【こちら特報部】「危険手当のピンハネ、偽装請負の実態を証言 福島第一原発の元作業員」2013/02/21(東京新聞)

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 福島原発事故の収束や除染作業に当たる労働者たちへの偽装請負や危険手当のピンハネ。昨年十一月三日付の「こちら特報部」では、東京電力福島第一原発で下請け作業員として働き、唐突に解雇された三十代前半の男性労働者Aさんのケースを紹介した。Aさんはその後、不当解雇撤回を訴えて、争っている。その過程で、偽装請負や手当不払いの詳細な実態が浮かび上がってきた。(小坂井文彦・林啓太記者)

※デスクメモ 福島の原発からは今も放射性物質が放出されている。英雄視された事故収束現場の作業員たちはピンハネと違法な雇用に晒されている。でも、それが日常になると何も感じなくなる。これは狂気ではないか。北京の大気汚染、北朝鮮の核実験に憤る。そのノリが国境で遮断される。そこに闇がある。(牧デスク)

※偽装請負 請負を装って、労働者を派遣する違法行為。通常の請負では、労働者は請負会社の指揮命令下で働く。偽装請負では、元請け会社が下請け(請負会社)の作業員に直接指示を出す使用者責任が不明確になるため、労働者派遣法や職業安定法で禁じられている。派遣契約より人員削減などがしやすく、原発労働では横行している。


◇偽装請負「横行」


 「おい、態度がなっていない。立っていろ」

 昨年三月十一日、福島第一原発の免震重要棟に怒声が響いた。言われたのはAさん。昨年一月、建設会社「サンシード」(福井県)に入社し、福島原発に派遣された。今年三月までの雇用約束だったが、昨年十一月五日付で解雇された。現在はフリーター全般労働組合(東京都)に所属し、解雇撤回を求めている。

 Aさんは注意を不服に感じ、やや反発した。すると、相手の人物は「誰にモノを言っている。明日から来なくていい」とまくし立て、雇い主のサンシードに電話した。

 怒鳴ったのはサンシードの元請けで、原発の保守管理大手「アトックス」(東京都)の統括責任者だった。ちなみに元請けが下請けの作業員に直接指導することは、偽装請負行為に当たる。

 ただ、Aさんは「福島第一では偽装請負が横行していた」と言う。実際に東京電力が昨年十二月に発表した作業員アンケートでは、回答した約二千四百人中のうち、約48%が現場で指示をする会社と給料を出している会社が違うと回答していた。

 サンシードが請け負っていたのは免震重要棟の出入り管理。主に汚染区域から戻った作業員の放射線測定や、防護服の脱着を手伝う。他に、フィルター交換や拭き取り掃除、ゴミ回収などもあったが、Aさんは大半の仕事をアトックスの社員から教わったという。

 日々の作業も主にアトックスの社員から指示されたと語る。その日の作業内容や放射線量の上限などを定める「作業予定表・防護指示書」を作成し、現場に張り出すのもアトックスだった。

 Aさんがサンシードから渡された書類には「アトックス社員の指示はしっかりと聞き行動すること」と書かれていた。

 労働基準監督署による監査もあったが、その日は事前にアトックスの担当者に「何もするな」と言われ、全く指示も出なかったという。

 アトックス社員に口答えすれば、通常は解雇に直結しかねないが、Aさんの場合は同僚がかばってくれたという。だが、それは幸運な例。巻き添えを恐れる同僚の無視などで、辞職を強いられることも多いと話す。

 サンシードのような末端の下請け会社は弱い立場だ。自社の従業員が元請けに嫌われれば、契約を更新できなくなる。

 同社が作業員に通知した連絡には「(アトックスからの指導や注意は)こちらだけの責任じゃない面があるのも十分承知していますが、(中略)続けざまに起こってしまうと(中略)業務の縮小、はては取引停止」などと記されていた。


◇「手当」蒸発した


 Aさんは昨秋、福島第一に派遣されていたサンシードの同僚、二十九人とともに突然、解雇された。アトックスがサンシードとの契約を更新しなかったためだ。

 所属するフリーター全般労組は、サンシードと解雇撤回を求めて団体交渉を重ねてきた。だが、同じく団交を求めたアトックスは「雇用関係を結んでいないので団交には応じられない」と拒否。やむなく、昨年十一月に東京都労働委員会に不当労働行為の救済を申し立て、目下係争中だ。

 救済申し立ての過程で浮上したのが、事故収束作業でのいわゆる「危険手当」の支払い問題だった。東京電力広報部の担当者は「手当てという名目ではないが、福島第一原発の作業環境や条件に応じ、事故前と比較して総額で割り増して仕事を発注している」と解説する。

 しかし、「請け負った会社には作業員に渡るようお願いしているが、契約の主体ではないので強制はできない」とも。

 Aさんがサンシードと結んだ契約は、日給一万円に残業・深夜手当が付くという内容で、割り増し手当の説明はなかった。結局、残業・深夜手当も三月には削られ、月給は手取りで約十六万円にしかならなかった。

 東京電力が支払ったという割り増し分(事実上の危険手当)はどこへ消えたのか。サンシードは先月、「アトックス社との契約では、特別手当に相当する単価の加算はありません」と、Aさんに対して文書で回答した。

 東京電力とサンシードの言い分が正しければ、アトックスが割り増し分を手にして、作業員に回さなかったことになる。アトックスは「雇用契約にない」としてAさんからのこの質問を受け付けず、「こちら特報部」の取材に対しても、総務部の担当者が「取材はお断りしています」とのみ答えた。

 手当の問題もAさんにとどまらない。東京電力が昨年七月に発表した作業員の要望には「特別手当を確実に支給して欲しい」とあった。東京電力は「元請け会社に適正な手当を支給し、労働者の保護を行うことを繰り返し、依頼している」と説明しかし、十二月発表のアンケートでは約32%の作業員が「手当が加算されていない」と答えている。

 東京電力を監督する経済産業省の舟木健太郎・原子力発電所事故収束対応室長は「作業員の労働環境を守るのは本来、厚生労働省の担当。ただ、下請けが作業員に手当を渡すように東京電力を指導している。偽装請負の疑いも重く受け止めている」と話す。ただ、具体的には昨年末、東京電力側に口頭で不正がないよう指示したことにとどまっている。

 ボールを投げられた形の厚労省の川辺博之・中央需給調整事業指導官は「事故収束作業は注目が高く、労働環境の監視には力を入れている」と語りつつも、「東京電力の下請け企業は多い。不正調査も厳密に行うため、全ての事業者を調べられてはいない」と漏らした。

 龍谷大の萬井隆令名誉教授(労働法)は「元請けからの手当が作業員になくても法律上の責任はないが、明らかなピンハネ。作業員が危険に見合う報酬を得ていない点は問題だ」と説く。
 
 原発労働に詳しい東京大の縄田和満教授は「待遇が悪いままなら、誰も福島原発で働こうとは思わない。人数がいても、質が伴わなければミスが続出する。東京電力の経営を握る国が責任を持ち、ピンハネや偽装請負をやめさせるべき」と語った。

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