【社説】「信頼される捜査に向けた出発点にしたい」2016/05/26(日本経済新聞) :日本経済新聞 http://www.nikkei.com/article/DGXKZO02791120W6A520C1EA1000/

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取り調べの録音・録画(可視化)の義務化や司法取引の導入、通信傍受の対象拡大などを柱にした刑事司法改革関連法が成立した。取り調べによって容疑者から自白を得ることを最重視してきた日本の捜査や刑事裁判は、大きな転換点を迎えることになる。

一連の法改正は冤罪(えんざい)を防ぐ方策としてはなお踏み込みが足りない。捜査手法の拡大については弊害も指摘されており、具体的な制度を練り上げる際には慎重な検討が必要だ。今回の改正を国民の信頼が得られる、より良い刑事司法をつくり上げるための出発点としたい。

法改正により、可視化が初めて法的に義務付けられる。密室の取調室で起きる強要や誘導を防ぐ効果が期待できるが、録画をするのは殺人や放火など裁判員裁判の対象になる事件と、検察が独自に捜査する事件に限られた。すべての刑事事件の3%程度にすぎない。

法律に先行する形で、検察や警察はすでに取り調べの録音・録画を実施している。捜査の現場からは「供述が得にくくなった」との声も聞かれるが、供述が信用できることの証明につながるのはもちろん、有罪の立証に役立つケースもある。

録画されることを前提にした取り調べの手法や技術を磨き、法律上の対象以外についても録音・録画を広げていくべきだ。可視化が一連の改革の原点であることを忘れてはならない。

自白に頼らない立証の手段として新たに採用される司法取引は、容疑者や被告が共犯者の犯罪について供述したり証拠を出したりすれば起訴されないなどの見返りを得られる制度だ。客観的な証拠が得にくい贈収賄事件や組織的な犯行である振り込め詐欺、会社犯罪などで、首謀者の犯行の裏付けなどに活用できるだろう。

しかし司法取引には、自分の刑を軽くしてもらうために無関係の人を巻き込む懸念がある。取引に容疑者の弁護人が立ち合い、虚偽の供述には5年以下の懲役を科すなどの対策を盛り込んだが、これだけでは不安は消えない。

新たな武器が新たな冤罪を生んでは元も子もない。まずは司法取引が普及している欧米の制度や実績をよく吟味すべきだ。供述に惑わされず、きっちりと裏付け捜査を尽くすという点で、検察や警察はこれまで以上にその力量が問われることになる。

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