カリンは何を思い付いたのか家を飛び出した。
「お母さん、今日は友達とカラオケでオールすることになったから夕飯はいらんわ~、っとこれでよし」
 外に出たカリンは母にメールを送った。あれだけ激しかった雨はもう止んで、雲も薄くなっていた。
〝嘘ばっかし〟
「えへへー。コノハは家に連絡入れんでいいん?」
〝カリンと一緒になってるからでけへんやろ!〟
「しゃーないなぁ。ここは一つ、うちが連絡入れといたろ」
〝?〟
 ケホケホと咳を払って喉の調子を整えるカリン。
「ピポパっと。コノハん家は留守電設定やったよな……っと。えへん。あぁ、お母さん。カリンらとカラオケでオールすることになったから今日は帰らへんわ。夕飯は食べといて。それじゃあ」
 ケータイでコノハの声真似をして留守電を入れるカリン。
〝いつのまにそんな妙技を……〟
「ファーたる者、形から入るのは重要なんや。普通はケモノにはなれへんけどな」
〝おかしい。何かが間違っとる……〟
 カリンはノリノリな様子だった。
「よーし、それじゃ買いにいくで~」
〝何? 買い物?〟
「ふふふ。せっかくやからコノハにも同人誌の世界を紹介しようかのぅ。くっくっく……」
〝あぁ……また知らなくてもいい世界を知ってしまう……〟
「ファーの同人誌はなかなかないけど、うちが欲しいのは獣八禁やからなぁ。店員さんに顔覚えられるのはちょっとなぁーと思っててん。一応、まだ高校生やし」
〝あぁ、そう……〟
「あ、興味なさそう。まぁ、いいや。強制的に引き込まなくても今日はうちが行けばコノハにも教えられるしな」
〝うぅ……〟
 カリンはウキウキ、コノハはどんより。
〝そういえばファーって?〟
「トランスファーの省略や。ケモノ好きな人はケモナーって言うやろ? トランスファーはTFって言うけど、俺、TFって言うのは何か変やから短縮系は、~する人の意味があるerで終わる発音のファーって言うねん」
〝要するにファー=TF好きな人ってことやね〟
「そうそう。コノハも理解力上がってきたやん」
 人はそれを調教と呼ぶ。
 カリンは仲間の知識が深まってニヤニヤしながら歩く。
「そう言えばコノハ、動物化することをふつー、獣化(じゅうか)って言うやん」
〝まぁ……それが?〟
「チッチッチ。ファーの間では獣化と書いて獣化(ケモか)って言うんや。だってケモノに変化するんやからな」
〝んなもん、どっちでもええわー!〟