラしてき

ちゃったなぁ。そこらへんの適当な男引っ掛けてヤっちゃうか……ん?」
 自由気ままに空を飛ぶオトハは、何かの気配を感じて、尾天山の方を見た。
「〝気〟が……集まっている……」
 オトハは空中で羽ばたきながら驚いた。
 山の頂上に向かって、周囲の気が収束し、細長い柱状のものを形成している。
「あれは……〝セイガイ〟の覚醒と関係があるのかな……」
 凄まじいエネルギーの塊を視たオトハは、体がゾクリとした。
「カァー! カァー!」
 尾天山の気柱に魅入っていると、後ろから再びカラスの鳴き声がした。
「何? アンタ、さっきのカラスね。そんなアタシがいいの?」
「カァー! カァー!」
「ふーん。ナンパしてきて、ヤらせろとは、アンタ、サイテーな男だね。でもまあいいわ、アタシも今、そういう気

分だから、相手をしてあげる。たまには路上でもいいかな。ふふ、アタシは激しいわよ」
「カァー! カァー!」
 オトハとカラスは地面に向かって下りていった。


 日が傾きかけた逢魔ヶ時。
 誰も尾天山の気柱に気付いていなかった……